【完】専属料理人なのに、料理しかしないと追い出されました。

桜 鴬

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【記念日お礼・Thanks to everyone】

フラグだったんじゃない!④

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【ララさん side】

私は男爵家の次女でした。父と母は信心深く、とても厳格な人たちでした。毎週末には教会に通い、月に一度は大神殿に行きます。寄付を募られれば、己たちの食べるものが無くとも差し出してしまう。そんな両親でしたから、礼拝はもちろん家族総出で通いました。

姉が成人してお嫁に行きました。父よりも歳上で、私たちと同じ歳の、孫までいる男性の元へです。その時、私は十才でした。結婚には持参金の必要もなく、逆に援助までしてくれたそうです。しかし結婚後、私は姉に一度も会えませんでした。やがて姉は妊娠しましたが、産み月までもたず、母子ともに命を落としました。

しかしそれは姉の運命だったのだ。この結婚に不幸などあり得ない。望まれて嫁ぎ親孝行をした。金持ちの高位貴族に嫁げ、贅沢三昧をした。なのに不幸などあり得ないだろう!両親は口を揃えてそう言います。しかし姉の服装は質素で、死に顔は痩せこけていました。正直実家にいたときより、見窄らしい服装でした。多分外へ出して貰えなかったのでしょう。実家では最低教会には外出します。そのために両親は見栄だけははりました。さすがに余りにも見窄らしい格好では、教会には行けなかったのでしょう。

その実家より酷い服装……。妊娠していたのに、まるで食事をしていないかの様に痩けた頬にあばらの浮き出た様な体型……。産み月に近い筈のお腹だけ、ポコリと出ていました。死に化粧すらされていない青白く、まるで何年も年を重ねた様な皺と顔……。優しくて綺麗なお姉さま。私の自慢だった……。せめて赤ちゃんだけでも……。

しかし胎児は、既に母と共に死亡しているのです。しかも嫁ぎ先のお墓には埋葬しないからと、実家に戻されたのです。

こんなのが幸せな筈がない!子供の私にさえ理解できたのです。親孝行して喜んだ?それは持参金無しに援助のことを言っているの?それが親孝行なの?私は両親を信じられなくなりました。

やがて私へも婚約者を宛がいたいと、両親は更に熱心に大神殿へ参拝に行く様になりました。実は姉のお相手も、神から聖女様へくだされたという神託によるものです。跡継ぎである兄の婚約者も同様でした。

私には少しではありますが、魔力がありました。軽度の傷を癒す位でしたが、癒しの魔法が使えたのです。それが判明したために縁談ではなく、大神殿にてシスター見習いにされたのです。毎日同じ祈りの日々を過ごします。朝は日が昇る前に起き出し、御祓を済ませ神に祈りを捧げます。その後は……。シスター見習いは、男性神官のお世話係となります。貴族で言えば侍女みたいなものです。

もうお気付きでしょう。シスター見習い等とは建前なのです。私たちは男性神官には絶対服従を、制約魔法にて誓わされました。つまり男性神官の気持ち次第では、愛人扱いも可能なのです。殆どがすげ替えのきく妻扱いでした。

大神殿内部は男性優位です。魔力があるシスター見習いは、多少の身分のある男性神官につきます。子に高魔力持ちが生まれやすいからです。説法会で集められた庶民の女性たちは、更に悲惨でした。もし特定のお相手が見つからなければ、隷属のアクセサリーをつけられ、大神殿の共有物とされたのです。

私は月に一度の面会日に、両親に訴えました。さすがにまだ十才の私には手を出してはきません。私は出される前に逃げたかったのです。しかし両親は私を殴りました。

『神にも近い方々に望まれているのに、なにが不服なのだ!女の価値は子を成すことだ!』

こう一刀両断でした。その日以降、両親は面会にこなくなりました。多分両親が大神殿に何かを言ったのでしょう。私は数日後の御祓の後、前大神官の前に引摺り出されました。その後は地獄の日々でした。

そして私はリズを身ごもったのです。信じられませんでした。私は大人になる証を見る前に、妊娠してしまったのです。段々と大きくなるお腹。それに気付いた前大神官は私を監禁しました。日々沢山の神官を呼びだし、時には暴力も交えて私を辱しめました。お腹の中にいるリズには、魔力が殆ど無いとわかったため、子を殺そうとしたのです。しかしリズは私にしがみつきました。私は……。

正直あんなゲスな男の子を、生みたくなどなかったのです。流れるなら流れてしまえばよい。どうせ辛い思いは一生変わらない。どうせなら私も一緒に殺して欲しい。どうせ誰も助けてなんてくれないのだから……。

そんな諦めの中、ある日突如閉ざされていたドアが開きました。

『おや?お取り込み中でしたか?しかしこれはまた、恥ずかしげもなく大勢で……』

閉ざされていた筈のドアの方から、声が聞こえて来ました。入り口で押し問答をしている声が、聞こえてきます。

でも……。

『うるさい!関係無いなら貴様は出て行け!仲間に入る必要はないだろうが!大神官と聖女のお気に入りが!』

『…………』

『そうだ!我々は大神官様から許可を得ているんだ!腹の子を殺せとな!』

『…………ゲスの極みですね』

『納得したなら出て行け!それとも仲間に入るのか?そんな女みたいな顔して役に立つのか?ボコられたくなかったら邪魔するな!そのお綺麗な顔が崩れたら、大神官様も聖女様も悲しむぞ!オカマはさっさと出てゆけ。お二人に可愛がって貰えよ!』

