心霊探偵、神原語は仕事しない

巫夏希

文字の大きさ
4 / 48
第一章 地下アイドルの幽霊

第4話 幽霊の話をしよう。

しおりを挟む
 正式にお邪魔することが出来たとしても、それはあくまでも複数プロセスがあるうちの第一段階をクリアしただけに過ぎず、プロセスをクリアしていかない限り、正しい結末を導き出すことは出来ないし、寧ろ不可能に近い。いざそれを決定したからって、答えに最短のルートであるかどうかと言われると、難しいところだよな。
 ともあれ、先ずは第一段階を突破したことを素直に喜ぶしかあるまい。喜んだところでそれが正解であるかどうかは、第三者が決めることでぼく達が決められるようなことではなかったりすることが殆どなのだけれどね。

「ええと、先ずは何処から話したら良いのやら……」
「良いよ、ゆっくりと話してくれればそれで良い。長々と話してくれても良い。取り留めのない話だって構わない――整理しないぐらいがちょうど良かったりするからね。言っている意味が分かるかな?」
「分かるよ……。というかさっきから馬鹿にしているのか何だか知らないけれど、言い方が酷いと思わない? ちょっとは遠慮して言ってくれても良いのにさ……」

 申し訳ないけれど、それがこの男――神原の日常だ。スタンダードだ。だからこそってことでもないけれど、話していくうちに自覚するようになる――自分ってどうしてこんな人間にくだらない話をしているんだろう、ってことにね。
 まあ、最初は皆そう言うんだよ、はっきり言ってね。好き嫌いがあるんだ、神原だろうがぼくみたいな人間だろうが、変わり者ってものは、やっぱり誰でも愛されるような振る舞いを絶対にしたくないし――ぼくは絶対にしたくない、自分の価値を下げたくないし――となると、人によってははまったらずっと喋っても良いぐらいってなる人も居るし、全く歯車が噛み合わなくて二度と話したくない、なんて人も居る。まあ、人類なんて八十億人ぐらい居るし、それぐらいは居てもおかしくはないもんな。

「とにかく話をしてくれないか。先ずはそれからだ……、こいつのことを疑う気持ちは分かる。というか、それが普通だよ、悲しいけれどね」
「分かったよ。取り敢えず話をすれば良いんでしょう? それをどう解釈するかはそっちの勝手だし、それによってわたしがデメリットになることはないもんね。解決しなかったら、それがデメリットになるのかもしれないけれど、そうしたらわたしは外に出なければ良いんだし」

 おい、それで良いのか?
 幾ら何でも、外には出た方が良いと思うけれど。幾ら全てが宅配とネット通販で何とかなる世の中になってしまったからとはいえ、だ。

「外に出なくても良い、というのはちょっと困るね。幾ら何でも、サンシャインズは地下アイドルとしてライブ活動を一番の収益源としている以上は、少なくとも楽屋の外には出てもらわないと困るんだよ。それとも、ここでYouTube活動でもするつもりかい?」

 幽霊が嫌いだから、YouTubeを始めた地下アイドル――想像すると、ちょっとは面白そうだ。最初は少し閲覧数が増えるんじゃないか? 元々見てくれていたファンに、面白さを求めて新規が少しは増えてくれるかもしれない。尤も、その後に定着してくれるかどうかは、実力が物を言うのだろうけれどね。

「YouTube活動か! それも悪くないよね。ずっと新人って言い続けて五年ぐらい活動しても良いよね」

 何かそういう配信者居なかったっけ――三ヶ月経過したらちょっと小っ恥ずかしくなってきて、一年経過したら同僚にネタにされて、気付けば鉄板のネタになって五年経過した……っていう奴。あれもあれでどうかと思ったけれど、まあ、ファンに愛されているし、あいつまだ新人って言っているんだぜってネタになっている以上覚えられているということなのだから、それはそれで良いのかもしれないけれどね。

