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クリスマスプレゼントはお兄ちゃん
□二人ぼっちのクリスマスパーティー_02
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ロキの家は裕福層向けのヒト売買をしている。
それはきちんと法で管理された資格を取得した上での商売であり、ブリーダー職だけでなくヒト専門のアイテムショップも運営する。しかし裏ではヒトを使った性産業にも手を出し、ポルノグラフィだけでなくスナッフフィルムの販売も行なっていた。
ミカの言うショーとはロキの一家が仕切る会員制の性風俗店でのヒトを使った催しだ。
ミカは表向きはヒト専門のトリマーだが、裏ではヒトの調教師をしていた。調教とは真っ当なマナーではなく性的な躾であり、ショーに出されるヒトの殆どがミカに初体験を奪われている。
ミカは元々ヒトを性的に消費するのを好む。彼の趣向や性癖などロキにはどうでも良いが、今年のクリスマスだけはそうも言っていられなかった。
なぜならロキがクリスマスプレゼントとして頼んだのはヒト。
この自分勝手な実兄にバレたらどんな使われ方をされて潰されるか分からない。
「そぉんなわけでぇ、今年のクリスマスパーティーはおチビぼっちだけどダイジョブ? 一人でおトイレ行ける?」
「超気軽! 超嬉しい!」
「さぁみしいよねぇ! ショーに出るぅ? クリスマスに筆下ろしもいいと思うのぉ!」
「超寄るな! クソ厄介な処女厨のくせに!」
「ヒト食べられるよぉ。お前もヒト好きでしょぉ? この間パパと一緒に見に行ってたみたいだしぃ。ヤりながら食べるの楽しいよぉ」
「お前がヤッたヒトなんか食えるか!」
「おチビじゃちっさいもんねぇ! 精通もまだだしぃあははは!」
「うるせー!」
ギャアギャアと喚きつつ、ロキはミカが夜には忙しくなることに安堵する。
「あ、ミカここで降りなきゃ」
騒いでいるうちに車が停まり、ミカが顔を外に移した。
「ショーの後はお友達とクリスマスパーティーする予定だから明日の昼に帰るねぇ。セトもパパも仕事だから、クリぼっち堪能してぇ」
ベェと意地悪に舌を出し、ミカは足早に車を降りる。
結局、元から家族でクリスマスパーティーをする気がなかったらしい。自分勝手な実兄にロキは中指を立てる。
「バーカ! 俺のクリスマスパーティーはぼッちじゃねーし!」
人混みに消えて行くミカの背中へとロキはドアウィンドウ越しに叫んだ。
■ ■ ■
サンタクロースを信じているほど純粋な子供ではない。だからロキは父親に駄々を捏ねた。
元より父親はロキに甘く、強請れば大半のものは買ってくれた。
今年のクリスマスプレゼントは些か厳しかったが、それでもロキが強請れば首を縦に振って大金を落とした。
「俺の兄様だ!」
クリスマスの朝。
強請ったプレゼントがリビングに立つツリーのそばに置かれていた。
「可愛い! 超可愛い!」
大きな赤いリボンを首に巻いたヒトの少年がちょこんとそこに座っている。
それは写真を撮った時――父の知り合いのブリーダーの元で初めて目にした時よりもやや血色が良くなっている。それでも檻の中で育ち太陽光をあまり浴びてないだろう肌はあまりにも白く、裏腹に癖のある髪と双眸は黒過ぎていた。
他のヒトよりも断然感情と表情のない無機質な顔付きは大変ロキ好みで、ロキは寝巻きのままプレゼントに飛び付いた。
「兄様! 俺の言うこと聞く兄様がプレゼントだ! 超嬉しい!」
ロキは父親にお強請りしたヒトの少年に頬擦りをして抱き締める。
華奢な身体はメスと間違えそうだが、きちんとオスなのは確認済みだ。それでもヒトの服はメス用のほうが可愛いデザインが多く、クリスマスプレゼントのヒトも黒いワンピースを着ていた。
「おはよう兄様!」
「おはようロキ」
「お喋りもできんの!? 超優秀じゃん!」
「ロキとたくさんお喋りするように覚えたよ」
「超スゲー! ヒトと獣人ッて声帯違うんだろ? 挨拶くらいは獣人の真似できるッて聞いたけど……兄様は挨拶以外も分かんの? 俺の言うこと分かる?」
