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第八章 Reckoning
落とし前―⑱―
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サキの後ろの“タニグク”のドアから、堀川と秋津が出てくる。
二人が呆然としながら、サキへ視線を送る。
サキは笑顔で、ロックを迎えた。
「ロック……これって、どういうことだよ!?」
ロックに遅れて、一平が付いてきた。
サミュエルも一緒に来たということは、“政市会”の妨害を振り切ったのだろうか。
しかし、ロック達を妨害していた“政市会”と“政声隊”の面々は、サキと“タニグク”――その中にいる堀川と秋津――を確保していた優位を突然覆され、理解できずに呆然と立ち尽くしている。
「サキが、狙いを逸らせて同士討ちを招いたんだ……“ブルーライト”を使って」
ロックの一言に、一平が面食らうが、
「“ブルーライト”は最近、専用の眼鏡があると聞くが、倒れている奴らは……?」
そういう眼鏡を掛けているのか、龍之助が周囲を見渡す。
彼の言う様に、眼鏡を掛けた者や裸眼の者――両者を問わず、地面に倒れていた。
“ブルーライト”専用の眼鏡を掛けている者がいるかは、わからない。
「人間はどうしても“瞬間的な光”に反応してしまうから、結局“ブルーライト対策”の眼鏡でもそういった光を防ぎきれないから限定的なんだよね……」
サミュエルが、金髪を一房に結ったポニーテールを振りながら、溜息を吐く。
「それで、昨日のエヴァンスか……」
ブルースの一言で、ロックは“スコット決死隊”の女戦士のエヴァンスを思い出した。
彼女の攻撃が、サキに一切当たらないことを嘆いていたことだろう。
ロックが考えていると、サキが桃色の服を着たシャロンを映した。
サキと最近友達となった秋津への心配が晴れて笑顔となっている。
しかし、サキの眼が吊り上がる。
それは、シャロンの後ろに付いてきた、“命熱波”封じ用の特殊警棒“芝打”を持つ“政市会”の頭部と顎髭を白く染めた男。
彼が警棒を彼女の後ろから振りかぶる。
だが、襲撃者の眼がロック達も映す。
それは、共倒れから逃れた“白いトルク”を纏った“政声隊”。
接近戦に持ち込もうとした彼らが、氷を纏った拳で襲い掛かってきた。
「哭け、“悪趣”!!」
高僧の鳴らす鈴を思わせる凛とした声と共に、一太刀がシャロンを追撃する“政市会”で頭部と顎を白く染めた男を刻む。
「姉ちゃん!?」
一平が叫ぶと、彼の姉――斎藤 凛華――は、目元を染めた星屑を散らばせ、ロック達に向かう。
「堀川くんと秋津さんは、私が避難させる!! 一平と弟弟子は次に備えろ!!」
凛とする鈴と言うよりは剣と鞘の鳴らす刃の音を思わせる凜華の声に、ロックは“翼剣”:“ブラック・クイーン”を順手に構えた。
翼剣の表面で、サキ達も自分の得物を手に、“政市会”と“政声隊”を迎え撃つ。
ロックは“迷える者の怒髪”の噴進火炎を放つ“疑似物理現象”による一撃を振った。
斬撃が“政声隊”からの三人の男の纏う、三対の氷の拳を熱と轟音を乗せた斬閃で砕く。
左殴りの衝撃が、彼らを吹っ飛ばした。
しかし、吹き飛ばされる“政声隊”から“政市会”――ロックに立ちはだかった同じ背の強靭な男――が躍り出る。
政敵を蹴飛ばして進み、後衛に構えていた、項が見えるほどの短髪の眼鏡女とイヤリングをした切れ長の目の女も続いた。
