心霊探偵、神原語は仕事しない

巫夏希

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第一章 地下アイドルの幽霊

第6話 行き当たりばったり

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「それは分かるけれど、でも、興味が勝ったというか……」

 興味が勝るからって何でもやっていたら、きっと何時か痛い目に遭いそうな気がするぞ。絶対に気をつけた方が良いと思うし、マネージャー辺りがきちんと教育もした方が良いだろう。

「マリサはそういうところがあるからな……。おれだってきちんと指導しているところはあるけれど、一応長所は伸ばすというのがうちのメリットではあるし、苦しいところではある」

 それ、メリットって言えるのか?
 解決が難しいものについて匙を投げているだけ――と言われてもしょうがないような、そんな感じがしてならないのだけれど。

「話を戻すけれど、古いトイレから声がして……どうしたんだ? まさか、その声がする方向に行ったんじゃないだろうな」
「え?」

 そういう反応をするってことは、行ったんだな。それにしても、幾ら何でも度胸がある――その一言で片付けて良いのかどうかは分からないけれど、精神的には強いと思う。というか、それで幽霊を見たというのだから、もしかしたら悪霊という一言で片付けて良いのかは、正直分からないのかもしれない。
 マリサの話は続いているが、最初から今までずっと茶々が入ったり脇道に逸れたりしているので、なかなか結論まで辿り着かない。話だけで結構な時間が掛かっていそうな気がする。別にぼくは後に予定が続いていないし、問題はないのだけれどね。樋口もどうせそうだろう、ライブが中止になったからDVDを見るなんて言っていたぐらいだし。

「……幽霊を見たのは、もう少し先か?」
「そうなるかな……。でも、もう少しでゴールだよ。最終カーブをそろそろ曲がるか曲がらないかぐらいのところ」

 いや、それなりにまだ残っているじゃねえか。お互いに随分と話をしてきたつもりだと思っていたけれど、まだまだスタミナを残しておかないとこっちがへばってしまいそうだ。
 地下アイドルとは言ってもアイドルであることは変わりないのだし、そう考えると、アイドルというのはメンタルも強いことながら、体力だって凄まじいのだなとは思う。体力のないアイドルが多い時代というのもあった気がするけれど、あれは何処へ消えてしまったのだろうか?

「古いトイレのその個室に辿り着いたわたしは……、今思うと駄目な選択だったのかもしれないけれど、ノックしてしまったの」
「どうして? 仮に不審者であった場合、どういう未来が起きるかもしれなかったか、想像出来ない訳でもないだろう? 不審者でなかったから良かったものを……」

 幽霊は不審者ではない、という扱いで良いのかね? 幾ら何でもそれは違うような気がするけれど……。

「確かに、今冷静になって考えるとその通りで、非の打ち所がないのだけれど……。でも裏を返すと、あの頃は恐怖よりも興味が――」
「――勝った、というんだろう。まあ、人間の探究心を否定するつもりはないし、案外その可能性も十二分に有り得るだろうからね。別に変な話でもないんだよ」
「そう。そうなのだけれど……、もしかしてわたしの話って結構予測しやすい話だったりするのかしら?」

 予測しやすいかしにくいかと言われたら、しやすい方だろうな。
 同じことを違う言葉で何回かに分けて言っているのだし。

「あら、そうかしら……。わたしは別に予測してもらえるような話を展開した覚えはないし、かといってどんでん返しのある話をいつでも作れる訳ではないし……。難しいところだよね、これって」
「いや、そういうのではなくてな……。まあ、いいや、長々と話しているのもどうかと思うし。そろそろさっさと結論に辿り着かないと、飽き飽きしちまうよ。樋口なんか見てみろよ、もううとうとし出している」
「コーヒーを飲めばもうちょっとは頑張れるよ……」

