心霊探偵、神原語は仕事しない

巫夏希

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第二章 シュレーディンガーの幽霊

第19話 変わった招待客

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 屋敷の中に入ると、豪華絢爛なインテリアが出迎えてくれた。それだけを言うと、やはり金持ちは素晴らしいって話になるのかもしれないけれど、センスも持ち合わせているとは知らなかった。はっきり言って、そんなの勝ち目がないじゃないか? などと思ったけれど、冷静に考えて、何と戦っているのかさっぱり分からなかったので、取り敢えず話をしないようにした。

「こちらが食堂になります。……既に招待客の皆々様はやってきておりますので、空いている席におかけ下さい」

 ぼく達が最後にやってきた、という訳か。
 それは別に悪くないけれど、待たせてしまったという意味では居心地が悪いな。せめてぼく達が来るまでは寛いでいた、だったら良いのだけれど。きっとそんな場所もありゃしないだろうし。

「僕ちゃんのグループ以外にもお客さんは来ているみたいだね。別に良いことではあるけれど……、ほら、あんまり人が少ないと自分達に掛けられる時間が長くなってしまうだろう? それはやっぱり面倒臭いのだよね……」

 面倒臭いとか言うんじゃない。
 わざわざここまで招待してくれたんだから、多少の不満は目を瞑るしかないだろうよ。
 食堂に入ると、大きい長机がぼく達を出迎えた。それだけならば良いのだけれど、それを取り囲むように等間隔に椅子が並べられていて、その椅子に何人かが腰掛けていた。
 椅子は空いているけれど、ぼく達が並んで座るようには空いていないようだ。致し方ないけれど、ここは離れて座るほかない。

「……やっと最後のグループのお出ましか。何というか、幾ら何でも遅いんじゃねーのか? ちょっとはこっちの都合も考えてもらいてーもんだけれどな」

 いきなり言われても困る――というのが正直な感想だった。
 そう発言したのは白衣を着た青髪の男性だった。耳にピアスをしていてギザギザの歯が目立つ。サングラスをしているのはどうしてだろうか――もしかして蛍光灯ですら明るいのだろうか? たまに光に弱い目を持っている人も居るし、そういった類いなのかもしれないな。

「あらあら、世界有数の名医とも言われる葉加瀬先生がそんな言い方だなんて、週刊誌に報道でもされたらどうなるでしょうねえ?」

 言ったのは、その隣に座っているマダムだ。丸形の帽子を被り、白髪が殆ど隠れてしまっている。年老いているようには見えるが、気品は溢れていて隠し切れていない。
 葉加瀬――先生――ああ、聞いたことがある。もしかして……。

「世界有数の名医で思い出した。もしかしてあんた、精神科医の葉加瀬氷雨か?」

 神原は言う。
 しかし世界的名医をあんた呼ばわりとは……。本当にこいつには常識がない。怒られたらこいつを土下座させてでも怒りを抑え込まないといけないな。場合によっては祈りを捧げるか歌を歌うか……。

「おうよ。葉加瀬氷雨とはおれのことだ。……しかし、おれも世界的名医になっちまったんだなあ。分かりゃしないもんだぜ、世の中ってのはよ」
「精神科医で世界的名医ったら、今は葉加瀬さんしか居ないでしょう?」
「おう、言ってくれるじゃねーの。泣けるねえ。でもおれも未だにそうは思っちゃいねーんだけれどな。だって、働き方は何一つ変わっちゃいねーんだし。まあ、患者の数は桁違いに増えたような気がするけれどな」

 そりゃあ、そうだろう。
 葉加瀬氷雨にかかればどんな精神的な病気でさえ治すことも出来るとも言われているし、オカルトめいた事象であっても解決に導けるともいう。――まあ、そこまで言ってしまうとちょっと心配になるところではあるけれどね。西洋医学の専門家でもあるのだから、東洋医学やそれ以上にオカルティックな概念を熟知しているのもどうかと思うし……。

「精神科医は人の心を見る医者ではある……。それは内面を見ることになるのだろうし、かなりの精神力がないと難しいのだと思うがね」

 そういうものかな。
 でもまあ、確かに間違ってはいないのかもしれないな。何せ、精神科は弱った心を持つ人だけがやってくる場所ではない。かなりデリケートな問題を持った人間だってやってくるのだし、そんな人間を捌きながら仕事をしているのだから、並大抵の精神力ではやっていられないと思う。

「そーだよ、そーだよ。そーなんだよ。難しいし大変なんだしやる気にならねーし。でも医者になっちまったもんはしょうがねーだろ? 救う者は救ってやらなくちゃいけねーからさ」

 いや、何でこいつ医者になったんだ?
 医者というのはもっと崇高な理念を抱いているものとばかり思っていたけれど、もしかしてぼくの勘違いだったか――。

「まあまあ、ここにやってくるということはやはり変わり者ばかり……。それは致し方ないことだとは思うけれど?」

 ずっと医者と話していたマダムはそう締めくくった。いや、そういうものなのかな……、きっと違うと思うけれど、マダムが言うのなら間違ってはいないのだろう。
 しかし――変わり者、ねえ。
 ぼくもまた一般人とは程遠い存在である、ということなのだろうか。否定はしないけれど。

「マダム。さっきから言っているけれど……、あなたもここに招かれると言うことは一般人ではなかろう?」
「ううん、まあ、そういうことになるのかしらねえ……。あんまり気にしたことはないけれど。一斤染財閥と関係を持ったことがないのは確かかもしれないわね」

 関係を持ったことがないのに、どうやって招待状が送られてくるんだ?

「そういったターゲットについては常に注視している、ということだろうよ」
「神原、おまえは一応財閥と関わりがあったんだよな?」
「まあ、小さい関係性ではあるけれどね。家族同士で仲良くしているぐらいの付き合いでもないからねえ」

 そういう付き合いをしているのは、流石に同じぐらいの階層に居る存在ではないだろうか……。幾ら何でも一般人と大財閥ではあまりにも釣り合わないのは、分かり切っている話だろうに。
 マダムはうんうんと頷きながら、

「まあ、昔は一応名も知られていたのですけれどね。今は引退して、ただのしがない老婆ですよ。どうしてわたしがここにやってきているのかは、最早分かりませんけれどね……。もしかしたら、ここのご令嬢はわたしの昔を知っているから招待したのかもしれませんわね。わたしをどうするつもりなのかは――分からないし、分かっているとつまらないですからね。敢えて聞いてもいませんよ」
「まあ、別に正体を聞いたところでどうするつもりもないし。何処かで成り行きで聞ければ、それで問題はないだろうね」
「あら、あまり興味を持っていない、と? まあ、それはそれで悲しいですね……。わたしの時代はとうのとっくに終わってしまったとはいえ、その時代を忘れ去られてしまうのもまた悲しいことではありますね……。わたしが年老いてしまうのと同じように、砂上の楼閣のようなことになってしまっていくのでしょう」
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