男の右手の特殊警棒:“芝打”の一撃をロックに振りかぶった。
彼に対して、ロックは逆手に“ブラック・クイーン”を構えて突進を仕掛ける。
両腕で前面を守りながらの突進は、“ブラック・クイーン”の籠状護拳が右手の“芝打”を弾いた。
後ろに仰け反った大きく開いた“政市会”会員に、ロックは右の直蹴りを放つ。
右大腿骨に直撃して、男は顔を歪めた。
しかし、男が広場に崩れるのをロックは許さない。
右の直蹴りが、崩れ行く男の顎に放った。
ロックの蹴りに押し出され、右大腿骨を壊された男が二人の女性“政市会”会員の進路を塞ぐ。
彼女たちが狼狽した瞬間、ロックは“疑似物理現象”の“駆け抜ける疾風”で体中の神経反応速度を最高値に引き上げた。
ロックの加速により、強靭な“政市会”会員を盾に二人の女へ迫る。
彼の神速に押された強靭な男の鳩胸が、眼鏡の短髪女の鼻と顎を潰した。
鳩胸の突撃による慣性の法則により、整った鼻梁を潰した眼鏡女が吹っ飛ぶ。
そのまま、彼女の体重がイヤリングをした切れ長の目の“政市会”会員の女に乗っかった。
女性の出す高音とは程遠い、腹から出た空気の混じった叫び声が切れ長の目の女の口から溢れる。
三人の“政市会”会員が土瀝青の上で倒れ、ロックの視界が炎に包まれた。
緑髪、角刈りにサングラスという三人の“力人衆”が赤いトルクを輝かせながら、仰向けの“政市会”会員に触れるギリギリで放たれた炎の弾がロックに迫る。
“翼剣:ブラック・クイーン”を右の逆手に持ち替え、ロックは右殴りに斬撃を放った。
剣の軌跡と共に水蒸気が刻まれ、冷気が炎をかき消す。
空気中で消えた高温の炎が、水蒸気となり、ロックと三人の“政声隊”の武闘派達の間に煙幕を作った。
“穢れなき藍眼”による、周囲の水蒸気を融点に持ち込んだ際に作った刃による“疑似物理現象”。
その勢いにのって、ロックは煙幕に突っ込む。
煙幕がロックを包み込み、うねった。
ロックの右回し蹴りにより乱流が出来、サングラス男の右こめかみから飲み込む。
角刈りの男が反応した時は、乱流に乗ったロックの左後ろ回し蹴りによる踵が彼の側頭部から意識を食らった。
緑髪の男が、迫るロックへ炎の拳で迎撃を試みる。
だが、“力人衆”の男の放つ右拳の前で水蒸気の刃の瀑布が阻んだ。
ロックが上から叩き落した斬撃の衝撃に男が吹っ飛ぶ。
水の刃の軌跡の向こうで、黒い大型の影が広場に突っ込んだ。
駅前に轍を刻んだのは、二台の黒いワゴン車。
それぞれの横滑り式の扉が乱暴に開かれ、二人の女が吐き出された。
女たちは、それぞれが前のめりに蹴飛ばされ、土瀝青に顔面から着地する。
ロックは、彼女たちの顔に見覚えがあることに気付く。
その名前は、意外なところからの声で知った。
「リカコさん、マキナさん……カンタさんと一緒に、山土師さんに何かされていた!!」
背後からの秋津の声に、ロックは思わず振り向いた。
前方を凜華、後方をシャロンに挟まれながら広場を後にする秋津と堀川。
しかし、堀川の眼に映った物に、ロックは言葉を失った。
「ロック、来るぞ!!」
苔色の風となったブルースが、ロックの横を駆ける。
ブルースに目を向けると、彼のエメラルドに輝く二刀のショーテルが、脂肪太りのリカコの額を捉えた。
買って間もないのだろうか、リカコの纏う黒いジャージは、彼女自身と比べると綺麗に見える。
その真新しさを上回る輝きがブルースの二振りのエメラルド色の斬閃をかき消した。
