成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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「お嬢様、ご無事でございますか?」
「おケガなどはございませんか?」
「カチヤさん、コリアンナさん……」

 心強い声にホッとしながらその名前を呼ぶリアーヌ。

「ーーなんですか貴女たち、私はこの人に話があるんです。 邪魔しないで!」

 ユリアはキッと二人を睨みつけながら言うが、カチヤたちはその顔に貼り付けた笑みを深くしながら、ユリアに話しかける。

「恐れながら……フォルステル伯爵令嬢、ユリア様とお見受けいたします」
「ーー本日はどのような御用向きでございましょうか? ……お約束は無かったように思われますが……?」

 にこやかに紡がれた言葉にユリアはグッと押し黙る。
 貴族社会に疎い自覚のあるユリアは、その辺りのマナーを指摘されるのが苦手だった。

「ーー……もしかして間違われてしまいました?」
「ーーああ……ーーここの所、毎日のようにいらっしゃってますものね? けれどここは専門学科の教室ではございませんよ?」

 カチヤたちがユリアが毎日のように教養学科ーーレオンの元へ突撃していることを揶揄すると、それを聞いていたクラスメイトやそのお付きたちから、あからさまな失笑が漏れる。
 そんな周囲の反応に顔をしかめつつ、ユリアはカチヤたちを睨みつけた。

「ーーどう言う意味よ?」
「あら……私たちの言葉に意味など……」
「ええ……ーー所詮はメイドですので……ーーけれど……ユリア様はやっぱり独創的でいらっしゃいますのね?」
「……独創的?」

 先ほどバカにされた自覚のあるユリアは、少し身構えながらもカチヤに尋ね返す。

「ええ、とてもお珍しいことですもの! ーー伯爵家の養子にまでなる優秀なお方が専門学科にご入学なさるだなんて!」
「さすがは特別なギフトを持つお方ですわ! 考えることが斬新でいらっしゃる!」

 カチヤに合わせるようにコリアンナも楽しげに言葉をかける。

 そしてやはり聞こえてきた周囲からのクスクスとした笑い声にユリアはその瞳をギリギリと釣り上げるのだった。

(――え、なにこの胃に穴が空きそうな会話……ーーまだ教科書叩きつけられてた時のほうが気楽でしたよ……? 大体こう言う時ってカチヤさんたちは勝手に出てきちゃダメなんじゃ……ーーあの教科書叩きつけ事件を“攻撃”だと捉えれば、許される……のか?)

 ーーこの学園では生徒の能力向上を目的として、使用人が過度に主人を助けることを禁じている。
 授業中の補助は全面的に禁止で、それ以外の場面でも、主人のほうから声をかけられるまで手を貸してはいけないーーというルールも存在した。
 例外は主人が危険に晒された場合のみだ。
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