成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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「ーーじゃあさ? 例えば他の真珠はどう? これとか……色は白いし形もーー端っこ踏まれてつぶられちゃいましたーみたいなのとか、この……石ころみたいな歪なやつとか……」
「これはーー」

 そう言いながらゼクスの指差す真珠を見ていると、再びリアーヌの頭の中に個性的なアクセサリーへと姿を変えたバロック真珠たちの映像が思い浮かぶ。

「この踏まれちゃってるみたいなのは、同じような形のを見つけてーーこれでイヤリングとかでも素敵ですし、セットでペンダントトップにもなりますし……こっちのはこれだけ大きいんですから、ペンダントでも、これを真ん中に置いて他のバロックと合わせてネックレスにしてもーーああ、これに他の宝石も合わせてブローチとかも素敵ですね?」
「ーーなるほどねぇ……」

 リアーヌの意見に、ゼクスはニヤリと頬を引き上げる。

 リアーヌほど明確にではないが、ゼクスにもこのバロック真珠が個性的なアクセサリーへと変身するビジョンが思い浮かんだようだった。

(ーー“他には誰も持っていないアクセサリー”というものを好む連中は意外に多い……それこそ貴族の中にもいるーーそう言った連中に受け入れられれば、大きくはなくても多少の流行りにはなりそうだな……?)

「……なぁ嬢ちゃん」

 リアーヌの出す案をジッと聞いていたテオがどこか期待するような眼差しでリアーヌに話しかけた。

「はい?」
「例えば嬢ちゃんが店員で俺が客だ」
「……はい?」
「かみさんになんか買ってってやるかなぁー? おっ真珠! ……でもバロックかぁ……ーーってなってる客に真珠を買わせようと思ったらなんて声かける?」

(迷ってる客に品物を買わせようってなら、そりゃあ……)

「旦那! お安くしときますぜっ! ……ですかね?」
「ーーうん。 それ多分安くならないタイプの声掛けだね……?」

 隣に座っていたゼクスが吹き出しながらリアーヌに話しかける。
 
「うちの母さんは、そこをいかに値引かせられるかが主婦の腕の見せ所だって言ってました!」
「そんな強者、主婦にしといちゃダメだろ……」
「ーーまぁ今はバリバリ働いてますけど……?」
「ーーそうだったね……?」

 そうリアーヌに返したゼクスの耳に手斧わざとらしい咳払いが聞こえる。
 そこでようやく話が脱線してしまっていることに気が付き、ゼクスはテオに申し訳なさそうに目配せするとリアーヌ向かって話しかけた。

「それでその後は?」
「あと?」
「流石に「安くしますよ!」「安いなら買います!」とはならないだろ?」
「……確かに? えーと……じゃあ、立ち止まってもらったら……「どうですこの真珠、形に難はあっても、この輝きは本物ですよ」……とかですかね?」

 リアーヌの言葉にテオが面白そうにゼクスに視線を流し、ゼクスは自慢するかのようにニヤリと頬を吊り上げた。

 ごくごく短時間ではあったが、テオにはリアーヌの商才が充分に理解出来たようだった。
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