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第二章 シュレーディンガーの幽霊
第23話 自己紹介3
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いや、三千億って簡単に言って良い金額でもないような気がするけれど、それを簡単に使い切れる程の技術を開発するとしたら、きっとそれは人類最高の何かを生み出せるような気がする、多分。けれども、それを使い切れるのもある種才能かもしれないな。ぼくだったら、色々と考えて考えて考え抜いたところで、せいぜい一億円が限界かもしれない。それ以上となれば、見知っている人間全員に一億円ずつ配ってやろうか。それをしたって、きっと百億円にも満たない。ともなると、あとは二千九百億円か……。いや、そんな金額簡単に使い切れる訳がない、マジで。どういう金の使い方をすれば、三千億円なんて使い切れるんだ? もしかしたら、それに研究員の生活費二千億円とか含まれているのかもしれない。瀬戸研究員が明らかにしないだけで。
「三千億円もあれば、きっと研究は充実することでしょうね。検討しても?」
「……いや、冗談だぜ? 幾ら何でも、それを真面目に受け取られても困るし」
冗談なのかよ。世間知らずのお嬢様――と決めつけるのは良くないかもしれないが、見た感じはその通りって感じだし、一応そういう風に明言しておくこととするけれど――に、そのままその通りの話をしてしまったら、きっとそれを受け入れるに決まっているのは、火を見るよりも明らかだったと思うのだけれど、それを敢えて理解して説明したというのであれば、それは策士であることは間違いないだろう。ぼくは絶対真似したくないけれど。真似したところで、それを使い切れる自信はないのだし。
瀬戸はふふと微笑んで、
「冗談を話しても、これぐらいの話だったら絵空事とばかり受け取って、真面目に解釈してくれる人間は誰一人として居なかったのだけれど……、いや、あんた流石に世間を知らなさ過ぎるだろう? もう少し常識ってものを身につけておくべきだと思うぜ。これは忠告、って奴だな。親切心で言ってやるんだから、少しは受け入れても良いと思うがね? 馬耳東風って言うんなら、あたしは匙を投げるしかないけれど」
それについては概ね同意だ――実際、彼女は世間を知らないのかどうかは知らないけれど、ここに居る人間達を値踏みしているような感じがする。それは知識があるから故のことではなくて、誰がどれだけ自分の知らないことを話してくれるかどうか――それに尽きる気がする。確か秋山が言っていたよな、この屋敷に住む令嬢は幽閉されていた、って。
「幽閉とは言っていないからな、たーくん。流石に聞き捨てならないことだから、一応補足するけれどさ」
あれ? ぼく、口に出していたかな……。だとしたら本人を目の前にしてとんでもない罵倒をしていた、ってことになる。幾らぼくが常識人で通っていようとも、流石にそれは非常識だ。どうすれば良いかな、謝るだけでは解決しそうにないけれど。
「いや、別にそういう理屈じゃねえし……。あと、、私は声を聞いた訳じゃねえよ。一応私はオカルト専門の探偵をやっているからね。人の心を読み取ることぐらい造作もない」
マジかよ。
そんなこと出来るとしたら、こう長々とモノローグをすることも出来やしないじゃないか。どうやって情景を伝えれば良いんだ。台詞だらけになるのは何かと面倒だし――。
「いや、たーくん。流石にそれは違うからな? 秋山はそう言っているけれど、実際は違うからな?」
「え?」
神原の補足を聞いて、ぼくは首を傾げる。
いや、そうでないのならどうやってぼくの心を読み取ったんだ?
