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ワンコ退場。

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会場はカオスだ…。

ワンコは既にピクリとも動かない。椅子に女王の様に腰をかけている、母さんの足下に転がっている。仰向けになっている為、洋服のつんつるてんが丸解りだ。見たくもない腹と肘と脛から下が見えている。母さんが時折足先で弾く。すると腹の辺りが辛うじて上下してるから、死んではいないのが解る。

死ななくて良かったわ。

半ズボンは、子供から大人になったからしかたない。しかしカツラは用意してたのに、何故服は俺の何だよ!大きめの着とけばいいだろ?めちゃムカつくわ!あれ?頭から湯気が出てる?

位牌をぶち壊した時の水が沸騰してお湯になってたのね。でもまだ湯気が出てるの?火傷は大丈夫?ワンコが時折身を捩りながら悶えている。

あー心配は無いや。母さんは、治癒しながら甚振ってる。否、本人は治癒してあげてるつもりなんだな。治るけど痛いと。でも母さんの治癒魔法の練習になるからよいだろう。ある意味地獄だけどだな。まあこれはワンコの自業自得だ。母さんを怒らせるのが悪い。結果よければ全て良しってね。

ん?母さんが動き出した。

・・・・・。

しかし…。

何故そこにそれを乗せる?

やはり最初のは、あの指輪だったんだな。ワンコに無理やり握らされた指輪の箱を、丸出しになってるヘソの上に置く。

ズレたからって置き直すな?グイグイ押し付けるな!グリグリ回すな!見てる方までへそが疼くわ!流石にヘソに小箱は止まらんだろう。動けば転がるしな。

仕方無い。ここはやはり現勇者たる俺が出るべきだろう。しかしどうするべきか?多分魔法では無駄だろうな。母さんの方が上手だ。つまりはやはり物理で行くしかない。

しかし恐い…。 

『行く』の漢字が違う漢字になりそうだ。母さん頼む正気に戻ってくれ。

俺はアサリの味噌汁を飲むまでは死にたくはない。

再度神様に会いに『逝く』のは嫌だ。

俺は勇気を出して母さんに近付く。

「母さん。取り敢えずそのワンコを乾かして良い?無駄毛はないけど、青年ワンコの半ズボンって誰得よ。可愛くもないし、正直俺は見たくない。母さんも見たくないでしょ?」

母さんが頷いたので、風の魔法でワンコを乾かす。ん?中々小さくならないな。そう言えば…。テーブルの真ん中のお湯を被る前に、ワンコは大きくならなかったか?何故だ?しかもワンコは母さんを、私の勇者だと言った。

まさか…。

めちゃ嫌な予感がする。

このヤロウ!縮まりやがれ!温風を徐々に熱くする。うーん何故だ?何故縮まらんのだ!

「勇者様!乾かせば良いのでしたらこちらで!」

宰相がワンコに銀色の毛布の様な物をかけかけた。カッと毛布らしき布が発光する。

「アチチッ!アチッ!アチチチチィー。」

ワンコが飛び上がり、アチ!アチ!アチチ!と踊り出した。否、熱くて暴れてるだけだな。

「なっ!何なんだこれは!」

「見て解りませんか?こちらは極寒地での訓練に使用する、温度調整毛布です。毛布として肌にかける際は、もっと低温で使用します。しかし室内に広げ、室内暖房としても使えます。かなり高温にもなりますし、乾燥機代わりにもなり便利な魔道具です。」

宰相さん。素晴らしき魔道具の説明を有り難うございます。まるでテレビショッピングの説明の様だ。

「煩い!そんなのは知っとるわ!何故私に使うのだ!」

「「必要だから。」」

・・・・・。

・・・・・。

「ハモったね。」

「被りましたね。」

「「だが何故か縮まない。」」

宰相さんと2人で顔を見合わせ唸る。

「幸恵は私の勇者なのだ!だから愛有るキスで元に戻ったのだ!私を愛してくれてるのだろう?だから呪いは解除されたのだ!縮まないのがその証拠であろう。さあその麗しい笑顔は私だけのものだ。是非妃の指輪をはめてくれ。もうキスだけでは足らん!」

・・・・・。

ワンコ止めろ。頼む喋るな。貴様には母さんの笑顔が麗しく見えるのか?ならお前の目は腐ってるとしか言えん。麗しくないわ!どす黒いオーラを感じろよ!確かに笑ってるよ!でも目は笑ってないだろ?あれは呆れ過ぎて笑ってるんだ。怒りマックス何だよ!

「宰相!客間を借りるぞ!誰も通すな!私達は籠る。蜜月だ!」

勝手に盛り上がるワンコ。周囲の呆れ顔を見ろよ。しかしコイツが国王は不味くね?これで帝王学を学んでるの?居なくなって困る程、優秀だったの?

何て余計な事を考えてたら不味い!

ワンコが母さんに向かって走り出し、いきなりのお姫様抱っこだー!

何だ?母さんが何かの呪文を唱えてる。何の呪文だよ!無理だ!もう解除出来ない。取り敢えずバリアーだ!

