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「ーーそういえば、写しとる先は紙でなくてはいけないのかな?」
カップを片手にニコリと笑ったフィリップが、リアーヌに向かって声をかける。
ある程度の事情を察しているビアンカは(……ーーこの様子だとパラディール家は本気でリアーヌを狙ってるのねぇ……)と思いながら、興味深そうにことの成り行きを見守った。
「いえ、わりとなんでもいけますよー。 木と陶器は経験があります」
「陶器にも!」
リアーヌの答えに、氷の花を器に移していたラルフが驚愕の声を上げた。
そんなラルフにリアーヌは少しだけ鼻を高くしながら肯定するようにニコリと笑って、胸を張って大きく頷いた。
「ーーでは……例えばこれに何かを写しとることは可能ですか?」
フィリップは菓子を取り分けるように置かれていた皿の一枚を手に取りながらたずねた。
しかし、その皿を見た途端リアーヌの顔からは笑顔が消え、ヒクリと頬が引き攣り始めた。
「……それですか……?」
「……なにか不都合でも……?」
なぜあんなにも自信満々だったリアーヌが、急にこんな態度をとるのか理解に苦しんだフィリップは、少し瞳を揺らしながらリアーヌと自分が持っている皿を交互に見比べた。
「ーーそのお皿……高いですよね……?」
(見るからに高級品だし、それ単なるお皿の一枚じゃなくて、お茶会セットの中の一枚だから数が足らなくなったらセット全て使えなくなるってやつでしょ⁉︎ やめてよ、私感覚的にはド庶民のままなんだから! そんな重圧背負わせようとしないでっ‼︎)
「……普段使いの安物ですよ」
フィリップは愛想笑いを浮かべながらそう答えたが、その言葉を信じる者はリアーヌも含めてこの部屋の中には一人も存在しなかった。
「ーー皿の裏側にパラディール家の紋章なんていいんじゃない?」
リアーヌよりも正しくこのお茶会の食器の価値を理解していたビアンカは、リアーヌを気の毒に思い、もしかしたらそのまま使い続けられるかも……? という可能性が残る方法を提案した。
「なるほど! それは面白いな」
ビアンカの案に思いの外乗り気になったフィリップの様子に、リアーヌは(こんなに乗り気ならコピーしても大丈夫なのかも……?)と少しだけ心を軽くして、とても高そうな皿を受け取ったのだった。
(落ち着いてリアーヌ、大丈夫よ。 貴族の紋章コピーするのなんか初めてじゃないでしょ。 いつも通り、しっかり見て、寸分の狂いなくコピーするだけーー失敗したらすぐに白をコピーしてやり直せばいいの! 大丈夫! きっとバレないっ‼︎)
そう自分に言い聞かせながら、リアーヌは皿の裏側に手をかざし、フィリップから借りた紋章の入ったハンカチをジッと見つめた。
(あ……これ紋章、黒じゃなくてお皿の色に合わせたほうが素敵かも……?)
そう考えたリアーヌは、テーブルの上に乗る同じデザインのカップやソーサーに視線を移した。
白く薄い繊細な食器たちは、紺と金のラインだけという、シンプルながらも非常に高級感を感じるデザインになっている。
(あのデザインなら紋章は紺……いや金の方が見栄えしそうだし……白地に金は見にくいから多少の粗を隠してくれそう……ーー金だな。 金にしよう!)
