【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイドー紅黒の翼ー

アイセル

文字の大きさ
241 / 257
第十章 Pedal to the Metal

祭禍—⑨―

しおりを挟む
「させねぇよ!!」

 腹の底から放ったロックの声に、“ケンティガン”が振り向く。

 銀の腕の戦鬼の双眸が捉えた姿

 “ケンティガン”の両眼を、

 “駆け抜ける疾風ギェーム・ルー”で肉迫したロックの右ひざ蹴りが、禿頭の顎を撃ち抜いた。

 ロックの蹴りに――倒れはしなかったものの――“ケンティガン”の両踵が機械の床を抉りながら後退。

 翼剣:“ブラック・クイーン”の“籠状護拳バスケットヒルト”をロックは、すかさず上から仰け反った“ケンティガン”に殴りつけた。

 機械の大地に“ケンティガン”の後頭部が届く寸前で、彼が反動で身体を起こす。

 全身を発条バネにした反発力による“ケンティガン”の頭突きと、ロックの籠状護拳バスケットヒルトに包まれた右拳の二撃目が相殺。

 “ケンティガン”の勢いが僅かに勝り、ロックの身体が空中で吹っ飛んだ

 ロックは身体を一回転させ地表に降りる。

 “ケンティガン”が顔面から血を流しながら、右の銀椀をロックに向けた。

 ロックは“籠状護拳バスケットヒルト”に覆われた右腕を前に、両腕の突進で迎え撃つ。

 “ケンティガン”から繰り出される衝撃インパクトに体幹を揺らされつつ、ロックは彼の右直拳撃ストレートを両腕で弾き飛ばした。

 大きく両腕を上げた“ケンティガン”が、頭部を曝け出す。

 彼の顔面に、ロックは“籠状護拳バスケットヒルト”越しの右の拳を入れた。

 右膝で潰れた鼻と歯が抜けた“ケンティガン”の顔が、左頬を抉る拳撃に更に歪む。

 ロックは続けて、“ケンティガン”の右頬に左の拳撃を放った。

 ロックの追撃は、“ケンティガン”に届かない。

 “ケンティガン”の銀の右腕が、ロックの左腕ごと抱えたからだ。

 籠手型“命導巧ウェイル・ベオ”:“ライジング・フォース”が帯電を始める。
 
 ロックも右手に持つ翼剣:“ブラック・クイーン”を振った。

 “頂砕く一振りクルーン・セーイディフ”による分子配列で強化された斬撃が、“ケンティガン”の左の首の付け根を捉える。

 ロックの攻撃よりも速く“ライジング・フォース”の電界が発生。

 “ケンティガン”が電界の檻に閉じ込めた。

 静電気と熱が、ロックの身体を駆け巡る。

 ロックの腕を固定する“ケンティガン”の力が、突然弱まった。

 元“七聖人”の武人の左右を、翠色と蒼白い斬撃が挟む。

 ブルースとサキ、それぞれの攻撃に“ケンティガン”が気を取られたのだ。

 拘束を弱めた“ケンティガン”の胸部に、ロックは右蹴りを放つ。

 蹴りの反動で、“ケンティガン”との間合いから離れたロック。

 “ケンティガン”の瞋怒の口から放った怒号が、電撃の突風を作る。

 荒れ狂う電撃の蛇の咢が、サキとブルースを捉えた。

 二人は“磁向防スキーアフ・ヴェイクター”を発動させ、“ケンティガン”の体内電気の暴風を防ぐ。

 ロックと同じく反動を利用して、“ケンティガン”から離れると、

「ロック、ありがとう!!」

「サキ、礼を言うには早すぎるぜ……」

 サキからの礼に応えつつ、ロックは“ケンティガン”から眼を逸らさない。

 銀色に覆われた身体と、右腕の戦鬼と言える男の姿に、ロックは眼を疑った。

 ――アイツ……――!!

 先ほど、ロックは右膝で“ケンティガン”の鼻を潰した。

 加えて、“籠状護拳バスケットヒルト”越しの“命導巧ウェイル・ベオ”:“ブラック・クイーン”による一撃で、破壊した“ケンティガン”の左頬。

 “ケンティガン”の頭部全体が、

「何が……起きているの……?」

 隣のサキの声から、生気が失われつつあった。

 目の前の出来事に、ロックも息を呑み、呻き声を漏らす。

「……“”だ」

 ブルースが舌打ちをして、順手で二振りのショーテル型命導巧ウェイル・ベオの切っ先を“ケンティガン”に向ける。

 ブルースの言う様に、“ケンティガン”の顔は

 電撃の残り香とも言える煙が、蒸発した血から発生。

 折れた鼻は、元の形になった。

 歯に至っては、歯茎から抜けかけたものは、電撃と共に機械の大地に落ちる。

 抜けた歯茎を染める血の焼け跡から、

「……確かに、“命熱波アナーシュト・ベハ”使いは、ある程度、回復能力は優れているが……コイツは――!?

