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「あの程度の金でボスハウト家に恩を売るか……」
「……あの程度……」
受け取った皮袋の重みを思い返しながらラルフが思わず声を漏らす。
これはフィリップが公爵家の嫡男であるからこそ言える言葉であり、たとえ貴族であったとしても、あの金貨がみっちり詰まった皮袋を“あの程度”と言える者のほうが少数派であった。
「今のボスハウト家にとってはそこそこの額なのでは……?」
パトリックが(少なくとも我が家にとっては“あの程度”とは言えない額ですね……)と考えながら言う。
「あの子爵夫妻がどう感じるかは知らないが、あの家は不祥事続きで降爵処分を受けているだけで、財産やその特権までは剥奪されていないんだ。 もちろん降爵の際に領土だけは没収扱いになっているがな」
「つまり……?」
ゴクリ……と唾を飲み込みながらパトリックがたずねる。
「国からの補助金だけで言うならば、我が家よりも手厚く支払われていると、もっぱらの噂だな」
フィリップは面白くなさそうに肩をすくめながら答えた。
この噂が流れているのはごくごく限られた国の上層部の一部であり、そのような人物たちの“噂話”は噂という体の情報交換ーーつまりは単なる事実でしかなかった。
「それは……」
フィリップの言葉に目を見張りイザークやラルフたちと視線を交わし合うパトリック。
「ーーこのまま行けば公爵への返り咲きも夢じゃないほどには、上手くやっておられるな……」
「そんなにですか?」
「ああ。 あの家にとって害悪にしかならない側近や分家はことごとく潰され、逆に今まで耐え忍んででも忠義を尽くしていた家々を引き立てているーー王家ですらボスハウト家が巻き込まれることを嫌って手出しをこまねいていたものを、当時は一使用人一さに過ぎなかった子爵夫妻が、いともあっさりと成し遂げたんだぞ? その実力を疑う者はいないーー……どうにも社交は苦手なご様子だが、あそこは使用人にも恵まれているからな……いや、使用人が優秀だったからこそ、降爵処分程度で済んでいたんだろうな……ーー身体に巣食う毒虫なき今、飛び立つつもりならばどこまででも飛び上がれるのだろうが……」
「ーーなにかご懸念が?」
不自然に言葉を切り、窓の外に視線を流したフィリップにパトリックが声をかけた。
「ーーリアーヌ嬢はご存じではないのだろうな?」
「あっ……」
フィリップが呆れたように笑いながら言った言葉に、パトリックたちは同意してもいいものか迷うような素振りで困ったように笑い合う。
本来であれば絶対に信じられないありえない話であったが、今まで見てきたリアーヌには、それを信じさせるだけの説得力があったのだ。
「……あの程度……」
受け取った皮袋の重みを思い返しながらラルフが思わず声を漏らす。
これはフィリップが公爵家の嫡男であるからこそ言える言葉であり、たとえ貴族であったとしても、あの金貨がみっちり詰まった皮袋を“あの程度”と言える者のほうが少数派であった。
「今のボスハウト家にとってはそこそこの額なのでは……?」
パトリックが(少なくとも我が家にとっては“あの程度”とは言えない額ですね……)と考えながら言う。
「あの子爵夫妻がどう感じるかは知らないが、あの家は不祥事続きで降爵処分を受けているだけで、財産やその特権までは剥奪されていないんだ。 もちろん降爵の際に領土だけは没収扱いになっているがな」
「つまり……?」
ゴクリ……と唾を飲み込みながらパトリックがたずねる。
「国からの補助金だけで言うならば、我が家よりも手厚く支払われていると、もっぱらの噂だな」
フィリップは面白くなさそうに肩をすくめながら答えた。
この噂が流れているのはごくごく限られた国の上層部の一部であり、そのような人物たちの“噂話”は噂という体の情報交換ーーつまりは単なる事実でしかなかった。
「それは……」
フィリップの言葉に目を見張りイザークやラルフたちと視線を交わし合うパトリック。
「ーーこのまま行けば公爵への返り咲きも夢じゃないほどには、上手くやっておられるな……」
「そんなにですか?」
「ああ。 あの家にとって害悪にしかならない側近や分家はことごとく潰され、逆に今まで耐え忍んででも忠義を尽くしていた家々を引き立てているーー王家ですらボスハウト家が巻き込まれることを嫌って手出しをこまねいていたものを、当時は一使用人一さに過ぎなかった子爵夫妻が、いともあっさりと成し遂げたんだぞ? その実力を疑う者はいないーー……どうにも社交は苦手なご様子だが、あそこは使用人にも恵まれているからな……いや、使用人が優秀だったからこそ、降爵処分程度で済んでいたんだろうな……ーー身体に巣食う毒虫なき今、飛び立つつもりならばどこまででも飛び上がれるのだろうが……」
「ーーなにかご懸念が?」
不自然に言葉を切り、窓の外に視線を流したフィリップにパトリックが声をかけた。
「ーーリアーヌ嬢はご存じではないのだろうな?」
「あっ……」
フィリップが呆れたように笑いながら言った言葉に、パトリックたちは同意してもいいものか迷うような素振りで困ったように笑い合う。
本来であれば絶対に信じられないありえない話であったが、今まで見てきたリアーヌには、それを信じさせるだけの説得力があったのだ。
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