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【お礼参り編。カルミア帝国の思惑。】
■お礼に行こう6日目・昼。真実から掴み取れ!
しおりを挟む目の前で眠る双子の姉。髪の長さだけ違う私と同じ顔。私より細く小さい体。年齢的なものも有りそう。でも多分それだけじゃ無い。多分発育不良だ。中学生だとしても低すぎる身長。細すぎる手足。そんな儚げな姉が、青白い顔でコンコンと眠って居る。今なら信じられる。理解できる。確かに私には双子の姉が居た。しかし元の世界では一人っ子だと思ってた。全く疑っても居なかった。忘れたままなら仕方無かったと思えたのだろう。でも思い出してしまったら無理だよ。私は姉との時間を取り戻したい。勿論全ては過ぎ去ってしまった過去なのだろう。時間は元には戻せない。私だってそれ位は解るよ。でも何故姉と聖獣が、この国の不始末の犠牲にならなければならないの?そんなの絶対に許せない。姉と聖獣の体が限界なのは解る。でも何とかならないの?少しでも何か可能性が有るなら私は藁にでもすがりたい。こんな魔方陣と道連れなんて、余りに酷すぎるじゃ無い…。
*****
ライドがエティをベッドに運んでくれた。その後ライドは、タオルやお水を用意してくれてる。取り敢えず休ませるのが一番の薬だろう。私はエティの手を握りしめた。
あっ!体調が悪いなら魔法は効くのだろうか?苦しそうだしヒールをかけてみよう。繋いだ手を離し布団の中に入れる。眠るエティの額に掌をあて、そっと魔法を唱える。
〈リョウ。回復魔法は待って下さい。魔力の流れが気になるので、私が少し調べます。〉
額にあてた掌を外された。え?レイン?結界はどうしたの?ライドにソファーに促され、腰を下ろして話を聞く。医者の手配を頼もうと神殿の外に出たら、レインが転移して来たそうだ。聖獣避けの結界は昨晩の内に外されていたそう。朝を待ってレインが様子を見に来てくれた。多分もう必要がないと、エティが外してくれたのだろう。
〈かなり強い結界だった様です。結界が外されたのが振動となり肌に感じる位でした。この国の者は皆地震だと思ったでしょう。この女性はリョウの姉妹ですね。しかも双子の…。魔力の質が殆ど変わりません。姉妹でもここまで変わらない事は有りません。しかし何故…。いや、今はそれ所では無いですね。彼女は妊娠して居ます。5ヶ月位でしょうか?〉
《赤ちゃんが居るの?でも50年位寝てたって…。でも眠り始めた頃は聖獣と旅してたと言ってた。その頃に妊娠したの?時を止めてたから余り成長してないの?聞いて視なくちゃ解らないわ。》
〈胎児は順調ですが、彼女を今起こすのは得策では無いですね。出来れば寝かせたままの方が良いでしょう。体がかなり衰弱してます。これは老衰ですね。彼女の肉体の本来の年齢的な物です。更には魔力を何度も搾り取られたのでしょう。魔力線がボロボロです。可哀相ですが、これでは出産に耐えられるかどうか…。〉
《そんなの酷い…。どうしたら良いの?魔方陣を墓標に、赤ちゃんも道連れに死なせてあげるのが一番なの?何でお姉ちゃんばかりが、この国の後始末をしなくちゃいけないの!みんなこの国の昔の王族が悪いんじゃ無い!本当にもう誰か関係者は生き残って無いの!?》
〈100年だと無理ですね。王族は前皇帝の祖父に当たります。前皇帝の母父も祖父も既に死亡してます。この国の神殿関係者は妻帯しません。つまり関係者本人が死亡すれば終わりです。召喚された人々は既に亡くなられてるでしょう。魔力線を壊された人間の寿命は短くなります。キツネの聖獣の最後の主が孫ですから、探すのは難しいですよ。〉
そんな…。確かに子孫には関係ないのは解る。でもやはり王族が許せない。今は王族には会いたくない。私は少しでもお姉ちゃんの幸せの為に動きたい。赤ちゃんは多分好きになった人との子だろう。無理矢理産まされた子の召喚に、お姉ちゃんは怒りを露にしてた。引き離された子を心配するお姉ちゃんが、望まぬ子を孕むとは思えない。良し決めた!
《私、赤ちゃんのお父さんを探して来る!多分日記に良く出てきた町に住んでる人だよ。お腹の子が 5ヶ月位。起きてた時間を考えて、最高+40才位だね。当時20代位なら、まだ生きてるよね?私の顔を見たら思い出してしてくれるかも知れない!》
〈リョウ…。もしかしたら亡くなってるかもしれない。既に結婚してるかもしれない。いや、その可能性の方が高い。また会えても直ぐに別れがくるかもしれない。それでも探すのか?お姉さんと聖獣の当初の願いを叶えた方が良いのでは無いのか?〉
ライドってば正論ばかりだね。確かにそうだよ。でもお腹に赤ちゃんが居るなら話は別だよ。お姉ちゃんは多分知らないんだと思う。あれ?でも聖獣は気付かなかったのかな?レインが気付いたのに?
