元勇者で神に近い存在になった男、勇者パーティに混じって魔王討伐参加してたら追い出されました。

明石 清志郎

文字の大きさ
40 / 47

40話:祠への道にて

しおりを挟む
 一人屋敷を後にするとリオが後ろから走って来る。

 「ジン!」
 「リオ」

 するとそのまま抱き着く。胸があたり、俺の中にある怒りの感情が少しばかり抑え込まれるような感覚に陥る。

 「ごめんなさい……私の為に……」

 リオは申し訳なさそうな顔でこちらを見る。リオが謝る事じゃないだけにモヤモヤが残る。謝るべきはあいつらなのだから。

 「ハハッ、リオが謝る事じゃないよ」

 笑いながらリオを頭を撫でる。

 「でも……」
 「まぁ金貨五万枚なんて言ったけど俺は誠意がみたいだけだから」
 
 街がみんなで魔物に対抗しようとするその姿さえ見せてくれればそれでいいんだ。

 「わかってるわ……あなたが私を見殺しにしようとするこの街の考えに憤りを見せただけ……」
 「大切な仲間を見殺しになんて出来ないからね」
 「ありがとう。そんなあなたにいつも感謝してる……」
 「ハハッ、当然だよ。その魔物もとっとと片付けちゃうからさ」

 この世界で俺が本気を出して勝てない相手などいるとは思えない。十災なんていうぐらいの魔物だ……少しは楽しませてくれるに違いない。

 「その事なんだけど私も行く」
 「えっ……」
 「元はと言えばこれは私の問題……私が行かない訳にはいかないわ」
 「でもリオにもしもの事があったら……」

 伝説の魔物が相手となれば人間相手には荷が重い相手だ。万が一の事を考えれば連れて行くのはおすすめできない。

 「これは私の問題でもあるわ……ジン一人に任せて指をくわえて待ってるなんて私は出来ないわ」
 「リオ……」
 「フフッ、ジンの事信用してるから……きっとまた見た事もない凄い魔法で倒してくれるのを確信してるわ」

 こっちを見て微笑む……ならばカッコよくその期待に応えるのが男というものだろう。

 「まったく……でもいつも通りその期待に応えるよ」
 「ありがとう……それじゃあよろしくお願いします」
 「二人とも~」

 三人が家から出てきてこちらに来る。

 「倒しにいくのよね?」
 「勿論!」
 「私達も手伝います!」
 「リオのピンチにジンだけに負担させるわけにはいかないわ」

 三人のこの姿勢には本当に嬉しい。だけど今回は三人を連れて行くわけにはいかない。

 「ありがとう。だけど今回は俺とリオだけでいくよ」
 「えっ……」
 「気持ちは嬉しい。だけど今回は相手が違う」
 「でも……」

 四人を全員無傷のまま倒すのもたぶんできると思うけどリスクも高くなる。それに三人にはやってもらいたい事があるからな。

 「三人にはやってもらいたい事があるんだ。だからそっちを頼まれてくれるかい?」
 「わかったわ。その代わり二つお願いね」

 セーブルが納得のいかなそうな表情を見せる二人を抑えて言う。

 「何だい?」
 「絶対二人で帰ってくる事と……二人で過剰にイチャイチャしない事!いいわね?」
 「と、当然じゃない。遊びに行くわけじゃないんだから~」
 「の割には随分と楽しそうじゃない~」
 「目が泳いでますよリオさん」

 三人はジト目でリオを睨む。イチャイチャってまだそういう関係じゃないからな……勿論四人が俺との関係を望むのであれば断るような事はしないが、そうなった時は自分の正体を話さなければならない。話した時に受け入れてもらえるかどうかはまた別問題だ。

 「そ、そんな事ないから!ほら、そういう詮索は命をかける人には少し失礼よ」
 「リオならその状況を利用しかねないからね」
 「シーラの言う通りね」
 「まぁまぁ落ち着いて。すぐ終わるから大丈夫だよ」


