婚約の署名で前世の記憶が蘇ったので、イケメンとしか結婚したくないと婚約を拒否します

みお悠瑋

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第一章 婚約は致しません!

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パーティという単語をまず思ったこと。
「踊れない」
「記憶の抜けもありますが、もしかしたら身体が覚えているかもしれないので、体調が良くなったらレッスンをできるように手配しておきますね」
「踊らないとダメ?」
「そうですね。姫様主催のパーティとなりますので、ファーストダンスは踊っていただかなければなりません」
はっきりとリアムさんは述べた。
前世では所謂社交ダンスなんてやったことがなかった。もし踊れなくて覚えなおしになったら、絶対半月じゃ間に合わない!
「大丈夫ですよ、姫様。私もお手伝い致します」
「……絶対むり」
頭を抱える。
「戴冠式って伸ばせないの? いまこの状態で、戴冠することがいいと思えない。みんなに迷惑かけちゃう」
「残念ながら、各国の方々に招待状を既にお送りしておりまして、変更はよっぽどのことでない限り難しいかと存じます。姫様の記憶が抜け落ちている件が表沙汰になりますと、争いなどの火種になりかねません」
リアムさんを見上げると、彼はふわっと笑った。
膝をついて、私に手を差し伸べる。
「もしよろしければ、私をファーストダンスの相手に選んでいただけませんか? 姫様が踊れなくても、私が抱えて踊ります。姫様はただ、堂々としていらっしゃるだけで構いません」
その言葉にすごく嬉しくなる。
椅子から降りて両膝をつき、リアムさんと同じ目線で彼の手を両手で握った。
「いいんですか……! それならすごく不安も和らぐ……!」
なんて素敵な提案! しかも綺麗なリアムさんがパートナーとして踊ってくれるなんて!
リアムさんは少し顔を赤くして笑った。
「では、よろしくお願いしますね。それと」
彼は立ち上がりながぐっと握った手を力強く掴んで私を引っ張り上げた。
すっと腰に手がまわり、リアムさんの身体に引き寄せられる。
まるでこれからダンスを踊るように。
「姫様は膝をついてはなりません。床や地面に座ることもしてはいけません。よろしいですね?」
間近に迫る綺麗な顔に、ぶわっと顔が熱くなる。
コクコクを頷くだけで精一杯だった。

