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しおりを挟むふぁー。眠いなー。そういえば今日の夜会の趣旨はなんだったかしら?
……そうよ!正国への援助を他国と合同で行うため、皇太子様と婚約者たる私が同行するための壮行会じゃない。現在正国は復興中で、近隣諸国の援助により成り立っている。
特に魔の森。正国には生産能力がない。山々は鉱山ばかり。しかも資源は乏しく、すでに廃坑となっている。領土に面している海岸側は、断崖絶壁な荒海。さらには土壌には塩分を多く含み、食料となるべき植物が育たない。つまりまともに自給自足すら出来ないの。輸出入に頼るにも、外貨を得るための生産物がない。これらを解消するために、いろいろな国の力を募っているの。
そこでまずは魔の森の資源の有効活用よ。ここは魔物も多く危険だけど、たくさんの資源やお宝の宝庫でもあるの。だからまずは冒険者ギルドを設置した。しかし今まで魔物と対峙したことのない、正国の国民には知識も体力もなにもかもが不足している。それらを解消し庶民でもギルドに登録し、魔の森で採取出来るようにする。そのための森に入る知識や戦闘力を、近隣諸国からのボランティアに依頼している。
その冒険者ギルド関係を、我が国は私が請け負っていたの。主に魔法や戦闘に適正のある人をみつけ、それら専門の訓練を施す。私は転移が使えるから、結構忙しく飛び回っていたんだけど、その時に魔法大国の先の国の女性と仲良くなったの。その女性は結婚前まで魔力を封印されていて、己は魔力なしとして生活していたそう。しかしスキルというものが別にあり、それ得て魔法のように扱っていた。
スキル……彼女の国ではスキルが職業と密接している。魔法も魔力があっても、スキルが無ければ使用できない。もちろん努力すれば、意図的に欲しいスキルを後天的にもゲット出来る。しかし必ずではない。さらには上位スキルに特殊スキル。話を聞けば聞くほど興味深い。所変われば品変わるということなのでしょう。
特に特殊スキルについては秘匿されている。例えば彼女の使用する、特殊スキルの【リターン・アドレス】私が魔法で使用する【瞬間転移】と良く似ている。彼女のスキルでは一度その場に行き、移動先としてのホーム登録が必要。だが私の魔法では転移先の座標を魔方陣に組み込むことにより、見知らぬ場所にも転移出来る。この様な差異もあり、なおさら興味深さが増すの。
さらに驚いたのが【インベントリ】よ。このスキルは異空間に繋がっているそうで、マジックバックのさまに袋が必要ないの!しかし彼女はマジックバックの自作の方に驚いていたわ。マジックバックはダンジョンからのお宝としてゲットする貴重品だそう。でも……ドラゴンやお屋敷そのものをしまって運んでしまう、インベントリの方が凄いわよね?魔道具は付加魔法や魔力の再充填しかしたことがないと言っていたの。かなり興味があるみたいだし、私もこれからが楽しみなの。
でもねぇ……
彼女の旦那様が、とても心配性で焼きもち妬きらしいのよねぇ。だって彼女と泊まりで依頼をご一緒している間にも、移動先毎に連絡が入っているの。少し忙しくて返信が遅れると……
『泊まらずに帰宅し朝また戻りなさい』
これだけ記載された封書を、空色の小鳥さんがすぐさま咥えて飛んでくる。鳥さんの目的は手紙のお届けではなく、彼女に会いたいからみたいで、彼女も鳥さんも手紙の返事を完全にスルーして遊んでるわ。鳥さん……グレイと呼ばれているけど、いつ私には本当の姿を見せてくるのかしら?どうみても普通の鳥さんではないわよね?もの凄い魔力とオーラが洩れているもの。
そんな彼女もかなりの魔力持ち。兄弟子さんたちが魔法陣魔法を使うので、かなり勉強はしているみたい。ならば是非グレイシー様を師匠として紹介しようとしたんだけど……
男性はダメですって!やはり旦那様は焼きもち妬きなのね!ならば是非とも私が教えて差し上げましょう。彼女とは同い年なの。是非お友だちにもなりたいわ!ってな感じで、私的にかなり強引に彼女との距離を詰めたの。国の力も使ったわ。彼女の特殊スキル同様に、一応私の規格外だと言われる魔法の力は、国外には秘密となっているからね。