同じく、新品さが抜けない赤いジャージを着たヤニ歯のマキナからの光もブルースを覆う。
「ブルース!!」
サキの叫びと共に、彼に蒼白い軌跡が向かう。
サキの放った命導巧:“フェイス”による、空気に含まれる水蒸気を焼いた指向性熱力の弾丸が、ブルースの頭上で爆ぜた。
「……なんじゃ、ありゃ!?」
「一平、驚いている時間は無い!!」
驚きつつも龍之助に制されて、一平は両手の手甲型命導巧:“ライオンハート”の左手の炎を目の前の“政声隊”に放ち、右手の炎弾をマキナに向けた。
左手の炎が“政声隊”の一人に命中し、爆風が彼に集まる周囲を吹き飛ばす。
一平の炎の榴弾に続く様に、矛槍の蒼く輝く穂先を龍之助が、二人の“政声隊”の女が放り出された場所へ駆けた。
炎の榴弾の炸裂した閃光が、ジャージ姿の二人の女――その変わり果てた姿を広場に晒す。
リカコと言う女は、自らを纏うジャージを破るほど更に大きくなっていた。
大きさは3mほどで、人型を保っていたが皮膚は銀鏡色。
猪を思わせる大きく上向いた鼻と牙から炎が出て、皮膚が赤く反射している。
マキナに至っては、リカコと背丈が同じくらいの猿だった。
口から履く白い冷気が銀鏡の肌を覆い、同色に染める。
龍之助の“セオリー・オブ・ア・デッドマン”の穂先が、白猿と化したマキナに向かった。
「――まさか!?」
龍之助の顔が強張る。
彼の振り下ろした穂先から出た加圧水流が凍り付いた。
リカコの薙ぎ払った右腕が、龍之助との間で出来た氷塊を振り払う。
龍之助が“磁向防”を展開するが、彼女の太った右腕に吹っ飛ばされた。
「龍之助!!」
ロックは“駆け抜ける疾風”で、巨大な銀鏡の怪物と化した二人の中年女性に向かう。
ブルースと対峙するリカコの右手から煙が生じていた。
サキの“フェイス”からの一撃だろう。
ブルースへの一撃を防いだものの、彼女の獰猛な眼に潜む戦意は途切れない。
銀鏡の猪の顔となったリカコの猪牙の間から涎と唸り声が漏れ、口に炎が生じる。
ブルースに業火が放たれる寸前で、ロックの紅黒の刀身がリカコの猪牙を砕いた。
“頂砕く一振り”により、刀身の硬度を倍にした熱力を籠めながら、ロックは順手で左から右に薙ぐ。
夜空に散る猪牙の欠片と共に、ロックの薙ぎ払いで、リカコの首が左側に向いた。
ロックの一撃に彼女の口腔内の炎は消えることなく、マキナへ放たれる。
炎の向かう先のマキナの眼先は、吹っ飛んだ龍之助を守る様に立ちはだかる、一平とサミュエル。
彼らへ振り落とす双椀を構えたマキナの背に、炎が命中した。
ロックの仕業と知らないマキナが、地団太を踏みながらリカコに向く。
巨大な猪と大猿の叫び合いが、駅前広場で展開。
「こいつらを無力化させるぞ!!」
ブルースの二刀のショーテル型“命導巧”:“ヘヴンズ・ドライブ”のエメラルドの双子の斬閃が、仲間割れをしているリカコの背を大きく十字に刻む。
一平の手甲型“命導巧”:“ライオンハート”の爆炎の右拳は、マキナの後頭部を貫いた。
前髪と同じ炎色の左右の拳の乱打が、錐揉みで倒れ行くマキナの顔面と両椀部に降り注ぐ。
ロックが、サキ、サミュエルと龍之助にアイコンタクトを取った。
二体の怪物へ追い打ちを仕掛ける。
四人が行動しようとするが、ロックの足元が突然爆発した。
サキも思わず動きを止めて、ロックの眼の前に空いた穴を凝視する。
ブルースと一平も、それぞれの攻撃を止めた。
サミュエルの視線は、その大本を探し当てる。
龍之助は、敵意の震源地に“加圧水流”を放った。
