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⑥
しおりを挟むはあ……とりあえずブライアンの潔白を証明しましょう。私は魔道具の側に立ち話を始める。
「では皆さん説明しますね。私がさきほど得た資料によりますと、ナナさんにもそちらの男性にもまったく魔力がありません。ゼロです。これが証拠となる教会に保存されていた記録です。ただし希に体が成長してから、魔力が解放される場合もあります。そのため、先にお二人に測定願います」
二人はグレイシー様に促され魔道具の側に行き、大人しく抵抗もせずに、それぞれがベルトを両手首に装着して測定を開始した。しかし魔道具はまったく反応せず、白紙の結果だけを打ち出す。
「お二人ともに、まったく魔力は有りません。結果の用紙はキレイにまっさらですね」
グレイシー様からの結果を聞き、私は次の指示を出す。
「では次はロジャース! 測定してみて。次がリーダーね。最後がブライアン。この順番が一番解り易いから! 」
ロジャースが測定すると魔道具が発光し、用紙には大きくEと記載された。
リーダーが測定すると強く発光し、用紙には大きくBと記載された。
最後にブライアンが測定すると輝く様に発光し、用紙には大きくAと記載された。
「光の強さの違いが解りましたか? これは魔力の量の違いなの。魔力量はAからEまでの段階がある。Aが高魔力ランクで、Eが微量ランクね。我が国での魔力持ちは、高位貴族に多いことは常識だけど、ロジャースの様に、貴族の血が必ず必要な訳でもない。ご先祖に魔力もちが混じれば、先祖返りも生まれるの」
そう。ロジャースは自力で貴族位を得た。しかしまだ青き血は混じっていない。しかし微量だが魔力もち。いわゆる先祖返りでしょう。大商会初代の、始まりの異世界人の血のためかもしれない。まあロジャースはマリエンヌとの婚約を認められているし、青き血の制約は気にもしていなかったのでしょう。
だってもとはマリエンヌに釣り合うために、上を目指してたんだもの。意外に可愛いヤツなのよ。ニヤリ。
「おい! なににやついてるんだ? 気持ち悪いな。さっさと先に進め! 」
ロジャースめ……覚えてなさい……この照れ屋さんめ! あ……マリエンヌいわく、ツンデレさんと言うんだったわね。
「さて。ではこれからが本命です。ナナさんのお腹の中の子の、魔力を測定させていただきます。グレイシー様が女医さんを連れて来てくれています。もちろん服の上からでも可能ですし、妊婦にも胎児にも影響は有りません。では宜しくお願い致します」
ブライアンやその他野次馬さんたちも、ようやく魔力測定の意味が理解できたようだ。まあ普通ならこの魔道具で、親子鑑定は出来ない。
しかし今回は魔力無しのナナさんと、高魔力持ちのブライアンだから出来たこと。さてさて。
ナナさんはすべてを諦めたのか悟ったのか、大人しく用意されたベットに横になる。女医さんが彼女の上着の裾から手を差し込み、膨らんだお腹にペタペタと丸いものを貼り付けた。
「では測定します」
…………
何の反応もない。やがて魔道具から白紙の紙が吐き出された。静まり返る会場内……
「やはり胎児に魔力はありませんね。つまりこの子の父親はブライアンではありません。というか有り得ません」
「なぜだ! ナナの性質が遺伝したのかもしれない! それにブライアンに! 本当に高魔力なんてあるのか? 学園では魔法系統の授業を、一つ選択していなかったじゃないか! 」
たしかにここまで高魔力ではなかったわね。魔力量が跳ね上がったのは、私に鍛えられたからよね。
「魔力量はもとから中程度はあったよ。でも僕は公爵家を継ぐために、学園では領地経営に係わることを重点的に学んでいたからね。それがいきなり上昇したのは、姉上に鍛えられたから。経営だけでなく体も使える領主になれって……魔法ばかりでなく、剣術に体術まで鍛えられたんだから! 公爵家当主で宰相候補の僕が! なぜ魔の森で、魔物を楽々討伐できる実力が必要なの? 皇太子様のトバっちりだよ……」
なんならお二人も鍛えて差し上げましょうか?しかし残念ながら、さすがに魔力無しを有りには出来ないの。この世界の魔力なしのほとんどは、魔力回路自体がないの。たぶん後天的に魔力を手に入れた者たちは、過去に始まりの異世界人の血を引いているのでしょう。きっとその先祖返り。無理やりこの世界に集団転移させられた、始まりの異世界人たちには、魔力の器はあれども魔力回路の解放がなされていなかった。だから魔法は使えない。その名残がなにかのきっかけで、解放されたのでしょう。
無理やりではなく神が仲介した異世界人たちは、魔力回路を神の手により解放され、チートをかまして無双するらしい。
どうやら私も始まりの異世界人の、先祖返りみたいだけど。
「はーい。ここまでー。残念だけど両親のどちらかに魔力もちがいる場合、子の魔力がまったくのゼロというのは有り得ないの。最低Eが出る。まあEでは魔法はほとんど使えないけど。だから貴族位を得た初代は青き血の盟約を課せられる。貴族の血=魔力の存在よ。魔力持ちを減らしたくない。だから貴族は、政略結婚がほとんどなのよ」
黙り込む二人……でもこの二人はたぶん……
「特に高魔力の親からは高魔力の子が誕生しやすい。それにあまりに魔力量に差があると、体の相性が悪いそうよ。子供が出来にくくなるし、魔力を持たない妊婦に負担がかかる。だからブライアンの嫁には高魔力持ちが望まれているわけ」
私が説明をしていると、扉が開き一人の女性が入場してきた。会場中の視線が、一斉にその女性に注がれる。
「ブライアン様? 本日は私のエスコートをして下さる予定でしたわよね? 待ちくたびれて首が伸びてしまいましたわ。お茶のお代わりももう要りません! 暇だと呟いていましたら、面白い寸劇が行われていると侍女に聞きまして……」
「ソフィア姫! 」
ブライアンが慌てて姫に駆け寄り手を差しのべた。その手をペシリと払われる。
「ブライアン様はそちらのナナとか言う小娘と浮気していたそうですね。しかもお腹には子もいるとか? まあそれは男の甲斐性として目を瞑りましょう。しかし嫉妬でくだらぬいじめをしたとか? 学園では池に落としたそうですね。しかしあの池に落ちて良く生きていたこと」
「誤解です! 僕はあの学園にはいませんでした! この一年近くは貴女と過ごしていたはずです 」
「ええたしかに……しかし学園には私と毎日通っていましたよね? 」
「そうです。僕は貴女と学園に通っていました! しかしその学園にあの二人はいません! いじめも潔白です。僕はそんな卑怯な真似はしません」
「「…………」」
まったくめんどくさいわね。はっきりしなさいよ!
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