スラム出身の公爵家庶子が、スラムの力を使って、後継者候補達を蹴落として、成り上がっていく。でも、性悪王女が可愛くてそれどころではないかも

秋田ノ介

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スラム編

第31話 城壁前

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 駆け足で王都に向かっている。
 スラムを出るのが今日が初めて、という気分に浸りたかったが、そうも言っていられない。旧都であるスラムから王都までは歩いて三日程度の距離にあるので、野菜の精度を保つためにどうしても走って移動しなければならない。

 「ガーフェ。いつもこんな調子なの?」
 
 息を切らせながら、淡々と走るガーフェはさすが、以前は兵士として活躍していたことはあるな。五十歳は過ぎているだろうに、走り続けることに問題はないようだ。

 「もちろんです。野菜は鮮度が命ですから。できるだけ早く運ぶのが、我々の信条。と心得ております。本来であれば、ロラン様には馬車にでもお乗りしていただきたかったのですが……」

 「僕は走って移動するのは悪くないよ。風景も見れるし……まぁ、今のところ草原しか無いけど」

 すでに二日は走り通しだ。王都にはそれなりに近づいているはずなのに、草原しか広がっていないのはいかがなものか……王都って実はしょぼい? それに道もかなり悪い。荷車を引いている人達はよく転ばずに荷物を運べるものだと感心するほどだ。

 「スラムは王都から見て北側の方角。もとより王家の直轄領ということもあり、あまり発展はしていないのですよ。それに道だって、スラムで金が出ることが分かって随分と良くなったものですよ」

 そうなの……か? それにしても酷いような気もするけど。石だってむき出しの部分がかなりあるよ。

 走りながら、そんなことを考えていると遠くの方に王都と思われる場所が見え始めてきた。長々と続く高い城壁。
 
 「ロラン様。あれが王都でございます。人口50万人。正真正銘の大都市でございますよ」

 五十万人……想像も出来ないけど、すごい都市だっていうのは分かる。これから、そこに行くのか。王城より大都市のほうが興味があるかな。

 「そういえば、これを渡しておきましょう。ティス様よりお預かりしましたもので」

 ガーフェが差し出してきたのは……帽子だった。なんで、帽子? かぶってみると、サイズが少し大きいのか頭どころか顔の半分も隠れてしまうほどだ。 

 「なんで、こんなものをかぶらないといけないの?」

 「なんでも、ロラン様の顔は王都では注目を浴びてしまうというので。まぁ私もそれには同意しますね。そのお顔で王都の民は手を止め、魅入ってしまうでしょう。ロラン様は注目されるのは好ましくないのでは?」

 まぁ、それはそうだけど……僕ってそんなに変な顔でもしているのかな? まぁ、師匠の珍しい好意だから、受け取っておこうかな。サイズが合ってないけど、結構好きな柄の帽子だしね。

 再び出発をすると、ものの一時間で城壁の前に到着した。城壁の前で人だかりが出来ていた。

 「ガーフぇ。あの列はなんなの?」

 「ああ。あれは王都に入るためのものですよ。一応は戦争をしていますからね、敵の侵入を防ぐために行われているんですよ。まぁ我々は王家の紋章入りの手紙を持っていますから、簡単に入れますよ」

 へぇ。王都って入るだけでも大変なんだな。それにしても色々な人がいるな。大きな荷物を担いでいる人、あまり衛生的ではない人、仲のいい夫婦。それにきれいな馬車に乗る貴族かな? その人達が文句も言わずにずっと並んでいる。

 初めて見るけど、なんか異様な感じがするな。スラムは自由に出入りできるからね。

 やっと順番が回ってきた。ガーフェが衛兵と思われる人となにやら話をしていた。ちょっと揉めてる? 話を聞いてみよう。

 「貴様らのようなものが、どうしてこんなものを持っているんだ!! ちょっと屯所の方に来て、話を聞くしかないな」

 「ちょ、ちょっとお待ちください。我々が何をしたというのですか。この手紙が正真正銘、王家から頂いたもの。手紙にも書いてある通り、依頼に従ってこちらに参った次第。それを疑うとは、あんまりではないでしょうか」

