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しおりを挟むふわー眠いわー。ただいま私たちは、荷物をたくさん積んだ荷馬車の出発を、お城のバルコニーから見送っている。この後私たちも、騎乗で正国へ向かう。と言ってもこれは国民へ対するデモンストレーションみたいなもの。城下町を出た所で、我々は瞬間移動で移動してしまう。何故って簡単なこと。
我が国の協力で正国は頑張っています。私たちの援助が実を結んでいるんですよー。という、イメージアップなの。皇太子様と婚約者の私が、騎乗で出発したのもいわゆるイメージアップ的なもの。皇族も頑張っていますよ!の、宣伝なのです。もちろん頑張っていますしね!
「……昨晩は結局部屋に戻らなかったのか? 」
「……仕方ありませんよね? ウイズ男爵の妹の家族と、娘と彼とその家族。すべてに話をし、納得させたのです。さらにはすでに正国へ移住させました。国王様のお墨付きですよ? 」
背中に突き刺さる視線をスルーし、私たちは正国のお城に向かう。新国王となったレイシス王が私たちにお礼を述べる。今朝方私が送り届けた人々は、すでに大神殿にて働いているそう。皆さん働き者で、正国がもう少し復興したら、皆で食堂を開業したいと話していたそう。
レイシス王にもすっかり威厳が備わって来たわね。かなりの貴族を粛清したそうだけど、やはりすべてを掃除できなかったそう。親が忠臣でも嫡男は愚息とか……そう逆も有るわけ。そういうこ悪党どもが、復興がなされてくると顔を出し始めるの。あれから約一年……悪の芽がチラホラと……
レイシス様頑張って!
未来の話が出きるのは、先に希望があるからよね。そんな王が治める国での再出発。苦労はあるでしょう。でも……きっとあの家族は幸せなれるわ。
さてと。
「では皇太子様。一旦昼までお別れです。大神殿での炊き出しにてお会いしましょう」
「解った。私は運搬された荷物の確認と、建材の在庫を確認し、必要な分を調べてくる」
「はい。お願いします。私は大神殿にて炊き出しのお手伝いをしています。昼からはキャラウェイ王国から提案の、綿花の育成と加工品について、実際に畑と織り機を見て来ます。こちらはご一緒しましょう。ではお昼にまたお会いしましょう」
いったんここでエドワードとはお別れよ。今日は動きやすい格好をしてきたから、いつもの戦闘服(縦ロール)ではないの。だからこのまま走れちゃう。あー!ようやくエドから解放よー。
大神殿までの道のりをスキップしながら歩きだす。街中もかなり復興してきたわね。レイシス王も頑張っているし、ユリウス様も姫様も……それぞれが希望の未来へ向かい進んでいる。
「おーい。エリー様ー。なんなのそのスキップ。早すぎるんですけど? ヒイハア……」
「はぁ? 専任護衛がなにいってるの! 私がしっかり鍛えたのに! まさかついて来れないとか言いたいの? ならエドの専任になりなさいな」
「……それだけは勘弁してくれ。俺はたぶん死んでしまう」
「またまた大げさね」
「俺はエリーの専任だ。だが所構わず皇太子様にも呼び出される。もしエリーの護衛を外れたとしても、監視員に格下げされるだけ。かえって寝るまもなく今より張り付き、頻繁に報告することになるぞ。今は護衛対象がエリーだから、俺はエリーに不利になることには口を閉じることが出きる。だが監視員になればそうはいかない。皇太子様は分刻みでエリーの行動を報告させるぞ。やがて俺は過労で……ちーん」
「……そこまでなの? それではまったく矯正されていないじゃない。もしかして昨晩も寝れなかったの?それでその顔色なのね。スキップは悪かったわ。はしゃぎすぎて知らずに身体強化を使用していたみたい。昼寝して良いから、キチンと休みなさいな」
仕方ないわ。リーダーに倒れられたら困ってしまう。私が皇太子様の婚約者としての護衛を拒否出来ない限り、リーダーがおバカな貴族のボンボンをブロックしてくれているから。リーダーには本当に感謝しているのよ。
リーダーの肩に手を置き、大神殿に瞬間移動で飛ぶ。神官の一人に声をかけ、休憩できる部屋を借りる。
「ここでお昼まで寝ていて。催眠魔法をかけていくからグッスリ眠れるわ。私は炊き出しを手伝うだけだから大丈夫。リーダーが死んだら困るわ。恋人も泣いちゃうわよ」
リーダーがなにかをいう前に魔法をかける。いきなり寝息が響き始めた。
やはり疲れているのね……まったくエドはどうしようもないわね。公私混同も甚だしいわ!なんて今は怒りを収めましょう。今日の炊き出しには彼女が来ているはず。楽しみだわ。
エプロンをして煮炊きをしている広間へ向かう。すでに香ばしい良い香りが漂ってきている。食材を刻む音や、なにかを炒める豪快な音も聞こえてきた。あ!やはりいたわ!
