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4章
85話:街にて
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王都に来て二日目の朝食もサラフィナと共にとる。俺の寝る寝室もこの塔内で、飯も朝、昼、夕の三食付きに午後三時の時間帯に塔にいればティータイムもある。俺のような部外者と同じ場所で寝るのはどうかと思うが、サラフィナ的には問題ないらしい。
「さて昨日のあなたの話は驚いたわ、だから今日もあなたから聞く話を楽しみにしていますわ」
上機嫌にサラフィナは言う。
「おう、ご期待に添えられることを祈っているよ」
「たぶんあなたなら知っているから大丈夫、それで私が今ぶつける質問はこの世界の歴史についてよ」
歴史か……ある程度はこの世界に来る前にランスロット先生に教えられているが……
「歴史?」
「ダーレー教にある世界を統治する最高神ガロピンと四大守護神、その他の神とされる者達がいるじゃない?」
「いるな」
半数以上消滅させているけどな。
「一応ダーレー教で信仰している神が全部で十いるけど、バイアリー教だとダーレー教にある反逆者二十柱が神という扱いになっているのは知っているわよね?」
「ああ」
というかその一柱が俺だ。
「どっちが本当の神かしら?妖精の国では二十柱も十神も信仰の対象であるというらしいのだけど……」
答えは簡単、お互いに神ではない。まぁ二十柱は神に近しい存在ではあるし、二十柱のリーダーたるルシファーさんは俺からしても神と呼べるだろう。
「本当の意味では両方とも神ではないよ。ただ二十柱のリーダーを十神が裏切ったのが始まりだな」
そう、なぜ魔大陸オルメタにおいてバイアリー教というのがあるのか。俺がこの世界に来る前の話だ。ルシファーさんによってこの世界の統治を任されたガロピンが反逆をしたことから始まりダーレー教が設立され、人族側の他種族排除が始まった。だが二十柱でありながらこの世界に残留していた者たちがそれに対抗して、魔大陸を中心にバイアリー教を設立。個々の戦闘能力においては魔大陸側の方が強く、百年前の戦争は人族側の方が折れた形となった。
「ということは本来なら二十柱に正当性があるということなのね」
「そういうことになるな」
サラフィナはこちらジッと見る。
「あなたって何者?本当に冒険者なのかしら?」
サラフィナはこちらを疑いの目で見る。だが俺が冒険者であることはれっきとした事実である。
「れっきとして冒険者だよ。だからこそ魔大陸に入りバイアリー教について詳しく調べることができたしな」
「ああ、そういうことですのね」
そう言うとサラフィナは納得してくれたのかジト目が解除された。
「しかしあなたの奥方がうらやましいですわね~」
「まぁ旦那が俺だからな~」
ついドヤ顔で言ってしまう。
「その顔ムカつきますわね~私としてはあなたのように力もあり知識も有しているような方を殿方として迎え入れたいのですの」
「まぁあんたの場合はそういう相手を見つけるのは難しいだろうな」
ファーガス王国の王女であれば相手に選ばれるのはダーレー教を信仰する有力貴族だろうからな。強くて言いたいこと自由に言える反ダーレー教の相手など、ここにいては巡り会うことはない。
「あなたの奥方は何をしてまして?」
「俺同様冒険者だよ、知識も戦闘能力も同じぐらいで俺はあいつには頭が上がらないんだ」
「あら、羨ましいですわ……」
サラフィナは羨望の眼差しをこちらにむける。
「最高の嫁だよ」
嫁が黙認してくれた女が二人いる事は内緒だ。いずれバレるかもしれんがな。
「是非今度私にも紹介してくださいません?」
「ああ、もちょいしたら王都に来るし俺よりも詳しいからあんたにも今度紹介するよ」
あいつは王の書で俺よりもたくさん知識を吸収しているはずだ。それにそのうち来るあいつと会わせれば、あいつも変な嫉妬はしないだろうからな。
「それは楽しみね。それとあんたと呼ばれるのはあまり好みませんわ」
そういえばサラフィナは俺があんたという度に嫌な顔をしていたな。あんたなんて呼び方は流石に失礼かな。
「それもそうだな、じゃあサラフィナと呼んでいいか?」
様をつけたり敬うような呼び方はしたくはないからな。
「いいですわ、私もあなたのことはシャーガーと呼びますわ」