コンコン。
ドアが鳴る音にビクッと身体が跳ねる。
「失礼します!」
元気な挨拶をして入室してきた男性。
「まだ入室許可は出していませんよ」
リアムさんはさらに私の腰を引いて、抱きしめるような距離になる。目の前には彼の綺麗に結ばれたタイがあった。
「姫一人だったら入室許可待ってる。お前が一緒だから勝手に入るんだろうが」
低音で響く声。ズンズンと足音が近付いてくる。
「つーか、離せよ。お前んじゃねぇだろ」
リアムさんが力を入れて回していた私の腰にある腕を、いとも簡単に外して私を解放した。
「無事か? なにされた?」
私の顔を覗き込む赤髪の彼は、あの婚約を拒否した日にいた騎士だった。
「あ、の……近いです」
数歩後ろに下がる。
いやいやいや!また!イケメンなんですけど!
リアムさんと全然違うタイプ!
めちゃめちゃかっこいい系で、自分の意思をしっかり持っているタイプの顔。責任感も強そうで、これは女の子を引っ張っていってくれるタイプなのではないだろうか。切長の目と眉、大きな口と大きな身体。短髪の燃えるような赤い色が、彼のかっこよさをより引き出している。一見すると怖そうだし、目で射殺すことができそうなほど視線は鋭い。話す言葉も態度も少し荒い。
でもそれに相反する穏やかな落ち着いた声。それが彼は優しい人であることを物語っている。
きっといろいろ大変な思いをしてこういうちょっと怖い見た目や振る舞い方になったんだろうけど、根が優しくて守ってくれそうなことをどこか感じることができる人だ。
腕とか胸とかしっかり筋肉があって手が大きい。今日も腰に帯刀しているようで、黒いコートの間からチラッと見えた。胸には褒賞の飾りがいくつもついていて、実績があるすごい人なんだろうなと思う。
「姫様が怖がっているでしょう。乱暴な態度は改めてください」
「はっ! よく言うぜ。綺麗な面の中は真っ黒なお前に言われたくねぇな。俺は裏表ねぇんだよ。姫、こいつを信用しすぎるなよ?」
「姫様、この人は乱暴な野獣狼なので信用しないでください。いえ、視界に入れなくて結構です」
2人は犬猿の仲なのだろうか?
リアムさんが私といる時とは全然違ってものをはっきり言っている。こんなに言い合いが出来る人なんだ。
「それは無理な話だろ。俺は姫の婚約者候補だからな」
……?
「ちょ、その話は今はやめてください!」
慌ててリアムさんが止めるが、赤髪の人は続けた。
「はぁ? なんでだよ。婚約者は早く決めたほうがいいだろ。この間みたいに候補者以外のわけわかんねぇ野郎を選ぶよりマシだ!」
……。
「いやだから! その話は、姫様存じ上げません! 本当に気の使えない人ですね!」
「はぁあ? 存じ上げないってなんの冗談、だ、よ……」
私の顔を見た赤髪の彼は、徐々に尻すぼみになっていく。
「婚約者候補……いるの?」
リアムさんを見上げると、すごく心配した顔をしていた。
「……はぁ」
リアムさんは赤髪の人を呆れた目で横目に睨んだ後、私に優しい笑顔をした。
「姫様。こいつは殴っておくので、一度座ってください」
先程の椅子にエスコートされる。
ゆっくり腰を下ろして一息つく。
はぁーー。
「候補者候補……」
え、もうなに。情報多すぎてわけわからない!
今世の私どんなこと考えてたのよ!
「ってことは、婚約者候補いるのに、私は婚約者候補以外の人と婚約しようとしたの!? なんで?」
「……えっと、どういう状況?」
赤髪の人の脇腹に一発拳を入れたリアムさんは、ジロリと赤髪の人を見上げて言った。
「姫様は、幼少期以降の記憶をなくされています。ですので、婚約者候補のことを存じ上げません。姫様は今でもお困りなのに、これ以上混乱をさせるべきではないと判断し、今後順を追って説明するつもりだったというのに。あなたと言う人は!」
リアムさんはめちゃめちゃ笑顔だけど目が笑っていない。
脇腹を押さえ、顔を歪めて痛みを堪える赤髪の人は、その話を聞いて固まった。
「記憶がない……?」
じっと私みる燃えるような目は、私の表情一つ逃すまいとするほどだった。
大きくゆっくり頷くと、彼は狼狽える。
「俺、あー……え、マジのやつ?」
「姫様、こいつの名前お分かりになりますか?」
ふるふると顔を横に振る。
「候補者候補がいるという記憶はございますか?」
それにもふるふると答える。
「まじか……」
唖然とする赤髪の人。
「あなたには後ほど説明しようと思っていたのに。勝手に入室なさるから」
「……悪かったよ。混乱させてごめんな」
優しく頭を大きな手で撫でられる。
次から次に出てくる新情報に、もう頭はいっぱい。
この赤い髪の人が婚約者候補。
そして婚約しようとしていたあのずんぐりむっくりな人は、候補じゃなかった。
婚約したいなら候補から選べばよかったのに。
なんでそうしなかったんだろう?
この目の前にいる大きくて優しい手の持ち主が、婚約者候補だった。こんなイケメンを選ばない理由はなんだったんだろう?
「ほら、まずは名乗ってください」
「そうだな」
一気に落ち着いた赤い人は、膝をついては胸に拳を当てた。
「俺の名前は、ラドルファス・ロッシ。男爵家の出でそんな身分は高くねぇが、姫様専属の騎士団『黒薔薇騎士団』の団長をやってる。姫様を守るため、この国で1番強い男になった。姫様のための楯であり剣だ」
「ラドル、ファスさん……」
ふっとラドルファスさんが笑う。
「ラドルでいい。姫はずっと俺をそう呼んでた。これからもそう呼んでほしい」
「わ、わかりました」
かっこいい顔をする人が笑うと、こんなに破壊力あるんだな。
「俺は姫の婚約者候補のうちの1人。俺と結婚してくれたら、一生俺が守る。だから俺を選んでほしい」
はっきりと宣言され顔がまた熱くなる。
こんなに迷わず言える人すごい。見た目だけでなく、ハートもかっこいいんだなと思った。
「……ん? 候補って1人じゃない、ンデスカ?」
「お前、他のやつより自分が有利になろうと、婚約者候補の件しばらく伏せて、姫をおとすつもりだったな」
ラドルさんがリアムさんをギロッと見上げると、ブリザードスマイルが咲き誇っていた。
「私は姫様の混乱を招くようなことはしたくなかっただけですよ」
「よく言うぜ。このリアムも候補者の1人だ。危ねぇ。やっぱ俺部屋に入ってきて正解だったな。姫を取られるところだったわ」
さっと立ち上がったラドルさんは、リアムさんにニヤッと笑った。リアムさんはブリザードスマイルを崩さない。
……リアムさんも婚約者候補だったの。
今世の私、本当になんで候補者から選ばなかったの!!!
どうしてこんなイケメンを振ることができるの!!!
いや絶対いまの私ならできない!!!
ずっとこの人たちのどちらかと過ごせるのよ? 話し始めてまだ少しだけど、すごいいい人そうだしなによりかっこいい人たちだよ。
何があったんだ私。
はぁっとため息をついたあと、のろのろと立ち上がり、ベッドに向かう。
ちょっと考えることにもリアクションすることにも疲れたな。
「ちょっと休みたいので、お二人とも出ていってくださると助かります」
のそのそとベッドに上がり、頭まで潜り込んだ。
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