【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイドー紅黒の翼ー

アイセル

文字の大きさ
80 / 257
終章 Beacon To The Bright Street

光の示す道の先―③―

しおりを挟む
 サキの表情に感情が失せていたが、隣のロックは、をされた時とはを彼女から感じ取っている様だった。

「確かに私たちは、”ウィッカー・マン”を倒すことを念頭に置いているわ」

 灰色のパンツスーツのミカエラが立ち上がり、ロック達とカラスマの間に入り、

「私たちがと呼ばれるのも、甘んじて受けるわ」

 小演台に設置してある拡声器マイクに手を伸ばしたミカエラは、


『しかし、報酬無くしてまで処理をしろと言われる筋合いはないわ……まして、けしかけ、に世話をしてもらう程、落ちぶれていないわ!』


――どの口が、そう言うの!?

 心が叫びたがったが、周囲の重圧にカラスマは立ったまま、口を開けることしか出来なかった。

 ナオトはミカエラの後で、拡声器マイクの前に立ち、


『我々“ワールド・シェパード社”は、“ブライトン・ロック社”との技術協力を行う契約を締結。同時に、オラクル語学学校との協力関係を見直します!』


 ナオトの言葉と目線の先にいるのは、白金の髪に、首に羽毛の付いたジャケットの少女――”ブライトン・ロック社”社長のエリザベス=ガブリエル=マックスウェルだった。

 銀騎士と入れ替わる様に、白金の少女が、


『我が社は、まず、規格――品質水準――を、”ワールド・シェパード社”へ段階的に提供する。そして、開発が出来る環境へ移行させることを同意した。この成果を、TPTP締結国に順次普及させていく』


 カラスマは兵器産業で、ある一社の唱えた基準によって産業構造を変えたことを思い出した。

 それが、911が起きる前の21世紀の転換期に行われたことも。


『私たちは、このことを“”が起きる前から決めていました。、今回の出来事は”ワールド・シェパード社”にとっても有益な一歩となるでしょう。ナオト=ハシモト専務の働きについてと言えます』


 エリザベスの後で、マイクを通したミカエラの言葉にカラスマは驚いた。

 あの、“グランヴィル・アイランドの集い“の時点で、協力関係は既に決まっていたのだ。

 しかし、タカ派のカイル=ウィリアムスは当然反発する。

 それを念頭に置いて、ロック達をワールド・シェパード社の強硬派と衝突させた。

 リリスやサロメが、カラスマの背に隠れが、この協力関係は絶好の口実を作る。

 のものとして、これ程のものはない。

 サロメは、知っていたのだ。

 、良し。

 失敗すれば切り捨てる。

 ちょうど、自分がと同じ様に。

 言葉を失ったカラスマに向け、拡声器マイクの前でこけ外套コートを着たブルースがミカエラを差し置いて、


『ついでに言えば、TPTP基本法違反は、“ブライトン・ロック社”に所属する身としては、大変不本意な謂れである。“ワールド・シェパード社”と敵対する理由は、バンクーバー市についてはのを黙っていない』


『奇遇ね……私たちも、はあるけど、様な場所は、論外。“ワールド・シェパード社”は“オラクル語学学校“及び、協力関係にある法人の、TPTP基本法違反、同協力法違反で訴えます。捜査に、協力は惜しまないわ……徹底的にやるから、覚悟することね!』