◇
朝食後に城から王都へと出た俺は王都を探索することにした。最初に来た時は探索する余裕がなかったからな。
「やはり人しかいないか……」
ギャラントプルームは魔族や獣人族や妖精族もいたからな。わかってはいたが寂しさを感じるな。
一時間ほど歩き街並みを拝見した。そして少し外れた所で絡まれて困っている女の子が目に入った。
「なぁそれ俺達に譲ってくれよ」
「これから大変なのよ」
幼気な少女に絡むのは三人は男二人に女一人、どれも見知った顔だ。
「これは駄目です……」
少女は頑なに断っているが目は恐怖に怯えている。
「私達の頼みが聞けないのかしら?」
女は少し威圧的な声だ。
「俺達のこと知ってるよね~」
少女は怯えながら頷く。
「だったらその魔石を俺達の為に譲ってくれるのが道理じゃね」
「そうそう、だって私達この国の為に戦うのよ」
少女は今にも泣きそうだ。当然ここは助けに入るところだ。
「おう、嬢ちゃんこんなところにいたのか」
俺は飛び出し女の子の壁になるように前にでて同時に念話で女の子に語りかける。
「(俺はシャーガー・ヒンドスタン、冒険者だ。助けに来たから安心してくれ)」
念話で名前を伝え、助けに入ったことを伝えると女の子は半泣きの状態で俺にすり寄る。
「シャーガーさん、怖かったです……」
「よしよし、俺が来たからには安心してくれ」
さも知り合いのように見せ、三人を威圧する。
「俺の知り合いに何か用か?」
三人は少し怯んだ様子だがそれでも引く気はないのか突っかかってくる。
「私はこの子に用があるの。あなたはすっこんでいてくれないかしら?」
こいつはクラスメイトの戸山愛だ。短い黒髪とつり目に普通サイズの胸でどちらかというとクラスでは目立つ方ではなかったイメージだな。後ろにいる石橋大と中野敦もクラスでは目立たない方だったな。
「うん?俺の知り合いに恐喝まがいの行為など見過ごせるわけがないだろ?」
「お、お前何者だ?」
中野の奴ビビッてやがるな~三人共そこそこのステータスなんだけどな。
「俺はシャーガー・ヒンドスタン。白金ランクの冒険者だ」
「白金?おいどうする?流石にまずいんじゃ……」
石橋もそれを聞いただけでビビっている様子だな。どうやら冒険者のことはある程度頭に入っているようだな。
「あんた、私達が召喚された勇者だと言うのはご存知かしら?」
どうやら戸山は引き下がりたくないらしいな。
「ああ、知ってるぞ」
「なら話が早いわ、私達は魔大陸遠征に向けて物資を調達しているのよ。国からある程度の物は支給されているけど、その子の持つ魔石は強い武器の作成に必要な物なの」
確かに女の子の持つ大きなミスリルのペンダントは色からして高純度のミスリルのようだ。
「そ、そうだ、王様も街で物資の支援をしてもらってもいいと言っていたからな」
中野が急に強気になる。たしかこいつクラスでもかなりのビビりでチキン野郎だった気が……
「ほう、だが無理やり強奪していいのか?」
「だからこうして交渉していたんでしょうが」
ふん、それは交渉でなくただの恐喝だな。高純度のミスリルは鉱山でないと取れないし、中々取れる物じゃないから結構レアなんだよな。
「嬢ちゃん確かそれ大事な物だったよな?」
名前も知らないが渡したくない以上大事なものに違いない。ここはうまく知ってるかのように振る舞う。
「はい……亡き祖父の形見です、だから何度も断ったのに……」
女の子の目から涙がポロポロ流れる。
「だとさ、渡す気はないからお帰りくださいなと」
「あんたね~」
戸山の奴はまだ諦めない様子だ。
「おい、いい加減にしないとこっちも手が出るぞ!」
「あ、あんた私達に盾突いたらどうなるかわかってるのかしら?」
あ、こいつアホだ。ボッコしたいとこだが女の子もいるし穏便にだな。
「俺は第一王女の教育係としてここに来ている。それと昨日城で知り合った月島と杉原って子にこのこと言うがそれでもかまわないな」
それを聞いた戸山は急にバツが悪そうな顔になり、ヒートしていた顔も白くなる。月島と杉原がクラスでは強い影響力があるのは当然知り尽くしているからな。
「くっ、覚えてなさい!」
三人はやっと諦め撤退した。
「大丈夫か嬢ちゃん」
「はい、あのありがとうございます。ほんと助かりました」
少女は何度も頭を下げる。
「ははっ、気にするなって。それで嬢ちゃんの名前は?」