実は彼女が結婚前から、度々我が国のギルドで見かけていたの。直接ギルマスと話していて、いつかの間にかいない。たぶん訳ありなんだろうな?とは感じていたの。だってかなりの手練な影が付いていたのよ。それに彼女は気付いていないかも知れないけど、さすがの私にはバレバレよ。それで調べちゃった。
彼女も私と同じような境遇だった。優れた力は己の力にはなるが、わざわいも引き寄せてしまう。彼女は幼少時にご両親を、その特別な力のせいで亡くし孤独になった……私は貴族だったから、周囲に守られていたのだろう。彼女は守って貰えなかった……けど今はたくさんの仲間がいる。たくさんの人たちに守られている。それは彼女のスキルだけのためではない。彼女の生き方。彼女が周囲に愛されているから。そして誰もが彼女自身を好きだから。
私もそんな彼女が大好き。最近は商会からクッキーも購入させて貰ってるの。その際にはお互いの国の魔の森で討伐したりしてる。たまには女同士も良いじゃない。エドワードがベッタリで。正直者疲れるの。彼女もやはり旦那様がベッタリみたい。よく考えてみたら旦那様とエドワードって、とても気が合うのではないのかしら?私たちがお互いの息抜きにピッタリならば、あの二人もそうなってくれれば……
ううん。互いに影響されまくり、余計に酷くなったら不味いかも……
まあ今回はお互いにお相手同伴だから、さすがに討伐とかではっちゃける訳にはいかないわ。
彼女が結婚し、国から外交名誉特使という肩書きを正式に受け取った。彼女の出自は公然の秘密となっているけど、出自だけでも通常なら特別視されてしまう。特殊スキルの件をあわせたら、我が国なら必ず王家にとりこまれている。しかし彼女は自由を選んだ。そしてそれをかの国の王も貴族議会も認めた。周囲が彼女をサポートしてくれる。本当に良い国よね。見習いたいことがたくさんあるわ。だからね。我が国の王に進言したの。仲良くなる価値ありってね。
うふふ。おかげでエドワード無しで彼女と会えるの。彼女とは魔物の討伐にも行けるから、何をするのも楽しくて困ってしまう。しかし最近ロジャースが邪魔するのよ!私が彼女のクッキーを分けてあげたら、冒険者のために大商会で売りたいとか! 彼女がマリエンヌのお料理とお米を見て、帝国の文化と似ていると話していたら、帝国に行きたいとか言い出して、彼女との縁を結んでくれとか……
彼女の国の商会の一階には、近隣諸国の特産品を販売するブースがあるの。その売れ筋や状況を見て、国は各国との貿易を決めるらしい。帝国のブースも有るらしいから、そこで我慢しなさい!私だってまだ彼女の国に訪問していないのに!まったく商魂だけは逞しいんだから!
販売ブースへの紹介ならするわよ。マーガレットブランドの宣伝にもなるからね。まあさすがにロジャースでも、帝国と直に商売するのは難しいでしょう。ようやく鎖国を開いたばからりだというし、我が国からでは距離的にも無理よね。でもダンジョンの内部にしか魔物のいない国って……本当に興味深いわ。
……しかもマリエンヌの前世の知識と似ているという帝国。マリエンヌも気になっているみたいだし、とりあえず彼女の国に訪問する方が先よね。
あーあ。アリーに会いたいわー。
「ブライアンの姉上! あなたは次期王妃として、弟のしでかしたことに恥ずかしくはないのか? 己の身分を振りかざし、たかが男爵家とナナを貶める! ナナは気丈にも、己の子を堕胎はしたくない。己でしっかりと育てたい。だからもしものためにと、子の認知だけを求めているんだ! 俺はそんな健気なナナを愛している! ブライアンは殺してやりたいが、それではナナを守れない! あなたも同じ女性ならば! ナナのことを思いやれないのか? 」
……おい……とばっちりかよ。だが良いのか?私に振って良いのか?倍返しでは済みませんよ?
まったく仕方ないわね……
「グレイシー様はいらっしゃいますか? 申し訳ありませんが、魔力検査の魔道具をお借りできますでしょうか? 取りに行くのに魔力は足りますか? 不足ならこちらを……」
グレイシー様が人ごみの中から、こちらへ向かい歩いてくる。私は話をしながら転移のネックレスを差し出した。
グレイシー様がネックレスを受け取り、その場から忽然と姿を消した。
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