成り上がり令嬢暴走日記！

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「だってさ？　どうする⁇」

　料理番の男よりもリアーヌの食に対する執着をよく知っているゼクスは、ニコリと笑いかけながらうつむくリアーヌの顔を覗き込見ながら楽しそうにたずねた。

「……宿でとか？」

　自分の同席を望んでいるであろうゼクスに向かい、ダメだろうな……と思いながらも、ヘラリ……と笑いながら提案するリアーヌ。

「今から大切な話し合いだし、人手も足りてないからなぁー？　それはちょっと無理かもなー⁇」

　案の定、わざとらしくため息をついたゼクスは、眉を下げながら残念だ……とまるで舞台役者のように大袈裟な態度で答える。

（ですよねー……ーーもしかして、また無理難題ふっかけられるのかなぁ……？　ーーっていうか、私がここに同席するのって本当に問題ないの⁇）

　そう考えたリアーヌは、少しの期待を抱きながら後ろに控えるアンナをチラリと振り返った。
　これが貴族的にアウトな行動であれば、アンナがちゃんと止めてくれると信じていたためだったのだがーー
　振り返ったアンナは両手を体の前で重ね合わせ、顎を引いて目を伏せてそこにたたずんでいるだけだった。

（……無反応ってことは問題ないってこと……？　え、わりと問題じゃない？　だって私ボスハウトの人間だよ⁇　絶対ダメな気がするんだけど……。　……ーー社交とかもちょこっとだけ頑張って、ちょっとは貴族の常識とか分かるようになってきた！　とか思っちゃってだけど……そんなのはただの幻でした……）

　ーーしかし、このリアーヌの認識は実は正いものだった。
　貴族の常識で考えるのであれば、婚約者であろうとも、このような場所に同席を許すゼクスのほうがありえない行為だったのだ。
　けれどそれがマナー違反や失礼な行為にあたるのか？　と問われれば、答えは否だったのである。

　だからこそアンナは思わず口を出してしまいそうになる自分を抑えつけるために、その手に手を重ねグッと押さえつけ、ギリリ……ッと奥歯を噛み締めた。
　そしてゼクスを睨みつけそうになるのを堪えるように床を見つめ続けていたのだった。



　ゼクスの隣に席を用意してもらったリアーヌは、その席で少し身を固くしながら話し合いが始まるのを待っていた。
　しかし、話し合いのために集まっていた村の代表者たちと向かい合わせるような形で席が配置されていたため、村人たちからの容赦のない不躾な視線に晒されて少々へきへきしていた。

　その胡散臭げでなんとも居心地の悪い視線に晒されながら、リアーヌただひたすらに時が過ぎるのを待っていた。
　そして、クレープが一刻でも早く自分の手元にやってくることだけを願い続けるのだったーー