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第一章 婚約は致しません!
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コンコンと再び鳴ったドアが静かに開いた。
駆け寄ってくる足音。
「姫様っ!」
目線を上げると、あの婚約をやめた日、婚約書類をビリビリに破った金髪イケメンが飛び込んできた。
「ご体調は?」
跪き、そっと伸ばされる手が、私の顔にかかる髪を払う。
少し触れたては冷たかった。
目が合うとじっと熱い瞳を向ける心配そうな顔をした彼は、やっぱり今日もかっこいい。
儚げな雰囲気があるのに、優しそうな表情の奥には強い意志を感じる。
「失礼致します。診察させていただきますね」
後ろから、40代くらいの白衣を着た男性が声をかけてきたため、現実に引き戻された。
私はノロノロと身体を起こし、大人しく診察を受ける。
「体調はまだお戻りになっていないようですので、しばらくは疲れやすいと存じますが、倒れた際の怪我などは心配ないかと」
「姫様、ほかに何か不調などございますでしょうか?」
儚げイケメンが優しく聞いてくれる。
不安と申し訳なさが混じって、目に熱いものが込み上げてくる。
「あ、の……」
言わなきゃ。
私の手が、さっと優しく冷たい手に握られた。
「この場にいるものは、口の堅いものです。外に漏れることはございませんので、何でもおっしゃってください」
医者も深く頷く。ドアの側には、先ほどの清廉な侍女さんが1人。
勇気を持ってとりあえず言ってみよう。
信じることから始めないと、始まらない!
「実は、記憶が曖昧で……」
はっと息を飲む男性2人。
医者はすぐ頭のチェックをし、質問をいくつかそた。
「どうやら、幼少期以降の記憶がかなりなくなっているようですね。もしかすると倒れたショックで記憶が曖昧になっているのかもしれません。はっきりした外傷ではないことから、確実にいつ戻るとも言い切れません」
重々しく丁寧に伝えた医者。きっとこの国の権威的な意思だろう彼は、悲しそうに心配そうに、でもはっきりと現状を伝えてくれた。
「……ごめんなさい」
私の声は思ったより場を重くした。
ひとまず医者は返すこととなった。もちろん口止めをして。
侍女が送っていき、部屋には金髪の儚げイケメンが残った。
「姫様、起き上がっていて辛くはございませんか?」
優しく声をかけてくれる彼。
この前と同じように七三分けの間からおでこが覗く。私史上最高の七三分けイケメンじゃないだろうか。緑色の目は宝石のようで神秘的だ。
ふるふると頭を横に振って否定する。
ふふっと笑った彼は、再び跪いて私に頭を下げる。
胸に手をやり、物語の王子様のように名乗った。
「私は、リアム・フォンターナと申します。姫様の身の回りのお世話と、執務のお手伝い、護衛などを仰せつかっております」
パッと急に男の子が彼に被って見える。
昔も、こんなふうに挨拶をされたことがある気がする。
「もしかして、貴方は、ずっと私のそばに、いてくれた人なの?」
見上げた彼ははっと息を呑んだあと、にこりと笑った。
「はい。姫様が10歳の頃より仕えさせていただいております」
笑顔がキラキラ輝いて見える。
この人は、信用してもいいのだろうか?
