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終章 Gearing of Fortune
歯車は回り出す―④―
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午後6時32分 内閣総理大臣官邸 執務室内
沈黙の流れる会議を映す上万作学園の視聴覚室の映す演算機の画面と通話素子を切る。
「官房長官……お時間です」
ノックの後に、職員の声が扉の向こうから聞こえた。
――頭が切れるな……。
“紅き外套の守護者”と言う二つ名の青年を思い出しながら、資料の入った封筒を、伊藤は脇に抱える。
彼の指摘することは、粗削りだった。
しかし、狙いは悪くない。
――唯一違っていること。これから報告に行くこと……だけか……?
職員の控えているドアに、足を運ぼうとする。
待機状態の演算機から、音が入った。
その音は、会話素子に着信が入ったことを告げている。
伊藤は専用の小型の中距離無線を両耳に入れ、応答した。
『頭が良いだろ、彼は?』
“ヘラルド”という名の男だ。
“ブライトン・ロック”社関係者というのは分かる。
日本政府や英国政府等の関係筋を以て調べても、それ以外が一切不明だった。
本名と生まれすらも。
「恐ろしいですね。向こう見ずなところが」
伊藤は漸く肩の荷を下ろしたかのように、息を盛大に吐いた。
ロック=ハイロウズの言うことは、概ね正解である。
“グランヴィル協定”以前、“ウィッカー・マン”等の“UNTOLD”については“ホステル”も一つの情報源としていた
“遺跡”が“大和保存会”の管轄する神社の周辺から出土されていた。
その関係で、“ホステル”と繋がりを持つようになった。
――唯一の例外が、山陰地方の河竹市の“遺跡”だったか……。
その“遺跡”だけは、“大和保存会”と関りを持たない神社の管轄だった。
それについては、2014年に河上 サキ、斎藤 一平に金城 キョウコという三名が関わっていた。
俗にいう“白光事件”で、県外に疎開していた頃らしい。
“河竹市職員”の一部が同市の裏金作りに関わり、“ホステル”に出土品を売りつけようとしていた。
河上 サキ達、“ワールド・シェパード”社の関係者に、彼らは間もなく出くわす。
それから色々あって、“一部の市職員”は行方不明となった。
山陰の“遺跡”を中心に、中国地方の“遺跡”についての調査で、“ワールド・シェパード”社の橋本 直人という男と関わる様になる。
同時に、画面の向こうで紫煙を漂わせる男との邂逅も、伊藤は果たした。
「しかし……“政治を取り戻したい市民の会”、“政治に声を張り上げ隊”……ここまで、考えられるとは……」
現に、両政治団体との戦闘を焚き付けた工作員はいた。
しかしながら、彼らとの連絡が未だに付かない。
「確か、ロック=ハイロウズの弟のいる――」
「“望楼”……かね?」
“ヘラルド”の言葉に、伊藤は記憶を張り巡らす。
上万作一帯で行われていた実験に加担していた産婦人科医のハチスカが、内部告発を持ち込んだ組織だった。
「対応するかね……?」
「いえ……好きにさせましょう」
“ヘラルド”の問いに、伊藤が首を振る。
“望楼”自体、民間や行政という組織の規模や性質はおろか、国家の大小や主義主張も問わず、敵対行為も辞さない。
みすみす手を出す愚を犯せば、倍返しされるだろう。
「しかし……民自党も割れるね」
“ヘラルド”の音声が、伊藤の耳朶を震わせる。
ただ、感情なく、明日の天気でも話すかのような口調だ。
「……“グランヴィル協定”を支持するか、各組織との繋がりを維持するか……」
伊藤は官邸の中の執務室の、天井を眺めて思考する。
“へルター・スケルター”の覚醒をロック=ハイロウズ達が阻止した。
その時期と同時に、“上万作症候群”を罹患していた伊那口の住民たちが、程度の差に寛解。
当然、政府に限らず、各メディアでも大騒ぎとなっていた。
――もしかしたら、“ソカル”と繋がりを持っていた……?
