【完】まだまだ宜しくないヤツだけど、とりあえず婚約破棄しない(確実)

桜 鴬

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 うーん。しかしあの怒鳴っている男性は誰だろう?貴族なら顔くらいはわかるはず。でも心当たりがまったくない……その彼の後ろ手に庇われている女性は解る。確か次代で貴族の血を混ぜなければ、爵位返上になるウイズ男爵家のお嬢様よね。

 初代ウイズ男爵は、山歩き中にミスリルの鉱脈を発見したの。規模はそんなに大きくなくて直ぐに廃坑になったけれど、それでも莫大な財となった。しかもその財のほとんどを、国と孤児院へ寄付してしまう。

 『子供たちは立派に独立しているし、年寄り二人が使いきれない金を持っていても、世の中のためにはならん。国と未来のある子供たちに回してくれ』

 こう言ったそうよ。それにいたく感動した国王が、廃坑になった山一帯を領地として与え、彼に男爵位を授けた。しかし彼は、己は貴族なんて出来はしない。妻子もいるし青き血の盟約も果たせない。子孫に重荷を背負わせたくはない。そう言い張る男性を国王はさらに気に入ってしまう。

『青き血の盟約は任意だ。無理ならば子孫が爵位を返上すればよい。男爵領となる一帯はミスリルと寄付で豊かになった。領地の経営も代官を送ろう。貴方は領民の代表として、己が豊かにした土地と民とを愛して欲しい』

 この一帯はまさか鉱脈が有るとは思えないほどに自然が豊かだった。この王の言葉により、国からは信用できる代官が派遣された。先代は喜んで木こりを続けながら、ふもとの孤児院や村里の領民たちと交流を持ち、領民に寄り添う領主となった。体力が続くまで山歩きは止めず、季節の恵みを領民と共に食べ、夫婦で仲良く余生を送った。

 奥様は数年前に他界し、先代は昨年末に大往生したのよね。その後爵位は返上される予定だったが、息子が爵位を継いだと、最新版の貴族年鑑には記載されていた。たしか先代が爵位を得た時にはすでに息子と娘は成人して子供もいたし、両親の面倒を見ぬかわりに、後継者になるつもりは無いと言っていたはず。先代も貴族位を気にすることなく暮らしていたので、己の死後は国に返還する予定だったという。

 もちろん今回の死亡により、一緒に暮らしてはいなくとも、親族たる子供たちには相応の遺産が分配された。

 爵位については返上が暗黙の了解だったためか、正式な遺言がなかった。しかし小さくとも領地持ちの貴族には、爵位も親族に相続権が発生する。

 先代は貴族としてより、領民とのふれ合いや語らいを大切にしていた。収入は領地のためにしようし、慎ましく生活していたそうよ。だからきっと遺産の額に驚き、爵位に目が眩んだのでしょうね。

 しかも息子が己の子で盟約を果たすと言う。必ず貴族の血を混ぜると言い、己が爵位を継ぐと爵位継承を強行したのよ。しかも国からの代官を解雇したのよ。勉強もしていないのに、己でなんとか出来るつもりなの?

 案の定……慈善事業や災害復旧工事などを止め、先代が下げた税率を引き上げた。なぜ税率を下げたかも調べずによ!これはすでに国でも問題になっている。

 でもバカよね。ならば子を当主にすれば良かったのよ。そうすれば三代までの柵が、孫にまで持ち越せたじゃない。まあつまりはやはり、棚からぼた餅の遺産に驚いて、爵位を惜しんだのでしょう。己が貴族家の当主になりたかっただけ……。

 ……ふと違和感を感じると、給仕がワイングラスを取り替えてくれる。あら。気が利くじゃない。って……チラリと給仕の顔を伺うと、ニコリと微笑み去ってゆく。リーダーの教育も中々じゃない。背後に回られるまで気づかなかったわ。油断大敵ね。

 さりげなくワイングラスの下敷きに挟まれた紙を抜き取る。

 ふーん。先代の孫となる子供は二人。息子は貴族学園に編入し、領地の経営学や貴族としてのしきたりを勉強中。しかし特に女性関係の素行が悪すぎて、周囲には遠巻きにされている。強引な性格が災いして、暴行未遂まで犯している様だ。おかげで父親も貴族家の嫁を探すのに難儀しているらしい。

