成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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「――ぜひ一曲」
「本当⁉︎ 嬉しいっ!」

 様々なことを含みまくったレオンの言葉を素直に受け取り、嬉しそうな笑顔で答えるユリア。
 ――ユリア以外の者たちはレオンの言葉の本音に気がついていたので、その反応に冷ややかな視線を向けていたのだが――

「ユリアそろそろ……」

 上機嫌なユリアの背後から、親友であるベッティな控えめに声をかけると、ユリアはその美しい顔を盛大にしかめて見せた。

「えー……もう?」
「授業に遅れちゃうよ……」
「――仕方ないかぁ……じゃあ、またねレオン!」
「……ああ、また今度」

 ピラピラと手を振りながら立ち去ろうとしているユリアに、手を挙げてにこやかに答えるレオン。

「あっ夏休み暇だったら声かけてねー!」

 立ち去りながら大声を張り上げたユリアに、レオンはなんの反応も示さず、ただただ微笑み続けるだけだった――
 しかし見るものが見れば、下げ続けていたほうの手が尋常ではない力で握りしめられていたことを発見し、その心中を察したであろう。

(……あの子から見て上級生に当たる二年の教室に突撃かましただけでもわりと顰蹙ひんしゅくものだっていうのに、ここにやってきた側のレオンたちの時間を勝手に使いまくった挙句、大した挨拶もせずにご退場……――しかもこの教室の誰にも声かけずに戻ったってことは、確実にレオンに突撃かましたってことでしょ……? え、ユリアさんってば、レオンがなんの意味もなく婚約者同伴でここにお散歩しにきたとでも思ってるのかな……? ――レオンのほうは予定ぶち壊されてかなりお怒りのようだけど……?)

 今の学園はーー特に貴族階級の者たちが多く通う教養学科では、ほんの少しの休み時間も利用して、もうすぐ始まる夏休暇での予定を擦り合わせる作業に多くの生徒たちが力を注いでいる。
 出席や欠席などの大きな決定はすでに済んではいたが、同じ会に出席する友人たちと原の探り合いをしながら自分の人脈を開拓する作業に忙しいのだ。
 ――つまりは、繋がりを持ちたい人脈を持っている友人知人たちと、

「その人を紹介してくれるなら、こちらの人物を紹介しよう」
「その会にぜひ同行させてもらえないだろうか?」
「まぁ貴女も参加なさるのね! あらお兄様も? ご出席なさるの……? ――ぜひご挨拶したいわぁ!」

 などと会話を交わし合いながら、少しでも多くの友人知人を得ようとしている真っ最中なのだ。
 ――特にレオンに限っていうならば、フィリップやパラディールの影に隠れながら自分の支持者を一人でも多く獲得しなくてはならない、最も重要な期間だったのだ。
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