「私はダルジナです。ダルジナ・ベットトワイス」
茶髪で年齢は十二、三歳ぐらいといった感じかな。
「ああいうことは前にも?」
「はい、あの三人にはしつこく言われてて……私の両親が武具屋をやっているのですが三人が見に来た時私の首にぶら下げているこれを見ていたらしくそれで……」
あの三人がこういうことをしていると他の奴もやってそうで怖いな。召喚された勇者は成長が早く白金ランク程度ならすんなり到達してしまう。今回はそれが約三十人……今後こういうことがもっと横行しそうで怖いな……王都から離れた街に勇者が集団でいけばあればこういったことが多発するだろう。
「せっかくだし家まで送るよ」
「そこまでしてもらったら悪いですよ~」
「流石に俺が離れた直後にまた絡まれたら助けた意味がないしな、それに色々と話でも聞かせてくれないか」
ダルジナとその場を離れ家まで送りながら途中でジュースを奢るとダルジナも明るい表情になる。
「最高級フルーツのアビィのジュースなんて本当にご馳走になってよかったんですか?」
二人合わせて金貨五枚だが俺の財力ではたいしたことはない。
「ああ、金は気にしないでくれ。こっちとしては喜んでくれて何よりだよ」
「私飲んだの初めてで、美味しすぎて感激です」
ダルジナは感激しているのか大喜びだ。相手から話を聞きだすときはある程度相手の気分を良くすることが大事だ。まぁアビィのジュースを奢ったのは自分も飲みたかったのと、ダルジナの目を見て負けたからだがな。
「それで聞きたい事というのは?」
「ああ、この街での勇者のことさ。ダルジナがされたような事ってのは他でも横行しているのかい?」
一応九兵衛さんからは色々情報収集してこいとは言われているからな。
「そうですね。私のような事例は聞きませんが、一部の勇者の行動が少し行き過ぎていて目につくと言うのは聞いています」
ダルジナは不安な表情で言う。
やはりか……
「具体的にはどういった感じなんだ?」
「はい、行き過ぎと言っても直接暴行を受けたような感じではないのですが、例えば飲食店でタダで食わせてくれと駄々をこねたり、女性をしつこく誘ったりとかですかね」
この感じだとまだ程度は軽いようだが、そのうちエスカレートしていく可能性が大いにあるな。この情報はあの二人からは聞いてなかったし今後も要注意だな。最悪あの隷属の腕輪でなんとか抑えるのだろうが、王様の目的は勇者に遠征させることだし現時点ではある程度の事は黙認するだろうな。遠征を渋られるほうが面倒だし、できるだけ気持ちよく遠征してもらうほうがいいからな。
「なるほどな、勇者達も色々不安なんだろうな。遠征だって本当は怖いだろうからね」
あいつらだって全員が全員好きで戦ってるわけではないはずだからな。そこは同情する所だ。
「それはわかりますが私達も限界あるわけで……魔大陸遠征をしてくれるのはありがたいことなのかもしれませんが……」
遠征自体が人族の勝手な言い分なんだがこの子にはわからんだろうな。
「まぁいずれ遠征するからここを離れればそういう事はなくなるさ」
「そうですね、シャーガーさんに出会えてよかったです」
ダルジナは無邪気な笑顔で俺に言う。
◇
しばらく歩きダルジナの住む家が見えたあたりでサラフィナのメイドの一人ザインタが俺の元に来た。
「おう、どうしたん?」
「サラフィナ様がお昼の時間が遅れるから呼んでこいとのことで参上しました」
「なるほど、よく俺の場所がわかったな」
発信器を付けられた記憶はないが……
「サラフィナ様のメイドは優秀でないと務まりません」
「ああ、なるほど」
企業秘密ということか。
「あ、私の家そこなんでもう大丈夫ですよ~」
少し先にあるあの武具屋がダルジナの家か。
「ああ、しばらく滞在してるからまた顔を出すよ。今度店にも行くし」
「はい、ぜひお願いします」
ダルジナは目を輝かせて言う。どうやら俺のことを気に入ってくれたようだな。
「それじゃあな」
「はい、今日はありがとうございました~」
ダルジナと別れる。
「お姫様が退屈していたのかい?」
「はい、それはもう早く呼んで来いとうるさくてですね……」
ザインタは少し嫌味っぽく言う。
「それは悪かったな……」
「はい、サラフィナ様はあなたが来てから退屈への耐性値が下がったようなので」
