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春蠶 市

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希少なペットはレイプされて当たり前

□希少なペットは誘拐されて当たり前_02

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 使用人達に手を出すほど暴れるのは久しぶりで、いつもならば彼はこうなる前に買い与えたヒトをバラしていた。
 では今回買い与えたヒトもバラしたのかと考えたが、ミカはすぐに自分の思考の矛盾に気が付いた。バラしていたのなら、逆に弟はいま感情の発散を終えてご機嫌のはず。

「おチビちゃぁん。なにがあったのぉ? ナオちゃんはぁ?」
「っ!」

 買い与えたヒトの名を出せば小さな肩が跳ね、悲鳴が上がる。
 癇癪を起こして叫ぶ子供から飛び出す宇宙語をミカは解読ができなかった。だから珍しく眉を落として本気で困惑する。

「お前は自分の機嫌は自分で直せると思っていたがな」

 つんざく悲鳴に溜め息が混ざる。
 ミカにはその溜め息が救世主の足音に聞こえた。

「セェトォオ! おチビがヘェン!」

 階段から降りて来た腹違いの兄にミカは助けを求める。

「変、という言葉で片付けるのも変だろ」
「なにそれぇ」

 家の中ですらスーツに身を包むセトは居心地悪そうに頭を揺らす。仏頂面がいつも以上に険しくなっており、ミカはロキの悲鳴のせいかと思ったがすぐに違うと気付く。
 父親似でユキヒョウ獣人であるミカやロキとは異なり、腹違いの兄であるセトは母親似でスイロク獣人だ。ゆえに彼の黒髪からは葉っぱ型の耳と雄々しい角が生えているのだが、いまセトの頭部に角は存在していなかった。

「ありゃ……セトったら生え変わり?」
「今朝、落ちた」
「アハッ! ヒトっぽーい!」
「そうか」

 ミカの冗談を流し、階段を降りて来たセトは弟達の前で足を揃える。
 また溜め息をついた後、唐突にロキの頭を殴った。

「ミャ゛――!」

 長い尻尾が膨らみ、ロキは突然の痛みに全身をびくつかせた。
 小さな手が反射的に殴られた部位を押さえ、ミカはここぞとばかりにロキから離れた。相手を弄ばないスキンシップや性欲を刺激しない密着をミカは好まない。

「泣き叫ぶなとは言わん。当たり散らすなとも言わん。感情を爆発させて気持ちが落ち着くなら好きにしろ」

 離れたミカと入れ違いにセトがロキの前に仁王立つ。ただでさえ良いとは言えないブラックグリーンの目付きをさらに険しく細めてロキを見下す。
 子供を前にする態度ではないが、弟だからというわけでもなくセトは誰相手でもこうだった。

「だが、他者に機嫌を取ってもらいたいのなら、そのアピールは逆効果だぞ。他者に機嫌を取ってもらいたいなら素直に言葉にしろ。腹が立つから食事に行こう、悲しいから一緒に遊ぼう……言語化しろ。態度で他人に気持ちを察してもらおうとするな、図々しい。お前はそこを理解していると思っていたが?」
「あの……セト? おチビまだおチビだからそんなこと言ったってぇ」
「子供だからと甘えていれば癖になるぞ。子供だから許されることなどない。子供だから早く直せるだけだ。思考の言語化によるメンタル管理やモチベーション維持、感情の起伏の自己管理も技術だ。幼いうちから学べ」
「いやいやいやいや、なぁにそれ……慰めてあげなよぉ」
「ミカ。自分ができないことを他者に強請るな」
「いやでもぉ、おチビまだおチビだしぃ……セトの言葉、難しくて分かんないからぁ。ミカも分かんないしぃ」
「ロキ。その機嫌、自分で直せるならこのまま好きにしろ。だが、無理なら話せ。俺の言うことを理解できるな? ミカのようには、なりたくないだろ」
「…………やだ……」
「よし」
「ぇえええ! ねぇそのやり取りなにぃ!? なんでいまミカ、え? ちょっと! ミ、ミカみたいにってなに!? なんでぇこの状況でミカがボロカスに言われんのぉお!?」
「この程度の小言でボロカスだと思われるのは心外だ」
「小言! あれで小言! もうミカの身体貸してやんないからねぇ!」
「お前が勝手に俺を使うだけだろ。いまは新しいペットもいる」
「兄様、いなくなっちゃった……」

 弱々しく割り込んできた弟の泣き声にミカは騒がしくしていた舌を止める。
 ロキは汚れた袖で目を何度も擦って、ヒクヒクとしゃっくりに似た音で痙攣する喉を落ち着かせる。深呼吸を繰り返し、また目を擦り、それからセトを見上げた。

