【完】専属料理人なのに、料理しかしないと追い出されました。

桜 鴬

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【記念日お礼・Thanks to everyone】

フラグだったんじゃない!③

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ララさんは静かにお話をしてくれました。ララさんがルイスに助けられた経緯から、ルイスに誤解されてキスされたこと。それを当時五歳だったリズちゃんに見られ、ルイスをお父さんだと誤解したこと。

「最初は私も否定していたんです。でも私も現実から逃げたかった。あんなゲスが父親だなんて、リズに教えたくはなかった。それでついついいつからか否定しなくなりました……」

でもララさんは肯定した訳ではないのです。ただ否定をしなかっただけ。周囲には、同じ境遇の母子が沢山いたのです。そう大の元凶は今は亡き、前大神官だったのです。

前大神官は気に入った女性を力で従わせていました。あきたり子が出来ると、孤児院に丸投げしていました。

「私たちは元は貴族の娘です。しかし殆どが子爵以下の爵位です。大神官に娘を差し出せと言われたら、断ることなど出来ません。ですが差し出すもなにも!無理やり監禁し好き放題です!しかも未婚で子を産めば、醜聞を恐れた親に縁切りされます。私たちは同じ境遇の母子で身を寄せ合い、生活してきたのです」

爵位の低い貴族の子女。貴族は庶民より、魔力量が高いことが多いのです。前大神官はそのために、礼拝に来る貴族を狙っていたのでしょう。

孤児院での生活は大変だったと言います。母子は出産と同時に子と離され、子は孤児院で育てられます。子は魔力量が多いと神殿へ引き取られ、神官見習いになります。母親たちは孤児院奥へ閉じ込められ、なれない下仕事や針仕事をしたそうです。しかしあの大神官に会わなくても済む。それだけで頑張れたそうです。

「月に一度、アリーさんがお料理教室に来てくれます。この教室と販売の日だけは、母子で過ごせたのです。この二日間が幸せ過ぎて……」

ララさんがとうとう泣き出してしまいました。私はハンカチを取りだし、ララさんに渡します。

「ララさん。辛いことを思い出させてごめんなさい。あとは私が説明します。だから泣かないで。これから幸せになると決めたんでしょ?」

私の手をギュッと握りしめ、ララさんは頷きました。良かったです。なら後は私が頑張ります!

*****

では。まずは結果からお話しましょう。

「先日のマナー教室で、私はリズちゃんに悪戯をされたの。さっきルイスにしたあれよ。可愛い悪戯よね。でもその裏には、私を辱しめようとした悪意があったの」

転ばされたりお茶をかけられたり。大したことは無かったけど、そのあとが悪かったの。リズちゃんはもちろん、そのあとのことは知らなかった。リズちゃんを利用して、私に悪意を向けた女性たちがいたのです。

私はこっそりと、音声を遮断する結界を張ります。リズちゃんには聞かせたくないからね。手早くすませましょう。

私は一連の悪戯で、そのままの格好ではいられなくなりました。丁度肩にとまっていたグレイとともに、リターンホームで自宅へ戻ろうと考えました。しかし数人の女性に、着替えを用意したと呼び止められたのです。きな臭く感じた私はグレイにお願い事を頼み、その女性たちに従いました。

到着した部屋にはやはり……。

神官服を着た男性たちが私を囲います。ジリジリと囲いを狭める神官たち。テンプレなパターンです。しかし新大神官のフォードは、いったいなにをしているのでしょう?キチンと末端まで教育しなさい!仕方ありません。今回は僭越ながら、私が教育いたしましょう。さあ行きます!

『殺っておしまい棒いけー!』

男性の弱点の高さに向け、殺っておしまい棒から放電します。バタバタと倒れ悶える男性たち。みっともないので、風の魔法ですみにおそうじします。もちろん結界を張り閉じ込めます。そこに神殿騎士が到着です。間違いなく信用できる騎士を、グレイに呼んできて貰ったのです。

『フォードがね。教育が行き届かず申し訳ないって。無能な男性神官は全てクビにして、女性のシスターを増やすそうだよ。候補は孤児院に沢山いるからね。てな訳でコイツらはクビね』

人型になったグレイが、神殿騎士に連行される神官を眺めます。

『グレイ有り難う。男女比を見直すのはよいことだね。男性優位が無くなれば、大神殿内部での犯罪も減りそうだね。フォードもやるじゃない』

さて?入り口で呆然としている女性たちに振り返ります。

『私に何がご用が有るのですか?しかし物騒ですね。今回のことは、ルイスが原因でしょうか?ならなぜルイスに直接いわないのですか?私を害して気が晴れるのですか?因みに私はルイスの過去を詳しくは知りません。噂は聞いていますが、本人が言わぬ限りは聞きません。今のルイスを信じたいからです』

沈黙がその場を包みました。それでも私に聞いて欲しいと、女性たちは訴えてきました。彼女たちも後悔していたのです。私に当て付けでもしないとやりきれない位にです。確かに彼女たちにも過ちはあったのでしょう。自分たちの軽い気持ちでしたことで、リズちゃんに誤解を与えララさんを不幸にしてしまった。だけど!間接的にとはいえ、その原因のルイスは、何も知らずに幸せになろうとしている。相手の女性にだけなぜ違うのか?ならその女性が同じ目にあったらルイスはどうするのか?そのための誘導だったのです。

女性たちは涙を流しながら話してくれました。彼女たちは五年前、ルイスに淡い恋心を抱いていたのです。まだ十五歳にもならぬ少女たちの初恋でした。親に連れられ参拝し、大神殿にいるルイスを見てはしゃいで恋ばなをする。そんなお友だちだったと言います。そんなある日一人の少女が、勇気を出してルイスに告白をしました。しかしルイスは微笑み呟きました。

『私は誰ともお付き合いするつもりはございません』

『ならば初恋の記念に、キスしてくれませんか?』

そう訴える少女に、ルイスはキスをしたそうです。しかも唇にです!それを見た礼拝帰りの、周囲の女性が色めき立ちます。ルイスに群がり、次々にねだります。

ルイスさん?なぜ唇にしたのですか?頬にすれば十分だったのでは?しかも沢山の人々の前で行えば、どうなるか位の予想は出来なかったのでしょうか?