ザインタは淡々言う。こいつ表情が変わらんからよくわからんがとりあえず少しムッとしているようだな。
俺はザインタをお姫様抱っこする。
「と、突然何を?」
ザインタもさすがに驚いたのかあたふたして表情を赤くする。
「この方が早い」
近くの家の屋根に飛び上がり屋根の上を駆け抜けて城へと帰還した。
「さて昨日のあなたの話は驚いたわ、だから今日もあなたから聞く話を楽しみにしていますわ」
上機嫌にサラフィナは言う。
「おう、ご期待に添えられることを祈っているよ」
「たぶんあなたなら知っているから大丈夫、それで私が今ぶつける質問はこの世界の歴史についてよ」
歴史か……ある程度はこの世界に来る前にランスロット先生に教えられているが……
「歴史?」
「ダーレー教にある世界を統治する最高神ガロピンと四大守護神、その他の神とされる者達がいるじゃない?」
「いるな」
半数以上消滅させているけどな。
「一応ダーレー教で信仰している神が全部で十いるけど、バイアリー教だとダーレー教にある反逆者二十柱が神という扱いになっているのは知っているわよね?」
「ああ」
というかその一柱が俺だ。
「どっちが本当の神かしら?妖精の国では二十柱も十神も信仰の対象であるというらしいのだけど……」
答えは簡単、お互いに神ではない。まぁ二十柱は神に近しい存在ではあるし、二十柱のリーダーたるルシファーさんは俺からしても神と呼べるだろう。
「本当の意味では両方とも神ではないよ。ただ二十柱のリーダーを十神が裏切ったのが始まりだな」
そう、なぜ魔大陸オルメタにおいてバイアリー教というのがあるのか。俺がこの世界に来る前の話だ。ルシファーさんによってこの世界の統治を任されたガロピンが反逆をしたことから始まりダーレー教が設立され、人族側の他種族排除が始まった。だが二十柱でありながらこの世界に残留していた者たちがそれに対抗して、魔大陸を中心にバイアリー教を設立。個々の戦闘能力においては魔大陸側の方が強く、百年前の戦争は人族側の方が折れた形となった。
「ということは本来なら二十柱に正当性があるということなのね」
「そういうことになるな」
サラフィナはこちらジッと見る。
「あなたって何者?本当に冒険者なのかしら?」
サラフィナはこちらを疑いの目で見る。だが俺が冒険者であることはれっきとした事実である。
「れっきとして冒険者だよ。だからこそ魔大陸に入りバイアリー教について詳しく調べることができたしな」
「ああ、そういうことですのね」
そう言うとサラフィナは納得してくれたのかジト目が解除された。
「しかしあなたの奥方がうらやましいですわね~」
「まぁ旦那が俺だからな~」
ついドヤ顔で言ってしまう。
「その顔ムカつきますわね~私としてはあなたのように力もあり知識も有しているような方を殿方として迎え入れたいのですの」
「まぁあんたの場合はそういう相手を見つけるのは難しいだろうな」
ファーガス王国の王女であれば相手に選ばれるのはダーレー教を信仰する有力貴族だろうからな。強くて言いたいこと自由に言える反ダーレー教の相手など、ここにいては巡り会うことはない。
「あなたの奥方は何をしてまして?」
「俺同様冒険者だよ、知識も戦闘能力も同じぐらいで俺はあいつには頭が上がらないんだ」
「あら、羨ましいですわ……」
サラフィナは羨望の眼差しをこちらにむける。
「最高の嫁だよ」
嫁が黙認してくれた女が二人いる事は内緒だ。いずれバレるかもしれんがな。
「是非今度私にも紹介してくださいません?」
「ああ、もちょいしたら王都に来るし俺よりも詳しいからあんたにも今度紹介するよ」
あいつは王の書で俺よりもたくさん知識を吸収しているはずだ。それにそのうち来るあいつと会わせれば、あいつも変な嫉妬はしないだろうからな。
「それは楽しみね。それとあんたと呼ばれるのはあまり好みませんわ」
そういえばサラフィナは俺があんたという度に嫌な顔をしていたな。あんたなんて呼び方は流石に失礼かな。
「それもそうだな、じゃあサラフィナと呼んでいいか?」
様をつけたり敬うような呼び方はしたくはないからな。
「いいですわ、私もあなたのことはシャーガーと呼びますわ」
◇
朝食後に城から王都へと出た俺は王都を探索することにした。最初に来た時は探索する余裕がなかったからな。
「やはり人しかいないか……」
ギャラントプルームは魔族や獣人族や妖精族もいたからな。わかってはいたが寂しさを感じるな。
