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法力
しおりを挟む「佐竹様」
そこに、同心の後藤平馬が現れた。
景山が、人面鳥退治の後始末を頼んだ同僚である。
身の丈五尺八寸(約175㎝)。
当時で言えば、高身長である。
肉付きは薄くは無いのだが、手足が長いため、ひょろりとして見える。
景山と同じく、二十七歳であった。
後藤は、佐竹に命じられ、一人の老僧を連れてきていた。
眉は白く、しわが深い。
天台宗の僧侶であった。
現代の浅草寺は、聖観音宗の総本山である。
しかし、このころの浅草寺は、天台宗の寺院のひとつであった。
「拙僧の協力が必要と聞きましたが」
佐竹に問う老僧の顔は、恐怖に硬くなっていた。
同心や捕り方たちに囲まれているとは言え、すぐ近くに怪物が伏せているのだ。
「御坊に確認して頂きたいことがある。
みな、あれは麒麟だと騒いでいるが、どうなのだ?
本当に、あの生き物は、麒麟であるのか?」
佐竹が、老僧に言った。
当時、神仏を敬い、祟りを恐れることは、ごく当たり前のことであった。
麒麟ならば、神聖な霊獣である。
殺せば、祟るかも知れない。
ぬえのような妖怪、人面鳥のような化け物とは違う。
霊獣を殺せと言われても、岡っ引きや手下はもちろん、同心でさえも躊躇するであろう。
佐竹と僧侶のやり取りを見ていた景山は、麒麟では無いと確信していた。
本堂前にいる化け物には、角が無い。
龍のような頭ではない。
体にウロコが無い。
伝え聞いたことのある麒麟の特徴が無いのだ。
逆に、鷲の頭部。
巨大な猫のような体。
背中の翼。
猛禽類の脚に似た前肢など、玄白に見せられた禽獣人譜にあった、ぐりふぉむの絵図にそっくりであった。
宝蔵門の柱の陰から、本堂の前に寝そべる魔獣を盗み見ていた老僧が、身を引き戻すと、佐竹に視線を向けた。
「あれは、麒麟などではありませぬ。
妖物でございます。
早よう、寺より追い出してくださいませ」
老僧のすがるような目に対して、佐竹が問い返した。
「念のために聞くが、御坊の力によって、あれを調伏することは出来ぬのか?
こう、何と言うか、護摩を焚いたり、念仏を唱えたりで」
佐竹の言葉に驚き、白眉の下で、老僧の目が丸くなった。
目を丸くしたまま、首を横に振る。
「そうか……」
一瞬、落胆した様子をみせた佐竹は、目をきつく閉じ、そして、ゆっくりと開いた。
開いた時には、覚悟を決めた顔になっていた。
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