是音台高等科学研究所を巡る騒動で、“ソカル”と関係を持つ“B.L.A.D.E.”地区を構成する組織が活動していたと言う報告を、伊藤は受けた。
『ロック=ハイロウズ達とも接触していた』という情報も入っていた。
「イトウ殿……もしかして、“ソカル”は……?」
「少なくとも……私の管轄ではありませんね……」
伊那口を拠点とする組織はおろか、“ソカル”にも、伊藤は便宜を図った覚えはない。
――もしかして、水谷さんが……?
胴田貫一族の支持を得て、広島で当選した水谷だ。
住民のためと称して、“ソカル”と接触していても不思議ではない。
少なくとも、“B.L.A.D.E.”地区は、“白光事件”から続く行政の空白地帯だ。
住民も寛解させたなら、水谷の影響力は増すだろう。
――“ホステル”か……それとも、“ソカル”か……。
熟考に入りかけた時、再度鳴ったノックの音に、引き戻される。
歩みを扉に向けようとして、
「ミスターヘラルド、あなたは……これから、どうされるつもりですか?」
伊藤は口を開いた。
“ワールド・シェパード”社の日本支社は、振志田兄弟の元に集まる活動家崩れ達の巣窟と言っていい。
何でも、専務の橋本 直人と社長のミカエラ=クライヴの二人は反目関係にあると聞いた。
彼女は橋本 直人に反対する形で、振志田 樹二に協力している。
河上 サキをそこに入社させることは、波乱の渦に送り込むことも意味していた。
専務の側にいる限りは、“ブライトン・ロック”社の“命熱波”使いとも懇意にあるだろう。
問題はその後だ。
ロック=ハイロウズの指摘した様に、“UNTOLD”に関わる者はいずれ脅威となる。
「君と同じだよ……人類のために、ことをなすだけだ」
演算機の中の男が、煙草を取り出す。
一本加えると、慣れた手付きでマッチ棒に火を付けた。
口に咥え、彼の吐息で煙草の先端が赤く染まる。
「その中に、日本国民が入っていることを願っていますよ」
伊藤は、釘を刺しつつ、画面に映る“ヘラルド”の意図を読む。
話す気がないのか、紫煙の味を堪能しているのか。
どちらとも判断が付かないので、断りを入れて通信を切る。
静寂が訪れると、執務室の扉に再び向かった。
扉を開けると、
「……時間見つけて、パンケーキでも食べに行くかな……?」
出迎えた職員が聞こえない声量で呟くと、官邸の深部に進み始めた。
沈黙の流れる会議を映す上万作学園の視聴覚室の映す演算機の画面と通話素子を切る。
「官房長官……お時間です」
ノックの後に、職員の声が扉の向こうから聞こえた。
――頭が切れるな……。
“紅き外套の守護者”と言う二つ名の青年を思い出しながら、資料の入った封筒を、伊藤は脇に抱える。
彼の指摘することは、粗削りだった。
しかし、狙いは悪くない。
――唯一違っていること。これから報告に行くこと……だけか……?
職員の控えているドアに、足を運ぼうとする。
待機状態の演算機から、音が入った。
その音は、会話素子に着信が入ったことを告げている。
伊藤は専用の小型の中距離無線を両耳に入れ、応答した。
『頭が良いだろ、彼は?』
“ヘラルド”という名の男だ。
“ブライトン・ロック”社関係者というのは分かる。
日本政府や英国政府等の関係筋を以て調べても、それ以外が一切不明だった。
本名と生まれすらも。
「恐ろしいですね。向こう見ずなところが」
伊藤は漸く肩の荷を下ろしたかのように、息を盛大に吐いた。
ロック=ハイロウズの言うことは、概ね正解である。
“グランヴィル協定”以前、“ウィッカー・マン”等の“UNTOLD”については“ホステル”も一つの情報源としていた
“遺跡”が“大和保存会”の管轄する神社の周辺から出土されていた。
その関係で、“ホステル”と繋がりを持つようになった。
――唯一の例外が、山陰地方の河竹市の“遺跡”だったか……。
その“遺跡”だけは、“大和保存会”と関りを持たない神社の管轄だった。
それについては、2014年に河上 サキ、斎藤 一平に金城 キョウコという三名が関わっていた。
俗にいう“白光事件”で、県外に疎開していた頃らしい。
“河竹市職員”の一部が同市の裏金作りに関わり、“ホステル”に出土品を売りつけようとしていた。