一時間ほど歩き街並みを拝見した。そして少し外れた所で絡まれて困っている女の子が目に入った。
「なぁそれ俺達に譲ってくれよ」
「これから大変なのよ」
幼気な少女に絡むのは三人は男二人に女一人、どれも見知った顔だ。
「これは駄目です……」
少女は頑なに断っているが目は恐怖に怯えている。
「私達の頼みが聞けないのかしら?」
女は少し威圧的な声だ。
「俺達のこと知ってるよね~」
少女は怯えながら頷く。
「だったらその魔石を俺達の為に譲ってくれるのが道理じゃね」
「そうそう、だって私達この国の為に戦うのよ」
少女は今にも泣きそうだ。当然ここは助けに入るところだ。
「おう、嬢ちゃんこんなところにいたのか」
俺は飛び出し女の子の壁になるように前にでて同時に念話で女の子に語りかける。
「(俺はシャーガー・ヒンドスタン、冒険者だ。助けに来たから安心してくれ)」
念話で名前を伝え、助けに入ったことを伝えると女の子は半泣きの状態で俺にすり寄る。
「シャーガーさん、怖かったです……」
「よしよし、俺が来たからには安心してくれ」
さも知り合いのように見せ、三人を威圧する。
「俺の知り合いに何か用か?」
三人は少し怯んだ様子だがそれでも引く気はないのか突っかかってくる。
「私はこの子に用があるの。あなたはすっこんでいてくれないかしら?」
こいつはクラスメイトの戸山愛だ。短い黒髪とつり目に普通サイズの胸でどちらかというとクラスでは目立つ方ではなかったイメージだな。後ろにいる石橋大と中野敦もクラスでは目立たない方だったな。
「うん?俺の知り合いに恐喝まがいの行為など見過ごせるわけがないだろ?」
「お、お前何者だ?」
中野の奴ビビッてやがるな~三人共そこそこのステータスなんだけどな。
「俺はシャーガー・ヒンドスタン。白金ランクの冒険者だ」
「白金?おいどうする?流石にまずいんじゃ……」
石橋もそれを聞いただけでビビっている様子だな。どうやら冒険者のことはある程度頭に入っているようだな。
「あんた、私達が召喚された勇者だと言うのはご存知かしら?」
どうやら戸山は引き下がりたくないらしいな。
「ああ、知ってるぞ」
「なら話が早いわ、私達は魔大陸遠征に向けて物資を調達しているのよ。国からある程度の物は支給されているけど、その子の持つ魔石は強い武器の作成に必要な物なの」
確かに女の子の持つ大きなミスリルのペンダントは色からして高純度のミスリルのようだ。
「そ、そうだ、王様も街で物資の支援をしてもらってもいいと言っていたからな」
中野が急に強気になる。たしかこいつクラスでもかなりのビビりでチキン野郎だった気が……
「ほう、だが無理やり強奪していいのか?」
「だからこうして交渉していたんでしょうが」
ふん、それは交渉でなくただの恐喝だな。高純度のミスリルは鉱山でないと取れないし、中々取れる物じゃないから結構レアなんだよな。
「嬢ちゃん確かそれ大事な物だったよな?」
名前も知らないが渡したくない以上大事なものに違いない。ここはうまく知ってるかのように振る舞う。
「はい……亡き祖父の形見です、だから何度も断ったのに……」
女の子の目から涙がポロポロ流れる。
「だとさ、渡す気はないからお帰りくださいなと」
「あんたね~」
戸山の奴はまだ諦めない様子だ。
「おい、いい加減にしないとこっちも手が出るぞ!」
「あ、あんた私達に盾突いたらどうなるかわかってるのかしら?」
あ、こいつアホだ。ボッコしたいとこだが女の子もいるし穏便にだな。
「俺は第一王女の教育係としてここに来ている。それと昨日城で知り合った月島と杉原って子にこのこと言うがそれでもかまわないな」
それを聞いた戸山は急にバツが悪そうな顔になり、ヒートしていた顔も白くなる。月島と杉原がクラスでは強い影響力があるのは当然知り尽くしているからな。
「くっ、覚えてなさい!」
三人はやっと諦め撤退した。
「大丈夫か嬢ちゃん」
「はい、あのありがとうございます。ほんと助かりました」
少女は何度も頭を下げる。
「ははっ、気にするなって。それで嬢ちゃんの名前は?」
「私はダルジナです。ダルジナ・ベットトワイス」
茶髪で年齢は十二、三歳ぐらいといった感じかな。
「ああいうことは前にも?」
「はい、あの三人にはしつこく言われてて……私の両親が武具屋をやっているのですが三人が見に来た時私の首にぶら下げているこれを見ていたらしくそれで……」
