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第二章 Ambush
混迷―⑤―
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「動くなよ?」
ブルースの前には、ブレザーを着た眼鏡の男子生徒が立っていた。
教室が太陽を背にしているためか、廊下を影が差す。
眼鏡の男子生徒は、喧騒が遠い廊下でブルースに向けて鋭い視線を送る。
「原田 龍之介」
「ブルース先生?」
龍之助の目と眼鏡越しに茶色のジャケットと白いストレートパンツを身にまとった自らの姿を、ブルースは認める。
”政市会”と”政声隊”――S.P.E.A.R.も含める――という朝の雑音ともいえる活動家団体に、ロックと斎藤 一平という二人が大立ち回りを繰り広げている。
全校生徒の注目を集めるなと言うのは、無理な話だろう。
一呼吸おいて、
「ブルースで良いよ……リュウ?」
龍之助は左足を引くが、
「命導巧“セオリー・オブ・ア・デッドマン”……周囲の空気を電気分解して水を生成。ウォータージェットで攻撃する。命熱波は“記述者”」
龍之助はブルースの言葉に、足を止める。
「ロックから話は聞いている……三条と動いているのはわかるぜ……」
ブルースは一歩踏み出し、
「三条、見ているんだろ!?」
龍之助が身悶え始める。
崩れて右膝で龍之助は立つ。
彼の右目を中心に顔の半分ほどが、蒼い光に包まれた。
そして、赤い光と共に少女も出る。
彼女も胴と喉をかきむしり、苦しんでいた。
「欧州で“ゲッシュ”を使ったテロをサロメ達と引き起こして、決別して今回は日本……何が目的だ?」
『あなたの様な人に言うと思いますか?』
声は少女の方から聞こえてきた。
妙齢の女性の声が、少女から聞こえる若干の違和感を覚えながら、
「ということは、龍之助を手放すつもりはなく、俺らに投降する気もないということ?」
『改めて聞くようなことかしら?』
少女の口から声は出ていない。
しかし、赤い少女の身体から三条の声が発せられるたびに、龍之助と赤い少女の苦しさが増している。
「命導巧“パラノイド”……確か、石碑型で召喚しか使えないはずだが……これはどういうことだ?」
ブルースは、苦しむ龍之助と少女の前で話す。
「ブルース?」
龍之助が訝し気に問いかける。
「三条の命熱波は、“破宴の王妃”。どちらかというと、リュウや、その赤い女の子に干渉する力はない。それに“命導巧”との組み合わせも縛られる」
ブルースは外の喧騒の声に耳を向ける。
炎が爆発し、氷がぶつかり、雷鳴がとどろき合っていた。
その中でもロックと一平が、”政市会”と”政声隊”を迎え撃つ様が狂騒曲として流れている。
「確かに“パラノイド”は、召喚型の攻守両用で、炎、氷に雷を使う。しかし、外の“政治に声を張り上げ隊”に命熱波の能力を一部与えるというのは聞いたことがない」
本来、“命熱波”と“命導巧”の持ち主は一致している。
しかし、武器は誰にでも使える様にしなければならない。
そのための対策をブライトン・ロック社は施していた。
ブルースは龍之助に向けて肩をすくめる。
ブルースは三条に視線を向けつつ、校門前の騒ぎを考えていた。
特に、”政声隊”の用意した赤、白、青緑という三色の人型について。
「こちらで調べた限りだと、“政声隊”が使うのは“コーリング・フロム・ヘヴン”……端的に言うと、人造“命熱波”。赤い炎を出すのが“ブレイザー”、白で氷が“フロスト”、青緑が雷の“アンペア”……と言ったところかな?」
ブルースは膝をつく龍之助を見下ろしながら、
「“ゲッシュ”という“命導巧”の起動を登録した人格を無効化して使える様にする素子の発展形の兵器を“トルク”を媒介にしている様だが……」
ブルースの言葉に、龍之助のそばに立つ赤い少女から返答はない。
ゲッシュとは期限付きの“命導巧”に搭載された“命熱波”の保護人格を無効化させるカギの様なものだ。
所有者のいない“命導巧”が使われた事件の背景には、これが絡んでいた。
「だが、そういった命熱波を弄れるのはサロメの十八番……つまり、“ホステル”から門外不出。何をしやがった?」
ブルースの目線は回答次第では、攻撃に移れる剣気を含んでいた。
『察しが悪いようですね……まあ、“ホステル”にいなくてもアレを手に入れられましたからね』
ブルースは三条の言葉を酩酊する。
その言葉の意味を反芻し、表情が強張った。
「まさか、“ロスト・テキスト”か!?」
龍之助は苦悶の表情で戸惑いながら、
『手に入れられましたから……彼女の力で』
そう言って、現れたのは白い少女である。
『レン!!』
飛び出そうとするが、龍之助が苦しみ、赤い少女は我に返る。
ブルースは、赤い少女と白い少女を交互に見ながら、
「“ロスト・テキスト”……それもあり得ない。そもそも、“ワンダー・ウォール”にアクセスしないといけない……それに、“守護者”に喰われる……」
『“第二世代”なのに……そういうことも分からない。優越感もここまでくると笑えてきますね?』
「そもそも、“第三世代”なのにアクセス出来ることがあり得ない……」
ブルースは肩をすくめると、
『“第四世代”の筈のロック=ハイロウズは出来て、私に出来ない……そんな理屈が通じると思いますか?』
赤い少女からの抑揚のない声は、ブルースをあざ笑うかのように、
『無駄なことは止めることです……どちらにせよ、私は取り戻す。そのために、あきらめるつもりはありませんから』
三条の声が途切れると、龍之助から苦悶の色が消える。
