スラム出身の公爵家庶子が、スラムの力を使って、後継者候補達を蹴落として、成り上がっていく。でも、性悪王女が可愛くてそれどころではないかも

秋田ノ介

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スラム編

第18話 師匠の借金問題

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 奇妙な三人暮らしが始まって、丸一日が経った。あいかわらず、師匠とマリアの口論は絶えなかったけど、食事のときだけは大人しくしてくれたので助かった。もっとも、師匠はずっと酒を要求してきたけど。

 「酒はダメって何度も言っているじゃないですか。それにお金がないってどういうことですか? まさか、このガラクタ達を買うために全部使ったんじゃないでしょうね?」
 
 未だに片付けも終わらずに、今の隅っこの方には山のようになっているガラクタ達がこちらを見ているような気がした。いや、実際に目玉とかあったりして、目線が合うことに恐怖を感じている。

 「あれはガラクタではない。掘り出し物の一品だぞ!! 久々に王都に行ったら、見つけてしまってな。ついな。つい」
 「なにが、ついですか。お金がなかったら、どうやって暮らしていくっていうんですか? 大好きな酒だって買えないんでしょ?」

 師匠はどうやら一文無しの状態のようだ。今までは魔法薬を作って、マリアからお金を受け取って、なんとか暮らしを維持できていたけど、このガラクタ達の用途は魔法薬ではないらしいのだ。

 すると師匠が急に胸元に手を突っ込みだした。時々、変なものが出てくる時があるから警戒していると、一枚の羊皮紙を取り出してきた。羊皮紙と言うだけで価値のあるものだ。師匠がそんなものを持っている事態、危険な香りが否応なく漂ってくる。

 その羊皮紙を僕の方に投げてきた。これはどういうこと? 読めってこと? 羊皮紙は何度も折られており、開くだけでもやっとだ。

 ……? なにやら数字がたくさん書いてあるな。なになに……借用書か。数字は金額……って、なんだ、この額は!! お肉がどれだけ買えると……いや、そんな次元じゃない。破産だ。

 「ロラン様。ちょっと見せてもらってもいいですか?」

 羊皮紙を差し出し、少し読んだだけで呆れたように小さなため息をついた。

 「相変わらず、この癖が直らないんですね。でも、これではっきりしましたね。ティスにロラン様は預けておけません。これからは孤児院で面倒を見ます!!」

 「マリア。惚けてしまったのか? これだけは言っておく。お前にロランは面倒を見られないぞ」
 「なぜですか⁉」

 「その様子でよくそんなことを言えたもんだな」

 実はマリアは起きてから、ずっと僕に寄り添うように座っているのだ。昨日からずっとそんな調子だった、最初は抵抗していたつもりだったのに、マリアは隙があれば、この状態になる。僕も鍛錬は欠かさないから、マリア程度なら簡単にいなせると思っていたのに、なんかショックだ。

 「二人共止めてくださいよ。シスター、申し訳ないけど、この家を離れるつもりはありませんよ。師匠は確かに杜撰な性格をしていますけど、僕がいないとこの有様ですから」
 
 「ああ、なんてお優しい。それに比べてティスはそんなロラン様の善意を踏みにじるようなことばかりして。恥ずかしくないのですか?」

 マリアは昨日からずっと師匠を責め立てるような口調を続けていた。今まで僕が言いたかったことを全て言ってくれるものだから、実はスッキリしていた部分もあったけど、ちょっと不憫に思えてきた。

 「シスターもあまり師匠を責めないでください。根は悪い人ではないですし、僕に色々な知識をくれる人ですから」
 「そうですね。私も少し言いすぎかも知れませんね。ロラン様と一緒に暮らしているティスがかなり羨ましかったので、つい。根が優しい子なのは、私も認めます。でも、どうするんですか?」

 マリアが指差した羊皮紙に目をやる。確かにこの問題は何も解決していなかった。

 「師匠。これ、どうするつもりなんですか?」
 「ふむ……どうするかな」

 尊大な姿勢をしているくせに、なにも策がない、だと⁉ いやいやいや、これ、凄い額だよ? 多分だけど、家くらい簡単に出来ちゃうくらいだと思うけど。いや、待て。なんで、師匠がこんな借金を作れるんだ?

 「私の体をカタにいれた」
 「そんなバカな……じゃあ、払えなかったら大変なことになるじゃないですか。どうして、そんな真似を」

 「仕方なかっただろ? ドラゴンの鱗だぞ? 手に入れなければ一生後悔するところだったぞ」

 僕は借金を返せないほうが、一生後悔すると思うけど。ドラゴンの鱗か……あれ?