そう決めると、リアーヌは目をつぶりながら一つ深呼吸をして、皿に手をかざした。
そして数秒もかからずに、見事なパラディール家の紋章をコピーして見せたのだった。
「これは……」
「なんと素晴らしい……」
リアーヌの能力とその出来栄えにフィリップたちはジッとコピーされたばかりの紋章を見つめながら簡単の声を上げる。
(ーーよかったぁ……こんな高そうなお茶セット、私のせいでダメにしたらどうしようかと……)
大きく安堵したリアーヌは、ようやく自分に向けられた賞賛の声に気が付き、恥ずかしそうにへにゃり……と笑顔を浮かべ、少しだけ鼻を高くしたのだったーー
カップを片手にニコリと笑ったフィリップが、リアーヌに向かって声をかける。
ある程度の事情を察しているビアンカは(……ーーこの様子だとパラディール家は本気でリアーヌを狙ってるのねぇ……)と思いながら、興味深そうにことの成り行きを見守った。
「いえ、わりとなんでもいけますよー。 木と陶器は経験があります」
「陶器にも!」
リアーヌの答えに、氷の花を器に移していたラルフが驚愕の声を上げた。
そんなラルフにリアーヌは少しだけ鼻を高くしながら肯定するようにニコリと笑って、胸を張って大きく頷いた。
「ーーでは……例えばこれに何かを写しとることは可能ですか?」
フィリップは菓子を取り分けるように置かれていた皿の一枚を手に取りながらたずねた。
しかし、その皿を見た途端リアーヌの顔からは笑顔が消え、ヒクリと頬が引き攣り始めた。
「……それですか……?」
「……なにか不都合でも……?」
なぜあんなにも自信満々だったリアーヌが、急にこんな態度をとるのか理解に苦しんだフィリップは、少し瞳を揺らしながらリアーヌと自分が持っている皿を交互に見比べた。
「ーーそのお皿……高いですよね……?」
(見るからに高級品だし、それ単なるお皿の一枚じゃなくて、お茶会セットの中の一枚だから数が足らなくなったらセット全て使えなくなるってやつでしょ⁉︎ やめてよ、私感覚的にはド庶民のままなんだから! そんな重圧背負わせようとしないでっ‼︎)
「……普段使いの安物ですよ」
フィリップは愛想笑いを浮かべながらそう答えたが、その言葉を信じる者はリアーヌも含めてこの部屋の中には一人も存在しなかった。
「ーー皿の裏側にパラディール家の紋章なんていいんじゃない?」
リアーヌよりも正しくこのお茶会の食器の価値を理解していたビアンカは、リアーヌを気の毒に思い、もしかしたらそのまま使い続けられるかも……? という可能性が残る方法を提案した。
「なるほど! それは面白いな」
ビアンカの案に思いの外乗り気になったフィリップの様子に、リアーヌは(こんなに乗り気ならコピーしても大丈夫なのかも……?)と少しだけ心を軽くして、とても高そうな皿を受け取ったのだった。
(落ち着いてリアーヌ、大丈夫よ。 貴族の紋章コピーするのなんか初めてじゃないでしょ。 いつも通り、しっかり見て、寸分の狂いなくコピーするだけーー失敗したらすぐに白をコピーしてやり直せばいいの! 大丈夫! きっとバレないっ‼︎)
そう自分に言い聞かせながら、リアーヌは皿の裏側に手をかざし、フィリップから借りた紋章の入ったハンカチをジッと見つめた。
(あ……これ紋章、黒じゃなくてお皿の色に合わせたほうが素敵かも……?)
そう考えたリアーヌは、テーブルの上に乗る同じデザインのカップやソーサーに視線を移した。
白く薄い繊細な食器たちは、紺と金のラインだけという、シンプルながらも非常に高級感を感じるデザインになっている。
(あのデザインなら紋章は紺……いや金の方が見栄えしそうだし……白地に金は見にくいから多少の粗を隠してくれそう……ーー金だな。 金にしよう!)
そう決めると、リアーヌは目をつぶりながら一つ深呼吸をして、皿に手をかざした。
そして数秒もかからずに、見事なパラディール家の紋章をコピーして見せたのだった。
「これは……」
「なんと素晴らしい……」
リアーヌの能力とその出来栄えにフィリップたちはジッとコピーされたばかりの紋章を見つめながら簡単の声を上げる。
(ーーよかったぁ……こんな高そうなお茶セット、私のせいでダメにしたらどうしようかと……)
大きく安堵したリアーヌは、ようやく自分に向けられた賞賛の声に気が付き、恥ずかしそうにへにゃり……と笑顔を浮かべ、少しだけ鼻を高くしたのだったーー
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