【完結】成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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「でもまだ海にくっついてもいないのに……」

 背後がからかけられた声に、リアーヌは不満そうに眉を寄せ、ねだるようにアンナを見つめた。
 困ったような表情を一瞬だけ浮かべたアンナだったが、すぐさま顔を取り繕うと毅然とした態度で「なりません」と言い放った。
 少しだけ心が揺らいでしまったのは、行きの道中で自分が歩き切れていればもっとこの景色を堪能出来ただろうに……と思ってしまったからなのかもしれない。

「ーーでも夕陽が沈みきっちゃったら、この辺真っ暗になっちゃうよ? 護衛がいても真っ暗な森を歩くのはちょっと怖くない⁇ この辺は街頭も無いし……そもそも足元が悪すぎるし」

 ゼクスがアンナの意見を後押しするように言った。
 満足のいくまで夕日を堪能させてあげたいという気持ちもあったのだが、これで帰りにリアーヌになにかあれば、その責任を追求されるのは自分だろう、という自覚もあったためだ。
 
「海に夕日が沈んでいくの見たかったなぁ……」

 唇を尖らせながら名残惜しそうに呟くリアーヌに苦笑を浮かべたゼクスは、その耳元に顔を寄せ、内緒話をするかのように声をひそめてささやいた。

「ここまでの景色じゃなかったけど、ここにくるまでに海は見えたでしょ?」

 その言葉にハッとして、ゼクスの顔を見つめ返すリアーヌ。

「ーー見えますかね?」
「多少見づらいかもだけど見えるでしょ、だって同じ海なんだし」
「……確かに!」

 そう答え、満面の笑みを浮かべたリアーヌの手をゼクスが取り、下山を促す。
 リアーヌは一度だけ海を振り返り、その美しい光景をーー見渡す限りの海がオレンジ色に染まり、夕日の真下の海にはその光によって作られた道が伸びていてーーその奥、ここから更に遠くの海には、ゆったりと海を進む船の姿がちらほらと見受けられた。

(夕日で照らされて黒く見える船がまたノルタルジックなのよー! ……本音を言うならこのロケーションで最後まで見たいけど……ーー真っ暗な森が怖いことぐらい分かってるし、護衛の人たちにも迷惑かけちゃうからなぁ……)

 リアーヌは名残惜しそうに大きく息を吸い込んだが、それを吐き出しつつ肩をすくめるとゼクスに向き直り、村へと戻るために足を進め始めるのだったーー

 そして帰りの道中、木々の隙間見える海に、沈んでいく夕日を見つけては嬉しそうに顔を輝かせながら、ゼクスに手を引かれながら、この村での滞在場所である全代官の屋敷へとたどり着いたのだった。

 ゼクスたちが予想していた以上に、リアーヌは海に沈む夕日を堪能しながら歩いたため、村にたどり着いた頃にはすっかり日が傾いてしまっていたが、ご満悦で夕陽の美しさを喜ぶリアーヌの様子に、誰もが苦笑を浮かべ、遅くなったことに対する不満は無いようだった。
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