「要するに……、秋山は表情を読み取ったんだよ。それだけじゃない、素振りとか無意識にやってしまう動作とか……。そういったものと過去のデータから解析して、こういう成果を予想する。予想だから外れることも多々あるけれど……、今回は無事的中した、ってことになるのだろうね」
つまりぼくが単純な人間だった――ってことなのか? 予想をしただけで当てることが出来るぐらい、ひねくれていないという。
「うーん、合っているけれど間違ってはいないと思うなあ」
また心を読んだ……。
「いや、何か落ち込んでいるようだけれど、心を読んでいるという訳ではないからな? それに、きっと予想が的中したことに対してひねくれているのかもしれないけれど……、実際結構有り得る話ではあるからねえ。別に、気にすることではないよ」
「じゃあ、心を完全に読むことは出来ない、と?」
「流石にそこまでは出来ないねえ。だってそれが出来たら、探偵はどうやって事件を解決する? 犯人の心を読んではいお終い、ってなってしまうだろう? まあ、それは当然無理な話ではあるのだけれどね。だって、証拠が見つかっていない。心を読んだら犯人でした――なんて話は、どう考えたって理解してもらえる訳がないし」
確かに、それもそうだな。
間違っていることを何一つ言っていないから、感心する。というか、探偵はなんだかんだ頭が良くないと成立しない職業ではあるし、こうやって話を進める秋山のやり方は、探偵としては間違っていないのかもしれない、多分。
「……それじゃあ、皆さん。自己紹介は済んだようですし、これで全員が集まりました――という話だけはさせていただきます」
令嬢の話が始まり、全員が自然とそちらに視線を向ける。
「……申し遅れました。わたしは、この屋敷の主でもある一斤染冬華と言います。どうぞお見知りおきを。短い期間ではありますが、この屋敷で皆様が快適に過ごせるようにしてあります。どうか、皆様が快適に……この唐紅島で生活出来ることを祈っております」
「なあ、お嬢さんよ。……あたし達がここに来ている理由ってものを、そろそろ教えてくれても良いんじゃないかい? あたし達の話は色々と話をしたはずだ。それこそ、夕食や昼食など、様々な機会を設けてもらったからね。けれどもあんたは毎回言っていた――今回の機会には別の理由がある、って。あんたは普段、こうやってあんたとは面識のない分野の存在を集めて物珍しい話を聞きたいだけ――なんてのを聞いていたから、あたしはてっきり話をしたら一抜け出来るものとばかり思っていた。けれども、現実は違った。あんたは、何かをしようとしている。そして、それを話すのは……全員が集まった今、だと思うけれど、違うかな?」
まくし立てるように、瀬戸は言った。
確かぼくも聞いていたのは、話を聞きたいだけ――っていう理由だったと思う。
けれども、瀬戸の言っている話が確かなら、そうではなく――寧ろ別の理由があるという。
それは一体何なのか?
是非、教えて欲しいものだね。
全員の注目を浴びる中――令嬢はぽつりと呟いた。
「……シュレーディンガーの猫、というものをご存知でしょうか?」
「三千億円もあれば、きっと研究は充実することでしょうね。検討しても?」
「……いや、冗談だぜ? 幾ら何でも、それを真面目に受け取られても困るし」
冗談なのかよ。世間知らずのお嬢様――と決めつけるのは良くないかもしれないが、見た感じはその通りって感じだし、一応そういう風に明言しておくこととするけれど――に、そのままその通りの話をしてしまったら、きっとそれを受け入れるに決まっているのは、火を見るよりも明らかだったと思うのだけれど、それを敢えて理解して説明したというのであれば、それは策士であることは間違いないだろう。ぼくは絶対真似したくないけれど。真似したところで、それを使い切れる自信はないのだし。
瀬戸はふふと微笑んで、
「冗談を話しても、これぐらいの話だったら絵空事とばかり受け取って、真面目に解釈してくれる人間は誰一人として居なかったのだけれど……、いや、あんた流石に世間を知らなさ過ぎるだろう? もう少し常識ってものを身につけておくべきだと思うぜ。これは忠告、って奴だな。親切心で言ってやるんだから、少しは受け入れても良いと思うがね? 馬耳東風って言うんなら、あたしは匙を投げるしかないけれど」
それについては概ね同意だ――実際、彼女は世間を知らないのかどうかは知らないけれど、ここに居る人間達を値踏みしているような感じがする。それは知識があるから故のことではなくて、誰がどれだけ自分の知らないことを話してくれるかどうか――それに尽きる気がする。確か秋山が言っていたよな、この屋敷に住む令嬢は幽閉されていた、って。
「幽閉とは言っていないからな、たーくん。流石に聞き捨てならないことだから、一応補足するけれどさ」
あれ? ぼく、口に出していたかな……。だとしたら本人を目の前にしてとんでもない罵倒をしていた、ってことになる。幾らぼくが常識人で通っていようとも、流石にそれは非常識だ。どうすれば良いかな、謝るだけでは解決しそうにないけれど。
「いや、別にそういう理屈じゃねえし……。あと、、私は声を聞いた訳じゃねえよ。一応私はオカルト専門の探偵をやっているからね。人の心を読み取ることぐらい造作もない」
マジかよ。
そんなこと出来るとしたら、こう長々とモノローグをすることも出来やしないじゃないか。どうやって情景を伝えれば良いんだ。台詞だらけになるのは何かと面倒だし――。
「いや、たーくん。流石にそれは違うからな? 秋山はそう言っているけれど、実際は違うからな?」
「え?」
神原の補足を聞いて、ぼくは首を傾げる。
いや、そうでないのならどうやってぼくの心を読み取ったんだ?