 それでも衛兵の怪訝な表情は変わることはない。

 「その手紙が胡散臭いのだ。貴様ら、スラムの出身者であろう? であれば疑うのが当然。それに本物であれば、すぐに分かることだ。まったく、通行税を払いたくないがための嘘であろう?」

 「そんな……」

 どうやらガーフェの話は衛兵には通じなかったようだ。

 「通行税を払うというのであれば、すぐに通してやっても良いぞ」

 どういうことだ? するとガーフェが小声で教えてくれた。

 「王都に入るためには身分に応じて通行税を支払う必要があるのです。我々は一般人ですから、かなり高い通行税を払わねばなりません。しかし、王家や貴族から招聘されると払う必要がないのです」

 なるほど。僕達は王家からの手紙をもっているから、本来であれば通行税を払う必要はない。すると、業を煮やしたのか衛兵が怒鳴り始めた。

 「通行税を払うか、屯所に行くか、早く決めろ!!」

 なんて横暴な衛兵なんだ。王家からの手紙をないがしろにして、王都の入り口にいると思うと大した都市ではないと思ってしまう。

 「ガーフェ。引き返そう。王家との取引は残念だけど」
 「分かりました。また機会を見て」

 「ふん!! やっぱり偽物だったか!! スラムが。二度と来るな」

 なぜ、こんな言い方をされないといけないんだ。ふざけるな!!
 
 「お前に……お前なんかにスラムの何が分かるんだ!!」

 「逆らう気か? このガキが」 

 どうやったのだろうか? 一瞬で周囲に烈風を引き起こし、回りにいる皆をなぎ倒し始めた。

 「ロ、ロラン様。落ち着いてください。逆らえば、どのような罰を受けるかわからないのです。我々のためにどうか辛抱してください」

 ガーフェの声で、僕は正気に戻ることができた……が、目の前の惨状は酷いものだった。居丈高だった衛兵はすっかり腰を抜かし、足が震えている。ガーフェ以外の輸送隊の人達も座り込んでしまっている。

 やってしまった……。

 「ロラン様。ここはお逃げください。我らで時間を稼ぎますから」
 「いや、しかし……」

 「迷っている暇はないですぞ」

 震えている衛兵は、なんとか声を引き絞るように叫んだ。

 「捕まえろ!! 反逆者だ!!」
 すると王都の中から続々と衛兵が姿を現し、僕達を取り囲むようにし、槍を構えていた。

 「ごめん。ガーフェ」
 「いいえ。スラムのためにお怒りになってくださって、嬉しかったです。しかし、ロラン様を捕まえさせるわけにはいきませんな。野郎共、剣を抜け!! ロラン様をお守りするんだ」

 輸送隊の人達は全員、ガーフェの部下だ。その人達がガーフェの声を聞くや、どこに隠し持っていたかわからない場所から短剣をするりと抜き払った。

 「こ、こいつら。武器を持っているぞ。警備隊にもすぐに知らせろ!! こいつらを絶対に王都に入れてはならない」

 未だに腰を抜かしている衛兵だが、声だけは異常に通るようだ。その声は誰を介することもなく、王都の方にも伝わったようで、僕達が対峙している間にぞくぞくと城門から兵士たちが集まってきた。

 「ロラン様。我々が切り開きます。その間に……」

 「ダメだ。ガーフェ。僕の魔法で」
 「いけません。これ以上、暴れられてはこの国にいられなくなります。その力はこのような場所で使うのは、おやめください」

 どうしたら、いいんだ……逃げる? そんなことをすれば、ガーフェ達が……魔法が使えれば、全員で逃げられるけど、王国にはいられなくなる。

 僕が悩んでいる間にも、ガーフェたちと警備兵たちとは一色触発状態に入ろうとしていた。お互いに出方を探っているため、なかなか攻撃を始めようとしない。その間にも城門からは次々と兵が集まってくる。このままでは逃げることも出来ない無くなるな。

