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【記念日お礼・Thanks to everyone】
蒲焼きの日。one more time⑥
しおりを挟むまったくルイスってば……ううん。それより王太子様よ。椿姫たちは知っているのかしら?はぁ?帝国領は島国の集まりで皇帝が宗主、各々の国は海を隔てているから、政略結婚には特に新婚さんセットが必要?
「ルイス? 全く意味が理解できません。詳しく話してください。後そのウサギの耳と尻尾はいりません! 私はこちらのフワフワ着ぐるみタイプなら着ますから!」
これは全身をくるむタイプなので暖かいです。耳と尻尾と肉球手袋とやらだけなんて、絶対に着用しませんよ!しょぼんとしても許しません。しかし王太子様って優しげな人なんだけど……この新婚さんセットの中身はエゲツないわよ。本当に彼が考えているの?それとも私が知らないだけで、これらが常識なのかしら?
「すみません……確かにアリーには刺激的だったのでしょう。しかしランジェリーショップの店員さん達とも懇意になった今なら、アリーにも少しはこれらの意味も理解していただけたかと……」
…………はいはい。男性の気持ちですよね? 最近バストが苦しくなり、ランジェリーショップでサイズを調べて貰ったの。でも直ぐに今回の出発だったし、オーダーは間に合わないからと、今はフリーサイズで全体を包めるタイプを使用してるわけ。結婚するとバストアップする女性がいるそうよ。私はきっと妊娠したからでしようね。なら作り直さなくて大丈夫よね。注文は帰宅してからにしておいて良かったです。
その時にお店で色々とおすすめされたのです。そう……この新婚さんセットに入っている様なピラピラのランジェリーや、まるで着ている意味の無いような下着類や寝間着……
「あのときにもそのウサギの尻尾だけは嫌だと言った筈ですが? 無理強いはなしのはずですよね?」
「…………これは! グレイに届けられたばかりのものです。選り分けていなかったのです! 直ぐにでもポイしますからそう怒らないでください」
はぁ……仕方ないなぁ。正直ルイスがこんなにベタベタだとは思わなかったよ。だってホワイトハットの専属料理人だった時なんて、必要以上は喋らないし、クッキーをポリポリ無表情で食べてた位しか思い出せない。クールで頭脳派で人との関わりが嫌いだとばかり。専属護衛の一年しかり。結婚してからは特に、ルイスのイメージが、すっかり変わってしまいました。クールさなんてどこへやら。クールなイメージなんて木っ端微塵よ!
「怒らないけど……ルイスはかなり子供っぽいんだね。クールで物静かな紳士のイメージが駄々崩れしたよ」
「アリーだから甘えているのです。私をこんなにメロメロにさせたアリーがいけないんですよ。しかし子供ではありませんよね?甘えが子供だというなら……アリーももっと甘えて良いんですよ? まだ夜明けには時間が……」
ペシリ!この不埒な手はなんですか!甘えは今はいりません!島国だとなぜ新婚さんグッズが必要なのです?私は誤魔化されませんよ。
「ルイスさん。先に説明してください。なぜ必要なのです?」
ルイスが真面目な顔をして説明してくれます。は?殆どが政略結婚だから、女性も自分用に嫁入り道具として持ってくるの?
えぇぇ……そっそれはまた……マジですか?マジなんですね。まあ確かにそうかもしれないけど……
「こっ、後宮に入れられなくて良かったよ……それらを使ってまでしなくちゃならない義務って辛すぎる。なら男性側が無理するほどの女性を囲わなきゃいいんじゃないの?」
「英雄色を好むですよ。気が荒ぶると人肌が欲しくなる。また本人にその気がなくとも、周囲が勝手に押し付けて来るのです。特に帝国は島国の集りです。宗主は帝国の本島ですが、他の島国も自治を任された小国扱いなのです。そのため帝国本島にのみ、後宮が存在しました。争いにならぬように、小国群は本土の帝国皇帝に娘を送り血をまぜる。また反意を持たぬ証の人質としての妻。皇帝にその気がなくとも集まってくる。しかし皇帝側それらの女性を蔑ろには出来ません。そんなことをしたら、皇帝に不名誉な噂がついてしまいます。ですから頑張るのです。帝国本土の皇帝が絶対的な力をもつためにも。それにより島々を平定していたのです」
「…………」
でもしたくないならしなきゃいいんじゃないの?なんだか現皇帝を思い出しちゃったよ。思いっきり蔑ろにしてたし!女性だって嫌がっていたじゃない。菊姫だって後宮の主が魅力的でなければ、女性たちだって争いなんてしない。寵を争うことなんて無いといっていた。たしか宰相が皇帝の閨は、毎日日替わりで週末二日はお休み。正妃が決まれば、空いている週末二日が正妃様で毎日が埋まるって……正妃以外は女性の人数次第では、一月に一度回ってくれば良い位じゃない。愛がなければ女性も気にしないのかもしれない。でももし愛してしまったら?一人寝は悲しいかも……でもだからって!