「いなくなって、じゃ、なくて……兄様、連れて、あの……俺、歩いてて、違ッ、あ、だから……家出て、兄様と……」
「ペットを連れて家出をして、歩いて、なんだ?」
「あ、歩いてて、喉かわいたから……コンビニ行ッて……コンビニ、ペット禁止だから、兄様に、待ッててッて。外で」
「一人で待たせたのぉ?」

 横からミカが口を挟めばロキは小さく頷いた。
 ミカとセトは目を合わせ視線で会話をする。弟のボロボロな姿とペットの不在――なにが起こったのか大体の予想がついてしまった。
 そして予想は的中する。

「飲み物買ッてたら、っう……兄様、ちょー知らない奴等に持ッて、かれ……っううぅ」

 思い出して感情が溢れたのか幼い弟は再び双眼から大粒の涙を滴らせた。
 ずびずびと鼻を鳴らしながら目を押さえる。今度は声を押し殺して泣く弟にミカは尻尾をぐったりと脱力させた。

「そりゃぁヒトが一人でいたら誘拐されて当たり前じゃぁん……なぁにやってんだか」
「自業自得だ。いい経験と思え」

 二人は思い思いの本音を容赦なく吐き捨てる。

「あーあ、ナオちゃん高かったんだよねぇ? パパに怒られても知ぃらない。いや、パパっておチビには甘々ゲロッゲロだから怒らないか……」
「無駄金になったな」
「今頃ヤられて食われてんじゃなぁい? 勿体なぁい。こんなならもっとヤッときゃよかったぁ。セトも結構ナオちゃんの身体好きだよねぇ?」
「好きじゃない。嫌いじゃないだけだ」
「それが好きってことでしょぉ。勿体ないけど、仕方ないかぁ」

 ヒトは一般的には絶滅危惧種の高級品だ。
 ヒトならなんでもいいからと、欠陥品にすら大金を叩く輩がいる。ヒトが高級化したご時世で五体満足の健康そうなヒトを子供が連れ回し、一人で留守番をさせていれば狙われて当然だろう。
 ヒトは希少ではあるが、あくまでもペット。法的には物扱いで、誘拐されても誘拐罪ではなく窃盗罪だ。しかも犯人が見つかったとしても、十中八九ヒトは食われているだろう。
 上の兄二人は諦めろとロキに対して露骨な態度を見せる。が、不意にセトが表情を強張らせた。

「ん? どしたのぉセト。腹痛? お便所行ってくればぁ?」

 ミカはふざけてお手洗いに繋がる廊下を指差す。
 しかしセトは反応しない。みるみる顔色が悪くなり、脂汗まで浮き始めた。

「セト? なに? どぉしたの?」
「……セ……の服……」
「なに? 聞こえなぁい」
「あれは、アセルの服を……着ていたな?」

 ブラックグリーンの双眼がこの世の終わりを目撃したかのように震える。セトは緊張に乾いた唇を押さえ、静かに絶望していた。
 セトの口から放たれた名前にミカも気まずくなる。

「あ、あー……着てた、ねぇ。おチビとお揃いで、なんか……プレゼントされたねぇ」
「徹夜だ」
「え?」
「あれをロキが買ってからプレゼントが贈られてくるまでの時間が早過ぎる。いつものよく分からん情報網からペットのことを聞いたアセルはきっとインスピレーションに恵まれたとかなんとかで徹夜ですべてを仕上げたに決まっている。彼はそういう男だ。いつだって遺憾無く才能を発揮する。つまり俺はアセルが徹夜で作った服がボロ雑巾にされるのを放置することになる。そんなことをしてみろ。知られてみろ。アセルは「仕方がないね」と笑うだけで俺を責めない。アセルはそういう奴だ……悲しいことを悲しいと言わない。俺如きのせいであのアセルが悲しむことなどあってはならない。俺のような奴がアセルを悲しませるなどおこがましいにも程がある」

 息継ぎもなく捲し立てるセトに冷静さはない。もはや自分に言い聞かせている口振りのセトにミカは尻尾を揺らした。
 セトは双子の兄のことになると壊れる。劣等感と焦燥感に苛まれ、自分を卑下して精神が一気に崩壊するのだ。
「天才なお兄様を持つと大変だねぇ」ミカが冷笑を浮かべた瞬間、セトが勢い良くロキの腕を掴んだ。

「行くぞ。どこのコンビニだ」

 顔をくしゃくしゃにするロキを見ずにセトは言う。その横顔には焦りの色が濃く浮かんでいる。

「絶対に見付けだすぞ」

 セトの力強い宣言にロキは笑顔の花を咲かせ、ミカは小さく吹き出した。
 兄と弟は利害が一致した様子。ならば、貸しはいくつ作っても良いとミカもそこに便乗した。
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