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外堀を埋められ、馬を射られる俺。
しおりを挟む姫様とクルクル踊りながら、チラリとホールの中心で踊る母さんを見る。確かにモテるだろう。息子の欲目だとしても可愛い。美人と言うタイプでは無いが、可愛らしい奥さんになるタイプだ。実際性格は肝っ玉母さんだが、それは中身還暦だから仕方無い。昔から母さんは俺の理想のタイプだ。
マザコン?何それ美味しいの?男は皆マザコン気が有るんだよ!それを一々文句いうとモテないからな!
しかし本当にモテてるな。ダンスの順番待ちが出来てるわ。見合いの釣書が、お城宛にかなり届いているそうだ。更には隣国の失禁王子。何故かいきなり母さんに告白してきやがった!しかしナルシストは嫌だと、ケンモホロロに振られた。ザマアミロ!
しかしあれだけ俺様だったのに、マジで母さんに惚れたの?今まで己に歯向かう人間が居なかった。そんな中、母さんの強さに参ったらしい。大したケガで無くても、手土産持参でわざわざ治療を頼みにやってくる。母さんも治癒魔法の練習になるからと、初めは喜んで治療をしていた。しかし何時からか気付くと、何だか様子が変なことに気付いた。痛い治療を受けているのに、恍惚とした表情を浮かべている。何だか危険な感じがする。
母さんが俺に耳打ちしてきた。
「ヤバイわ。この王子ってばマゾっぽいかも。サドとマゾは紙一重なのよ。やはり軽いものは治療しません。自傷も駄目。宰相さんからそう伝えてくれる様に、祐太郎から伝えてくれる?」
王子は国に強制送還された。
しかしだ!奴は懲りなかった。今日もバカデカい紅いバラの花束を抱えて来て、母さんに公開プロポーズだ。だが惨敗。母さんの足にすがり付き、蹴り転がされ恍惚の笑顔。誰もがドン引きだ。可哀想だが、あちらの国の宰相に引き摺られ退場した。
ダンジョンの有る隣国の王と王太子何て、親子でダンスの順番を争い喧嘩してた。母さんはその隙に、その国の魔術師団長と踊ってた。2人は凄く話が盛り上がってて、それに気付いた親子で恥ずかしげもなく地団駄踏んでた。これはもしや?と聞いてみたら、流石の母さんだった。母さん曰く、魔法談義に花が咲いてたそうだ。
母さんは己の恋愛より、まだまだ魔法が楽しいらしい。最近は魔道具や魔方陣まで弄り始めているからな。俺は恋愛に興味津々だよ。だけどまだまだ無理だなぁ。
「あーあ。この世界のお嬢様方は、肉食系しかいないの?大和撫子は幻想なのかよ…。」
「大和撫子とは何ですの?」
「清楚な女性を例えた言葉だよ。物静かで可憐な撫子の花の様な女性の事。男性を立て己は数歩下がる。兎に角、己から男性に迫らない女性ね。」
・・・・・。
「この世界では、そんな女性は生き残れませんわ。政略結婚が回ってこない女性は、己で男性を捕まえねばなりませんのよ。残り物で妥協したら、後々苦労するのは己なのです。」
確かに…。王家や高位貴族は政略結婚が多数だ。しかし下位の貴族は、申し込まれてなんぼなんだな。特に姉妹が沢山いると、政略結婚も回ってこない。自力で見付けねば行き遅れると。
かなりシビアだよな…。
適齢期が女性が15才から25才。男性が15才から30才。高位貴族の場合はほぼ、女性が20才位で男性が25才位までには結婚する。つまり婚約は更に早い。
しかし魔物の脅威や戦争が有るから、死に別れる率も高い。だから再婚も多い。母さんの結婚と出産は、日本ではかなり早かった。若くて可愛い母さんは俺の自慢だった。でもそれを冷やかされ、虐められたのも事実だ。しかし此方では、早婚に早い出産が普通なんだよ。更に日本では子持ちは再婚しにくかった。しかしこちらでは、子持ち再婚が当たり前だったりする。結婚が早いから子持ちも当然。しかも出産時の死亡率も高いから、子持ちは安産だと有り難がられるそうだ。だから母さんは余計にモテる。しかも今の年齢的には、相手が初婚でも再婚でも可能だからな。
「まあ俺はまだ良いや。母さんの幸せが先だよな。寂しくなるけど、苦労した分幸せになって欲しいからな。」
姫様とのダンスを終え、壁際へ再度移動する。
・・・・・。
「勇者様…。」
ん?うわっと!お嬢様達の襲来だ!ダンス踊ってたのを見られたな。ヤバい逃げなきゃ。うわー目が合った!こっち来るー!完璧にロックオンされたわ!姫様置いて逃げちゃ不味いか?
「わ…私が…ずっと側に居ますわ…。お母様の事は心配なさらないで。私が貴方の大和撫子に…「姫様ここは不味い!」って何事ですの?きゃぁー。」
俺は姫様を抱えて逃げたした。
「ハァハァ。ここまでくれば大丈夫だな。」
漸くまけたな。しかし女性は団体になると恐ろしすぎる…。
「勇者様…。」
ん?姫様どうしたの?あっ!流石にお姫様だっこは恥ずかしいよな。
「ごっゴメン。直ぐに…。」
姫様の腕が俺の首に絡む。ヤバい。もしかして平手打ち?
「勇者様…。意外に大胆なのですね。流石にあの場所では、私も恥ずかしいですわ。でもここでなら大丈夫です。私が勇者様の大和撫子になりますわ!お母様の事もご心配なさらず!」
何でそんなお話になってるの?あの場所だと何が恥ずかしいの?姫様が俺の大和撫子って、女王になるなら無理だよね…。
「現王で有るお父様が再婚なされば、弟が生まれるかもしれません。妹でも構いませんわ!そうすれば私は強気にならずに済みます。帝王学もくそくらえ!ですわ。勇者様だけの私です。勇者様だけにつくしますよ。大和撫子頑張りますわ!」
・・・・・。
訳解んないんだけど?くそくらえ!って…。強気にならずって、普通は強気じゃ無いの?性格なんじゃ無いの?
「祐太郎ー!お前も男だなんだな!流石に姫様に言われちゃうのは恥ずかしいのね。なら貴方がここでビシッと決めなさいよ。ここなら誰も見てないわ。告白も【ここなら不味くない】わよ。」
!?!?!?
母さん!どこからわいて来たんだ!しかも王様まで後ろに居るじゃん!
「娘を宜しくな。勇者殿。」
「お父様ったら嫌ですわ。私、まだ勇者様からのお言葉を戴いておりませんわ。」
姫様を抱えたまま呆然とする俺。何か勘違いされてる様だ。しかしこの外堀埋められまくりから逃げるのは難し過ぎる…。
「勇者様。私は勇者様が大好きですわ。大和撫子頑張ります。お母様、宜しくお願い致しますね。」
「任せなさい!」
・・・・・。
誰か俺の話を聞いてくれ…。
と言うか、何から話せば良いのか解らん。誰か助けてー。
今回母さんは役に立たないからな。
姫様じゃ無く、俺の味方をしろー!
「勇者様。考えるより産むが易しですわ。宜しくお願いしますね。チュッ。」
それを言うなら、案ずるよりだろ!何で突っ込んでる場合では無い。次いでの様な姫様のチューに、俺は頭が真っ白になった。くっ口にしやがった!せめて頬にしてくれ!俺のファーストキッスを奪われた!しかし男がここで、文句言う訳にはいかんだろう。
でも…。
母さんの目の前で…。更には王様のいる前で…。俺はっ!か…悲しい…。チーン。
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