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4章

93話:帰り道にて

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 「はぁ~」
 「何ぶつぶつ言ってんの雪ちん」
 「ひゃぁ……」

 城に向かい歩いていると後ろからいきなり声をかけられ驚く。

 「びっくりさせないでよ直ちゃん~」

 後ろから話しかけて来たのは直ちゃんだ。

 「驚かせてごめんね~しょぼくれてる雪ちん見かけたからさ~」
 「そうだったんだ、直ちゃんも散歩?」
 「そうだよ、毎日朝は散歩してるんだ~さっき走ってる美里っちとも会ったよ」

 私はクラスでは美里ちゃんと周平君と話す事が多かったが、二人の次に話すのがこの須貝直美ちゃんだ。誰とでも仲良く出来る万能タイプだ。

 「こっちきてから直ちゃんとあんまり話してなかったね」

 周平君が出て行ってからは、美里ちゃんにくっついて嶋田君と木幡君でパーティを組むことが多かったからだ。勿論迷宮では周平君とは会っていた。

 「雪ちんも色々あったからね。神山君のこととかね~」
 「うん……いなくなってなかったらこんな風に悩まなかったんだと思うんだけどね……」

 クラスメイトとの別れ方では非常に頭を悩ましている。周平君と一緒に離れていればこんな事で悩まなかったのかもしれないが、今更言ってもしょうがない。

 「神山君ね……今だから雪ちんに言えるけど私は苦手だったな」
 「直ちゃん?」

 直ちゃんは誰とでもフレンドリーに気さくに話していたイメージだ。それだけに周平君が苦手だったなんて意外だ。

 「神山君ってどこか得体のしれない感じがあってさ。少し苦手だったんだ」
 「そうだったんだ。確かに周平君はあんな感じだったけど、凄い優しいし頼りになるよ」

 周平君は凄く友達想いで、私や陣君や美里ちゃんがピンチの時はいつも手を差し伸べてくれた。

 「それは雪ちんや美里っちや宗田君だからじゃないかな~」
 「どういう事?」
 「私ね、神山君と喋ると何でも見透かされるようで怖かったかな。クラスで外された後も常に平然と変わらず学校に来るあの姿が恐ろしかった」

 周平君は変わらず登校していたな。私や美里ちゃんに愚痴をこぼすようなことはあったものの変わらなかった。あれは私達がいたからというのもあるだろうけど周平君自体が強いからだろう。前世が魔神ならそれも納得だ。

 「周平君は強いから」
 「知ってるよ。私光一と幼馴染でさ。神山君の話をたまに聞いてたんだ」

 そういえば言ってたな。周平君は尾形君の事も心配してたけど果たして無事だろうか。

 「そうだったんだね。尾形君も周平君と仲が良かったらしいからね」
 「だからこそ私は……」

 直ちゃんは一瞬暗い表情を見せる。

 「直ちゃん?」
 「ううん、何でもない」

 直ちゃんはすぐにいつもの表情に戻る。今の表情は何だったのだろう。

 「そういえば尾形君が出て行った時って何か言っていたの?」
 「ううん、それが光一の奴私に無言でいなくなっちゃってさ~再開したらビンタ食らわせないとだね~」

 尾形君がいなくなった時の直ちゃんの落胆ぶりは確かに酷かった。その時に比べたら元気が出たようだ。

 「尾形君も心配だね……」
 「うん、だけどあいつは生活力高いからきっと大丈夫。それより雪ちん今気になる男の子いないの~最近よく嶋田君達と一緒にいるけどさ~」

 直ちゃんはニヤニヤしながら聞いてくる。周平君と言いたいけど、これ言うとけっこう否定的な事を言われてしまうので考えてしまう。

 「今はまだそんな気分になれないかな。陣君には会いたいけどね」
 「宗田君か、仲良かったもんね~」

 私が心を許す三人の一人だ。陣君とも早く再会して四人で出かけたりしたいものだ。

 「うん、四人で仲良かったから早く再会したいんだよね~」
 「合流すれば再会できるよ。雪ちんも早く新しい男見つけるんだぞ~」
 「ハハッ、そのうちね~」

 私が恋愛感情を向けるのは周平君ただ一人……私を救ってくれたあの時からそれは揺るがない。


 ◇


 直ちゃんと一緒に城へ帰還をすると美里ちゃんやその他の生徒が中庭に集まっていた。

 「おかえり~直ちゃんも一緒だったのね」
 「たまたま会ったんだ」
 「ごめんね~美里っち。雪ちん無断で借りちゃった~」

 直ちゃんは冗談交じり言う。

 「大丈夫よ、ただうちの雪は高いから、男子共はよく覚えておきなさい」
 「ちょっと美里ちゃん何言ってるの~」

 周りがそれを聞いて笑う。

 「ハハッ、二人が戻ってきたことだし、これからは今後に向けて一対一の決闘なんかもしていきたいななんて話をしていたんだが、二人はどうかな?」

 嶋田君が言う。

 「決闘?」
 「うん、これからの遠征に向けてみんなで強くならないといけないからね」
 「タピットさんの話では雑兵ならなんてことなく倒せるけど、指揮官クラスには俺達以上のもいると言っていたからな。浩二と昨晩話し合って決めたんだ」

