成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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 フォークを手にしていたリアーヌだったが、目の前に置かれたケーキには食べた形跡が無く綺麗に盛り付けられていた。

「ーーせめて口をつけてから言いなさいな……」
「はぁーい」

 普段ならば大きな声を出したことをたしなめるであろう場面だったが、ビアンカとしても目の前の恋人たちに思うところがあるのか、その辺りは全て黙認し、肩をすくめぼやくように言っただけだった。
 そしてそんな会話が聞こえているであろうゼクスやパトリックたちも、少し遠い目をしながら無言でケーキを食べ続けていた。

 ーー当然のことながら恋人たちはお互いしか見えていなかった。

「……あ、美味しい」
「ーーオレンジの香りも高いわよね? 有名なだけあるわ」
「そもそもこのチョコレートケーキが絶品じゃない⁉︎ こんな美味しいの初めて食べたんですけどー」

(生チョコなのか⁉︎ ってぐらいねっとり濃厚なのに、全然くどくない……ーーどうしようホールでいただけてしまう……)

 幸せそうにケーキを食べるリアーヌにゼクスどころかパトリックたちまでクスリ……笑顔を浮かべながら、チョコレートケーキに舌つづみを打った。

 そんな会話の最中も、見つめ合いながら二人の世界に入り浸るフィリップたちに、口にも表情にも出さずに辟易していたのかもしれない。



「ぁ……フィリップ様、わたくし……」

 完全に二人を切り離して会話を楽しんでいたリアーヌやビアンカたちの耳に、おずおずと迷うようなレジアンナの声が聞こえた。
 どうしたのかと、そちらに視線を移すと、モジモジと指を動かしながらチラチラとリアーヌをうかがっているレジアンナの姿があった。

(ーーえ? 私⁇)

「リアーヌ嬢、入学当時はレジアンナのの被害に遭ったらしいね?」

 モジモジとなかなか言葉を発しないレジアンナに変わり、苦笑を浮かべながらもその髪に指を絡ませたフィリップが代わりにリアーヌへと話しかけた。

「いたずら……? ーーああ」

(……あれは“いたずら”なんですかねぇ……? “いじめ”“いやがらせ”……ーー頭文字しか合ってないんですけどー⁇)

「……レジアンナもその時のことを、やり過ぎてしまったと気にしていてね? ーーよければ水に流してあげてくれないかな⁇」

 フィリップの言葉にゼクスの指先がピクリと反応した。
 その言葉は、裏を読み取るならば、上位者からの強制的な要望とも取れる発言だったからだ。

(ーーあくまでも公爵家と子爵家だって言いたいのかねぇ……? この間は遠い親戚だとか抜かしてやがったくせに……)
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