 カフェイン摂取しないと駄目ってことじゃないか、裏を返せば。

「劇場の一階にスタバがあったはずだろう。そこでコーヒーを飲んでくれば良いじゃないか。フラペチーノでも良いし。クッキー食べて、おやつにしても良いけれど」

 おやつにするにしては、もう遅い時間ではあるけれどね。

「いや、それは嫌だ……。だって目の前にサンシャインズのメンバーが居るんだよ? つまり、推しが目の前に居るんだ。そんな状況なのに、眠いからって退散しなくちゃいけないのは、非常に悲しいじゃん。それって新幹線でせっかく富士山を見ようと山側の座席を確保したのに急激な眠気に襲われて、気が付いたら小田原を過ぎていた時みたいな感じだよ」
「言いたいことは分かるが、富士山は別に何時でも見られるからな――噴火さえしなければ」

 唐突に恐ろしいこと言わないでもらえるかな――確かに最近富士山が噴火するかもしれない、なんて話は耳にしたことはあるけれど、しかしそれが現実に起きるかどうかといわれると、そこまで現実的ではないらしい。大規模な噴火が起きるには、何かしらの前兆があることが自然で、常々テレビなどで言われているそれは大規模なものだったからだ。
 ともあれ、何時起きてもおかしくはないように備えをすることこそが防災であり、静岡県民は常にそれをしているとは何処かで聞いたことがあるけれど。

「どちらかというと、南海トラフの方だと思うけれどね……。それ故に静岡県は避難訓練の態度が優秀だって話を聞いたことがある。そりゃあ、何年も発生確率九十パーセントと言われ続けてれば、多少の備えをするのは自然だろうし」
「南海トラフなあ……。確かに地震は何時起きてもおかしくはないからね。けれども、起きる起きると散々言われ続けてきた場所で全く地震が起きず、予想外の場所ばかり地震が起きるのもちょっとどうかと思うけれどね。そっちの予測はどうなっているのか……」

 それについては気象庁の肩を持つつもりはないけれど、一応全国で予測は立てているらしい――けれども、発生確率が一番高い、つまりお膳立てが出来ているのが南海トラフ、ってだけじゃなかったかな。他にもそれなりに発生確率が高い地域はあったはずだし。

「……話はこれで終わりです」

 え? いきなりそうぶっ込まれて、ぼくは目を丸くした。

「もしかしてぼく達が盛り上がっている間に、何か話をしていましたか?」
「いいえ、何も……。寧ろあと一言で終わるのに、何時話を切り出せば良いのやら分からなくなっていました……」
「いや、でも中途半端なところで話は終わっていたはずだけれどね? それともそこから先の記憶がない、とか?」

 こくり、とマリサは頷く。
 幽霊専門の探偵として、飯を食っているだけのことはある――と褒め称えたいところではあるけれど、残念ながらぼくもそうだろうな、とは思っていたし案外自然なルートであることは間違いなかった。

「記憶がない……としたら、その後目が覚めたらもうこの楽屋に?」
「はい……。意識がなくなっていたのかもしれないですし、無意識のうちに楽屋に向かっていたのかもしれないですけれど、それでも気が付けばここに――」
「そりゃあおかしな話だな。幽霊には実体はないんだ。まさか幽霊がそこだけ都合良く身体を手に入れて、あんたを楽屋に連れて行った……とでも? それはちょっと考えづらいし、考えたくはないね」

 可能性を排除しないで欲しい――と言いたいところだけれど、それは間違いないだろう。幽霊が実体のない存在であることは、結構一般人でも周知の事実ではあるし。それを無視出来るようなことが起きたとするならば、まずインチキであることを疑うのは間違ってはいなかった。

「……ふうん。分かった。ともあれ、何をするかは決まったね、たーくん」
「……トイレか?」

 そこしか考えつかないな。

「そうだね。幽霊の声を聞いた――と思われる場所だ。そこに行けば何かしらの手がかりがあるかもしれない。先ずは、そこへ向かうこととしよう」
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