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25 イヤガラセ
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勿論、ホントに捻り殺したりなんかした日には今度はこちらが犯罪者になってしまうので、私たちはイルザに“イヤガラセ“をすることにした。
「(その為の)素材をとりに行って来る。明日には戻れると思う」
と言うヴイーオを『イヤガラセの為の素材って何だろう?』と思いつつ見送った後、私はテントの中で、イルザの物置で拾った宝石級鉱石(ただし小さい)やヴィーオから渡された火喰い竜のツノに、いくつかの魔法を付与して過ごした。
火喰い竜のツノは希少な為、取り扱うのはこれが初めてだった。
でも、恐る恐る少しずつ魔法を付与してみたところ、鉱石よりも頑丈で、しかもたくさんの魔法が付与出来て、なかなか扱いやすい素材だった。
“気配隠し”
“防音“
“魔法気配遮断”
などなど、隠密系の魔法をこれでもかと付与する。
出来たところで、そこに慎重に穴を開けて皮ヒモを通し、ネックレスに仕立てた。
同じものをもうひとつ作り、“ペア解除設定”を付ける。
これをペアで付けたもの同士には、付与された魔法が効かない設定だ。
宝石級の鉱石にも、ヴィーオから指定された魔法を、強力に念入りに付与する。
そして、使う時までは発動しないように慎重に封印した。
魔法付与の作業が終わり、物置の結界を張っていた鉱石全てをチェックしているところで、ヴィーオが急ぎ足で帰ってきた。
ヴィーオが肩に背負っている“イヤガラセの素材”を見て、思わず「げっ」と言う声を漏らしてしまった。
イヤガラセって、ソウイウコトデスカ・・・?
ヴィーオさん、結構エゲツないのね・・・。
「イルザが、もうかなり近くまで来てる。宝石鉱石は??」
「ここにある」
「よし。じゃぁ、コイツをオレが物置に投げ込んだら、それを直ぐに解除して中に投げ入れて」
了解すると、直ぐにヴィーオが鉄の扉を開けて数歩中に入り、肩に担いでいたオークを、ベッドに投げ捨てた。
その衝撃で、気絶していたらしいオークが呻き声を上げた。
大急ぎで物置からヴィーオが出てきてから、手に持っていた“媚薬”を付与した鉱石の封印を解除してオークに向かって投げ付ける。
そしてすぐに扉を閉め、結界解除の為に掘り出してあった近くの結界魔法石を、また土の中に戻す。
これには元々“外鍵魔法“が付与されているから、これで中からは開けられない。
・・・“媚薬を仕込んだ物置にイルザをひとりで閉じ込めて苦しめる“のかと思ってたのに。いや~、ヴィーオは怒らせたら怖い人なんだな・・・。
と思ったのはさておき。
それから私たちは火喰い竜のツノのネックレスを急いで付けて、近くの大きな木の影に身を潜めた。
それから程なくして、街道の南から、長くて赤い髪が目を引く、ひとりの人間が近づいてくる。
いわゆるボンキュッボンな肉感的ボディに、妙に肌の露出の多い女性冒険者用の服を着込んだ妖艶な女性だった。
あんな女性を抱けたんなら、逆に役得だったんじゃ・・・。
「・・・見ためとか体型とか関係ないから」
と、横で恨めしげな表情をしながらヴィーオがこぼす。
ヤバい、心の声が漏れてたらしい。
「うっ・・・、ごめん」
「・・・そろそろだよ」
イルザが結界魔法石のところに辿り着き、掘り返している。
魔法で気配を完全に消してはいるけれど、それでも慎重に、息を詰めながら、私たちはイルザの背後に近づく。
掘り出した結界鉱石を近くに転がすと、イルザは扉を開けて中を確認しようした。
その背中をヴィーオがすかさず後ろからドンッと押し、扉を閉める。私は直ぐに結界鉱石を埋め戻した。
扉は消えないままそこにあり、中からはイルザの叫び声とオークの低い唸り声、そして何やらドタバタとした音が聞こえてきた。
「結界鉱石の“防音”と“視覚認識阻害”の魔法を解除したの?」
驚いた顔でヴィーオが訊いてきたので、「うん」と答える。
自分がされたことをそのまま仕返ししたい気持ちも分かるけど、実際にそれをやったら、私たち自身もイルザと同じ下劣な人間になってしまうと思ったのだ。
まさかのオークの登場で、結局下劣なことをしちゃったけど・・・。
それに、イルザにされたこと、イルザを捕獲したことを、やっぱりギルドには報告すべきだと思うんだよね。
その為に、ここにイルザが囚われてるって、ギルド員にも直ぐに判る必要があるし。
・・・そう思って、魔法を一部解除出来るようにしておいたのだ。
「分かった。・・・そうだよな。ごめん、オレもちょっと怒り過ぎてて冷静さに欠けてた」
「まぁ、それは仕方ないと思う」
『でもこのままだと、万が一事情を知らない通りがかりの誰かがうっかり扉を開けてしまうことも有りうるよね』
ってコトになり、私たちは念の為、扉にチョークでデカデカと
『キケン! 魔女収監中。扉を開けるな!』
と書いて、保護魔法をかけておいた。
中からは、相変わらず激しい騒音が断続的に聞こえてくる。
作戦を無事に遂行し終えた私たちはホッと顔を見合わせて微笑み合い、そして互いにそっとハグして成功を喜んだ。
∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞
この世界の“オーク“は、人間寄りなイメージ⭐︎
「(その為の)素材をとりに行って来る。明日には戻れると思う」
と言うヴイーオを『イヤガラセの為の素材って何だろう?』と思いつつ見送った後、私はテントの中で、イルザの物置で拾った宝石級鉱石(ただし小さい)やヴィーオから渡された火喰い竜のツノに、いくつかの魔法を付与して過ごした。
火喰い竜のツノは希少な為、取り扱うのはこれが初めてだった。
でも、恐る恐る少しずつ魔法を付与してみたところ、鉱石よりも頑丈で、しかもたくさんの魔法が付与出来て、なかなか扱いやすい素材だった。
“気配隠し”
“防音“
“魔法気配遮断”
などなど、隠密系の魔法をこれでもかと付与する。
出来たところで、そこに慎重に穴を開けて皮ヒモを通し、ネックレスに仕立てた。
同じものをもうひとつ作り、“ペア解除設定”を付ける。
これをペアで付けたもの同士には、付与された魔法が効かない設定だ。
宝石級の鉱石にも、ヴィーオから指定された魔法を、強力に念入りに付与する。
そして、使う時までは発動しないように慎重に封印した。
魔法付与の作業が終わり、物置の結界を張っていた鉱石全てをチェックしているところで、ヴィーオが急ぎ足で帰ってきた。
ヴィーオが肩に背負っている“イヤガラセの素材”を見て、思わず「げっ」と言う声を漏らしてしまった。
イヤガラセって、ソウイウコトデスカ・・・?
ヴィーオさん、結構エゲツないのね・・・。
「イルザが、もうかなり近くまで来てる。宝石鉱石は??」
「ここにある」
「よし。じゃぁ、コイツをオレが物置に投げ込んだら、それを直ぐに解除して中に投げ入れて」
了解すると、直ぐにヴィーオが鉄の扉を開けて数歩中に入り、肩に担いでいたオークを、ベッドに投げ捨てた。
その衝撃で、気絶していたらしいオークが呻き声を上げた。
大急ぎで物置からヴィーオが出てきてから、手に持っていた“媚薬”を付与した鉱石の封印を解除してオークに向かって投げ付ける。
そしてすぐに扉を閉め、結界解除の為に掘り出してあった近くの結界魔法石を、また土の中に戻す。
これには元々“外鍵魔法“が付与されているから、これで中からは開けられない。
・・・“媚薬を仕込んだ物置にイルザをひとりで閉じ込めて苦しめる“のかと思ってたのに。いや~、ヴィーオは怒らせたら怖い人なんだな・・・。
と思ったのはさておき。
それから私たちは火喰い竜のツノのネックレスを急いで付けて、近くの大きな木の影に身を潜めた。
それから程なくして、街道の南から、長くて赤い髪が目を引く、ひとりの人間が近づいてくる。
いわゆるボンキュッボンな肉感的ボディに、妙に肌の露出の多い女性冒険者用の服を着込んだ妖艶な女性だった。
あんな女性を抱けたんなら、逆に役得だったんじゃ・・・。
「・・・見ためとか体型とか関係ないから」
と、横で恨めしげな表情をしながらヴィーオがこぼす。
ヤバい、心の声が漏れてたらしい。
「うっ・・・、ごめん」
「・・・そろそろだよ」
イルザが結界魔法石のところに辿り着き、掘り返している。
魔法で気配を完全に消してはいるけれど、それでも慎重に、息を詰めながら、私たちはイルザの背後に近づく。
掘り出した結界鉱石を近くに転がすと、イルザは扉を開けて中を確認しようした。
その背中をヴィーオがすかさず後ろからドンッと押し、扉を閉める。私は直ぐに結界鉱石を埋め戻した。
扉は消えないままそこにあり、中からはイルザの叫び声とオークの低い唸り声、そして何やらドタバタとした音が聞こえてきた。
「結界鉱石の“防音”と“視覚認識阻害”の魔法を解除したの?」
驚いた顔でヴィーオが訊いてきたので、「うん」と答える。
自分がされたことをそのまま仕返ししたい気持ちも分かるけど、実際にそれをやったら、私たち自身もイルザと同じ下劣な人間になってしまうと思ったのだ。
まさかのオークの登場で、結局下劣なことをしちゃったけど・・・。
それに、イルザにされたこと、イルザを捕獲したことを、やっぱりギルドには報告すべきだと思うんだよね。
その為に、ここにイルザが囚われてるって、ギルド員にも直ぐに判る必要があるし。
・・・そう思って、魔法を一部解除出来るようにしておいたのだ。
「分かった。・・・そうだよな。ごめん、オレもちょっと怒り過ぎてて冷静さに欠けてた」
「まぁ、それは仕方ないと思う」
『でもこのままだと、万が一事情を知らない通りがかりの誰かがうっかり扉を開けてしまうことも有りうるよね』
ってコトになり、私たちは念の為、扉にチョークでデカデカと
『キケン! 魔女収監中。扉を開けるな!』
と書いて、保護魔法をかけておいた。
中からは、相変わらず激しい騒音が断続的に聞こえてくる。
作戦を無事に遂行し終えた私たちはホッと顔を見合わせて微笑み合い、そして互いにそっとハグして成功を喜んだ。
∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞
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