これは私の物語

笹乃笹世

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8章 冬市と流行り病

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「んー! いい匂い! 食べるのが楽しみだわ」
「クッキーのほうはある程度日持ちしますから……」
「――持つわけないじゃない。 家に3人も食い盛りがいるのよ?」
「……お茶と一緒に食べると、お腹が膨れやすいですよ……?」

 苦笑混じり、冗談混じりに伝えると、二人は真剣な表情で顔を見合わせ「お茶ね?」「お茶か……」と頷きあう。
 ――え、食べ盛りってそこまでなの……? やめてよ、そんな真剣にならないで! 未来がちょっと不安になっちゃうでしょ!

「……念の為、味見だけはしてから帰りましょうね?」
「そうだな? この前の悲劇は絶対に繰り返させない……」
「――ありがとうございましたー……?」

 真剣な表情で話し合いながら通路を戻っていく二人の背中に一応声をかけるが、多分聞こえてないんだろうな……
 ――あ、そういえば戸棚に入れておいた夕飯のパンを食い尽くされて、月曜の朝までパン無しだったって嘆いてた兵士さんがいたけど……あの人だったのかな?
 ――日曜のパンはねぇー? 本当に買う気にならないくらい高くなっちゃってるからねー……――うちも戸棚に鍵とかかけるべき……? いや、うちの弟たちは大丈夫だと信じたいけど……

「あれ? おしごと?」

 少し考え込んでいると、耳にロランの不思議そうな声が聞こえ、そちらに目を向けると、兵士夫婦が帰った方向とは逆の方向から兵士たちが二人こちらに歩いて来ていた。
 ……さっきの兵士さんとは違い、兵士の制服を着て。
 ――あれ? 一人は知ってるけど、もう一人の人は見たことない人……?

「よぉ! やってんなぁ!」
「こんにちは」
「初めまして、ですよね?」

 顔見知りの兵士に確認するように挨拶をする。
 チラリと見えた見知らぬ兵士の腕には緑門の兵士であることを示す緑色の腕章が付いていた。

「ああ。 俺の同期でここの巡回もしてる緑門の兵士だ。 こいつらが俺らの養い子だ。 頼んだぞ」 
「はいはい。 見かけたら気にかけるよ」

 その言葉にすぐさま背筋を伸ばして「よろしくお願いします」と頭を下げると、訓練された兵士のように、すぐさまそれに倣う弟たち。

「――本当に礼儀正しい子供達だな……?」
「こんな小さいのに、いろいろ苦労して来てんだよ。 可愛がってやってくれ」
「……ま、こっちだってお前に散々自慢してくれたこの子らの料理に興味津々だからな。 ――これからもちょくちょく冬市に来てくれると助かるよ」
「……今日欲しいものが手に入ったら、次も考えます」

 ……別に、うちの店西門の兵士限定店ってわけじゃないから、この人がいつ買いに来てくれたっていいんだけど……――もしかしたら兵士たちにもナワバリ意識的なものがあるのかもしれないから、軽率に誘うのはやめとこ。
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