「アリー! こんにちは! 今日もヨロシクね」
「エリザベート様! いえエリー。こんにちは。こちらこそ宜しくお願いします」
アリーがエリーと呼んでくれる。同じ年齢の友人がいない私には、それだけでとても胸が満たされてしまう。恥ずかしいけど、彼女に出会えたことが本当に嬉しい。
「アリー? なんだか不思議な香りがするけど、今日の献立はなんなのかしら? 」
先ほどから気になってはいたんだけど、この奇妙な香りはなんの匂いなの?お腹に響く不思議な香りよね。
「味見をしてみますか? 先日帝国で発見されたばかりのダンジョンに潜った時の、採取品を使用してみました。香辛料の様なので、炒め物やスープに使用します。今日はスープにしてみした。中々独特な色と香りですが、お味はスパイシーで食欲増進に繋がります」
アリーが小皿に黄色いスープをよそってくれる。こっこれは!?味見をして確信する。やはり間違いない!
「これは……もしかしてカレーなの? 」
「エリー? たしかにこの香辛料の実の名前は似たような名前です。これはカレイの実。他にマンボウの実なんてのもありました。マンボウは辛い感じです」
これはやはりマリエンヌの言っていたあれよ!前世ではルウというものがあり簡単に作れたという。しかし実際には何種類もの香辛料をブレンドしたもの。だから中々再現が出来ないとうなっていた。ならもしかしたらあれもあるのかしら?
「もしかしたら! 福神漬けの実なんてのもあるのかしら? 」
「エッエリー? なんだか食いつきが……えーと……少しお待ちくださいね。今出して並べます。これらの実を乾燥させ細かくして、香辛料や調味料として使っているんです」
▪カレイの実。(カレー)
▪マンボウの実。(麻婆豆腐)
▪福ちゃんの実。(福神漬け)
▪キムちゃんの実。(キムチのもと)
▪ヌカベーの実。(ぬか漬けのもと)
「見つけたのはこれくらいです。もしかしたら他にもあるかもしれません。鑑定ではカッコの中の言葉しか出ないんです。実はぬか漬けは帝国に料理としてあるんです。それであわせ調味料では無いかと思い使ってみました」
これこれ!福ちゃんの実!しかも鑑定で福神漬けと出ているじゃない。たしかマリエンヌのレシピノートに材料が!いえ、それより直接マリエンヌを連れてきた方が……
「エリー? 」
「あ……マリエンヌ? 今忙しい?あ……そうだったわね。今日は商会の奥様方の懇親会だったわね。なら貴女のレシピノートを貸してくれる? カレーのルウの代わりになりそうな物を見つけたの! なんと福神漬けもよ!用意していて! すぐに飛ぶわ! 」
くるりと振り返り、アリーに待っててと伝えて転移する。マリエンヌからレシピノートを受け取り再度転移する。
「アリーお待たせ! 実はこのレシピノートに……って!なんで貴方がここにいるの? 私に触ってたの? なら声をかけてよ! 下手したら狭間に落としちゃうんだから! 」
「悪い……だがお前も俺が頼もうと思ったのに、即転移するからだろ! 以前からアリーさんに繋ぎをつけてくれと頼んでも知らんぷりだ。だから強行突破した。決してカレーが食べたかった訳ではない。だがコメコメ大商会の看板は伊達じゃない。マリエンヌの料理に関してなら、 始まりの異世界人からも、我が家に伝わっている。カレーライスについても、少しは役に立つと思うぞ」
ロジャース……アリーがポカンとしちゃってるじゃない。まったく貴方も怖いもの知らずよね。
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