ブルースは戸惑いながら、校外で行われる乱闘を見下ろしていた。
ブルースの前には、ブレザーを着た眼鏡の男子生徒が立っていた。
教室が太陽を背にしているためか、廊下を影が差す。
眼鏡の男子生徒は、喧騒が遠い廊下でブルースに向けて鋭い視線を送る。
「原田 龍之介」
「ブルース先生?」
龍之助の目と眼鏡越しに茶色のジャケットと白いストレートパンツを身にまとった自らの姿を、ブルースは認める。
”政市会”と”政声隊”――S.P.E.A.R.も含める――という朝の雑音ともいえる活動家団体に、ロックと斎藤 一平という二人が大立ち回りを繰り広げている。
全校生徒の注目を集めるなと言うのは、無理な話だろう。
一呼吸おいて、
「ブルースで良いよ……リュウ?」
龍之助は左足を引くが、
「命導巧“セオリー・オブ・ア・デッドマン”……周囲の空気を電気分解して水を生成。ウォータージェットで攻撃する。命熱波は“記述者”」
龍之助はブルースの言葉に、足を止める。
「ロックから話は聞いている……三条と動いているのはわかるぜ……」
ブルースは一歩踏み出し、
「三条、見ているんだろ!?」
龍之助が身悶え始める。
崩れて右膝で龍之助は立つ。
彼の右目を中心に顔の半分ほどが、蒼い光に包まれた。
そして、赤い光と共に少女も出る。
彼女も胴と喉をかきむしり、苦しんでいた。
「欧州で“ゲッシュ”を使ったテロをサロメ達と引き起こして、決別して今回は日本……何が目的だ?」
『あなたの様な人に言うと思いますか?』
声は少女の方から聞こえてきた。
妙齢の女性の声が、少女から聞こえる若干の違和感を覚えながら、
「ということは、龍之助を手放すつもりはなく、俺らに投降する気もないということ?」
『改めて聞くようなことかしら?』
少女の口から声は出ていない。
しかし、赤い少女の身体から三条の声が発せられるたびに、龍之助と赤い少女の苦しさが増している。
「命導巧“パラノイド”……確か、石碑型で召喚しか使えないはずだが……これはどういうことだ?」
ブルースは、苦しむ龍之助と少女の前で話す。
「ブルース?」
龍之助が訝し気に問いかける。
「三条の命熱波は、“破宴の王妃”。どちらかというと、リュウや、その赤い女の子に干渉する力はない。それに“命導巧”との組み合わせも縛られる」
ブルースは外の喧騒の声に耳を向ける。
炎が爆発し、氷がぶつかり、雷鳴がとどろき合っていた。
その中でもロックと一平が、”政市会”と”政声隊”を迎え撃つ様が狂騒曲として流れている。
「確かに“パラノイド”は、召喚型の攻守両用で、炎、氷に雷を使う。しかし、外の“政治に声を張り上げ隊”に命熱波の能力を一部与えるというのは聞いたことがない」
本来、“命熱波”と“命導巧”の持ち主は一致している。
しかし、武器は誰にでも使える様にしなければならない。
そのための対策をブライトン・ロック社は施していた。
ブルースは龍之助に向けて肩をすくめる。
ブルースは三条に視線を向けつつ、校門前の騒ぎを考えていた。
特に、”政声隊”の用意した赤、白、青緑という三色の人型について。
「こちらで調べた限りだと、“政声隊”が使うのは“コーリング・フロム・ヘヴン”……端的に言うと、人造“命熱波”。赤い炎を出すのが“ブレイザー”、白で氷が“フロスト”、青緑が雷の“アンペア”……と言ったところかな?」
ブルースは膝をつく龍之助を見下ろしながら、
「“ゲッシュ”という“命導巧”の起動を登録した人格を無効化して使える様にする素子の発展形の兵器を“トルク”を媒介にしている様だが……」
ブルースの言葉に、龍之助のそばに立つ赤い少女から返答はない。
ゲッシュとは期限付きの“命導巧”に搭載された“命熱波”の保護人格を無効化させるカギの様なものだ。
所有者のいない“命導巧”が使われた事件の背景には、これが絡んでいた。
「だが、そういった命熱波を弄れるのはサロメの十八番……つまり、“ホステル”から門外不出。何をしやがった?」
ブルースの目線は回答次第では、攻撃に移れる剣気を含んでいた。
『察しが悪いようですね……まあ、“ホステル”にいなくてもアレを手に入れられましたからね』
ブルースは三条の言葉を酩酊する。
その言葉の意味を反芻し、表情が強張った。
「まさか、“ロスト・テキスト”か!?」
龍之助は苦悶の表情で戸惑いながら、
『手に入れられましたから……彼女の力で』
そう言って、現れたのは白い少女である。
『レン!!』
飛び出そうとするが、龍之助が苦しみ、赤い少女は我に返る。
ブルースは、赤い少女と白い少女を交互に見ながら、
「“ロスト・テキスト”……それもあり得ない。そもそも、“ワンダー・ウォール”にアクセスしないといけない……それに、“守護者”に喰われる……」
『“第二世代”なのに……そういうことも分からない。優越感もここまでくると笑えてきますね?』
「そもそも、“第三世代”なのにアクセス出来ることがあり得ない……」
ブルースは肩をすくめると、
『“第四世代”の筈のロック=ハイロウズは出来て、私に出来ない……そんな理屈が通じると思いますか?』
赤い少女からの抑揚のない声は、ブルースをあざ笑うかのように、
『無駄なことは止めることです……どちらにせよ、私は取り戻す。そのために、あきらめるつもりはありませんから』
三条の声が途切れると、龍之助から苦悶の色が消える。
ブルースは戸惑いながら、校外で行われる乱闘を見下ろしていた。
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