 灰色のパンツスーツのミカエラからの言葉は、カラスマの死刑宣告にして断頭台の刃だった。

 余りにも唐突に決まった自らの末路の滑稽こっけいさに、カラスマの全身が震える。

 焦げ茶色の髪を刈り上げた市警の男――名前と階級は、レイナーズ警部と書かれている――が、制服警官たちを連れて、放心する彼女を突然取り囲んだ。

「失礼……失踪として届けられた、貴女のが発見されたという報を、受けました。が高いので、署まで御同行を願えませんか?」

 レイナーズの淀みない口調に、カラスマは体から熱気が全て抜けた様に思った。

 制服警官たちの多対の眼に映る、白い装甲を纏ったカラスマ。

 マリー=アントワネットが、仏革命時に死刑判決を受けた衝撃で、白髪になった逸話がある。

 科学的に疑問の余地を多く残すが、一つの仮説がある。

 髪の毛の色素は、外側の角皮キューティクルに覆われた毛皮質コルテックスメデュラに含まれる気泡の量で決まる。

 気泡が少なければ、色素は光を受けて濃く出る。

 だが、心的疲労が強ければ、気泡の量が増す。

 その結果、メデュラは光を反射させるので、頭髪をというのが正しい。

 周囲の眼に映る自分の黒髪が、身に纏う装甲と同じくカラスマの髪が染まった様に見えた。

 彼女はそれを目にすると、口が裂けた様に広がり、瞼の筋肉が千切れんばかりに眼をこじ開けた。

 情報過多と社会的地位の急激な変動による、錯乱。

 それによって作られた狂気の笑みが、彼女を取り囲む人間たちの眼に焼き付けられる。

 装甲だけで、武器を持たないカラスマだが、レイナーズ聴衆の安全の確保のために下がるよう一喝。

 カラスマは両手を振り回しながら、バラード湾とコール・ハーバーに挟まれる手摺てすりに向かって走った。

「私はこんなところで終わるはずじゃなかった!」

 追い詰められた野良犬の様に、迫ってきた警官たちに向かい、吼えた。

「ワーホリやら留学しても結局、日本人たちの世話に追われ、移民や子供からも見下されるなんて、耐えられない!!」

 ロックが紅い外套コートを翻しながら躍り出、ブルースとサミュエルは、エリザベスとミカエラを、カラスマから引き離した。

「人類の為には“力“が必要だったのよ!! 日本ためにもね!! 私を女と見て、見下して裏切ってきた奴らを見返すには、サロメが必要だったのよ!!」

 海を背に犬歯を剥き出しながら、恫喝するカラスマの口から唾と微かな血が周囲に飛び散った。

 自分でも分からないが、勢い任せに喋って、口腔こうくうを切ったのだろう。

 彼女の理性は、驚くほど冷静に働いていた。

「“ブライトン・ロック社”とナオト……“UNTOLD”の力を借りようとしたのは、“ワールド・シェパード社”も同じ。なのに、私と……と……何の違いがあるのよ!?」

「ありますよ」

 白い装甲を纏い武器の有無が分からずに、カラスマと距離を置くロック達の先に出る人間がいた。

 それは、サキ=カワカミ。

 カラスマと同じ白い装甲を纏ったサキの顔が、カラスマの目の前に立ち、

……私を!」

 サキの顔は、陽光で見えない。

 その影に隠れる前に、サキの右手にあるものに気付いた。

 長い突撃銃アサルトライフルの様なモノと描写した時、カラスマの体は、によって宙へ打ち上げられていた。

 彼女の視界に広がるのは、雲一つない大空。

――そういえば……。

 カラスマは思い出した。

 演説をしていた時に、覚えた眩しい光の正体。

 初めてバンクーバーの地を踏んだ時に、浴びたその時の日光を思い出したからだ。

 懐かしさを呼び起こした彼女を、重力のくびきが、再び捕える。

――そういえば、カワカミさん……初めてのバンクーバーの空……どう映っていたのかしら?

 考えたのは、カラスマ自身がバラード湾で大きな水飛沫しぶきを立てた後だった。

 波を打つ音、潮の匂いに水の冷たさが、彼女の体を包み込む。

 湾上に停泊されていた、海上警備隊の船が、飛沫しぶきを上げながらこちらに向かってきた。

 隊員たちに抱えられ、沖から陸地に運ばれていく。

 心に残った“サキへの問い“の答えを得ること無いまま、カラスマの意識は暗転した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...