矛槍型“命導巧”:“セオリー・オブ・ア・デッドマン”の標的。
それは、ロックに砲台を向けた対“ウィッカー・マン”用“装甲車両”――“タニグク”だった。
二人が呆然としながら、サキへ視線を送る。
サキは笑顔で、ロックを迎えた。
「ロック……これって、どういうことだよ!?」
ロックに遅れて、一平が付いてきた。
サミュエルも一緒に来たということは、“政市会”の妨害を振り切ったのだろうか。
しかし、ロック達を妨害していた“政市会”と“政声隊”の面々は、サキと“タニグク”――その中にいる堀川と秋津――を確保していた優位を突然覆され、理解できずに呆然と立ち尽くしている。
「サキが、狙いを逸らせて同士討ちを招いたんだ……“ブルーライト”を使って」
ロックの一言に、一平が面食らうが、
「“ブルーライト”は最近、専用の眼鏡があると聞くが、倒れている奴らは……?」
そういう眼鏡を掛けているのか、龍之助が周囲を見渡す。
彼の言う様に、眼鏡を掛けた者や裸眼の者――両者を問わず、地面に倒れていた。
“ブルーライト”専用の眼鏡を掛けている者がいるかは、わからない。
「人間はどうしても“瞬間的な光”に反応してしまうから、結局“ブルーライト対策”の眼鏡でもそういった光を防ぎきれないから限定的なんだよね……」
サミュエルが、金髪を一房に結ったポニーテールを振りながら、溜息を吐く。
「それで、昨日のエヴァンスか……」
ブルースの一言で、ロックは“スコット決死隊”の女戦士のエヴァンスを思い出した。
彼女の攻撃が、サキに一切当たらないことを嘆いていたことだろう。
ロックが考えていると、サキが桃色の服を着たシャロンを映した。
サキと最近友達となった秋津への心配が晴れて笑顔となっている。
しかし、サキの眼が吊り上がる。
それは、シャロンの後ろに付いてきた、“命熱波”封じ用の特殊警棒“芝打”を持つ“政市会”の頭部と顎髭を白く染めた男。
彼が警棒を彼女の後ろから振りかぶる。
だが、襲撃者の眼がロック達も映す。
それは、共倒れから逃れた“白いトルク”を纏った“政声隊”。
接近戦に持ち込もうとした彼らが、氷を纏った拳で襲い掛かってきた。
「哭け、“悪趣”!!」
高僧の鳴らす鈴を思わせる凛とした声と共に、一太刀がシャロンを追撃する“政市会”で頭部と顎を白く染めた男を刻む。
「姉ちゃん!?」
一平が叫ぶと、彼の姉――斎藤 凛華――は、目元を染めた星屑を散らばせ、ロック達に向かう。
「堀川くんと秋津さんは、私が避難させる!! 一平と弟弟子は次に備えろ!!」
凛とする鈴と言うよりは剣と鞘の鳴らす刃の音を思わせる凜華の声に、ロックは“翼剣”:“ブラック・クイーン”を順手に構えた。
翼剣の表面で、サキ達も自分の得物を手に、“政市会”と“政声隊”を迎え撃つ。
ロックは“迷える者の怒髪”の噴進火炎を放つ“疑似物理現象”による一撃を振った。
斬撃が“政声隊”からの三人の男の纏う、三対の氷の拳を熱と轟音を乗せた斬閃で砕く。
左殴りの衝撃が、彼らを吹っ飛ばした。
しかし、吹き飛ばされる“政声隊”から“政市会”――ロックに立ちはだかった同じ背の強靭な男――が躍り出る。
政敵を蹴飛ばして進み、後衛に構えていた、項が見えるほどの短髪の眼鏡女とイヤリングをした切れ長の目の女も続いた。
男の右手の特殊警棒:“芝打”の一撃をロックに振りかぶった。
彼に対して、ロックは逆手に“ブラック・クイーン”を構えて突進を仕掛ける。