どうせ助かりはしない。私なんて生きていても仕方がない……。そう思っていた時です。

いきなり周囲の空気が変わりました。部屋中に冷気の様なものが漂います。これは威圧でしょうか?冷や汗が出て体が震え、竦み上がります。そんな中で、何かを打ち合う音が聞こえてきます。私はノロノロと頭を持ち上げます。

視界から、一人、また一人と、神官の姿が消えて行きます。気が付くと私を押さえ付け乗り上げていた神官たちは、壁に叩きつけられ吹っ飛んでいました。床には沢山の這いつくばる神官たち。こんなに沢山いたのね……。私は呆然とそんなことを思っていました。そしてその中央には二人の男性が、棒の様なものを構え対峙していました。

一人は毎日一番始めに私を辱しめ、終わりまで扉の前で見張りをしている神官です。もう一人の白髪の神官が、まるで空中を舞う様に床を蹴りました。そのままあっという間に相手を打ちすえ、床に転がしたのです。棒は喉元に突きつけられているようです。後ろ姿を見る限り、私と同じ位の歳でしょう。なのにこんなに大勢を一人で……。

『本当にゲスですね。私は肉欲まみれのそのお二人から逃げて来たのです。まさか逃げ込んだ部屋にも、ゲスがたむろしているとは思いもしませんでした。しかし私をボコる?偉そうな口を叩いてこの程度なのですか?オカマに捩じ伏せられた貴方は、それ以下な訳です。ですが彼らにも人権は有るのです。人の尊厳を踏み躙る様なあなた方と、元から同等には扱えませんよ。彼らに失礼すぎるのではありませんか?』

私からは、棒の先で軽く押さえているだけに見えます。しかし神官は床に這いつくばり、ピクリとも動けない様です。

『しかもその神官服……大神官の手先になりながら、その地位に甘んじているのですか?そんな無能な輩が、偉そうな口を叩くものではありません。私は大神官にも聖女にも、膝を折ってはいません。その私より数段も位の低い己を恥じなさい!』

呆然と眺めていると、私に声がかかりました。

『さて。貴女はどうなさりたいのですか?死にたいのなら、私はこのまま立ち去ります。子を生み育てるならば、孤児院の方へ送りましょう。しかし私に出来るのはここまでです。孤児院には貴女と同様な方々が沢山います。ですが待遇は決して良くはありません。ですが今よりはマシでしょう。命の危険はありませんし、なによりあの大神官がいませんからね』

私は子を生み育てる決意をしました。それを伝えると、癒しの魔法をかけてくれ、そして孤児院のシスターの元へと、送り届けてくれたのです。

私は孤児院でリズを生みました。孤児院での生活は、決して楽ではありませんでした。年若い出産は、心も身体も痛めつけました。しかし寝てはいられません。辛くとも、とにかく働きました。しかし己の意思に反することを、強制されることは二度とありませんでした。それだけが、私の心を癒してくれました。リズとも直ぐに離されました。しかし月に一度のバザーの際には、母子で過ごすことも出来ました。憎い思い出したくもない男の子供。でもリズは私の子です。正直この子がいなければと、思ったことも有ります。でも可愛いのです。理屈では無いのです。私は小さな温もりを心の支えとして、今まで生きてきたのです。

私はあの時私とリズを助けてくれたのが、ルイスさんであると後に知りました。ルイスさんは色々な意味で、教会でも有名人でした。

ルイスさんにいつかお礼が言いたい。多分私を助けたつもりは無いのでしょう。でもあのとき私は確かに救われたのです。あの場にルイスさんが現れなければ、リズは生まれて来なかった。多分私も死を選んでいたでしょう。それほどに絶望していたのです。

いつかお礼を言える日が来ます様に。そう思い続けていたのです。

*****

約五年後、私は偶然ルイスさんをみかけました。私は騒ぎが収まるのを待ち、勇気を出して声をかけました。あのときのお礼を伝えるためです。

しかし伝えられませんでした。その後のことは、先のお話しの通りです。

私は再婚をお断りしました。しかし運命の歯車は、一度止まった時を動かしてくれました。リズが私とあの人を、再度出会わせてくれたのです。そして私は決心しました。たとえどんなに辛くても、あの頃より酷いことは無いと思いたい。あの人は貴族です。親より縁切りされている私には、辛いことも多いかもしれない。でも私を見守ってくれた優しさに報いたい。

五年後に再会したあの人は、男性に怯える私を気遣ってくれました。毎日会いに面会に来てくれ、怖がる私に根気よく付き合ってくれました。初めて手のひらを重ねた時、不快感を感じませんでした。たったその事だけで、リズもあの人も喜んでくれたのです。

私も頑張らなければなりません。だって最近は、あの人の笑顔を見るのが楽しいのです。もっと笑顔にしてあげたいのです。私が触れると喜んでくれるあの人。私の男性に対する怯えを、例え一時でも、包み込む様に忘れさせてくれる。私はあの人にふれたい。だって家族になりたいから。

でも後一歩が踏み出せない。

あの人は構わないと言うけど私は……。

過去の汚点が私の心を弱くしてしまうのです。強くなろうと決めたのにダメですね。

*****
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