ん?つまり女性は寂しくても皇帝は毎日日替りで……でも皇帝は新婚さんセットを使用してまでも、無理して頑張っていたのよね?
「……ルイス…………皇帝には沢山奥さんがいて毎日なのよね? それも無理してでしょ? ルイスには奥さんは私一人です。ルイスは無理してないの? ならよーく考えてみてください。どう考えても私の負担が大きすぎです! やはり多すぎなんです!少しは自重してください」
新婚さんセットは、沢山の奥さんと頑張るために、男性が使うのよね?つまり皇帝のように毎日ってのは、やはり普通ではなく大変ってことよね?もちろん男性がよ?ならルイスだって大変なはず!
「無理はよくないよ? 私たちには新婚さんセットは要らないじゃない。愛があるでしょ?だからこれらはもういらないわよね」
私はこっそりと隠しこみます。
「…………アリーもいりませんか?」
は?いりませんよ!王太子様から届いたセットに、女性用の嫁入りセットもあるの?今回見せられたやつ?
「このウサギの尻尾と手袋と耳がなの? なんで?」
……男性の視線を他の妻から自分に向けるため……更には寂しいときに自分で……って?嫌ー!変態!ルイスのバカ!私は【殺っておしまい棒・EX】を出し、先をルイスに向けて置きます。
「今から夜が明けるまで、こちらには入らないでください。新婚さんセットの需要については理解しました。男性は頑張るため、女性は男性を誘惑し惹き付け誘ったり、一時の寂しさをまぎらわすため。これは一夫多妻である高位貴族での、あしき風習です」
まったくもう。なにごとも程ほどが必要なのです。無理強いは無しで、互いに歩み寄りましょうといつも伝えています。
「ルイスは私がこれらを必要になるときが来るというのですね? なるほど私と離れたいのですね?ならば私は一週間ほど、ライラの所にお邪魔させて貰います。その際にその新婚さんセットを検証しましょう」
「そっそんな……一週間は流石に……」
「しかし二、三日では検証仕切れませんよ? それとも私が寂しくなる位、夜の日にちを開けてくれるの? それとも日替わりで浮気するとか? それともルイスではなく私に、男性を誘惑するために新婚さんセットを使えと、浮気を進めているのかしら?」
「くぅ…………違います! なぜそういう方向へ話が行くのですか! 私の負けです! 完敗です! これらはアリーには必要ありません! 私が寂しくさせませんから!」
ふーん……
「わかりました。しかし妊婦中は節度を持ってください。ちなみにこの目覚めのフレグランスは、金輪際禁止します。王太子様にも直ぐに伝えないと駄目です。なにかあってからでは遅いのです!」
焦り言い訳をするルイスの鼻先に、ベッドサイドにある香炉を突きつけます。夢遊病モドキの原因はこれですよ!
「これは……安眠のハーブの香りですよ? たしかに王太子様のセットに入っていたものですが、帝国での初夜から使用しています。今さらですか?」
この香りの効能は精神安定とリラックスのハーブを合わせたもの。これだけなら普通の効能です。しかしこれには新婚さん用に、ベルガモットの香りも添加してあるのです。ベルガモットには、高揚作用があり精神状態を高めます。柑橘系の甘い香りと適度な高揚作用で、使用方法も間違いではなく心配も有りません。しかしですね?