 木幡君の言う通り私達が勝てない相手も出てくるのは当然。同レベルかそれ以上の力を持つ者との決闘をして更なるパワーアップをって事か。

 「そうなんだ、みんなは賛成の方向なの?」
 「ああ、一応やりたい人だけの方針だけど、遠征組はみんなオーケーだとさ」

 ここは参加すると言っておかないと不自然か……美里ちゃんもアイコンタクトをしてきているし合わせておくか。

 「なら私は賛成よ。直ちゃんは?」
 「私も参加するよ~強くなって損はないからね」
 「なら決まりだね。早速午後からやろう」


 ◇


 ここは王の間、王であるオロソにタピットが謁見していた。

 「首尾はどうだタピットよ」
 「はい、みな遠征に向けて士気を高めています。魔王軍とも戦えるでしょう」
 「うむ、ならよい」

 国王であるオロソは上機嫌に笑う。

 「最初は遠征を渋るかと思って色々対策を考えていたが、お前の指導が良かったようだな。褒めて使わすぞ」
 「はっ、勿体ないお言葉を」

 タピットはこの時ホッとしていた。自分が勇者に対して助言したことは反逆罪に繋がるからだ。

 「では引き続き頼むぞ。それとお前もいい加減パスティノの正式に後を継ぐのじゃ。勇者は強くなっているし、お前も早くあれをつけて覚醒してくれ。我が王国騎士団が舐められてしまう」

 タピットはあくまで団長代理であり正式な団長ではない。団長の証を引き継げば力を得ることができるが……

 「わかっておる……パスティノが死に、若くして後継者となった当時のお主にはまだ荷が重かったと思い私も気を使った。だが戦も始まるし今が次期だと思うし私としては引き継いでほしい……これは命令ではなく私のお願いとして頼みたい」

 王はなぜ命令ではなくこんな風に言ったのか……それはタピットという男が性格を熟知しているからだ。義に厚く騎士団長を重く見ているタピットはそんなことを強要するぐらいなら自ら牢屋に入るからだ。

 「わかりました……王からのお願いとなれば断るわけにはいかないでしょう」
 「すまんな、感謝の意を示す」
 「ありがたきお言葉です」

 タピットは騎士団長を受け継ぐその時こそ決断の時だと考えていた。エミリアに狙われるリスクも考えないといけないからだ。

 「では下がってよいぞ」
 「はっ」

 タピットは王の間を後にした。

 「それであれはしっかり機能しているのだな?」
 「はい、隷属の腕輪は全員付けていますしばっちりですぞ」

 宰相のアーノルド・レコンダイトが言う。

 「うむ、なら問題ないな。いざという時はあれで従わせればよい、タピットには告げるでないぞ。奴はそういうのを嫌がる」
 「わかっております、それと地下のあれですが……」

 それを聞いたオロソは顔を顰める。

 「初代勇者が消えた理由がわかったのか?」

 オロソは初代勇者が王国を憎んでいることも知っており、もしここを襲ったらと少し恐怖を感じていた。

 「明確にはわかりませんがあそこからの気づかれず脱出するのは不可能……開けられた形跡もない。つまりあのバリアに仕掛けがあったというべきでしょう」

 この事件は王国の上層部でも話題になり調査をしたが、結局原因はわからず迷宮入りし推測でものをいうしかないお手上げ状態だった。

 「どういうことじゃ?」
 「あのバリアはあのハマジクの檻の中でも機能していた。つまりあのバリアはあれが目覚めたと同時に転移装置の役割も果たしていたと考えるのが妥当でしょう」

 実際は立花が中に入って救出したがここにいる者は誰もそんなことはわからない。

 「なるほど、それであれは目覚めたのか?」
 「それはわかりませんが目覚めていると考えるのが妥当でしょう。ただもし全快ならきっとここを襲うはず……それができない理由があるのかもしれませぬ」
 「力が戻っていない可能性もあるな。このことは教団に伝えてあるな?」
 「はい、見つけたら始末するように言っておりますので」
 「頼むぞい」

 オロソはダーレー教団に依頼し刺客を派遣していた。初代勇者が強かったというのは今でもしっかり受け継がれているからだ。

 「すべては神の為に……」

 オロソの不気味な笑い声が王の間に響いた。
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