 ◇


 夜になり北の祠に向かう。というのも聞いた話リンドヴルムは夜になるほど魔力が増すらしく、生贄を差し出す時間も夜を指定していたからだ。

 「緊張するわね……」
 「緊張しなくて大丈夫だよ。強い魔物を見に行くだけと考えておけばいいさ」
 「それはジンじゃないんだし無理」
 「ハハッ、それもそうか」

 確かに今まで以上にない強い力を感じる。となれば少し早いけどリオには少し話しておこうか。

 「俺が負ける訳ないって思ってる?」
 「どうしたの突然?」
 「こうやって一緒にいくんだし、不安もあるだろうと思ってさ」
 「そうね……こないだの迷宮の事もあるから少し不安はあるわ。だからちゃんと離れないつもりだし」

 リオは俺の腕を掴んで離さない。確かに万が一があるとすれば何らかの形で分断させられた時だろうからな。

 「大丈夫、俺は絶対に負けないから」
 「わかってるわ。だってジンだもん」
 「世の中には強い者弱い者といるけど、強いというのは自分が何者でどういう力を持っているか、それを自覚した上で周りと比較し飛び抜けているかを理解しているかどうかなんだ」

 勿論それをしっかり理解しないのに強いと勘違いする愚か者も中にはいる。真の強者はそれをしっかり理解した者だ。

 「なるほどね。それでジンはそれを理解している感じかしら?」
 「一応ね。勇者としてここに来る前の俺は何をしていたと思う?」
 「勇者として来る前のジン?そういえば考えた事なかったかも……そういえば他の勇者もジンぐらい強いの?」
 「全然、この世界において普通の人間に与えられる加護は一つ。四人はそれぞれ四属性を持っているに過ぎない。ちなみにセーブルなら確実に負けないかな」
 「待って、それじゃあおかしくない?だってみんな同じように召喚されたんでしょ?」

 この話はずっとそらしてきた。ミーナとシーラには仲間に入る時に少し話したが、基本的に勇者についての話はあまりしていない。俺が追い出されたというのを知っているから気を遣ってみんなこの話には触れないようにしているから余計だろう。だがミーナはラシットの街での防衛戦で俺を含めた五人を見ているからもしかしたら違和感があるかもしれないな。

 「どうしてだと思う?」
 「どうしてって……もしかして本当は勇者じゃないって事?」
 「一応勇者さ、だけどは俺は四人をこっちに連れてきた側ってだけさ」
 「連れてきた側?」
 「うん、勿論四人が願った事ではあったけどね。素人で大した力を持たない勇者を育ててて魔王を倒して世界を平和にするってのが最初の計画だったんだけどね」

 まさかああやって追い出されるとは最大の誤算だ。まぁ結果四人と出会えたし良かったわけだけど。

 「まさか私達に勇者の代わりを?」
 「そんな事させるつもりはないよ。四人とは純粋に旅を楽しみたいんだ。この世界の魔王なんて大した事ないからさ」

 四人のような中途半端な存在には魔王討伐を通じて一人前になってもらい、その過程で強く成長してくれればというだけだったからな。

 「あなたからすればそれは当然か。ただいきなりこんな話を打ち明けて何が言いたいの?」
 「俺がこの世界に来た真の目的……それをリオには教えておきたいなって。聞いてくれるかな?」

 こんな事言うのは恥ずかしい。だけどいずれは全員に話さねばいけないと考えている。あの姿を見せて戦うなら丁度いい。

 「ええ、やっとジンの事少し知れたし、最初に私にそれを話してくれるのは凄く嬉しいわ」
 「まぁリオが一番俺の存在疑問だったんじゃないかなってさ」
 「フフッ、確かに三人はジンは規格外だからで自己完結しているものね。私はジンが何者なのかってずっと気になってた。人間を超えたあの強さはなんでなのかって……それがわかれば私ももっと強くなれるのかななんて思ってたから」
 「ハハッ、それじゃあ早速……」

 その瞬間だった。物凄い風が俺達を襲う。

 「キャッ!」

 俺はリオを離さないようしっかり支えて抱きしめる。

 「こいつを忘れていたね」

 突然風が発生したと思ったら空に渦が出来ており、そこから何かがこちらに向かって降りて来たのだ。

 「そいつが生贄か?」

 怨念混じりのドス黒い声が響いた。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...