 やっぱり、僕も戦おう。ここで暴れて、王国にいられなくても皆と一緒なら……。

 魔力を集め、魔法を解き放つ。相手に怪我はさせない。逃げる時間だけ作れればいいんだ。重たい風が周囲に飛び、警備兵たちを倒して起き上がれないようにした。

 「ガーフェ。今の隙に」

 「ロラン様……野郎共、折角のチャンスだ。逃げるぞ!!」

 よし。僕も今のうちに……。踵を返そうとした時、強烈な火の魔法が僕達の行く手を遮ってきた。何事が起きたのか、分からなかったが、次の瞬間にした声で全てが分かった。

 「何の騒ぎだ!! そして、そこの者たち!! 一歩でも動けば、我が業火で消し炭になるぞ」

 聞こえてきた声は、シャンドル公だった。僕達は一歩も動くことが出来ない。それほど目の前に展開されている炎に凄かった。

 後ろではなにやら腰を抜かした衛兵とシャンドル公が何かを話している様子だ。

 「そこの帽子の少年。こちらに来なさい」

 呼ばれたのは僕だった。どうする? いや、どうすることも出来ないな。シャンドル公の前では僕の魔法で逃げるなんて想像も出来ない。それにシャンドル公はスラムをバカにすることがないし、話もよく知っているはずだ。ここで暴れた罰は僕一人だけにすることも出来るだろう。

 言われるがままに、シャンドル公の元に向かった。

 「帽子を取るのだ」

 帽子を取った瞬間、シャンドル公は大きなため息を付いた。そして展開していた魔法を解除し、手を差し出してきた。握手ではないだろう。おそらく手紙を差し出すように言ってきているのだ。僕はガーフェから受け取った手紙をシャンドル公に手渡した。

 シャンドル公は中身を見ることなく、封筒だけを見て衛兵に手渡した。

 「その紋章のどこに偽りがあると思うか、申してみよ」
 
 「えっ!? いや、しかし……スラムの人間がこのようなものを……」

 「愚か者が!! 陛下の客人を貴様のようなものがどうにかしていいと思っているのか!! この紋章は王家ウィンローズ家の物。この真否が分からぬとは、衛兵として大きな失態。追って沙汰が下るまで、貴様は謹慎しておれ!!」

 「そんな……」

 シャンドル公が目を配ると、すぐに兵士が駆け寄り、衛兵を拘束して連れて行ってしまった。

 「ロラン。そして、ガーフェよ。衛兵が済まないことをした」
 
 「そんな滅相もない。我等のほうが礼を言う方。シャンドル公には助けられました。あのままでしたら、血も流れていたでしょう」
 「ふむ。かつては戦場で奮った剣もまだ錆びついてはいなかったか?」

 なにやら歓談しているようだが、この状況はどうするつもりなんだ? ここは城壁前。王都に入るために人が多く集まっている場所だ。ここに王国の英雄シャンドル公がいて、暴れた集団がいる。当然、注目の的だ。

 「ここではなんだ。王都に早速入ってもらおう。まぁ、私が案内してやろう」

 「しかし、シャンドル公。我々は城壁前で暴れたのですぞ。その罰を受けねばなりません」
 「ん? そうか? 私は知らんな。だが……ロランだけは別だ」

 やっぱりそうか。魔法を使って、相手に怪我はさせていないけど騒動のきっかけを作ってしまったからな。すると、ガーフェが目の色を変えて、僕の前に立ちはだかった。角が大きく逆だっている。

 「いくらシャンドル公の言葉とはいえ、ロラン様だけを罪に問わせるわけにはいきません。助けてもらったとは言え、暴れさせてもらいますぞ」

 するとシャンドル公は笑い始めた。

 「ガーフェにそこまで言われるとはな、ロラン。感心したぞ。まぁ、ガーフェ。心配は無用だ。罪には問わない。元はと言えば、王家の家紋を疑った衛兵の失態だったのだ。こちらに非こそあれ、そちらにはない。ただな、ロランは魔法を使ったと言うではないか。その実力を試す必要があるのだ。それだけだ」

 ガーフェは構えた姿勢を戻し、心配そうな顔をしながら僕を見つめてきた。

 「そんなに心配そうな顔をしなくてもいい。水晶をちょっと触るだけだ。それとロラン。さっきの帽子はかぶっておけ」

 シャンドル公も僕の顔を王都の人達に晒したくないと考えているのか。これはいよいよ、僕の変顔が決定的になってしまったのか? なんか……落ち込むな。 
  

 
  
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