両腕で前面を守りながらの突進は、“ブラック・クイーン”の籠状護拳が右手の“芝打”を弾いた。
後ろに仰け反った大きく開いた“政市会”会員に、ロックは右の直蹴りを放つ。
右大腿骨に直撃して、男は顔を歪めた。
しかし、男が広場に崩れるのをロックは許さない。
右の直蹴りが、崩れ行く男の顎に放った。
ロックの蹴りに押し出され、右大腿骨を壊された男が二人の女性“政市会”会員の進路を塞ぐ。
彼女たちが狼狽した瞬間、ロックは“疑似物理現象”の“駆け抜ける疾風”で体中の神経反応速度を最高値に引き上げた。
ロックの加速により、強靭な“政市会”会員を盾に二人の女へ迫る。
彼の神速に押された強靭な男の鳩胸が、眼鏡の短髪女の鼻と顎を潰した。
鳩胸の突撃による慣性の法則により、整った鼻梁を潰した眼鏡女が吹っ飛ぶ。
そのまま、彼女の体重がイヤリングをした切れ長の目の“政市会”会員の女に乗っかった。
女性の出す高音とは程遠い、腹から出た空気の混じった叫び声が切れ長の目の女の口から溢れる。
三人の“政市会”会員が土瀝青の上で倒れ、ロックの視界が炎に包まれた。
緑髪、角刈りにサングラスという三人の“力人衆”が赤いトルクを輝かせながら、仰向けの“政市会”会員に触れるギリギリで放たれた炎の弾がロックに迫る。
“翼剣:ブラック・クイーン”を右の逆手に持ち替え、ロックは右殴りに斬撃を放った。
剣の軌跡と共に水蒸気が刻まれ、冷気が炎をかき消す。
空気中で消えた高温の炎が、水蒸気となり、ロックと三人の“政声隊”の武闘派達の間に煙幕を作った。
“穢れなき藍眼”による、周囲の水蒸気を融点に持ち込んだ際に作った刃による“疑似物理現象”。
その勢いにのって、ロックは煙幕に突っ込む。
煙幕がロックを包み込み、うねった。
ロックの右回し蹴りにより乱流が出来、サングラス男の右こめかみから飲み込む。
角刈りの男が反応した時は、乱流に乗ったロックの左後ろ回し蹴りによる踵が彼の側頭部から意識を食らった。
緑髪の男が、迫るロックへ炎の拳で迎撃を試みる。
だが、“力人衆”の男の放つ右拳の前で水蒸気の刃の瀑布が阻んだ。
ロックが上から叩き落した斬撃の衝撃に男が吹っ飛ぶ。
水の刃の軌跡の向こうで、黒い大型の影が広場に突っ込んだ。
駅前に轍を刻んだのは、二台の黒いワゴン車。
それぞれの横滑り式の扉が乱暴に開かれ、二人の女が吐き出された。
女たちは、それぞれが前のめりに蹴飛ばされ、土瀝青に顔面から着地する。
ロックは、彼女たちの顔に見覚えがあることに気付く。
その名前は、意外なところからの声で知った。
「リカコさん、マキナさん……カンタさんと一緒に、山土師さんに何かされていた!!」
背後からの秋津の声に、ロックは思わず振り向いた。
前方を凜華、後方をシャロンに挟まれながら広場を後にする秋津と堀川。
しかし、堀川の眼に映った物に、ロックは言葉を失った。
「ロック、来るぞ!!」
苔色の風となったブルースが、ロックの横を駆ける。
ブルースに目を向けると、彼のエメラルドに輝く二刀のショーテルが、脂肪太りのリカコの額を捉えた。
買って間もないのだろうか、リカコの纏う黒いジャージは、彼女自身と比べると綺麗に見える。
その真新しさを上回る輝きがブルースの二振りのエメラルド色の斬閃をかき消した。
同じく、新品さが抜けない赤いジャージを着たヤニ歯のマキナからの光もブルースを覆う。
「ブルース!!」
サキの叫びと共に、彼に蒼白い軌跡が向かう。
サキの放った命導巧:“フェイス”による、空気に含まれる水蒸気を焼いた指向性熱力の弾丸が、ブルースの頭上で爆ぜた。