《子が居るなら話は別だよ!私は兎に角出来る事はやります!私はフロックス国に行って、町の情報を得てから訪問して来ます。私の願う方向へ行かぬとも、帰りに教会へより神に直談判して来ます。ライドはカルミア帝国の王族に全てを伝えて貰えるかな?日記等の資料も持ち出そう。》
*****
私はライドとカルミア帝国のお城に飛んだ。ライドにはラスに付いてて貰い、王族への説明をお願いした。またもしも100年前の聖女召喚の資料が有れば、少しの情報でも佳いので探して欲しいと伝える。
セリーにはお願いして、エティに付いて貰いたいとお願いした。起きた時私が居なければ、側に女性が居た方が良いだろう。皇帝が女医さんを手配してくれると言ったが、丁重にお断りをした。レイン曰く、既に人間の医療の手が届く範囲では無いそうだ。聖獣とエティの魔力線が繋り、互いの命を繋いで居る。そしてエティから赤ちゃんへと、聖獣の魔力も繋がって居る。どこも切り離せないそうだ。このままなら、誰も助からない…。タルバとモノクは後で迎えに来る事を約束し、話を聞いて居て貰う様に伝える。フロックス国とセリーへの事情説明をお願いする。事情の説明と伝達役だ。ごめんね。
私はセリーと共に、レインの居るエティの元に転移した。兎も角時間が惜しい。レインには道中詳しく説明する事にし、持ち出す資料等を纏める。最終的にはやはり、この神殿は葬るのが一番だろう。先々魔方陣が悪用されても困る。インベントリに詰め込み、再度お城に転移した。王様達は心無しか青ざめて居た。過去の過ちとはいえ、やはり思う所は有るのだろう。借りた一室に荷物を全て出す。
ライドとラスに後は任せ、タルバとモノクを連れ神殿に戻った。エティはまだ寝ている。セリーは額のタオルをかえながら、リョウそっくりね。と微笑んでいた。
セリーにエティを任せ、タルバにセリーへの説明をお願いする。私はレインとモノクと共にフロックス国へ移動した。フロックス国もすっかり落ち着いた様だ。宰相さんとブラン王が出迎えてくれた。フリード王太子は騎士団と共に遠征中で明日戻るとの事。私は事の詳細はモノクから後程と伝え、エティの日記に良く出てきた村の詳細を聞く。その村は現在も存続して居る。付近には5ヶ所の村が有り、ブラン王の叔父が統治して居る。叔父は子供の頃体が弱く、早々に王位継承権を放棄して居た。体に良いと言われる土地で、のんびり暮らしている。
〈一時、叔父上に王位をとの話しも有ったそうだ。しかし正統な後継者が2人も居る。兄が駄目なら弟を!と、私に遠慮していたそうだ。私は構わなかったのだが…。〉
《体が弱いのも有るのでは?》
〈体は完治してる。初恋の君が治してくれたそうだ。叔父上は気さくな方で、各村に自身の家を建ててるんだ。領主の館には月に1週間程しか居ないと、今だに使用人は嘆いとる。今は義息子が領主代理で、更に寄り付かぬそうだ。〉
《息子さんは養子なの?王族で領主なのに結婚しなかったのかしら?あ…。体が弱かったから?出来なかったのならごめんなさい。》
〈わはは!謝られる様な事じゃ無いんだ。叔父も私と同じくロマンチストでな、初恋の君が忘れられなかったんだよ。成人の祝いの日に出会い、魔法で体を治してくれた。彼女は旅立ち、数日しか一緒に居られなかった。しかし1年後に同じ村で再会したそうだ。叔父は告白し、その村で2人で1ヶ月程暮らした。しかしある日彼女は、どうしてもやらなくてはならぬ事が有る。ごめんなさい。幸せになってと、書き置きを残し居なくなったそうだ。当時黒髪の少女を見かけては嘆いて居たそうだぞ。この国で黒髪は珍しい。隣国に嫁いだ叔母の旦那が黒髪で、三男が黒髪と聞き、頼み込んで養子にした位だ。あれは今だに引き摺っとるな。〉
引き摺ってるって…。まだ存命なのね。当時成人なら、現在は55才位?元皇帝と同じ位じゃない。お腹の子の計算も合う。もしかしたら…。
《ブラン王。お願いします。その叔父上に会わせて戴けませんか?私が探して居る方かもしれないのです。もし探してる方ご本人なら、私の顔を見れば思い出して戴けると思います。詳しくは今から説明します。一刻を争うのです。直ぐにでも連絡をして戴けませんか?私の双子の姉とお腹の子の為に、どうか宜しくお願い致します。》
突然の私の土下座に、ビックリする宰相さんとブラン王。王様が慌てて私をソファーに座らせ、宰相さをんに連絡を取る様に伝える。
へたり込む私をよそに、モノクが説明を始めた。
皆が幸せになるにはどうしたら良いの?
神様お願い…。
私はエティを…。
なっちゃんを死なせたくない…。
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