 ロックも“命熱波アナーシュト・ベハ”を持つ身としては、

 しかし、それでも、全治に最低3日は掛かり、“リア・ファイル”の入った粉末を接種する必要もある。

 今回の連日の戦いでも、応急処置を施されたロック達はで病み上がりの身体に鞭を打っている状態だった。

 だが、それを差し引いても、“ケンティガン”の様にというのは、

「……これが、“ライジング・フォース”。その“真名”:“銀の腕アガートラーム”だ……」

 “ケンティガン”が口を開いた。

 そこから激しい息遣いが聞こえる。

になったかよ……」

 ロックは翼剣型“命導巧ウェイル・ベオ”:“ブラック・クイーン”を逆手に構え直す。

 “ケンティガン”の次の動作に注視していると、

「中々、楽しませてくれる……“”、“アンチリリス”……そして、”蔵書庫の天使エンジェル・イン・アーカイブ”!!」

「俺たちは楽しめねぇよ……」

 瞋怒の顔にどこか喜びを覚える“ケンティガン”が、震えている。

 それがことは、ロックにも分かっていた。

「ブルース……つまり、“命導巧ウェイル・ベオ”によって、アイツはってことだよな……?」

「ああ……体内電気が!!」

 ロックの疑問から、“ケンティガン”の攻略法を編み出そうとするが、ブルースの回答はその余地を与えなかった。

「……待って、ロック、ブルース……って……?」

 サキが疑問を投げかける。

 ロックは彼女の問いを周回遅れの様に感じたが、

 ――……?

 “ケンティガン”との戦いでロックは、サキの問いとが一致しない様に思えてきた。

「サキ、もしかして――」

 ブルースがその違和感の正体を探ろうとしたが、電撃が放たれた。

「滾る、滾るぞ!! ブルース……貴様には、!!」

「俺がアイツを惹き付ける!! ロック達は、離れてから!!」

 怒りのままに突進する“ケンティガン”に、ブルースがショーテル型“命導巧ウェイル・ベオ”:“ヘヴンズ・ドライヴ”の二振りの鍔の機銃を向けた。

 ロックはサキと眼を合わせて、ブルースから離れる。

 “ケンティガン”の周囲を電界が覆い、機械の大地と“死神へルター・スケルター”の亡者たちを掻き分け、ブルースに迫った。

 “雷袖一触キュアンガル・タラナッフ”による、電界を発生させるナノ弾丸の弾幕が進行する“ケンティガン”を覆う電撃の鎧を弾けさせる。

 銃撃を受けても、“ケンティガン”の勢いは衰えない。

「来いよ、あの時の続き……!?」

「望むところだ!!」

 ブルースの啖呵に、“ケンティガン”が応戦する形で銀の右腕を振り上げた。

 銀の拳に一際、眼を焼くほどの電撃が帯電。

 閃光と化した拳がブルースに迫ると、

「ロック、サキ!! !!」

 ロックは、ブルースの合図と共に駆け出した。

 “駆け抜ける疾風ギェーム・ルー”による神経強化から生み出された速度で、ブルースを攻撃する“ケンティガン”の左側の背後を狙う。

 銀の鎧には、その右側から急襲を仕掛けるサキの蒼白い刃が映った。

 ロックは翼剣型“命導巧ウェイル・ベオ”:“ブラック・クイーン”を振りかぶる。

 速さと力による熱力エネルギーが紅黒の刃が、“ケンティガン”の鎧を横一文字に刻まれた。

 サキの蒼白い刃が、ロックの斬閃と交差する形で、“ケンティガン”の背を右半分から切り裂く。

 ブルースの鼻先に、ケンティガンの右拳が届く寸前。

 銀の右拳を覆う電流が消える。

 それどころか、銀色の鎧に帯電していた電流が一気に、“ケンティガン”の全身を駆け巡る。

 禿頭の巨体を大きく弛緩させると、両膝を突いた。

 仰向けに倒れようとしたが、“ケンティガン”が右拳を機械の大地に叩き付ける。

 ブルースのショーテル型“命導巧ウェイル・ベオ”の鍔に付いた機銃の銃口が、倒れるのを良しとしない俯いた“ケンティガン”の額の前に突きつけられた。

「――ッ!!」

 身体の自由の利かない戦鬼――“ケンティガン”――の慚愧の目線が、ブルースの剣と同じ鋭さを発していた。

「……“策士、策に溺れたな”……“ケンティガン”?」

 ブルースの勝ち誇ったというほどの笑みはない。

 血が滾るほどの戦いでで見下ろされるのは、“ケンティガン”の中では、忸怩たるものがあるのだろうか。

 ロックは、知りたいとは思わなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

処理中です...