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第三章 繰り返しの幽霊
第38話 現場検証
しおりを挟む屋上は、開けた空間だった――いや、それは分かり切ったことではあるのだけれど、こうも開けているとちょっと拍子抜けと言ってもおかしくはないだろう。
屋上はデッドスペースとして存在しているのが殆どで、配管や配線、電気設備が設置されていて、人間が普通に出歩くようには考えられていない。それどころかヘルメットを装着して歩かないと、ことあるごとに頭をぶつけてしまうのも考えられるぐらいだ。
けれども、安全対策をしている暇などない。実際に何度もこの屋上に往来するのならば、また話は別だけれどね。
「普通の空間だな……。もしかして、嘘でも吐かれたか?」
「いや、流石にそれは早計じゃないかな……。だって、幽霊は昼間だと出現しづらいんだろう? どうしてだかは覚えていないけれど」
神原は深々と溜息を吐く。
何。変なことでも言ったかな?
「――たーくん。幽霊未遂の事件を持ってきてくれる割にはそういった専門知識を覚えようとしないのはどういった感覚なのかな? 流石に覚えて欲しいんだけれどなあ……」
「覚えろと言われてもなあ……。ぼくは神原みたいに仕事でやっているんじゃないんだし、仕方ないだろ。専門性の知識を使わなくても良い仕事なんだよ、仲介ってのは」
「こうやって搾取されるのかね……」
分かっているじゃないか。
分かっているなら、別に文句を言わないでおいて欲しいものだけれどね。幽霊専門の仕事を持ってくるのも大変なんだし。そういったアンテナを張り続けるのも難しいことなんだよ。
「……で? 専門家から見て、この屋上はどうなんだい。幽霊が出てきてもおかしくはない状態か?」
「まあ、そうだね……」
屋上を一瞥する神原。
「幽霊が出てくるかどうかと言われると……、そう簡単に判別は出来ないかな。けれども、微かに霊気はある。霊気については、今更説明しなくても良いだろうね?」
確認のために聞いているのだろうけれど、流石にそれぐらいは覚えているよ――ええと、確か幽霊が残すオーラみたいなものだったっけ?
「オーラ……というのは間違っていないけれど、正解かと言われるとちょっと違う。オーラではなくて、痕跡という言葉が似合うかな」
「痕跡……?」
「警察犬が初動捜査に使われる傾向にあるのはどうしてだと思う? ……いや、正確には捜査に警察犬が使われる理由はどうしてか、という質問が正しいか」
警察犬を使う理由――そんなもの分かり切っている。
犬は人間の嗅覚と比べてかなり強力なそれを持っている。だから微かな香りでさえ感じ取れることが出来るし、トレーニングを繰り返すことでその匂いを覚えて、その匂いのする源まで駆け出すことが出来る――なんてことが出来るのだから。でも、それが?
「警察犬を使う理由がそこまで分かっておいて、痕跡の意味合いが分からないのは流石にギャグか何かだと思うのだけれど? それとも、そう突っ込まれるのも分かっているというのなら、流石にちょっとどうかしているけれどね」
「そこまで馬鹿にしなくても良いだろうよ……。でも、しつこく言われたから何となく理解出来てきたよ。つまりは、痕跡が残っていればどうにかそこから幽霊の在処を見つけ出すことが出来る――ってことなんだろう?」
「まあ、そういうことだね」
何で苦虫を噛み潰したような表情で頷くんだよ――納得出来ていないのなら、そうと言って欲しいものだね。
◇◇◇
それから全くと言って良いほど収穫がなかったのには、怒りを通り越して最早呆れてしまうレベルだった――こいつがやる気のない時は収穫なしで数日潰れてしまうことはたまにあったけれど、今回はやる気がそれなりにある――ように見える、という但し書きをしておくけれど――状態だ。
にもかかわらず、収穫が零。
そうなるとやっぱり、何かしら別の原因があるのではないか――などと勘繰ってしまう訳だけれど。
「たーくん、今日はもうやる気にならない。一度夜になるまで待たないか?」
「とは言うが、ここで探索を開始してまだ一時間も経過していないような気がするけれど? ……でもまあ、仕切り直しをするというのは納得かな。いずれにせよ、これからのことをきちんと整理しなければならないだろうし」
こうも収穫が出てこないのならば、解決まで難航するだろうな。
うーん、簡単な仕事とばかり思っていたけれど、流石に今回は間違ったかな? ぼくの目も衰えてしまったのかもしれないな……。
「何処で休むことにしようか。そっちで決めてくれて構わないよ。喫茶店とかあったかなあ……。最近のトレンドは何だい? ハロウィン?」
ハロウィンなんて何時だってあるだろうよ――いや、季節柄のイベントであることは間違いないのだけれど、別にハロウィンなんて来年だってやってくるイベントなのだし、ここでとやかく言う必要もないだろう、って話だ。
「一度情報を整理するためにも、糖分を摂取するのはどうだ? ほら、脳細胞には糖分が良いって言うだろ?」
「言うかなあ……。でもまあ、糖分が大事なのは間違いないけれどね。ブドウ糖を摂取することでそれがエネルギー源になる。それだけではなく、脳の動きを活性化するとも言われている訳だし……」
「じゃあ決まりだ。とにかくティータイムと洒落込もうじゃないか。今回の幽霊未遂についてもきちんと整理しておいた方が良いだろう? いつ本物と出会しても良いように」
「だから未遂だと――あ、言っているな。わざとか?」
わざとかどうかと言われると、わざとではあるかな。絶対突っ込んでくると思っていたのだからね。
まあ、それはそれとして。
ぼく達は一路情報を整理するために、地上にある喫茶店へと足を運ぶのだった。
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