 「師匠。ドラゴンの鱗ってどんなやつです?」
 「よくぞ聞いてくれた。ロランもやはり錬金術に興味があったのだな。私は少し嬉しいぞ。いいか? ドラゴンの鱗は見た目は萎びた皮だな。ゴミにも見えなくはないが、これに魔力を少量流すと、七色に輝く鱗に変貌するのだ。固くしなやか、そして何より重要なのは……」

 話が長い。本当に長かった。そして、一つ気づいたことがある。

 「師匠……凄く言いづらいんですが……」

 僕の言葉に師匠は血相を変えて、屋敷を飛び出していった。多分、ドラゴンの鱗を捨ててしまったんだ。だって、どう見ても、食べかすにしか見えなかったんだから。

 「ロラン様は悪くありませんよ。ティスが保管しておかなかったのが悪いんですから。それにしても、どうしましょうか。その借金。ティスとはいえ、体を売るのを見ているわけにはいきません。私達で何か方法を考えないと」

 それなら方法はないわけじゃない。こんな時のためにある物ではないんだけど。一旦、私室に戻ってから砂金袋を持ってきた。

 「シスター。この一ヶ月で砂金を集めたんです。これで足りますか?」

 マリアは首を傾げ、砂金袋を覗き込むと「なっ……」と一言だけ言って、黙り込んだ。なんだか、心配になるな。もしかして足りなかったとか? だったら、もう一度砂金を取りに行かないとな。でも、これだけの量をまた集められるか、分からないぞ。

 「シスター?」
 「これ……全部、金、なんですか?」

 そのはずだ。土魔法で金だけを取り除いて集めている。砂とか混じってないと思うんだけど。

 「でしたら……」
 マリアは砂金袋に手をいれて、両手で金を掬った。

 「多分、これだけでティスの借金の大半を払えてしまうでしょう。しかし、この量は……凄いですね。一体、どうやったんですか?」

 砂金が採れる場所を発見して経緯から、土魔法で金だけを採取できることを説明すると、マリアは祈りを始めた。
 「神よ。ロラン様に類まれな御力を与えてくださいまして、感謝します。これでロラン様と私の暮らしは安心できるものでしょう」

 何を言っているんだ? と思っていると、息を切らした師匠がやっと戻ってきた。しかし、その表情は絶望的なものだった。

 「一枚だ。一枚しか見つからなかった。ほとんど野良猫共に食い荒らされてしまって……もうダメだ。これで作る薬で簡単に一財産を、と思ったがとうとう体を売る羽目になってしまったか。ロラン、マリア。今まで世話になったな……」

 意外だ。借金くらいで師匠が体を売るとは思っても見なかった。てっきり、逃げるのかなって思ったけど。意外と約束は守る方だと感心していると、マリアが首を横に振った。

 「違うんですよ。この羊皮紙を見てください。この中央に赤い刻印が押されているのがわかりますか?」

 たしかに、紙の中心に赤い判のようなものが押されているな。インクでもない、不思議な紋様だな。

 「それは契約魔法が施された証拠です。それがあると、契約を守らないものには罰が下るのです。この契約ですと……犬になるようですね」

 犬⁉ 師匠、犬になっちゃうの?

 「いえ、正確には犬のような動作と声しかできなくなるということです。犬そのものになるわけではありませんよ」

 ちょっと見てみたいな。犬のように這い回る師匠か。想像するだけで楽しくなるな。

 「二人共、楽しそうだな。そんなに私が苦しむ姿が嬉しいのか? 性悪マリアはともかく、ロラン、私は失望したぞ。ああ、私の体が汚れてしまうのか。その前に……」

 野獣のような目をした師匠が僕を睨みつけてきた。

 「今一度、ロランの体を堪能しておかないとな……ロラン、じっとしていろよ」

 まるで蛇に睨まれたカエルのようだ。師匠の目を見ていると動けない。

 「そうだ、そうだ。その調子だ。動くなよ」
 舌なめずりでもしてそうな醜悪な顔を浮かべている師匠に抱きつかれようとした時、マリアが身を挺して僕をかばってくれた。

 「ロラン様、お逃げください。ティスはもはや人間ではありません。野獣です。ここは一旦避難です」
 
 「おい、それは酷くないか? 私はちょっとロランの裸を堪能したいだけだ。マリアも一緒にどうだ?」
 「あら? あらあら?」

 マリアが「いいですの?」と懇願しているような目を向けてきた。目の前に美女が二人。こんな状況を断れる男がいるだろうか?

 「止めてください!! 何を考えているんですか? 師匠も落ち着いてください。借金なら僕がなんとかしますから」

 「どういうことだ?」
 
 砂金の事を再び説明すると、目の色を変えたように砂金袋を両腕で抱え込み始めた。
 「私はよい弟子を持った。とりあえず、私は今から王都に行ってくる。借金を返しに行ってくるぞ!!」

 そういって、再び屋敷を飛び出していった。そして、すぐに戻ってきた。

 「お前にこれを渡しておこう。借金を肩代わりしてくれた礼だ。それとも私を買うか? まぁ、帰ってきたら触るくらいなら許してやろう」

 また消えるようにいなくなった。師匠の言葉がなんども反芻する。あの肌に触れる? なんて興味深い誘いなんだ。僕は師匠に貰ったものをぎゅっと握りしめた。

 「そういえば、これなんだ?」

 手にしていたのは、古びた袋だった。
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