「うん」
「兄様は俺のなに?」
「僕はロキのお兄ちゃんだよね?」
「そう! うわぁッ超スッゲー!」
ヒトが獣人を真似てお喋りをするのはロキも知っていたがここまで流暢に話すヒトは珍しい。
愛玩用のヒトはある程度の会話ができるよう躾けられるが、声帯や言語の差もあって厳しい部分も多々ある。
ヒトの知能は獣人でいう五歳から八歳程度だと基本は言われていた。個体差はあるが、だからこそここまで優秀なヒトなら相応値が張ったのは明らか。
「兄様は名前あるんだッけ?」
「ナオです」
「あ、名前つけられてたんだ。愛玩用で元から名前あるなんて超優秀じゃん。名前あるッてことは店に並ぶ予定だッたッてことだもんな……」
「名前は新しいご主人様に変えてもらっても平気ですよ」
「んーん。そーゆうのどうでもいい。俺は兄様だと思ッてるから。つーか俺には敬語禁止!」
「ごめんね」
「謝れるの超良い子良い子」
教わった典型文は敬語になるが、それ以外のやり取りは敬語を外す。それはこちらの発する言葉の意味をナオが理解している証拠だった。
父があまりすぐに食うなよ、と言っていた意味をロキは改めて理解する。
心配せずとも食う気はない。
ロキはこのプレゼントを自分の兄にするつもりだった。
「あのね兄様。俺は俺を可愛がッてくれる兄様が欲しかッたの」
ロキは白い手を両手で包み握ると黒い目を覗き込んで言い聞かせた。
「俺、上に三人兄様がいるんだけど……あんなの兄様じゃねーの。みーんな俺のこと可愛がッてくれねーし、俺の言うことも聞いてくれねーんだよ。兄様なら弟を一番に可愛がるのが普通だろ? あんな奴ら兄様じゃねーの! だから兄様が俺だけの兄様になッて! 分かる? できる?」
「うん。僕はロキのお兄ちゃんになるよ」
「俺の言うこと聞ける?」
「うん。ロキの言うこと聞くよ」
「お約束!」
「お約束」
ロキは白い手を激しく上下に振った。視界に赤い飛沫が舞って、疑問符とともに動きを止める。
ナオの柔い手の甲にロキの幼い爪が食い込み、白肌を鮮血が汚していた。滲む程度ではなく、皮膚と肉に爪が食い込んで甲に穴を開けてしまっている。
「うわっ!」
ロキが慌てて手を離せば、ナオは首を傾げた。
「どうしたの?」
「ヒ、ヒトッて超脆かッたんだ……超忘れてた。どうしよう……に、兄様、大丈夫?」
「これくらい大丈夫だよ」
「ほんとに?」
「本当に」
ナオの表情に変わりはなく、感情は読めない。
読めないと言うよりも、ない。
それでもナオは唇に弧を描いた。目の笑っていない形だけの微笑みだが、ロキにはそれが酷く可愛らしく感じられた。
ヒトを買ってもらったのは初めてでないがナオのようなヒトは初めてだ。
「よかッた……」
自分好みの顔と幼い仕草が可愛くて、爪が触れないよう注意をしてナオの頭を撫でる。黒髪はとても柔らかく、獣人との違いをありありと感じロキの胸は高鳴った。
「よしよし兄様。今日から俺がたくさん可愛がッてあげる。嬉しい?」
「ありがとうロキ。嬉しいよ」
「じゃあ俺の部屋行こッか。ここだとミカにバレるかもだし。あッ! ミカッてのは三番目のクソ兄なんだけど、すッげーやな奴なの! 三番目のくせに一番悪い兄様!」
「そうなんだ。悪い子は駄目だよね」
「そう! だから俺の部屋来て!」
今度はナオの素肌を傷つけてはならないとロキはワンピースを掴んだ。ヒト用の服はやはり獣人のものとは質が違う。
「こッち!」
「っ……う、ん」
「早く早く!」
ロキが軽く引っ張っただけでもナオはふらつき、よろけつつも立ち上がった。
年齢はナオのほうが上だが、やはりヒトと獣人では力差が大き過ぎるらしい。だがどんなにませていてもロキはまだ幼く、そこまで気を配れはしない。
「クリスマスパーティーも兄様が来てからしようッて思ッてたし! 一緒にしよッ! 昨日な、学校帰りにヒト用のケーキも買ッてきたから!」
「ありがとうロキ」
「どーいたしまして!」
ナオの足取りの不安定さに気付かず、ロキは服をぐいぐいと力任せに引っ張って自室へと急かす。
「兄様! メリークリスマス」
「メリークリスマス。ロキ」
