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しおりを挟むグレイシー様の消えた場所に、ものの数分も経たずに人影が戻る。現れたグレイシー様は大きな箱を抱えて、さらに一人の女性を伴って来た。あらあの方は……グレイシー様、お心遣いをありがとうございます。さて一仕事しますか!
「さて。ではまず先にお二人に質問があります。簡潔に答えてください。我が公爵家は逃げも隠れも致しません。もちろんナナさんとやらのお腹の子が、間違いなく公爵家嫡子であるブライアンの遺伝子を持つのであれば! これだけの貴族の集まる場での公表です。公爵家嫡子の実子としてもですが、とうぜんながら継承権も認めます。これは公爵家長子である私エリザベートとして、さらには皇太子様の婚約者としての宣言です」
「姉さん! 僕は潔白だ。姉さんがその重大な立場をかけてまで宣言する必要なんてないよ! 下手したら婚約破棄じゃないか! こんな茶番は必要ない! いったい動機は何なの? 僕の正妻になりたい訳じゃないくせに! それより皇太子様を怒らせてどうするのさ! 姉さんを害したら、この国が滅んでしまう! 今からでもいいから、皇太子様の婚約者の立場はひっこめてよ! 」
……ブライアン……まだまだ勉強不足のようね。それに無理よ。ウイズ男爵家については、王様がかなりお悩みなの。
「ウイズ男爵家のナナ嬢? あの放蕩ドラ息子のお兄様に貴族の婚約者がみつかったかしら?だから貴女はその平民の方と結婚するの? それはとてもおめでたいことね。国王様は嫁の候補がいないと悩んでいました。貴女を貴族へ嫁がせるか婿をとり、その子を次期当主へとも悩んでいました。初代ウイズ男爵は、子孫に婚約を無理強いしたくはない。自身で貴族位は返還すると王に宣言していたそうよ。本人の意思を尊重するためにも、口約束だけではなく、遺言書を用意させておくべきだったと嘆いていらっしゃるわ。まさかこんなに急に亡くなるとは、思いもしなかったとね」
そう。初代ウイズ男爵は、まさか音沙汰もない息子夫婦が、今さら跡を継ぐといいだすとは思わなかった。娘夫婦は身に余る財産は必要がないと、遺産を辞退したそうよ。だから……
まあこれらを総合したら、そろそろ皆さんもこの二人の目的が解るでしょう。二人は恋人同士。お腹の子は十中八九、一緒に怒鳴っている男性の子でしょう。そして結婚する予定が……
なぜか出来なくなってしまった。それはなぜなのか?すでにお腹には子供もいるのに。
これは二人の意思なの?
違うわね。間違いなく引き離されようとしている。それとも二人で男爵家の後継者になりたいの?
「なのに貴方たちはなぜ、ブライアンとの子としての認知を望むの? もし本当にブライアンの子ならなおのこと、ここで公にする意味が解らない。しかも無理やりなら犯罪よ。嫡男たるブライアンが犯罪者になれば、もちろん公爵位は継げない。廃嫡よ。そこに我が子を捩じ込むおつもり? 悪いけど犯罪者と貴女の子では、公爵位は継げないわよ。貴女に運良く後ろ楯になる養子先が見つかれば、無理やり母子で入り込むことは可能かもしれない。子が男子なら後継者になる可能性もあるけど、我が家には私もマリエンヌもいる。貴女の子に継がす位ならば、どちらかの子を養子にするわね。たとえ世間体のため引き取っても、ゆくゆくは男子なら母とともに領地の離宮等で飼い殺し。女子なら政略結婚の駒か修道院ゆき」
「ひ……酷い……。わ……私はただ……罪を認めて認知して欲しいだけで……男爵になんてならなくても良いし……ましてやこの子を公爵になんて望んでいない……」
「だからさぁ。仮に僕が認知したとして、君たちになにか得があるのかときいているの。 しかもこんな大勢の前で……慰謝料か養育費でも欲しいの? あとなぜこの場なの? 普通ならこっそりと相談するよね? まあ相談ってより脅迫だけど。でも僕が身に覚えがないことを、認める訳がないじゃない。つまりこれらは僕に対する侮辱罪だよね」
ブライアン! もうひと押しよ!家名で思い出せ!
「うるさい! ナナは誰にも渡さない! サッサと己の子だと認めろ! 慰謝料も養育費もいらない! 認知の証明さえあれば、ナナに無理強いしたことも忘れる! だから認めろ!チクショー! 認知の証が欲しいんだよ! 貴族の血を引く証明書だよ!それさえ有れば、全てが上手くいくんだ。クッソー! ウイズ男爵家なんて滅びちまえ! 」
「ウイズ男爵家……ああなるほどね。どうしようもなくてこうきたか……王もお痛わしい……でもなんで僕をあて馬に選ぶの? 」
ブライアン……ようやく回答に辿り着いたのね。たしかに無理やりではあるけれど、男爵家は生き延びる可能性が出来るからね。最後の無駄な悪あがきってやつよ。
「 頼む……認めてくれよ……そうしないとナナと結婚出来ないんだよ! ブライアンはたくさん妻を持つんだろ? なら子供だってたくさん出来るだろ? それなら一人くらい書類上の子が増えても構わないじゃないかよ……頼むよ……」
二人が寄り添い泣き出してしまう。しかし現当主は余程焦っているの?たしかに領地は火の車で、先代があれほど残していた遺産を食い潰したみたいだけど……
「あなたたちは貴族になりたいの? 」
無言ね……震えているだけ……
「産まれた子供を手離す覚悟はあるの? 」
首振り拒否ね。やはり……
「まあ良いわ。とりあえず白黒つけましょう。魔法大国のグレイシー様に、魔道具である魔力測定器をお借りしました。我が国の魔力検査は幼少時に教会にて、義務として必ず実施されています。この魔道具はその際に使用するものより、格段性能をアップさせたものです」
「魔力検査をするのか? なぜだ? その男は平民だから魔力はないよな? 女も男爵家とはいえ、まだ青い血は混じっていない。我々の様に平民でも魔力持ちはいるが、普通に考えたらどちらにも魔力はないだろう。ああっ! なるほど!そういうことか! 」
はーい。ロジャースはさすがね。すぐに正解にたどり着いた様ですね。しかしブライアン?貴方はまた首を傾げているの?なぜ魔力検査なのか理解できないの?もう!だからあて馬になんて選ばれるし、バカにもされるのよ!
手を取り合い泣いている二人も、魔道具を見て不思議そうだ。こちらも気付いていないのね。まあブライアンは魔術師として世間には知られていないしね。もしかしたら、魔力もほとんど無いと思われてるのかも?
あの婚約破棄の件では情けなさ全開で醜態を晒してしまった。特に学園で魅了に捕らわれた姿を知っているならば、情けなくて弱っちい、ごりおししやすく見えただろう。さらには正国の姫様との婚約解消。これは仕方ないことだっだのだけど、現ウイズ男爵は現在ブライアンに、婚約者がいないことも視野にいれているのだろう。
本人にその気はなくても、あわよくばってね。
もう少し早く、ブライアンを鍛えるべきだったわね。
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