「……なんじゃ、ありゃ!?」
「一平、驚いている時間は無い!!」
驚きつつも龍之助に制されて、一平は両手の手甲型命導巧:“ライオンハート”の左手の炎を目の前の“政声隊”に放ち、右手の炎弾をマキナに向けた。
左手の炎が“政声隊”の一人に命中し、爆風が彼に集まる周囲を吹き飛ばす。
一平の炎の榴弾に続く様に、矛槍の蒼く輝く穂先を龍之助が、二人の“政声隊”の女が放り出された場所へ駆けた。
炎の榴弾の炸裂した閃光が、ジャージ姿の二人の女――その変わり果てた姿を広場に晒す。
リカコと言う女は、自らを纏うジャージを破るほど更に大きくなっていた。
大きさは3mほどで、人型を保っていたが皮膚は銀鏡色。
猪を思わせる大きく上向いた鼻と牙から炎が出て、皮膚が赤く反射している。
マキナに至っては、リカコと背丈が同じくらいの猿だった。
口から履く白い冷気が銀鏡の肌を覆い、同色に染める。
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「――まさか!?」
龍之助の顔が強張る。
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リカコの薙ぎ払った右腕が、龍之助との間で出来た氷塊を振り払う。
龍之助が“磁向防”を展開するが、彼女の太った右腕に吹っ飛ばされた。
「龍之助!!」
ロックは“駆け抜ける疾風”で、巨大な銀鏡の怪物と化した二人の中年女性に向かう。
ブルースと対峙するリカコの右手から煙が生じていた。
サキの“フェイス”からの一撃だろう。
ブルースへの一撃を防いだものの、彼女の獰猛な眼に潜む戦意は途切れない。
銀鏡の猪の顔となったリカコの猪牙の間から涎と唸り声が漏れ、口に炎が生じる。
ブルースに業火が放たれる寸前で、ロックの紅黒の刀身がリカコの猪牙を砕いた。
“頂砕く一振り”により、刀身の硬度を倍にした熱力を籠めながら、ロックは順手で左から右に薙ぐ。
夜空に散る猪牙の欠片と共に、ロックの薙ぎ払いで、リカコの首が左側に向いた。
ロックの一撃に彼女の口腔内の炎は消えることなく、マキナへ放たれる。
炎の向かう先のマキナの眼先は、吹っ飛んだ龍之助を守る様に立ちはだかる、一平とサミュエル。
彼らへ振り落とす双椀を構えたマキナの背に、炎が命中した。
ロックの仕業と知らないマキナが、地団太を踏みながらリカコに向く。
巨大な猪と大猿の叫び合いが、駅前広場で展開。
「こいつらを無力化させるぞ!!」
ブルースの二刀のショーテル型“命導巧”:“ヘヴンズ・ドライブ”のエメラルドの双子の斬閃が、仲間割れをしているリカコの背を大きく十字に刻む。
一平の手甲型“命導巧”:“ライオンハート”の爆炎の右拳は、マキナの後頭部を貫いた。
前髪と同じ炎色の左右の拳の乱打が、錐揉みで倒れ行くマキナの顔面と両椀部に降り注ぐ。
ロックが、サキ、サミュエルと龍之助にアイコンタクトを取った。
二体の怪物へ追い打ちを仕掛ける。
四人が行動しようとするが、ロックの足元が突然爆発した。
サキも思わず動きを止めて、ロックの眼の前に空いた穴を凝視する。
ブルースと一平も、それぞれの攻撃を止めた。
サミュエルの視線は、その大本を探し当てる。
龍之助は、敵意の震源地に“加圧水流”を放った。
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