ロキはプレゼントを持って自室へと引っ込んだ。
ようやく待ちに待った二人ぼっちのクリスマスパーティーが始まる。
【end】
それはきちんと法で管理された資格を取得した上での商売であり、ブリーダー職だけでなくヒト専門のアイテムショップも運営する。しかし裏ではヒトを使った性産業にも手を出し、ポルノグラフィだけでなくスナッフフィルムの販売も行なっていた。
ミカの言うショーとはロキの一家が仕切る会員制の性風俗店でのヒトを使った催しだ。
ミカは表向きはヒト専門のトリマーだが、裏ではヒトの調教師をしていた。調教とは真っ当なマナーではなく性的な躾であり、ショーに出されるヒトの殆どがミカに初体験を奪われている。
ミカは元々ヒトを性的に消費するのを好む。彼の趣向や性癖などロキにはどうでも良いが、今年のクリスマスだけはそうも言っていられなかった。
なぜならロキがクリスマスプレゼントとして頼んだのはヒト。
この自分勝手な実兄にバレたらどんな使われ方をされて潰されるか分からない。
「そぉんなわけでぇ、今年のクリスマスパーティーはおチビぼっちだけどダイジョブ? 一人でおトイレ行ける?」
「超気軽! 超嬉しい!」
「さぁみしいよねぇ! ショーに出るぅ? クリスマスに筆下ろしもいいと思うのぉ!」
「超寄るな! クソ厄介な処女厨のくせに!」
「ヒト食べられるよぉ。お前もヒト好きでしょぉ? この間パパと一緒に見に行ってたみたいだしぃ。ヤりながら食べるの楽しいよぉ」
「お前がヤッたヒトなんか食えるか!」
「おチビじゃちっさいもんねぇ! 精通もまだだしぃあははは!」
「うるせー!」
ギャアギャアと喚きつつ、ロキはミカが夜には忙しくなることに安堵する。
「あ、ミカここで降りなきゃ」
騒いでいるうちに車が停まり、ミカが顔を外に移した。
「ショーの後はお友達とクリスマスパーティーする予定だから明日の昼に帰るねぇ。セトもパパも仕事だから、クリぼっち堪能してぇ」
ベェと意地悪に舌を出し、ミカは足早に車を降りる。
結局、元から家族でクリスマスパーティーをする気がなかったらしい。自分勝手な実兄にロキは中指を立てる。
「バーカ! 俺のクリスマスパーティーはぼッちじゃねーし!」
人混みに消えて行くミカの背中へとロキはドアウィンドウ越しに叫んだ。
■ ■ ■
サンタクロースを信じているほど純粋な子供ではない。だからロキは父親に駄々を捏ねた。
元より父親はロキに甘く、強請れば大半のものは買ってくれた。
今年のクリスマスプレゼントは些か厳しかったが、それでもロキが強請れば首を縦に振って大金を落とした。
「俺の兄様だ!」
クリスマスの朝。
強請ったプレゼントがリビングに立つツリーのそばに置かれていた。
「可愛い! 超可愛い!」
大きな赤いリボンを首に巻いたヒトの少年がちょこんとそこに座っている。
それは写真を撮った時――父の知り合いのブリーダーの元で初めて目にした時よりもやや血色が良くなっている。それでも檻の中で育ち太陽光をあまり浴びてないだろう肌はあまりにも白く、裏腹に癖のある髪と双眸は黒過ぎていた。
他のヒトよりも断然感情と表情のない無機質な顔付きは大変ロキ好みで、ロキは寝巻きのままプレゼントに飛び付いた。
「兄様! 俺の言うこと聞く兄様がプレゼントだ! 超嬉しい!」
ロキは父親にお強請りしたヒトの少年に頬擦りをして抱き締める。
華奢な身体はメスと間違えそうだが、きちんとオスなのは確認済みだ。それでもヒトの服はメス用のほうが可愛いデザインが多く、クリスマスプレゼントのヒトも黒いワンピースを着ていた。
「おはよう兄様!」
「おはようロキ」
「お喋りもできんの!? 超優秀じゃん!」
「ロキとたくさんお喋りするように覚えたよ」
「超スゲー! ヒトと獣人ッて声帯違うんだろ? 挨拶くらいは獣人の真似できるッて聞いたけど……兄様は挨拶以外も分かんの? 俺の言うこと分かる?」
「うん」
「兄様は俺のなに?」
「僕はロキのお兄ちゃんだよね?」
「そう! うわぁッ超スッゲー!」
ヒトが獣人を真似てお喋りをするのはロキも知っていたがここまで流暢に話すヒトは珍しい。
