スラム出身の公爵家庶子が、スラムの力を使って、後継者候補達を蹴落として、成り上がっていく。でも、性悪王女が可愛くてそれどころではないかも

秋田ノ介

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貴族編

第44話 王国の事情

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 執務室を離れ、親子水入らず、初めての二人でお出かけ……という訳にはいかなかった。父上はシャンドル家当主であり、宮廷魔術師筆頭でもある王国の重鎮の中の重鎮。そんな人が独り歩きなど出来るわけがない。街を歩くだけでも最低百人の衛兵が随行するという騒ぎっぷりだ。

 「父上は街をよく歩いたりするのですか?」

 「まぁな。といっても当主になってからは戦争続きで領都にいることが少なかったからな。最近、ようやくだな」

 数ヶ月前、王国と帝国は長らく続いた戦に一時の休息をする時間を得た。停戦協定を結んだのだ。

 その辺りのことを父上から聞いておいたほうがいいだろうな。なにせ、王国で父上より詳しいのは王しかいないのだから。

 「ふむ。まぁ、到着までの時間つぶしだ。話してやろう。話は遡るが、今から二年前。私の父、ロランの祖父が亡くなったのだ。私はすぐに後継者として選任され、宮廷魔術師筆頭となったのだ」

 その時は、奇しくも祖父と同時に先王までもが亡くなった。その衝撃は凄まじいものだったようだ。当時、帝国の勢いは凄まじく、先王と宮廷魔術師筆頭である祖父は貴族を総動員して、戦線を維持し辛うじて領土を守っていた。

 その旗頭である二人を失ったのだ。王国の貴族たちは一瞬で混乱に陥った。その機会を帝国が見逃すわけがない。ずっと広く展開していた軍を中央に集め、一点突破で王都に迫らんばかりに猛攻撃を仕掛けてきたのだ。

 王国はなすすべもなく、領土を大きく減らしてしまうことになる。しかも奪われた地方はベリーランドと呼ばれる豊穣な土地として有名な場所だった。資源は豊富で、土地は富み、王国の富の一端を担っていた場所だ。そこを奪われたことで、王国では厭戦気分が蔓延していた。

 「あのままであったら、王国は今頃消滅していたかも知れないな」

 事態が変わったのは、現王が即位してからだった。王は全ての軍を一旦解体し、新たに再編を始めたのだ。従来は上級貴族が将を務め、下級貴族が兵としていた構造を改め、有能な者が下級貴族であっても、さらに平民であっても将に取り立てる人事を発表したのだ。

 兵士は基本的には貴族領に住む領民だ。もしかしたら、将となり、ゆくゆくは貴族に取り立てられるという夢を抱いた若者たちが奮起した。一方、一部の上級貴族はその一連の出来事に不満を漏らし、帝国との戦争に不参加を表明した。

 「その者たちは戦争に負けると思っていたのだろうな。その後の顛末は大変なものだったのだぞ」

 見事に軍を立て直した王は、新たに宮廷魔術師筆頭となった父上とともに、勢いに乗じた帝国軍をなんとか押し止めることに成功した。そして、その隙に王国軍は遊撃軍を帝国軍が手薄な右左翼を急襲し、大きな被害を与えることに成功した。

 しかし、追撃はそれまでだった。上級貴族の不参戦により動員できる兵力が少なかったのだ。追撃するほどの余力はなく、結局は戦線を膠着させる程度だった。

 「その時な。帝国から停戦の使者が来たのだ。向こうも長らく続く戦争に嫌気が差していたのだろう。それに帝国からは遠く離れた土地。故郷が恋しくなったのかも知れないな」

 王国内に上級貴族という毒を抱え込んでいたため、これ以上の戦争を良しとしない王は即座に停戦協定に応じた。そのときに、王の第一王女を帝国の王子に輿入れをさせることとなった。

 「亜人の国に王女を差し出したのは断腸の思いだっただろう。しかし、停戦をすぐに終わらせるわけにはいかなかった。だからこそ、人質となる危険性があっても王女を送らねばならなかった」

 停戦は無事に締結され、帝国に奪われた土地を境界線として、両国の領地が確定した。王国としては、これにより辛うじて国の体面を保つことが出来たが、実際はボロボロの状態だった。

