心霊探偵、神原語は仕事しない

巫夏希

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第三章 繰り返しの幽霊

第39話 喫茶店1

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 喫茶店というのは、時にデカ盛りメニューが多いことでも知られている。しかしそれを挑戦しようとするのは、ちょっともう度胸がなくなってしまったとも言えるだろう――ぼくの胃腸は、もうデカ盛りメニューを受け入れることはないし、受け入れられないと思う。
 この喫茶店はコーヒーを注文すると豆菓子を付けてくれる。砂糖の衣が付いた、素朴な味わいの豆菓子だ。けれども、その豆菓子は癖になる味で、これだけを目当てに来る人も少なくない。

「……たーくん、よもやこの喫茶店に来てコーヒーだけ注文するとは言わないだろうね?」
「……何を期待しているのか知らないけれど、食べたいんだったら勝手にすれば良い。ぼくはそんなにお腹が空いてないから」

 レギュラーサイズのサンドイッチでも十二分なボリュームなんだよな。

「それじゃあ、このチキンナゲットとポテトフライのお得なバケットはどうだ? これならボリュームも然程多くはないと思うぞ」
「却下だ。それならとっくに挑戦しているよ……。小腹が空いた時におすすめと言っておきながら、蓋を開けると大きいチキンナゲットが五つも入っている。スイス旅行でアイリッシュパブに入った時に食べたフィッシュアンドチップスを思い出したよ」

 あれもあれで、懐かしい思い出ではあるのだけれどね。

「僕ちゃんが食べるから安心しろ。それに、僕ちゃんの大食いは知っての通りのはずだ。そうだろう?」
「そりゃあ分かっているが……。幾ら探偵といえど、燃費が悪すぎやしないかね」
「悪いかねえ。十分に糖分やエネルギーを脳で消費しているのだし、別段問題ないのでは?」

 そう言えるのは当事者だけなんだよ、お前は何も分かっていないだろうがな……、こっちだって言い分はある。
 言い分がある、と言ってはみたものの、別にこいつを一方的に悪者に仕立て上げるつもりは毛頭ない。

「何だよ、別に食べ物を無駄にしている訳でもなかろうに、そこまで言う必要もないと思うがね。それとも、僕ちゃんが食べるのを不安がっているか? 安心したまえ、きちんとお金は払う」
「当たり前だろうが。自分で食べた物のお金ぐらいはきっちり払ってもらわないと……。それに、ぼくが言いたいのはそういうことではなく」
「何?」
「お前、ここに来た理由を忘れちゃいないだろうな? ここに来た目的はご飯を食べに来たのではなくて――」
「――幽霊未遂の情報整理、だろう」

 分かっているんじゃねえか。

「分かっているよ。分かっているとも……、寧ろ分かっていないとでも思っていたのかい? だとしたら、悲しいものだね……。別に僕ちゃんは詐欺師になったつもりはないのに」
「別にお前が詐欺師になったとも詐欺行為を働いたとも言っていないだろ。烏滸がましいぞ」
「烏滸がましくはないと思うけれどねえ……。確かに人によっては鼻につくのかもしれないし、多々たーくんにも言われる機会はある。けれども、僕ちゃんはそれを治すつもりはなかったし、今後もない。どうしてだと思う?」

 どうせくだらない理由だと思うから、聞きたくはないのだけれど、どうせ話をするのだろう。

「くだらないと言いながらもきちんと聞いてくれるのは有難いことだけれど……、要するに自分のアイデンティティの問題だよな。アイデンティティが消失するやもしれないと言うのなら、ここは譲れない……そういったところが誰しもあるはずだ。そう、たーくんだってあるはずだろう? ここだけは絶対に譲れないし外せない、こだわりのようなものが」
「あるかもしれないけれど、ここで大っぴらに言えるようなものでもないな……。ところで、注文は? まあ、今はタブレットで出来るから便利ではあるけれど……」

 今は経費削減なのかどうなのか知らないけれど、テーブルにタブレットを置いて、それをメニューと注文システムに組み込んでいる訳だ。人件費を削減しているのか人手不足なのかは分からないが、いずれにせよタブレット一つで何でも出来ちゃうのは時代の流れというか少し寂しさを感じるかな。何処だってそうだけれど、ラミネートされたメニューを見るだけで少し時間を潰してみたい、などと思ったりはしないかな?

「別に寂しくはないと思うけれどね……。良いんじゃないかな、僕ちゃんはこういうの嫌いだけれど」
「じゃあ、良いって言うんじゃねえよ。そこは素直に肯定しろよ。いや、肯定で良いのか……? 分からなくなってきたな」
「そこは自分の価値観をしっかりと持って欲しいものだけれどね。というか、さっさとタブレット返してくれよ。どうせコーヒーしか注文しないくせに」
「コーヒーだって色々種類があるんだよ。知っているか? グラスの底に餡子が溜まっているコーヒーとかあるんだよ。混ぜるもよし、混ぜないもよし……。飲み方は人それぞれだって言われているけれどね。今回はそれにチャレンジしてみようかな」
「だったら小倉トーストでも食べれば良いじゃないか。……モーニングは流石にもう終わってしまったけれどねえ」

 流石に午後三時にモーニングを欲しいと言える程強欲ではないかな。

「もう、良いよ。分かったよ……。今回はモンブランとコーヒーでチェックメイトだ」
「そのモンブランも他の喫茶店に比べると三割ぐらい大きいんじゃなかったかな? ……まあ、良いけれど。本当に食事メニューに手を付けないのならば、それはそれで。僕ちゃんは食べたかった物があるんだよな」
「因みにそれは?」
「グラタンコロッケバーガーセット」
「セット、って。というか、グラタンとコロッケとバーガーだろ。全部小麦粉じゃねえか」

 グラタンにはマカロニも入っているだろうし、クリームソースには小麦粉が入っている。それを揚げる衣も小麦粉だし、バンズは当然小麦粉だ。……それ、小麦粉の過剰摂取になったりしないかな?

「する訳ないだろうが。小麦粉は幾ら摂取しても小麦粉だ。まあ、カロリーは取り過ぎかもしれないし、それは避けるべきことだろうけれど。じゃあ、僕ちゃんはそれで」

 ぼくからタブレットを奪い取ると、あれやこれやと注文してスタンドに戻した。
 その時間、ものの数分である。
 ぼくがうだうだ悩んでいる間にさっさと決めていたんだな、こいつ。
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