「しかし感心します。礼拝を済ませ帰る方々から、居残りお喋りをしていた方々にまで、全ての女性の要望にお応えしたそうですね?さすがの微笑みの貴公子様です。まさかそれを相殺には出来ませんよね」

青ざめた顔色をしたルイス。

「アリーさん。きっと今のルイスさんは、大神殿にいた頃とは違います。あの頃だったなら、私と娘の顔を思いだせないからと、謝る方ではありませんでした。だからこそ私にキスをし、しつこいからと壁に打ち付けることが出来たのだと思います。多分今のルイスさんには出来ないでしょう。しかしあれは誤解なのです。私はキスをして欲しかったのではありません。それだけは理解して戴きたいのです」

ルイスがビクリと肩を揺らします。どうやら心当たりがあったようですね。ララさんに庇われて、どんな気持ちなのでしょう。

「一番最後に来た方ですね。私もいい加減にうんざりしていました。あなたがキスをした後も話しかけてくるので、ついイライラして邪険に突き飛ばしてしまいました。怪我は無いようでしたので、子は近くのご婦人に頼み、あなたは通りかかった神官に医務室へ運ばせたのですが……誤解とは?」

実はララさん親子には、縁談のお話がありました。リズちゃんと共に顔会わせに向かう為、大神殿と孤児院の間にある、中庭の東谷へ移動していたのです。普段は大神殿には近寄りません。本当に偶然に通りかかったのです。そこに礼拝を終えた女性たちとルイスが、大神殿から出てきたのです。

孤児院では子供の養子縁組だけでなく、お母さんたちに再婚も斡旋していました。殆どの相手が後妻や再婚になりますが、子供も共に面倒みてくれる方々多いと聞きます。教会のシスターがしっかりとした方で、女性や子供たちを助ける為にと奮闘していたのです。

ララさんを見初めたのは、一回り歳上の伯爵様でした。全てを知った上で、リズちゃんと共に愛したい。そうシスターに願い出て、お見合いの席をもうけて貰ったのです。

ララさんが気を失っていたため、リズちゃんはご婦人に連れられて、孤児院へ戻りました。自分の目前でお母さんとキスをしたルイスを、この時にお父さんだと思ったのです。

しかしこの時ララさんは、最悪な状態に陥っていました。気を失っていたララさんを運んだ神官に、医務室で乱暴されてしまったのです。その際にある薬を使われ、子を望めない体になってしまったのです。

「伯爵様は、それでも構わないと言って下さいました。先の亡くなった奥様にも子は恵まれなかった。『跡継ぎには養子を貰う。貴女の心の傷は、私では癒せないか?リズちゃんを二人で育てよう。三人で家族になりたい』とまで言って下さいました……」

しかしララさんは伯爵様の手をとりませんでした。伯爵様には、まだ跡継ぎを望むことが出来るのだからと。また、男性に恐怖心が芽生えてしまったのも有りました。己から身をひいたのです。

「ララさんは男性に恐怖心が芽生えてしまったの。元大神官に医務室での神官の行為。でもね?それだけじゃない。ルイスは覚えてないみたいだけど、初めて貴方とあった時の事件。そして再会した時の貴方の態度にも傷付いていた。だから余計に男性に近寄れなくなったの。それを全て知っていたのが、初恋の記念にキスを頼んだ少女たちよ」

だから許せなかった。ララさんの幸せを、間接的にとはいえルイスは壊した。しかも元は自分たちが、軽い気持ちでキスを頼んだから。なのでララさんが心配で、ついついていってしまった。そして全てを見てしまう。しかし止められず、さらに傷つけてしまったと、連鎖してしまった後悔。

しかしその気持ちは、徐々に薄まり忘れられていたのです。

「ルイスが僧籍を抜け、出奔してしまったからよね。それから約五年。突然の大神殿内部の粛正に、前大神官と元聖女の処刑。これらに女性を近付けないと言われていた、ルイスが自ら乗り出した。更には幸せになろうとしている。何も知らない相手の女性が許せない憎いって訳よね」

私はきっと、ルイスを責める様な話し方をしていたのでしょう。ララさんが私の話を、軽く手で制止して来ました。

「アリーさん。全ては過ぎ去ったことなのです。ルイスさんに責任はございません。全ては誤解から始まったことなのです。ですからルイスさん。お願いです。私のお礼をもう一度、キチンと聞いて下さい。あなたは私を助けたつもりなどなかったのでしょう。五年前の態度でわかりました。でも私はあの時確かに救われたのです。それが後の不幸に繋がったとしても、私は貴方に感謝しているのですから……」

ルイスがララさんにキスををし、突き飛ばしてしまった原因。なぜララさんはルイスに話しかけたのか?ルイスはその真実の理由を知り、己の誤解をとかねばなりません。

ララさん頑張って。

辛いことを乗り越えたら、きっと幸せもやって来るよ。私も幸せのお裾分けしたい。知り合いを頼りまくり頑張ったからね。後は実を結ぶことを願うばかりです。

…………

ルイスは反省しなさい。

*****
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