あの三人がこういうことをしていると他の奴もやってそうで怖いな。召喚された勇者は成長が早く白金ランク程度ならすんなり到達してしまう。今回はそれが約三十人……今後こういうことがもっと横行しそうで怖いな……王都から離れた街に勇者が集団でいけばあればこういったことが多発するだろう。
「せっかくだし家まで送るよ」
「そこまでしてもらったら悪いですよ~」
「流石に俺が離れた直後にまた絡まれたら助けた意味がないしな、それに色々と話でも聞かせてくれないか」
ダルジナとその場を離れ家まで送りながら途中でジュースを奢るとダルジナも明るい表情になる。
「最高級フルーツのアビィのジュースなんて本当にご馳走になってよかったんですか?」
二人合わせて金貨五枚だが俺の財力ではたいしたことはない。
「ああ、金は気にしないでくれ。こっちとしては喜んでくれて何よりだよ」
「私飲んだの初めてで、美味しすぎて感激です」
ダルジナは感激しているのか大喜びだ。相手から話を聞きだすときはある程度相手の気分を良くすることが大事だ。まぁアビィのジュースを奢ったのは自分も飲みたかったのと、ダルジナの目を見て負けたからだがな。
「それで聞きたい事というのは?」
「ああ、この街での勇者のことさ。ダルジナがされたような事ってのは他でも横行しているのかい?」
一応九兵衛さんからは色々情報収集してこいとは言われているからな。
「そうですね。私のような事例は聞きませんが、一部の勇者の行動が少し行き過ぎていて目につくと言うのは聞いています」
ダルジナは不安な表情で言う。
やはりか……
「具体的にはどういった感じなんだ?」
「はい、行き過ぎと言っても直接暴行を受けたような感じではないのですが、例えば飲食店でタダで食わせてくれと駄々をこねたり、女性をしつこく誘ったりとかですかね」
この感じだとまだ程度は軽いようだが、そのうちエスカレートしていく可能性が大いにあるな。この情報はあの二人からは聞いてなかったし今後も要注意だな。最悪あの隷属の腕輪でなんとか抑えるのだろうが、王様の目的は勇者に遠征させることだし現時点ではある程度の事は黙認するだろうな。遠征を渋られるほうが面倒だし、できるだけ気持ちよく遠征してもらうほうがいいからな。
「なるほどな、勇者達も色々不安なんだろうな。遠征だって本当は怖いだろうからね」
あいつらだって全員が全員好きで戦ってるわけではないはずだからな。そこは同情する所だ。
「それはわかりますが私達も限界あるわけで……魔大陸遠征をしてくれるのはありがたいことなのかもしれませんが……」
遠征自体が人族の勝手な言い分なんだがこの子にはわからんだろうな。
「まぁいずれ遠征するからここを離れればそういう事はなくなるさ」
「そうですね、シャーガーさんに出会えてよかったです」
ダルジナは無邪気な笑顔で俺に言う。
◇
しばらく歩きダルジナの住む家が見えたあたりでサラフィナのメイドの一人ザインタが俺の元に来た。
「おう、どうしたん?」
「サラフィナ様がお昼の時間が遅れるから呼んでこいとのことで参上しました」
「なるほど、よく俺の場所がわかったな」
発信器を付けられた記憶はないが……
「サラフィナ様のメイドは優秀でないと務まりません」
「ああ、なるほど」
企業秘密ということか。
「あ、私の家そこなんでもう大丈夫ですよ~」
少し先にあるあの武具屋がダルジナの家か。
「ああ、しばらく滞在してるからまた顔を出すよ。今度店にも行くし」
「はい、ぜひお願いします」
ダルジナは目を輝かせて言う。どうやら俺のことを気に入ってくれたようだな。
「それじゃあな」
「はい、今日はありがとうございました~」
ダルジナと別れる。
「お姫様が退屈していたのかい?」
「はい、それはもう早く呼んで来いとうるさくてですね……」
ザインタは少し嫌味っぽく言う。
「それは悪かったな……」
「はい、サラフィナ様はあなたが来てから退屈への耐性値が下がったようなので」
ザインタは淡々言う。こいつ表情が変わらんからよくわからんがとりあえず少しムッとしているようだな。
俺はザインタをお姫様抱っこする。
「と、突然何を?」
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