成り上がり令嬢暴走日記！

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　あの騒動で、みんなこの場から離れたかったのか、騒動に近づくことをやめたのか、列はここに到着した時よりも短くなっていた。
　その列に並びながら、ゼクスはそっとリアーヌの耳に顔を寄せて囁いた。

「ーーリアーヌは俺と幸せになることだけ考えて鐘を鳴らしてくれなきゃイヤだよ……？」
「ひぁ……ひゃ、は、はひ……！　分かり……」

　身体を硬直させながらもコクコクと首を縦に振るリアーヌ。

（人前ですが⁉︎　そして顔が近すぎるっ⁉︎）

　それからもゼクスはちょくちょくリアーヌをからかいながら列に並び、共に鐘を鳴らし、鍵をかけた。
　ーーリアーヌも顔を赤く染め、時たま奇声を発しながらも、どうにか取り繕ってはいたものの、緊張や恥ずかしさで、ほとんどの記憶を失っていたようだったが、その表情は終始、幸せそうにほころんでいたのだったーー



　恋人たちの丘を後にしたリアーヌたちは、散歩がてら湖沿いをゆったりと歩きながら他愛のない話を楽しんでいた。

「次はどこに行こっか？」
「……もう一回くらい紅葉エリアに行ってもいいような気も……？」

　リアーヌは視線を逸らしながら、何気なさを装ってそう答えるがーーゼクスはその答えに、ニヤリと笑いながらリアーヌの顔を覗き込んだ。

「さっき行った時は、あそこのカフェに寄れなかったもんねー？」
「ーー違いますし。　もう一回紅葉を見ても良いかな？　とか思ってるだけですし……」

　そう答えたリアーヌだったが、その目は大きく左右に揺れていて、それが真実では無いことを物語っていた。

「あははっ　リアーヌって本当にウソつけないよね？」

　ゼクスは困ったように笑いながらも、どこか嬉しそうにリアーヌをからかう。

「ーーつけますし！　最近は表情を隠すのも出来るようになってきたって評判ですし！」

　ーーこれは確かに事実ではあった。
　あったのだがーーその枕詞まくらことばとして“最初と比べれば”と付くのが常だった。
　そしてゼクスはそれを知っていたが、声には出さずに「ふーん？」と意味ありげに頷くだけにとどめた。
　そんなゼクスの態度に、唇を尖らせたリアーヌは不本意そうに口を開く。

「……成長期ですし」
「ーーそれは……うん。　その通りだと思う。　リアーヌは頑張り屋さんだからね」

　ボスハウト家の厳しいレッスン内容や、リアーヌの脅威の吸収率を知っているゼクスは、その言葉に素直に頷きリアーヌを褒めた。
　ーーしかし褒められた本人は、訝しげな表情をゼクスに向けながら口を開く。

「ーー……なんかバカにしてます？」
「純粋に褒めたのに⁉︎」
「……ええー？」
「ええ……？」
　　
　疑わしげなリアーヌがゼクスに疑惑の瞳を向け、そんなリアーヌにゼクスが困惑した表情を返す。
　ーーそしてそのやり取りを数回繰り返したのちーーどちらからともなくクスクスと笑い出し、お互い口元に手を当て歯を隠しながらしばらく笑い合う二人ーー