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【城下町編。フロックス国境でダービー開始】

◆城下町から1週間と1日目・昼食。

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 さあ作戦開始よ!目前の鉄格子の中では、隣国の砦のお偉方様達が起き出して居る。ここから出せ!不敬罪だと喚いているが、私は貴方達の臣下では無い。聞く耳は持ちません。全く柵の無い無関係な聖女でございます。

 さてさて檻の敵の砦側には何時の間にか、隣国の正規軍が整列しております。昨晩の無血開砦は内密だから、城から予定通り正規軍が出陣したの。しかし軍属ってのは恐ろしい。目前で自国のお偉方が鉄格子を揺らし叫んで居る。しかし皆知らん顔だ。命令されてる事以外には関与しない。直属の上司の命しか聞かない。恐るべし軍国主義。しかし王弟で有る将軍はまともだった。今朝方内密に会談したの。レインが調べた所、唯一まともな人物だと解ったからね。だから私は彼に本音を語った。

 《貴方は国王に忠誠を捧げてるの?国王の為なら自国の民はどうなっても構わないの?》

 〈いえ。私が忠誠を捧げたのは亡くなった王妃様です。王は愚王です。自国の民は皆嘆いて居ます。〉

 先の王妃様ってモノクちゃんの主よね?

 ***

 モノクちゃんの主。先の王妃様は、侯爵家の1人娘だった。王弟の将軍とは幼馴染みで婚約者だった。将軍は側室の子だった為、婿入りも特に反対されなかった。しかしある日状況が一変する。王家に彼女が聖獣と契約してる事がバレた。隠していた訳では無い。それほど重要な事だとは2人も周囲も思っては居なかった。彼女は既に妊娠中で出産後に式を挙げる予定だった。まさかそんな彼女をい、無理矢理王妃に据えるとは誰もが思っても見なかった。

 〈彼女は子を死産し、王妃とは名ばかりで地下室に幽閉されて居たと聞きます。王は王妃が聖獣と契約して居ると言う肩書きが欲しかっただけ。そして彼女を盾に聖獣に言う事を聞かせて居たそうです。私は彼女を救えなかった。聖獣様だけでもにがそうと何度も砦に潜り込みました。しかし聖獣様は逃げるのは嫌だと言われるのみ。聖獣様のお力が有れば自身が逃げる事等簡単だったのでしょう。しかし聖獣様は彼女に、私の為に他の人を犠牲にしないでと頼まれたそうです。誰かが死ぬなら自分が死んだ方が良いと…。〉

 タルバの時と同じね。聖獣は主が全てだ。死に際の頼み事を反故にする事が出来なかった。例え自身を顧みなくても。そして主の彼女は優しすぎたんだね。誰かを切り捨てる事が出来なかった。以前私は、レインとタルバとギルマスに言われた。聖獣の主は心を強く持たねばならぬと。私なら王を切り捨てた。例えそれが誰かの不幸に繋がっても、その決断で不幸の連鎖は止められた筈だ。止められなかった為に、次代へと不幸の連鎖は続いてしまった。この連鎖を断ち切る為にも、将軍とあの黒マントの俺様は死なせられない。

 《解ったわ。貴方は何もしないで。正規軍は貴方の命令で動くのよね?だから一歩も動かさないで。何事が起きてもよ。動けば命の保証は出来ないわ。どう出来る?》

 〈私は聖女様に従います。私が檻から出して差し上げられなかった聖獣様を、砦から出して解放して下さった。彼女も喜んで居るでしょう。聖獣様が姿を保てぬまでになる前に、自身が自害してでも解放すべきだったと、嘆いて居たそうですから。〉

 将軍は自身の命をかけても、正規軍を一歩も動かさないと約束してくれた。

 すみません。でも命はかけないで下さい…。

 将軍様の方には小鳥姿のタルバが止まって居る。タルバ頼んだわよ!

 *****

 草原を挟んでこちら側には私とラス。ラスから少し離れた所には、ルードを総司令とした砦の兵士と応援で来ていた騎士団が控えている。

 ここで隣国は、ダンジョンの魔物の誘導を聖獣にさせる予定だった。聖獣は地上の生き物の頂点だ。聖獣ならば簡単だろうと思ったのだろう。現に主が生きていた内は脅して言う事を聞かせて居た。しかし本当に鬼だね。こんなに弱った子に何させようと言うのよ!モノクちゃんは即席抱っこ紐にくるまれ、私のローブの中に居る。今回はタルバに魔物の呼び出しと誘導をお願いした。

 レインが城から戻ったら開始だよ。隣国の砦の方からタルバの鳴く声が響く。レインが私の肩に止まった。今頃隣国側はパニックだろう。特に檻の中の方々がね。私は何時もの如く前に出て、草原に雨を降らせる。レインは人型に戻り、兵士と騎士団側に結界を張る。

 私は群れが来る方角に目を凝らし魔法に集中する。来た!前方に黒い塊が押し寄せてくる!行くよ!