「YouTubeで稼げれば良いが、正直ライブ活動やグッズのそれと比べるとね……。やはり、元締めが居るから致し方ないのだけれど、お金をがっつり稼ぐにはYouTubeは便利なのだけれど、我々のようなニッチな隙間産業はそう簡単に稼げるものでもないのだよね」

 マネージャーはばっさりと言うが、しかし裏を返すときちんと現実を見ている――ということでもある。それはそれでちゃんとしているのだし、別にマネージャーを批判することでもないだろう。寧ろマネージャーに敬意を表しても良いのではないだろうか。
 敬意とまでいかなくとも、感謝の気持ちぐらい示しても良さそうだ。
 まあ、このアイドル達はそういう思いをしているかどうか――という話だが、少なくともマリサはマネージャーに感謝こそしていても、それを無視するぐらいに幽霊騒動が強いダメージを与えている、ということなのかもしれないな。

「YouTubeはどうでも良いんだよ。確かに稼げるかもしれないけれど、膨大な視聴者数を常に確保出来なければ、意味はない。チャンネル登録者数が多ければ多い程、やはり再生数に貢献するらしいけれどね。或いは、有料プランだっけか? あれもかなり良いらしいけれどね」

 神原、詳しいけれどまさかお前YouTubeでもやっているんじゃないだろうな?

「まさか。YouTubeはとっくに辞めたよ。再生数が全く伸びなくてね。百再生すら危ういぐらいだったから、全く稼ぎに貢献しちゃくれなかった……。だから諦めて、僕ちゃんは探偵一本で飯を食っているって訳だよ」

 飯を食える程仕事をしているのか? お前、したくない仕事は絶対にしないだろうが。それとも、ぼくの知らないところできっちり探偵の仕事をしているのか? それなら別に良いけれどね。隠し事をしているのはちょっとショックではあるが。

「飯を食える程の仕事はしているつもりだよ。それぐらいに、選り好み出来ているということでもあるかな……。だから僕ちゃんは遊び呆ける――違う、幽霊探しに勤しむことが出来る訳だけれどね」
「ちゃんと本音を言っておいて、巻き返せると思ったのか……?」

 だとしたら、そいつは大失敗だ。諦めろ。

「巻き返せるか巻き返せないかは、僕ちゃんが決めることだよ。それ以上でもそれ以下でもない、そういったものを勝手に決めることが、僕ちゃんのやり方だってことは……、たーくんが一番分かっていそうなものだけれどね?」

 何年の付き合いだと思っている。
 そもそも自分が決めることだとしても、社会からの一般的な評価も忘れてはならない。それがあるのとないのとでは大きく違う。結局、その社会的評価に応じて社会での立ち振る舞いが変わってしまうのだから、自己評価も程々にするべきだと思う。

「……ええと、幽霊の話だけれど」

 そうだった。
 いつまでも意味のない話を延々と続けていることは、あまりにも無価値だ。

「幽霊は、何処から現れた?」
「……通路の奥にある、古いトイレがあるのだけれど」
「ああ、あの劇場が出来た当初があった、というトイレだろう? でも、今は誰も使っていなかったはずだけれど、マリサは使っていたのか?」
「使うつもりはなかったし、使うはずもなかったのだけれど……、声がしたの」
「声?」
「そう。……何というか、悲しい声が……」

 悲しい声、か。
 しかし、話を聞いた限りだと、それから楽屋から出てこられずライブが中止になるような様子にはならないような気がするのだけれどな……。

「それでその声を聞いて、どうした? まさか気になって、その古いトイレとやらに行ったのか?」
「ええ、その通りよ……。古いトイレだったから、当然怖かった。マネちゃんなら分かるけれど、あのトイレ……どうしてあんなに古臭いんだと思う?」
「そりゃあ、この劇場がリニューアルした結果、出来上がった当初の姿をそのまま残しているからだろう。どれぐらい前だったかは覚えていないけれど……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

奪った代償は大きい

みりぐらむ
恋愛
サーシャは、生まれつき魔力を吸収する能力が低かった。 そんなサーシャに王宮魔法使いの婚約者ができて……? 小説家になろうに投稿していたものです

処理中です...