愛玩用のヒトはある程度の会話ができるよう躾けられるが、声帯や言語の差もあって厳しい部分も多々ある。
ヒトの知能は獣人でいう五歳から八歳程度だと基本は言われていた。個体差はあるが、だからこそここまで優秀なヒトなら相応値が張ったのは明らか。
「兄様は名前あるんだッけ?」
「ナオです」
「あ、名前つけられてたんだ。愛玩用で元から名前あるなんて超優秀じゃん。名前あるッてことは店に並ぶ予定だッたッてことだもんな……」
「名前は新しいご主人様に変えてもらっても平気ですよ」
「んーん。そーゆうのどうでもいい。俺は兄様だと思ッてるから。つーか俺には敬語禁止!」
「ごめんね」
「謝れるの超良い子良い子」
教わった典型文は敬語になるが、それ以外のやり取りは敬語を外す。それはこちらの発する言葉の意味をナオが理解している証拠だった。
父があまりすぐに食うなよ、と言っていた意味をロキは改めて理解する。
心配せずとも食う気はない。
ロキはこのプレゼントを自分の兄にするつもりだった。
「あのね兄様。俺は俺を可愛がッてくれる兄様が欲しかッたの」
ロキは白い手を両手で包み握ると黒い目を覗き込んで言い聞かせた。
「俺、上に三人兄様がいるんだけど……あんなの兄様じゃねーの。みーんな俺のこと可愛がッてくれねーし、俺の言うことも聞いてくれねーんだよ。兄様なら弟を一番に可愛がるのが普通だろ? あんな奴ら兄様じゃねーの! だから兄様が俺だけの兄様になッて! 分かる? できる?」
「うん。僕はロキのお兄ちゃんになるよ」
「俺の言うこと聞ける?」
「うん。ロキの言うこと聞くよ」
「お約束!」
「お約束」
ロキは白い手を激しく上下に振った。視界に赤い飛沫が舞って、疑問符とともに動きを止める。
ナオの柔い手の甲にロキの幼い爪が食い込み、白肌を鮮血が汚していた。滲む程度ではなく、皮膚と肉に爪が食い込んで甲に穴を開けてしまっている。
「うわっ!」
ロキが慌てて手を離せば、ナオは首を傾げた。
「どうしたの?」
「ヒ、ヒトッて超脆かッたんだ……超忘れてた。どうしよう……に、兄様、大丈夫?」
「これくらい大丈夫だよ」
「ほんとに?」
「本当に」
ナオの表情に変わりはなく、感情は読めない。
読めないと言うよりも、ない。
それでもナオは唇に弧を描いた。目の笑っていない形だけの微笑みだが、ロキにはそれが酷く可愛らしく感じられた。
ヒトを買ってもらったのは初めてでないがナオのようなヒトは初めてだ。
「よかッた……」
自分好みの顔と幼い仕草が可愛くて、爪が触れないよう注意をしてナオの頭を撫でる。黒髪はとても柔らかく、獣人との違いをありありと感じロキの胸は高鳴った。
「よしよし兄様。今日から俺がたくさん可愛がッてあげる。嬉しい?」
「ありがとうロキ。嬉しいよ」
「じゃあ俺の部屋行こッか。ここだとミカにバレるかもだし。あッ! ミカッてのは三番目のクソ兄なんだけど、すッげーやな奴なの! 三番目のくせに一番悪い兄様!」
「そうなんだ。悪い子は駄目だよね」
「そう! だから俺の部屋来て!」
今度はナオの素肌を傷つけてはならないとロキはワンピースを掴んだ。ヒト用の服はやはり獣人のものとは質が違う。
「こッち!」
「っ……う、ん」
「早く早く!」
ロキが軽く引っ張っただけでもナオはふらつき、よろけつつも立ち上がった。
年齢はナオのほうが上だが、やはりヒトと獣人では力差が大き過ぎるらしい。だがどんなにませていてもロキはまだ幼く、そこまで気を配れはしない。
「クリスマスパーティーも兄様が来てからしようッて思ッてたし! 一緒にしよッ! 昨日な、学校帰りにヒト用のケーキも買ッてきたから!」
「ありがとうロキ」
「どーいたしまして!」
ナオの足取りの不安定さに気付かず、ロキは服をぐいぐいと力任せに引っ張って自室へと急かす。
「兄様! メリークリスマス」
「メリークリスマス。ロキ」
ロキはプレゼントを持って自室へと引っ込んだ。
ようやく待ちに待った二人ぼっちのクリスマスパーティーが始まる。
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