 《神よ。運命をねじ曲げられ荒ぶる魂を殺略する事を許したまえ。犠牲になった魂に鎮魂歌を。ワイドスプレイド ディストラクション。雷鳴よ轟け!行け~!サンダーボルト~!!》

 バタバタと倒れる音がする。ラスの掛け声と共に、ルード達が討ち漏らしを討伐する為に走り出す。

 《皆~!お肉よー!忘れないでね~。》

 私は人型のレインと共に、瞬間移動で飛んだ。

 *****

 私はレインと共に砦の私に宛がわれてる部屋に転移した。ベッド脇のソファーには、先日最後の村の前でぶつかった黒マントの男が居る。片足を拘束されて居る。レインとラスが砦に潜んで居る所を拘束した。マントは外され素顔が見える。やはり似ているわね。

 〈おい!外では何をしてるんだ!何故魔物があんなに沢山…。しかも貴様だ!前回と言い貴様は俺に何か恨みでも有るのか!いい加減に拘束を外せ!〉

 《何を言うの?貴方は間者でしょ?捕まるのは覚悟出来てるのでは無くて?仲間は既に隣国に戻されたそうよ。しかし皆既に口封じで殺されたわ。》

 〈嘘を言うな!この砦の指揮官を殺せば、皆をこの仕事から解放してくれると約束したんだ!〉

 《可哀想だけど真実よ。これが号外の新聞。因みに貴方も処刑された事になってる。魔物を国内に引き込もうとした反逆罪ですって。全くの濡れ衣じゃ無い。彼等はその狂った魔物達を作り出す為の餌にされたわ。先程全滅したけどね。貴方はこんな国の為に働いてたの?》

 〈お、俺は・・・。〉

 黒マントの男は孤児だった。孤児院は裏では間者を育てる場所で、食べるためには拒否など出来なかった。しかし今回の仕事を成功させれは、孤児院の仲間を解放してくれると言われた。

〈所詮俺達は捨てゴマか…。皆は捕虜のままなら大丈夫だと思っていたのに…。〉

 《隣国が身柄を請求したそうよ。此方も自白と証拠が上がらなければ、犯罪者として長くは拘束もできないからね。》

 〈悔しい・・・。〉

 《その悔しさをバネに出来る?貴方にはかなりキツい過去が有るの。知る勇気は有る?私は貴方の仲間を思う気持ちにかけるわ。ここに2冊の日記が有るの。これを読んで頂戴。仲間の無念は先程晴らした。ここからなら良く見えたのではなくて?今からその片付けをしてくるの。貴方が日記を読み尚立ち上がれるなら、最後の大舞台に招待するわ。スカッとするわよ。》

 私と昼食に皆が食べた物と同じお弁当とお茶を渡す。ブラウニーとキャラメルはおやつね。

 《夜にになる前にまた来るわ。》

 私とレインは隣国側に飛んだ。

 *****

 隣国の正規軍は動かず無事の様だ。しかし皆硬直し固まって居る。そりゃそうだろう。目の前を狂った魔物が走り抜けて行ったのだ。鉄格子の中のお偉いさん達は、皆失神したり腰を抜かしていた。

 《貴方達がしようとした事を、自身で体験した気分はどう?貪られるまでされたかった?貴方達は暫くその中で反省してね。どれだけ残虐な事をしたか理解して頂戴。》

 どうやら草原の討伐は回収も全て終了した様だ。ルード達も中々やるじゃ無い。えっ!?何?地震?足元が揺らぐ。物凄い轟音と共に地面にヒビが入り始めた。ダンジョンの方から悲鳴が轟く。突如木々が薙ぎ倒され、巨大な影が出現した。炎の柱が天に届く勢いで吹き上がる。まさかあれって…。

 《皆下がって~!》

 〈総員退避ー!腰抜かしてる間が有れば走れ!〉

 〈来るな!下がれ!砦側に後退しろ!〉

 《何か巨大な力が。此方に来るわ!》

  〈リョウも下がって下さい!ほら早く!〉

 《ブレスが来る!ウォーター トルネード!》

 私はレインに抱えられたまま魔法を放つ。炎と水が捻れ混じり合い炎のブレスが消えて行く。

 〈リョウ!飛びますよ!〉

 こんなテンプレは要らないわよ…。

 *****
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