河上 サキ達、“ワールド・シェパード”社の関係者に、彼らは間もなく出くわす。
それから色々あって、“一部の市職員”は行方不明となった。
山陰の“遺跡”を中心に、中国地方の“遺跡”についての調査で、“ワールド・シェパード”社の橋本 直人という男と関わる様になる。
同時に、画面の向こうで紫煙を漂わせる男との邂逅も、伊藤は果たした。
「しかし……“政治を取り戻したい市民の会”、“政治に声を張り上げ隊”……ここまで、考えられるとは……」
現に、両政治団体との戦闘を焚き付けた工作員はいた。
しかしながら、彼らとの連絡が未だに付かない。
「確か、ロック=ハイロウズの弟のいる――」
「“望楼”……かね?」
“ヘラルド”の言葉に、伊藤は記憶を張り巡らす。
上万作一帯で行われていた実験に加担していた産婦人科医のハチスカが、内部告発を持ち込んだ組織だった。
「対応するかね……?」
「いえ……好きにさせましょう」
“ヘラルド”の問いに、伊藤が首を振る。
“望楼”自体、民間や行政という組織の規模や性質はおろか、国家の大小や主義主張も問わず、敵対行為も辞さない。
みすみす手を出す愚を犯せば、倍返しされるだろう。
「しかし……民自党も割れるね」
“ヘラルド”の音声が、伊藤の耳朶を震わせる。
ただ、感情なく、明日の天気でも話すかのような口調だ。
「……“グランヴィル協定”を支持するか、各組織との繋がりを維持するか……」
伊藤は官邸の中の執務室の、天井を眺めて思考する。
“へルター・スケルター”の覚醒をロック=ハイロウズ達が阻止した。
その時期と同時に、“上万作症候群”を罹患していた伊那口の住民たちが、程度の差に寛解。
当然、政府に限らず、各メディアでも大騒ぎとなっていた。
――もしかしたら、“ソカル”と繋がりを持っていた……?
是音台高等科学研究所を巡る騒動で、“ソカル”と関係を持つ“B.L.A.D.E.”地区を構成する組織が活動していたと言う報告を、伊藤は受けた。
『ロック=ハイロウズ達とも接触していた』という情報も入っていた。
「イトウ殿……もしかして、“ソカル”は……?」
「少なくとも……私の管轄ではありませんね……」
伊那口を拠点とする組織はおろか、“ソカル”にも、伊藤は便宜を図った覚えはない。
――もしかして、水谷さんが……?
胴田貫一族の支持を得て、広島で当選した水谷だ。
住民のためと称して、“ソカル”と接触していても不思議ではない。
少なくとも、“B.L.A.D.E.”地区は、“白光事件”から続く行政の空白地帯だ。
住民も寛解させたなら、水谷の影響力は増すだろう。
――“ホステル”か……それとも、“ソカル”か……。
熟考に入りかけた時、再度鳴ったノックの音に、引き戻される。
歩みを扉に向けようとして、
「ミスターヘラルド、あなたは……これから、どうされるつもりですか?」
伊藤は口を開いた。
“ワールド・シェパード”社の日本支社は、振志田兄弟の元に集まる活動家崩れ達の巣窟と言っていい。
何でも、専務の橋本 直人と社長のミカエラ=クライヴの二人は反目関係にあると聞いた。
彼女は橋本 直人に反対する形で、振志田 樹二に協力している。
河上 サキをそこに入社させることは、波乱の渦に送り込むことも意味していた。
専務の側にいる限りは、“ブライトン・ロック”社の“命熱波”使いとも懇意にあるだろう。
問題はその後だ。
ロック=ハイロウズの指摘した様に、“UNTOLD”に関わる者はいずれ脅威となる。
「君と同じだよ……人類のために、ことをなすだけだ」
演算機の中の男が、煙草を取り出す。
一本加えると、慣れた手付きでマッチ棒に火を付けた。
口に咥え、彼の吐息で煙草の先端が赤く染まる。
「その中に、日本国民が入っていることを願っていますよ」
伊藤は、釘を刺しつつ、画面に映る“ヘラルド”の意図を読む。
話す気がないのか、紫煙の味を堪能しているのか。
どちらとも判断が付かないので、断りを入れて通信を切る。
静寂が訪れると、執務室の扉に再び向かった。
扉を開けると、
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