【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイドー紅黒の翼ー

アイセル

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第三章 Obstacles

敵対―⑤―

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 ハチスカの発言に、サミュエルは息をのんだ。

「シャロン、殺人事件の死亡者のリストを調べて」

 シャロンが彼女の情報通信端末タブレットを出して調べている間に、サミュエルはハチスカから手術を受けた女性と子どもの名前のリストのある資料を尋ねる。

 情報通信端末タブレットに保存した中に健康経過と家族構成をまとめた情報が表計算素子プログラムの格子の中に収まっていた。

 その中の名前と、シャロンが調べ出した資料の記された情報通信端末タブレットを比べる。

「……潮田さん、私の患者でした」

 小綺麗な中年男性は、サミュエルの見せた情報通信端末タブレットから視線を外す。

 その眼は喜びと憂いを秘めていた。

「子ども……その子との未来を歩みたい、潮田夫妻はこれから生まれる子どももいた未来へ真摯に向き合っていましたが……」

「……“リア・ファイル”による手術が必要だった?」

 サミュエルの言葉に、ハチスカは首を深々と頷いた。

サミュエルは、どこか法廷の陳述を行う弁護士と被告の関係を連想する。

「しかし、“白光事件”による原因不明の昏睡……それに加えて、その患者の命が奪われ始め……」

「“望楼ヴェルヴェデーレ”の壁を叩いた……確かに、妥当な判断ですね」

 サミュエルは言って、ハチスカの鋭い眼が変わらないことを確認する。

「大体、こういったことは……電脳右翼や電脳左翼が飛びつきます」

 サミュエルはココアを一口飲む。

 、ユメノ珈琲店では扱ってなかった。

 不服ながら、サミュエルは味気ない甘味を舌で転がしながら、

「電脳右翼は外国と日本政府の関わる実験を。電脳左翼に至っては、あなたに好意的なのは……です」

 サミュエルはココアを飲み干し、

「オマケに、当事者がデモをした日には“白光事件”由来のという、巷の殺人鬼にとってを付けることにもなる」

 ハチスカが言葉少なにサミュエルの言葉に短く同意。

「わかりました。今日から24時間は僕たちが護衛しつつ、次の“望楼ヴェルヴェデーレ”のメンバーに委ねましょう……ただ、今の状況としては“サマナー”へ繋ぐルートの確保には時間をいただければ、と思います」

 サミュエルが言うと、ハチスカは安心してため息を吐いた。

「ありがとうございます、サミュエルさん、シャロンさん」

 サミュエルはハチスカに短く会釈する。

 彼の真摯な目に映る自分に、むず痒さを覚える。

 しかし、シャロンは興味がないのか短く返し、靴の形をしてソフトクリームを乗せたメロンソーダに執心だった。

「ただ、“サマナー”から、あなたを守る様に言われ、かつ“UNTOLD”の悪用というのが見受けられるから、。……それでも、好奇心丸出しで無粋な質問をして、不愉快な思いをさせてしまったことは謝ります」

 サミュエルの謝罪に、ハチスカは恐縮する。

 サミュエルの言葉も嘘ではない。

 “サマナー”率いる“望楼ヴェルヴェデーレ”の行動原理は、“UNTOLD”の悪用を防ぐことが最優先だ。

 特に上万作あまんさく市内を取り巻く事情には、

「特にもあったように、“UNTOLDアントールド”を使うハードルも低くなっています……“白光事件”のあったこの地なら猶更なおさらです」

 上万作あまんさく学園前の乱闘は、“望楼ヴェルヴェデーレ”でも話題の中心だった。

 特にではあるが。

――兄さん、それと“ブライトン・ロック社”と“ワールド・シェパード社”もやってくれるよ……。

 サミュエルは顔に出さないようにぼやく。

 “望楼ヴェルヴェデーレ”が“反UNTOLDアントールド”を掲げる限り、兄の所属する“ブライトン・ロック社”や“ワールド・シェパード社”も監視対象だ。

――“サマナー”も目を付けている訳だ……ハチスカの言うことが正しければ、

「しかも、電脳右翼と電脳左翼も武装化しているし、僕の様な“命熱波アナーシュト・ベハ”使いも両陣営にいることを考えるなら、あなたはねぎ背負しょったカモです……日本語で言うなら。迂闊うかつなことはしないように」

 サミュエルは釘を刺す。

 彼とシャロンの前任者たちは、今日までハチスカを匿っていた。

 この喫茶店で、合流した後はサミュエル達と行動を共にするようにしたが、

――やはり、……。

 サミュエル、シャロンとハチスカの座るのは道路の見える窓際の席。

伊那口を通る国道沿いの喫茶店に、先ほどから、窓越しに視線を感じる。

衣服の大量量販店ファストファッションで見かける衣類をまとった男女が店の近くを通るたびに窓を覗いていた。

県警のパトカーのも多く見かける。

――電脳右翼と電脳左翼の衝突からの保護という口実を警察が得られるなら、見事だね……。

 この分だと、県の息のかかる行政機関は敵と見ていいだろう。

 サミュエルは、シャロンとハチスカに席を立つように促した。

「ハチスカさん……証拠と言えるデータを全部僕たちに送ってください。“望楼ヴェルヴェデーレ”専用のクラウドサーバにアップロードします。そうしたら、サマナーも見られるでしょう」

 戸惑うハチスカに、

「念のため、ハチスカさんも……バックアップを取っておいて」

サミュエルは、机の上で円筒に丸められた伝票を手にした。

「払いましょう」

「いえ、“望楼ヴェルヴェデーレ”が持つので」

 サミュエルは、ハチスカを制する。

左隣りのシャロンがクリームソーダを飲み干したのを確認した。
 
サミュエルの目の前でハチスカは言われて、携帯用演算器コンピューターのけん盤を叩き、親指大の記録保存装置を差し込む。

 ハチスカが作業に入ったのと同時に、右足と平行に並べていた得物を手にした。
 
ハチスカを挟むように、サミュエルが前でシャロンは後ろに歩く。
 
目の前で会計をしている老夫婦を眼にして、

「シャロン、もしかしたら……緊急プランが必要になるかも」

 サミュエルに言われ、シャロンは情報通信端末タブレットの液晶に手をやる。

 二人の反応に戸惑うハチスカは手を止めるが、

「安心してください。“望楼ヴェルヴェデーレ”の仲間と緊急事態の時に合流する場所がありますので、そちらへあなたを案内します」

 サミュエルは、ハチスカへ中断しないように促す。

 目の前の老夫婦が会計を済ませると、サミュエルは伝票を店員に手渡した。

 飴色のパンツの後ろの携帯通信端末スマートフォンを取り出し、店員が伝票を見ると同時に支払い用のコードを見せる。

 有効な決済を知らせる音が聞こえるや否や、サミュエルは右手に持つ得物――布袋に詰めた筒状のモノ――を前に出入口へ急いだ。

「5分で来るって!!」

 背後のシャロンの声で、サミュエルは店を出た。
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