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クリスマスプレゼントはお兄ちゃん
□二人ぼっちのクリスマスパーティー_01
しおりを挟むヒト飼育は金持ちのステータスシンボルだ。
一昔前、ヒトはただの消費物であり食用としては勿論見た目が獣人と酷似しているため性処理としても利用されていた。
しかし外見が似ていても所詮は別の生き物で、獣人にとってヒトはただの弱者。乱獲されたヒトはあっという間に数が減り、絶滅を危ぶまれてからようやく保護法が生まれた。
ヒトの数が激減した現代。
ヒトは特定施設で飼われているか、ヒト飼育ができるほどの整備を整えられる富を得ている者しか所有が難しかった。
ヒトを乱獲乱用していた時代は終わり、いまやヒトは高級愛玩品として愛でられる存在だ。
表向きは――――
■ ■ ■
『ヒトの違法飼育、繁殖をしていたブリーダーが摘発されました』
イルミネーションに飾られた街頭大型ビジョンから流れてくるニュース。
アナウンサーの声を拾い、黒い筋模様の入った淡灰色の耳が跳ねる。スマートフォンでアプリゲームのイベント戦に勤しんでいたロキは顔を持ち上げた。
『殆んどのヒトは売淫目的に使用されており、その後は食用として再利用されていたとのことでヒト愛護法に違反するとし――――』
「ヒトって昔はそこらにいたんだろ?」
ロキの柔らかな耳朶に第三者の笑い声が入ってくる。
「オレのじーちゃん、野良ヒト捕まえてみんなで回した後食ったとか言ってたわ」
そばにいたハイエナ獣人が連んでいる同族二人に話を振った。
「あー、ジジババはよく言うな」
「おれも聞いたことあるある。ヒトってメッチャうまいんよな? あとメッチャやわらけえって。中も外も」
「じーちゃんがスッゲー自慢してくんの。昔はみーんなヒトで卒業したんだーって」
「ハハハハッ! それ自慢かよ!」
日が暮れてきたとは言えロキのような十歳にも満たない子供が一人で街中にいられる時間帯。
そんな時間から風俗店の話で盛り上がっていた彼らの話題は今度はヒトに移ったらしい。しかし話の根本は変わってないらしく、下品に盛り上がる。
「えっ? じーちゃんの自慢話だろ? オレ、ヒト抱きてーわ」
「昔と違ってまともなヒトってメチャメチャ高いしねえ。おれらの金じゃムリムリ」
「お前ら現実見せんなよ……。俺だってヒト抱けんなら抱きてぇけど」
「抱いてそのまんま食えるって最高じゃん?」
「食べてくださいってくんのかなあ? ヤバくね? おれヤる前に食っちゃいそ」
「…………俺、抵抗されるのがいい」
「ああーっそれも! それもスキ!」
「分かる! つかさ、今のニュースみてーなブリーダーからなら格安で買えんじゃね? ぶっちゃけあるだろ探せば」
「ヒト風俗ってやつ? 噂は聞くけど、俺らの金で行けるヒト風俗なんざガチでスレスレのグレーじゃん。まともなヒトか分かんねぇだろ。病気持ってたらどーすんの?」
「貧乏人は素直に普通の風俗行けってことだろ」
「なあなあ、ヒトコスの店なかった? イヴだし、サービスねえの?」
ハイエナ三人組は騒ぎながらスマートフォンと睨めっこを始める。
「あーあ、クリスマスプレゼントにヒトもらえねーかなー。一晩だけでいいからさ」
周りの目など気にせず性欲に素直な大人達にロキはマフラーの下で冷笑を浮かべた。
アプリゲームを消した時、通知がくる。
それは迎えの一報。
人通りの多い駅前は駐停車禁止であるものの乗り降り程度ならばついやってしまう。いちいち駐車場を探すのも面倒なので大通りに出て信号待ちの間に乗り込むなんてこともざらだ。
今回はまさに丁度良く赤信号に捕まったとの悪い連絡。
「――――あっ!」
ロキは見慣れたワゴン車が信号待ちの列に鎮座しているのを見付けて飛び出した。
ただでさえ人波の激しい駅前はクリスマスイヴに浮かれて余計に密度がある。
どこからともなく響いてくるクリスマスキャロルを聴きつつロキは小さな身体で人混みを縫い、ガードレールを潜り抜けて目当ての車へと向かう。タイミング良く扉が開いた。
ロキは中に飛び込む。暖房のついた車内は暖かく、外との寒暖差で長い尻尾が逆立った。
「おチビ。おっかぁえりぃ」