 厚かましくも国王様に口添えを頼んだらしいけど、国王様は初代の人柄に惚れたのよ。ご両親の面倒もみず、遺産を貰い爵位にまで欲をかく者に、手を貸すわけがない。王としての本音は、爵位を継承させたくないみたいね。まあこんな感じでは、国王様に忠誠心もないでしょう。絶対に先は短いわ。

 現在知らぬ顔の男性の、後ろ手に庇われているのが娘。同じく貴族学園に編入。性格は……前回のローズマリーと一緒の、私はヒロインってヤツ。脳内お花畑のおバカちゃん。それで今回の当て馬ターゲットがブライアンな訳か……

 なぜにブライアン?どう無理をしても公爵家の正妻に、男爵家の娘は無理だぞ?ん?正妻は狙っていない。お腹の子供だけを認知して欲しい?はて?それでなんの得があるの?

 あら?またひと舞台始まるようね。

 「ブライアン殿! 確かに貴方はたくさんの女性を娶ることが出来る! しかし私には彼女だけなんだ! だからお願いだ! ナナを解放してくれ! 貴方にとっては、数いる婚約者の一人なんだろ? だがナナは私の運命の女性なんだ! 必ずお腹の子供毎愛すると誓おう。公爵家の継承権もいらない! 」

 「僕はたくさんの女性を娶るつもりはないし、そのナナとか言う女性も知らないよ。ちなみに婚約者もまだいない。正妻の座も埋まらぬ内に、僕は正妻以外の妻を娶るつもりもない! たとえ政略的に必要だとしても今現在では!側室や愛妾などは、公爵家嫡男の義務としてありえない!  運命の愛だなんだと、騒いだりもしない!」

 いかすわブライアン!でもそろそろ僕は卒業したらどうかしら?


 「……そんな! 我が家に青き血の盟約があるからと! 兄に嫁が見つからないならと! ならば私を愛妾として貰ってやると父に話したそうですね! 私がメイドとして働いていたのを見初めたと! 誕生する子に公爵家の継承権は与えられぬから、男爵家の後継にしろと無理やり婚約を!」

 「ブライアン殿はナナの男爵家まで乗っとる気なのか! この人でなしが! しかも男爵家に拒否権はないと、メイドとして働いていたナナを! ナナは妊娠してしまい、どうしようもなくて公爵家を逃げ出して来たんだぞ! 」

 ……この茶番劇はなんなの?いったいなにが目的なの?それにこの男性は誰なの?ナナとか言う女性の恋人らしいけど……

 「ところで君は誰なの?」

 ブライアンナイス!それたぶん皆さん知りたがってるから!

 「ふざけるな! 私は同じ貴族学園に通っているクラスメイトだ! 平民枠の特待生だからとバカにするな! ローズマリーと共にいただろうが! 貴様たちはローズマリーにイカれていたくせに、ナナにまで! 終いには私が邪魔だからと、学園では様々な嫌がらせをしやがって! 先日などナナと私を学園の池に突き落としたくせに! 」

 「……ごめん。やはり君なんて知らない。それに成り上がりの男爵家なんて要らないよ。先代は素晴らしい人柄だったけど、今回はダメだね。領民を蔑ろにして悪事ばかり。まあ悪事だと感じてないみたいだけど、過剰な税率の上昇と取り立ては違法だよ。僕は公爵家の領地運営と政務を真面目にこなすので精一杯だ。焼け焦げになりそうな不良債権モドキはいらないし、僕はあちこち手を出して、一部に手を抜くのは大嫌なんだよ」

 学園で池ポチゃって……ブライアンがそんなこと出来る訳がないじゃない。こりゃたぶんまた、ローズマリーの時と同様だね。

 アノ時は自作自演での階段からの突き落とし。犯人と名指しされたマリエンヌは、貴族学園には通っていなかった。

 たぶん今回も自作自演での池ポチゃでしょう。そして犯人として名指しされたブライアンは……

 あーあ。二番煎じ過ぎてつまらない。めんどくさいから、その二人を締め上げていい?

 えーダメなの?どうして?だってブライアンには、立派なアリバイもあるじゃない!しかも我が弟ながら立派になったわ。やはり私の特訓のおかげよ!ブライアンやれ!殺ってしまえ!

 確かに……動機は解らないけど……チョビッと弄れば白状するわよ。そういうのがお得意な方々がたくさんいるじゃない。

 泳がせろ?

 ……そんな必要なし!私は早くお家に帰りたい!

 *****
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