私はさらにグイグイと、口移しで飲まされたピンクのミニワインボトルを、突きつけます。
「まさかこれとですか……」
「そうですね。正解です。このワインはかなり甘口です。甘さに蜂蜜ではなくローヤルゼリーを加えていますが、このローヤルゼリーを作る蜂の主食の蜜が原因です」
このワインは滋養強壮の為にと、ローヤルゼリーが添加されています。それだけならば構わないのですが、この蜂が蜜を集めるお花に問題が有りました。一般的に販売されている蜂蜜は、特に花を指定したりはせず、適当な花畑に蜂を放します。しかしローヤルゼリーなどを集めたい場合は、花を指定し価値を高めます。今回のローヤルゼリーは、オーロラナイトローズの花畑で集められていました。実はこのオーロラナイトローズの蜜は、魔物であるナイトビーも大好物なのです。
「多分普通の蜂の中に、ナイトビーが混ざったのよ。ナイトビーの唾液には神経毒が微量に含まれてる。この神経毒で敵を弱らせて逃げるからね」
ナイトビーは強い魔物ではありません。また夜行性なので、外敵にも会いにくいのです。なので敵は弱らせ逃げるのが勝ち。普通の蜜を集める蜂は昼間行動するから、ほとんど混ざることは無いんだけど……ナイトローズが深夜が真っ盛りだから、普通の蜂もついつい夜中まで働いてしまったのかもしれない。
「ベルガモットの高揚作用が、微量に混じった、ナイトビーの神経毒と反応した訳。神経毒は興奮作用も有るから、神経が高まったまま眠りについて、その結果があれです。まんま夢遊病です。このワインの製造元には、説明をしておいた方がよいと思います」
ベッドに二人で正座して話をしていたら、コンコンと船室の窓がなります。あっ!グレイです。私はベッドから飛び降り、グレイをお部屋に招きます。
「グレイってば! 直接入ってくればよいのに。わざわざなんで窓から?」
「アリー、モコモコ可愛いね。一応僕も深夜の訪問では、多少の遠慮はするからね? ではお届け物です。まずはこれ。【未来への道標】ね。アリーは暫くスキルの転移は禁止。まあルイスが抱っこしてなら良いけど。心配だからこれ使いなさいって。でも単独では禁止だよ」
……もう妊娠が伝わっているの?
「あとこれは隣国に嫁いだ姫様からのお礼状と気持ちだって。王様が預かったそうだよ」
「そう言えば……隣国の王太子夫妻も私たちの結婚式にいらしてましたね。かなりのラブラブっぷりで、お世継ぎの心配はいらない位だとか?お時間がなくて披露宴にはいらっしゃいませんでしたが……しかしなぜ?あ!あぁそうですね。あれですか!」
はて?あれってなんでしょう?
「アリーはわからない? カーバンクルのお姫様だよ。紫のカーバンクルをタイルに封印したお姫様ね。今回里帰りして王様に話を聞き、ダンジョンにお詫びに行ったんだ。紫のカーバンクルは既に聖獣になってあの場にいなかったから、僕が頼んで呼んで貰って、謝罪の仲介をしたの」
姫様は反省しカーバンクルに真摯に謝罪をしたそうです。紫のカーバンクルも、己の未熟さを反省して、幼い頃の姫様を許したそう。そして私に会えて良かったって。もし先に私に出会っていなかったから、姫様が許せなくて聖獣にはなれなかったかもって……
私との出会いは偶然だよ。でも仲直り出来たなら良かった……
グレイは夢遊病モドキの原因となる、ワインなどについてを、椿姫の国の王太子様に伝えに飛んでくれるそうです。何度も往復させてごめんね。ボートの件でも飛んでくれてるのにね。
お礼に気持ちばかりですが、試作中の『ぽんぽんカラフルアラレ』をおやつに差し上げましょう。これは味見用に既に揚げてありますが、本来は揚げる前の状態で冒険や旅に携帯します。油に浸った状態で火にかけると、ポップコーンの様にポンポン弾けるのです。すでに色別に味もついていますので、携帯食料として便利です。調理すると一気に増えるので、パーティーでの冒険に良いですよ。
「あ……個別に使用するなら大丈夫だよ。グレイご苦労様。ころポックル亭の保存庫には、冷たいデザートも入ってるから食べてね。みんなによろしくね」
そうです。もちろんどちらも個別に使用するなら大丈夫。相互の副作用の上、たまたまナイトビーの神経毒が混ざったからなのですから。
私たちは 一息ついて甲板に出ます。じゃあまたねと、グレイが飛び立ちました。あっという間に消える姿。瞬間移動で飛びましたね。直接椿姫の国に飛んだのでしょうか?まだ薄暗い景色の中、夜空にはキラキラとたくさんの星が瞬いています。ダンジョンの中なのに本当に不思議ですね。
「アリー。体を冷やすと大変です。そろそろ戻りましょう」
ルイスが私の肩を抱き寄せ、帰路を促します。
「そうね。もう一眠りできそう。なんだか眠くなってきちゃった……」
私はルイスにもたれかかり、そのまま寝てしまったようです。朝までグッスリと寝てしまい、おはようのキスでしっかりと、魔力補給をされちゃいました。
しかし朝からキッスは……中々なれませんね……
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