成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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 「ああ……お嬢様、そんなに怯えられてお可哀想に……」
「ぅえ……⁉︎ ーーえっと、はい……?」

 これまでにたくさんの知識を身につけていたリアーヌは、長いものには巻かれるということを覚えていた。

(ーーヴァルムさんには逆らわ無いって決めてるから……! ゼクス、ごめんよ!)

「いや、今のは絶対ヴァルムさんに対してだと思いますけど……?」

 じっとりとした目をヴァルムに向けながら、ゼクスは責めるように言う。

「ーーささっお嬢様、お早くこちらに……男爵様はどうぞお帰りを。 お身体ご自愛下さいませ」

 ヴァルムはおざなりにそう言いながら、丁寧な手つきでリアーヌを馬車から下ろした。

「待ってください、せめて玄関まではーー」

 そう言いながら、リアーヌに続いて馬車を降りようとしたゼクスの鼻先で馬車のドアがバタンッ! と少々乱暴な音を立てて閉められる。

「ちょ⁉︎」

 中からゼクスの抗議の声が聞こえるが、ヴァルムは構わず御者をギロリと睨みつけ、半ば強制的に馬車を出発させた。
 ーー通常こういった場合、御者はゼクスからの合図でしか出発させないものなのだが……ーーこの御者も今まで生きてきた知識を生かし、ヴァルムに従うことを選んだようだった。
 心の中で(すいません若……ーー決してボスハウト家の不興は買うなって言われてるもんで……)と、言い訳を呟きながらーー



「……良かったんですか?」

 走り去る馬車を眺めながらリアーヌはヴァルムにたずねる。

(ーーゼクス、結構本気で父さんの話聞こうとしてたけど……?)

「ーーなんの問題もございません。 あれはただの……害虫にございます」
「おぅ……」

 ニコリと微笑まれながら吐かれた毒に、リアーヌは頬を引きつらせながら曖昧に頷いた。

「ーーアンナ、お嬢様の湯浴みを手伝いなさい。 ーー早急に清めて差し上げなさい」

 戻ったヴァルムが開口一番そう言ったことで、使用人たちは大体のところの察しが付いたようだった。

「あー……」

 オリバーが苦笑を浮かべながら小さく肩をすくめるが、その瞬間隣に立っていたアンナから怒りを向けられていた。

「「あー」じゃないでしょう⁉︎ これは由々しきことよ⁉︎ ラッフィナートに厳重な抗議をしておいて!」

 プリプリと怒りながらアンナはリアーヌの肩に薄手のカーディガンをかけると、ソッとその背中を押して浴場にリアーヌを促す。
 しかし、その言葉にリアーヌは足を止める。

「あ、の……抗議とかは大丈夫です!」

(大体、なんて抗議する気なの⁉︎ 「そちらの息子さん、馬車の中でうちのお嬢様に不埒な真似をーー」って⁉︎ やめてよ⁉︎ 私が気まずすぎるんですけどっ⁉︎)
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