「要するに……、秋山は表情を読み取ったんだよ。それだけじゃない、素振りとか無意識にやってしまう動作とか……。そういったものと過去のデータから解析して、こういう成果を予想する。予想だから外れることも多々あるけれど……、今回は無事的中した、ってことになるのだろうね」
つまりぼくが単純な人間だった――ってことなのか? 予想をしただけで当てることが出来るぐらい、ひねくれていないという。
「うーん、合っているけれど間違ってはいないと思うなあ」
また心を読んだ……。
「いや、何か落ち込んでいるようだけれど、心を読んでいるという訳ではないからな? それに、きっと予想が的中したことに対してひねくれているのかもしれないけれど……、実際結構有り得る話ではあるからねえ。別に、気にすることではないよ」
「じゃあ、心を完全に読むことは出来ない、と?」
「流石にそこまでは出来ないねえ。だってそれが出来たら、探偵はどうやって事件を解決する? 犯人の心を読んではいお終い、ってなってしまうだろう? まあ、それは当然無理な話ではあるのだけれどね。だって、証拠が見つかっていない。心を読んだら犯人でした――なんて話は、どう考えたって理解してもらえる訳がないし」
確かに、それもそうだな。
間違っていることを何一つ言っていないから、感心する。というか、探偵はなんだかんだ頭が良くないと成立しない職業ではあるし、こうやって話を進める秋山のやり方は、探偵としては間違っていないのかもしれない、多分。
「……それじゃあ、皆さん。自己紹介は済んだようですし、これで全員が集まりました――という話だけはさせていただきます」
令嬢の話が始まり、全員が自然とそちらに視線を向ける。
「……申し遅れました。わたしは、この屋敷の主でもある一斤染冬華と言います。どうぞお見知りおきを。短い期間ではありますが、この屋敷で皆様が快適に過ごせるようにしてあります。どうか、皆様が快適に……この唐紅島で生活出来ることを祈っております」
「なあ、お嬢さんよ。……あたし達がここに来ている理由ってものを、そろそろ教えてくれても良いんじゃないかい? あたし達の話は色々と話をしたはずだ。それこそ、夕食や昼食など、様々な機会を設けてもらったからね。けれどもあんたは毎回言っていた――今回の機会には別の理由がある、って。あんたは普段、こうやってあんたとは面識のない分野の存在を集めて物珍しい話を聞きたいだけ――なんてのを聞いていたから、あたしはてっきり話をしたら一抜け出来るものとばかり思っていた。けれども、現実は違った。あんたは、何かをしようとしている。そして、それを話すのは……全員が集まった今、だと思うけれど、違うかな?」
まくし立てるように、瀬戸は言った。
確かぼくも聞いていたのは、話を聞きたいだけ――っていう理由だったと思う。
けれども、瀬戸の言っている話が確かなら、そうではなく――寧ろ別の理由があるという。
それは一体何なのか?
是非、教えて欲しいものだね。
全員の注目を浴びる中――令嬢はぽつりと呟いた。
「……シュレーディンガーの猫、というものをご存知でしょうか?」
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