「あの、とりあえず立ち上がってください、リアムさま」
彼にそう促すと、笑顔を貼りつけたまま優しく諭された。
「姫様。姫様はこの国で1番高貴なお方です。この国の全ての人に対して、『様』をつけてはなりません。基本的には、家名と爵位、もしくは呼び捨てでお呼びになるようお願い申し上げます」
「あ、ごめんなさい」
「謝る必要もございません。このような際は、わかった旨をおっしゃっていただければと存じます」
「わかりました」
そう答えると、彼は嬉しそうに頷いた。
「ふふふ。昔を思い出しますね。姫様は心優しくあらせられますゆえ、小さい頃にも周りの者に様をつけてお呼びになってしまう癖がございました。私の注意を受けては、そのようにしょんぼりされるところは、今も昔もお変わりありませんね」
立ち上がった彼は、侍女を呼んでまいりますと一度部屋の外へ出て行った。
すぐに先ほどの清廉な侍女が来てくれて、朝の準備をしてくれた。
名前は、ミラーナ・リナルディさん。リナルディ伯爵家のご夫人で、王家を代々支えてくださっている家系のご出身かつ、伯爵家としても現在息子さんが財務官としても働いているとのこと。
事情を飲み込んでくれたミラーナさん(ミラーナと呼んでくれと自己紹介してくれた)は、私の侍女をずっとしてくださっている方らしい。
無表情なことが多いから感情が読みにくいけれど、はっきりと意見を言ってくれるところは助かるし、仕事がめちゃくちゃできるタイプのようで、テキパキと着替えと化粧を1人でしてくれた。
体調を考えて、ゆるくウエストを絞らない、ストンとしたドレープのかかった白いドレスを選んでくれ、化粧も全体的に薄めで、淡いピンクのリップを塗り、髪はゆるくハーフアップにしてくれた。
本日も大変優美でございますと微笑まれた時はドキッとした。
素敵なお姉さまだ。
準備ができると、窓際にある猫足の白い椅子に座るように促された。
時を見計ったかのように、リアム、さん(爵位名聞くの忘れた……!)が書類を持って静かに入ってきた。
私と目が合うや否や、にっこりと笑った。
「まるで天から女神が降りてきてくださったのかと思うほどお美しいですね」
……美辞麗句がすごい。
「朝の食事にしましょう。3日も寝ていらっしゃったので、消化の良いものにいたしました」
「……3日!?」
倒れてそんなに経っていたの?
「はい、3日です」
並べられた食事はスープとフルーツ。
暖かそうなスープは湯気がまだたちのぼっていた。
幸いなことに、テーブルマナーは忘れていないようで、リアム、さんが心配そうに見ていたが、注意されなかったのでたぶんきっと大丈夫だったはず。
リアムさんは執事のような感じなのだろうか。ミラーナさんと同じように彼もサッと仕事をこなす。私が聞きたいと思ったことを視線だけで感じ取ってくれるほど、頭の回転がはやく、とても気が利く。
感心しながらも、その彼の動作にドキリとし、ときめきそうになるのは単純なのだろうか。こんな男性が前世にいたら、イケメンな見た目は置いておいても、すごいモテただろうな。自分のことだけをこんな風に見てくれているのって、こんなに心強いことなんだなと思った。
駆け寄ってくる足音。
「姫様っ!」
目線を上げると、あの婚約をやめた日、婚約書類をビリビリに破った金髪イケメンが飛び込んできた。
「ご体調は?」
跪き、そっと伸ばされる手が、私の顔にかかる髪を払う。
少し触れたては冷たかった。
目が合うとじっと熱い瞳を向ける心配そうな顔をした彼は、やっぱり今日もかっこいい。
儚げな雰囲気があるのに、優しそうな表情の奥には強い意志を感じる。
「失礼致します。診察させていただきますね」
後ろから、40代くらいの白衣を着た男性が声をかけてきたため、現実に引き戻された。
私はノロノロと身体を起こし、大人しく診察を受ける。
「体調はまだお戻りになっていないようですので、しばらくは疲れやすいと存じますが、倒れた際の怪我などは心配ないかと」
「姫様、ほかに何か不調などございますでしょうか?」
儚げイケメンが優しく聞いてくれる。
不安と申し訳なさが混じって、目に熱いものが込み上げてくる。
「あ、の……」
言わなきゃ。
私の手が、さっと優しく冷たい手に握られた。
「この場にいるものは、口の堅いものです。外に漏れることはございませんので、何でもおっしゃってください」
医者も深く頷く。ドアの側には、先ほどの清廉な侍女さんが1人。
勇気を持ってとりあえず言ってみよう。
信じることから始めないと、始まらない!