 「王はすぐに動き出したのだ」

 まずやったのは、戦に不参戦を決めた上級貴族の粛清だった。公爵家 一家、侯爵家 三家が真っ先に取り潰された。また、それに関連する伯爵家、子爵家、男爵家が順次取り潰しになった。そして、広大な領土を王家の直轄領とした。

 それだけではなく、一時しのぎだったはずの軍政改革を恒久的なものにするべく、全ての軍を王家が統括するものとした。つまりは貴族が独自の軍を保有するのを禁じたのだ。軍の人事権はすべて王家に帰属し、上級貴族と言えども将になるとは限らないという思い切ったことをした。

 「軍政改革により、貴族たちの力は大きく減った。力の源である軍を奪われてしまったからな。我が家はともかく、王家と結びつきが薄く、独立心が元から強い家などは困ったであろうな」

 父上が言う通り、今でも上級貴族達の中に火種が潜んでいるようだ。それがいつ爆発するとも知れないが、王は静観の構えをしているようだ。

 「貴族の粛清はさほど難しいことではない。しかし、放棄された土地を維持するのは簡単なことではないのだ。急に貴族を減らすと王国そのものは潰れかねないのだ」

 王は戦争に不参戦をした貴族だけの粛清にとどめ、不満分子の除去まではしなかった。しかし、粛清はしなくとも、王は彼らを逆なでするような宣言をしたのだ。

 「それが巷で言われている貴族改革の事だ」

 この宣言により王国民は湧いたが、一方で貴族たちは恐れおののいた。王は貴族に対し、実力を求めたのだ。上級貴族であれば、それなりの成果を要求し、応えなければ降格という前代未聞の事をしようとしたのだ。本来であれば、これだけでも反乱が起きてしまうような出来事だ。

 しかし、貴族たちは動かなかった。というようは動けなかった。この宣言により、王は王国民から絶大な人気を得ることが出来たからだ。今まで貴族は世襲制というの決まりだった。頑張ったところで、報われないという世界で、王は頑張っただけの報酬を約束したのだ。

 平民から貴族に。それが現実となったのだ。事実、先の戦争で活躍した平民出身の兵たちの中には、貴族として取り立てられた者が多数いた。どれもが騎士爵や男爵といった小さな貴族だが、それだけでも若者たちに希望を与えた。

 兵に志願する若者は後を絶たず、軍の再編は思ったよりも早く進もうとしているようだ。

 「実はな、この宣言で影響を受けた者がいるのだ」

 そんなのは、ごまんといるのではないか?

 「ロラン。おまえだ」

 どういうことだ?

 「本来であれば、貴族の母を持たないロランに後継者としての資格を与えられることはなかった。しかし、王は実力さえあればと許可してくださったのだ」

 平民が貴族となれるのなら、平民の子供もまた貴族になれるのだ。僕は貴族と平民との間の子供だ。今の王が即位していなければ、ここに僕がいることはなかったんだろうな。でも、僕の実力って?

 「だからこそ、時間を見て見定めさせてもらった。もっとも魔法が使えるとは思っていなかったからな。スラムの統治能力だけを見させてもらったのだ。しかし、魔力を計った時、全ての状況は変わったのだ」

 というと?

 「いいか? お前の体には膨大な魔力が眠っている。それを使いこなせば、おそらく王国の随一の魔法師となるだろう。しかし、魔法というのは一朝一夕でどうにかなるものではない。それゆえ、王は後継者争いに入れる形で速やかにシャンドル領にお前を入れさせたのだ」

 急と言ってもかなり余裕があったような気もするけど……

 「大人の事情というやつだ。あのときは王は宣言していなかったからな。宣言後に動かなければ。無用な批判を食らうことになっていただろう。そういうことだ」

 どういうことだ? このあたりは僕にはよく分からないな。とはいえ、王国の動きが何となく分かって、いい勉強になった。王国は、今まで以上に有能な人材を求めている。しかも、身分を問わず。つまり……スラムの人達でもチャンスがあるってことだよね。

 このチャンスは掴みたい。そのためにも有能な人材を育てる場所が必要だな。スラムでもいいんだけど……そうだよ。新しい村で試せばいいんだ。工房もその方向で利用できれば……なんだか、面白くなってきたな。

 「なんだ? ロラン。随分と楽しそうだ」
 「父上のおかげで、やりたいことが見つかりそうなんです。本当にありがとうございます」

 「うむ。それでよい」

 二人で話している間にどうやら工房に到着したようだ。豪快なばばあ……一体、どんな人なんだろうか?
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