いやにねっとりと間延びした声に出迎えられる。
広い後部座席に座っていた相手にロキは眉根を顰めた。いるとは分かっていたが、改めて顔を見ると気が滅入った。
「……ただいま」
「露骨にやぁな顔しないでよぉ。終業式お疲れさまぁ。こんな時間まで学校帰りに寄り道なんて悪い子ぉ。なに買ってたのぉ?」
「教えない」
「サンタさんにもらうプレゼント決まったぁ?」
「教えない」
ロキは相手から顔を背けて背負っていたリュックを膝へと移動させる。が、中に入っているものが万が一にも崩れたらと思い、足の間へと降ろした。
座席に深く体重を預けた次の瞬間、ふにっと頬を突かれた。それが実兄であるミハイルの人差し指だとは見るまでもなく分かり、ロキはすかさず手を払う。
「やぁん。こっわぁい。ミカはただかぁいい弟とスキンシップ取りたいだぁけ」
自らを愛称で呼ぶミハイルことミカはウインクをひとつ。
同じユキヒョウ獣人でありながらも薄灰色の髪を持つロキとは異なり金髪であるミカをロキは睨む。肌の色もロキは褐色だがミカは色白で、瞳はロキがミントグリーン、ミカはエメラルドグリーンと差があった。
「俺は取りたくない!」
「おチビったら照れ屋さぁん」
「ちょー照れてない!」
母親が別なのだから差があるのは当たり前で、しかし腹違いにしては二人は似通っている部分も多く、ロキは無意識にだがミカに同族嫌悪を抱いていた。
「超うざい!」
「照れるなよぉう」
「照れてねーし! 超触んな!」
「今日はねぇ、セトがお仕事忙しくなっちゃったのぉ。だからおチビがミカの相手してよぉ。クリスマスイヴに一人なんて寂しぃい」
「お前夜はショーがあるッて言ッてただろ!」
ベタベタと無駄に激しいスキンシップをはかってくるミカの手をロキはすべて叩き落とす。まだ出し入れが下手くそなロキの爪がミカの腕を引っ掻くが、その程度でミカの肌には傷はつかない。
「おチビはどこもかしこもチビチビだねぇ」
「超うざい!」
それでもムキになって意図的に引っ掻けば、ミカは楽しげにエメラルドグリーンの双眸に弧を描いた。
男女問わずに惹きつける無邪気さと妖艶さを絡めた笑みは、ロキにはただの捻くれた嗤いにしか見えず苛立ちを強める。だがここで感情的になるとミカの思う壺。
ロキはお願いしたクリスマスプレゼントのことを考え、ミカから意識を逸らした。暗転していたスマートフォンをつけ、ホーム画面に思考を向ける。
そこには黒髪の少年が写っていた。
少年と言ってもロキより年上なだけで、まだまだ幼さの残る十代程度の子供。
なのだが、子供らしさどころか生気もなく、人形のように無機質だった。どこを見ているのか分からないぼんやりとした黒眼は穽よりも濃く、比例して肌は屍蝋の如く白白過ぎる。服というよりも布切れと称せるものを羽織り、細い喉は無骨な首輪で飾られていた。
つるんとした毛なしの平たい丸耳は、先程のニュースに出ていたヒトと同じ形。
「なになに? 好きな人ぉ?」
「!?」
隣から覗き込んできたミカに、ロキは慌ててスマートフォンを抱き締めて画面を隠す。
「見んなヘンタイ!」
「ミカが変態なのは今更じゃぁん。なになに? 見せてよぉ」
「触んなし!」
伸びてきた右手を叩く。
先程とは変わり「いったぁい……」とミカは手をさすり泣き真似をした。
ロキは眉を吊り上げてミカを威嚇しつつも素早くスマートフォンをポケットにしまって守った。彼に画面を見られれば根掘り葉掘り聞かれるのは分かっている。
ロキとミカは似ているからこそ、この実兄だけにはクリスマスプレゼントを知られてはならなかった。
「セトの仕事が増えたのッて例の悪徳ブリーダーのせい?」
ロキは話を逸らす。
「そぅそぅ。直接関係ないとは言えああいうニュースになっちゃうと同じ職種としてはちょぉっとねぇ……ヒトの性産業ってラインが微妙じゃぁん? 愛護法的にはアウトだけど、結局ヒトなんて消費物だしぃ」
「うちは許可取ッてんだろ?」
「表向きのブリーダーのほうはねぇ。おチビも知ってるでしょぉ、ミカのショー。今夜もやるしぃ。イヴだからヒト料理もパァッと出しちゃうのぉ!」
ミカは手を叩いて楽しげに笑った。
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