「実は、記憶が曖昧で……」
はっと息を飲む男性2人。
医者はすぐ頭のチェックをし、質問をいくつかそた。
「どうやら、幼少期以降の記憶がかなりなくなっているようですね。もしかすると倒れたショックで記憶が曖昧になっているのかもしれません。はっきりした外傷ではないことから、確実にいつ戻るとも言い切れません」
重々しく丁寧に伝えた医者。きっとこの国の権威的な意思だろう彼は、悲しそうに心配そうに、でもはっきりと現状を伝えてくれた。
「……ごめんなさい」
私の声は思ったより場を重くした。
ひとまず医者は返すこととなった。もちろん口止めをして。
侍女が送っていき、部屋には金髪の儚げイケメンが残った。
「姫様、起き上がっていて辛くはございませんか?」
優しく声をかけてくれる彼。
この前と同じように七三分けの間からおでこが覗く。私史上最高の七三分けイケメンじゃないだろうか。緑色の目は宝石のようで神秘的だ。
ふるふると頭を横に振って否定する。
ふふっと笑った彼は、再び跪いて私に頭を下げる。
胸に手をやり、物語の王子様のように名乗った。
「私は、リアム・フォンターナと申します。姫様の身の回りのお世話と、執務のお手伝い、護衛などを仰せつかっております」
パッと急に男の子が彼に被って見える。
昔も、こんなふうに挨拶をされたことがある気がする。
「もしかして、貴方は、ずっと私のそばに、いてくれた人なの?」
見上げた彼ははっと息を呑んだあと、にこりと笑った。
「はい。姫様が10歳の頃より仕えさせていただいております」
笑顔がキラキラ輝いて見える。
この人は、信用してもいいのだろうか?
「あの、とりあえず立ち上がってください、リアムさま」
彼にそう促すと、笑顔を貼りつけたまま優しく諭された。
「姫様。姫様はこの国で1番高貴なお方です。この国の全ての人に対して、『様』をつけてはなりません。基本的には、家名と爵位、もしくは呼び捨てでお呼びになるようお願い申し上げます」
「あ、ごめんなさい」
「謝る必要もございません。このような際は、わかった旨をおっしゃっていただければと存じます」
「わかりました」
そう答えると、彼は嬉しそうに頷いた。
「ふふふ。昔を思い出しますね。姫様は心優しくあらせられますゆえ、小さい頃にも周りの者に様をつけてお呼びになってしまう癖がございました。私の注意を受けては、そのようにしょんぼりされるところは、今も昔もお変わりありませんね」
立ち上がった彼は、侍女を呼んでまいりますと一度部屋の外へ出て行った。
すぐに先ほどの清廉な侍女が来てくれて、朝の準備をしてくれた。
名前は、ミラーナ・リナルディさん。リナルディ伯爵家のご夫人で、王家を代々支えてくださっている家系のご出身かつ、伯爵家としても現在息子さんが財務官としても働いているとのこと。
事情を飲み込んでくれたミラーナさん(ミラーナと呼んでくれと自己紹介してくれた)は、私の侍女をずっとしてくださっている方らしい。
無表情なことが多いから感情が読みにくいけれど、はっきりと意見を言ってくれるところは助かるし、仕事がめちゃくちゃできるタイプのようで、テキパキと着替えと化粧を1人でしてくれた。
体調を考えて、ゆるくウエストを絞らない、ストンとしたドレープのかかった白いドレスを選んでくれ、化粧も全体的に薄めで、淡いピンクのリップを塗り、髪はゆるくハーフアップにしてくれた。
本日も大変優美でございますと微笑まれた時はドキッとした。
素敵なお姉さまだ。
準備ができると、窓際にある猫足の白い椅子に座るように促された。
時を見計ったかのように、リアム、さん(爵位名聞くの忘れた……!)が書類を持って静かに入ってきた。
私と目が合うや否や、にっこりと笑った。
「まるで天から女神が降りてきてくださったのかと思うほどお美しいですね」
……美辞麗句がすごい。
「朝の食事にしましょう。3日も寝ていらっしゃったので、消化の良いものにいたしました」
「……3日!?」
倒れてそんなに経っていたの?
「はい、3日です」
並べられた食事はスープとフルーツ。
暖かそうなスープは湯気がまだたちのぼっていた。
幸いなことに、テーブルマナーは忘れていないようで、リアム、さんが心配そうに見ていたが、注意されなかったのでたぶんきっと大丈夫だったはず。
リアムさんは執事のような感じなのだろうか。ミラーナさんと同じように彼もサッと仕事をこなす。私が聞きたいと思ったことを視線だけで感じ取ってくれるほど、頭の回転がはやく、とても気が利く。
感心しながらも、その彼の動作にドキリとし、ときめきそうになるのは単純なのだろうか。こんな男性が前世にいたら、イケメンな見た目は置いておいても、すごいモテただろうな。自分のことだけをこんな風に見てくれているのって、こんなに心強いことなんだなと思った。
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