「皆急いで壁に背をつけて!ドーナツ結界発動!攻撃を弾け!」

母さんとワンコをドーナツの真ん中にし、俺はドーナツの身の部分(結界内)を走る。皆は結界の壁2枚に遮られるから安心だ。

「ワンコ!母さんを離せ!」

「嫌だ!」

ならば実力行使だ!俺は結界を越え、ワンコに体当たりした。

くそっ!ぐらつきもしねぇ。脚の脛をゲシゲシと蹴りつける。母さんがワンコの腕に噛みついた!ワンコの腕が弛む。

「母さん!結界に入って!何か魔法を唱えたでしょ!己は大丈夫なの?」

ドサリ。ドスンッ!

何故かワンコが母さんを落とした。母さんが素早く結界内に入った。

「大丈夫くない!祐太郎も結界に入って!ついでに、ワンコの上だけ蓋してくれる?」

オーケー。さてさて何が起こるのかなー?ん?何だ?中が曇ってきた?結界に水滴?ほほぅ。

「母さんもやるのう。水も滴る色男ですな?」

ワンコは頭だけ出して、水の中に浮いている。

「そうよ。お湯に滴る必要は無いわ。一生水に滴ってなさいな。」

「でもワンコ大きいままだよ?」

「良く見なさいよ。」

あー!ワンコ縮んでるー。何時の間に?

「私を落とした時よ。縮んだから支えきれなくなったんでしょ?女性を落とすなんて最低よ!ワンコは我が家に出入り禁止!愛してる?何を勘違いしてるの?私達に愛を育む時間なんて無かったわよね?女なら誰でも己に惚れると思うな!」

水にプカプカ浮きながら、項垂れるワンコ。しっかり聞こえてるのね。

「でも勇者って、母さんでも良い訳?」

「多分ね。貴方達も勇者として呼ばれた訳じゃない。私もチート有るし、魔王討伐も出来るんじゃない?勇者と言うか、異世界人で良いんだと思う。ワンコは多分、私を見てこの可能性に気付いてた。だから祐太郎より、私に近付いた。異世界人は同姓を恋愛対象にしにくいのを知ってたから。更には正行さんの真似までしてね。」

ワンコめ。あざとすぎるだろう。俺を見に来て、女性の母さんを見て鞍替えした。まあ気持ちは解る。しかし強引すぎなんだよ!貴様は何様なんだ!

あ、王様予定だったのね。多分手に入らないもの何て無かったんだろうな。だから沢山の女性を不幸にした。勿論、ワンコだけのせいだとは言わないよ。中には地位やお金目当ての人も居ただろうからね。勇者の俺でさえ、肉食系お嬢様方に辟易したからね。

そう言えば…。術者の魔法使いさんは、どうして自殺したんだろう。まさかワンコのせいなのか?でも死んじゃってたら、呪いの解除もお願い出来ない。彼女の気持ちも解らぬままだね。

「何時かお墓にお花を供えに行こう。」

「え?誰に?」

「ワンコに魔法(呪い)をかけた女性だよ。自殺したんでしょ?何だかこんな女誑しのワンコの為に死んだなら可愛そうだよ。」

「そうね。しかも自殺した彼女の住んでた所に、隠れ住んでたそうじゃない。どう言う神経してるのかしら?私には全く理解が出来ません!」

「「ワンコ死ね!」」

母さんまでワンコ呼びになったよ。

さてさてそろそろお開きにしよう。ワンコはお城で、しっかり教育し直してくれるそうだ。

「呪いの解除は、宮廷魔術師達に調べる様に頼んであげる。異世界人3人分の血液が有れば、勇者の~の枷を外せるかもしれない。多分術者は、貴方に本当の愛を知って欲しかったのよ。だからこそ叶わない枷を付けた。貴方に本当に好きな人が出来た時の嬉しさと、それが叶わなかった時の絶望を知って欲しかった。多分彼女はその希望と貴方への愛に殉じたのではないの?」

ワンコは何も答えなかった。城から迎えが来た。

「お兄さま!今まで何処に隠れていらしたの?成長しなくても、お兄さまは私のお兄さまなの。何で居なくなったのよ!」

誰?あの女の子誰?ワンコの妹?否、王様の兄弟は兄だけだと言った。

「あら?マリーちゃん。」

「母さんはこの子知ってるの?」

「お料理教室に来てるのよ。もうご飯も炊けるしお味噌汁も得意よ。祐太郎?見惚れちゃダメよ。可愛いでしょ?」

うーん。確かに可愛い。でも何か妙な気配がする。悪い気配じゃ無いけど、何かを隠してる?

「はーい。祐太郎?まさか鑑定何てしてないわよね?それはマナー違反よ。」

してないよ!母さんのバカ!

「勇者様。突然すみません。マリーです。お母様にはお世話になっております。実は私には、兄の様に共に育った人物がいるのです。しかし失踪してしまいました。でも間違いでした。お兄さまでは有りませんでした。皆様突然の乱入、失礼致しました。では失礼致します。」

・・・・・。

・・・・・。

人違い?でも成長しなくてもって言ったよな?成長しない人なんて、滅多に居ないぞ?それにあの違和感は何だ?

「まあまあ。女は少し秘密があった方がミステリアスなのよ。でどう?マリーちゃん気に入った?母さんイチオシよ。ツンデレだけど可愛いのよ。」

・・・・・。

「取り敢えず一目惚れは無い。」

「残念だわー。」

って、全く残念がって無いだろう!単に面白がってるだけだろ!彼女居ない歴年令の俺。

俺だって彼女欲しいんだよー!!

母さんのバカ!茶化すなー!

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