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宝珠と勇治
しおりを挟む里夏ちゃんに絶対同じ高校に行くという約束を無理矢理させられた、彼女は満足げに帰っていった。
なんか元気そうだったけどあんなことされて嫌じゃなかったのかな……?
朝食の後、宝珠さんに呼ばれた、最初に通された座敷に行くといつもは着物の宝珠さんが洋服を着ていた。
「あ、あの……挨拶が遅れましたけど今晩の夜行で帰ります、色々ありがとうございました。」
「いえ、私も一緒に行くわ。貴女がお世話になった方にご挨拶しなくちゃならないでしょ?」
「え!?あ……今からですか?」
「ええ、そうよ。もう支度は出来たかしら?」
今晩帰ろうと思ってたからまだ準備してない!
「あ、はい。その……今すぐに!」
私は慌てて部屋に戻り帰り支度をする。
でもなんで急に言い出すんだろ?
まだお父様や嘉久さんに挨拶もしてないのに……
まあ仕事と学校で夜まで帰って来ないみたいだけど……
あ!源兵衛さんにも!!
障子の横の柱を叩く、返事を聞くと戸を開ける。源兵衛さんは具合が悪いのか布団に横になっていた。
「ごめんなさい、あの……帰ります。色々ありがとうございました。」
「そうか……また戻って来てくれるのか……?」
源兵衛さんは昨日より元気のない感じだった。
「……まだ、分からないですけど出来たら……って思ってます。受験もあるし……」
「そうか……待ってるからな……」
源兵衛さんは私の手を握りその言葉に安心したかの様に眼を閉じ眠った……
家のあるとこまでは電車で行くと新幹線で東京へいったん出てまた新幹線で行った方が一番使われてるらしいんだけど宝珠さんは飛行機で行くみたい。
来るときに一応調べたら朝と夜の2便しかない。
だけど宝珠さんは飛行機をチャーターしたらしい!
どんだけお金持ちなんだろ……
「ここが貴女のお世話になっている家?」
空港からハイヤーってやつで家まで戻ってきた、ここまであんまり時間がかかってない。行くときはトラックだったから半日かかったけど……
記憶がなくなる前はどうかわかんないけど初めての飛行機に緊張しまくりであまり宝珠さんと話が出来なかった。
「はい、まだ勇治さん…お世話になってる人が帰ってきてないかもしれないですけど……」
ハイヤーを降りて玄関に向かう、宝珠さんはゆっくり降りて周りを眺めながら玄関までくる。
「あ、あれ?開いてる?」
鍵を回すと閉まっていた、どうやら最初から開いていたみたいだけど…勇治さんは仕事の筈だけど……
「た、ただいま……」
引き戸をそっと開けると勇治さんが漁の時にいつも履いていく安全靴がある、庭を見ると合羽かっぱも干したままだ。やっぱりいるんだ……
「ゆ、勇治さん…?」
「おう、帰ったか。おかえり」
「あ、うん…ただいま。」
勇治さんは居間で新聞を読んでるふりをしてたみたい、逆さまになってる。
心配してくれてたのかな…
「早かったな?夜行バスだったらこげな時間にならねえんじゃないか?」
「あ、うん……飛行機で…お客さん連れてきたの……」
「客ぅ?」
「……失礼。」
いつの間にか宝珠さんは後ろに立って勇治さんを睨んでいた……
「初めまして、私は久曽神宝珠と申します、この度は私の孫……陽斗が御世話になり大変にありがとう存じます。」
畳におでこが付きそうなくらい深々とお辞儀する宝珠さん、名刺を貰った勇治さんは怪訝そうな顔をした。
宝珠さんは勇治さんの苦手なタイプだろうな、近所に似たようなおばさんがいていつもお見合い話を持ってくる。
勇治さんの横に座っている私は名刺を見ると『アヴィオングループ 会長』と書いてある、アヴィオンっていったらこの辺りにもある大きいスーパーだ、どおりであんなにおっきな家な訳だ……
「その跡取りだって事ですか?千景が?女ですよ?」
「わかってますわ、勿論。
昨日うちの病院で調べさせて頂きましたが間違いなく千景さんは陽斗に間違いないという結果が出ました。」
行ったときに何か書かされて唾液とか……オシッコとか採られたけど…そうだったんだ……
「でもどうして男から女の子になったかはわかりませんの、それは精密検査をしてみないとわからないらしいですけど…」
「精密検査は……あまり受けたくないです。それで記憶が戻る訳じゃないだろうし……」
「勿論うちの医者もそう言ってたわ、そういうのは時間がかかったり何かのショックで戻るらしいから…断片的に戻るかも知れないわね。」
「で?うちの千景をどうしたいと仰られるんですか?」
勇治さんが標準語?とか丁寧語使うの初めて聞いた…ちゃんと使えたんだ……
「……千景さんにはお話ししましたけど陽斗として私共の方に住んで欲しいと申しました。高校に行くのなら久曽神高校に来て欲しいとも……勿論森下さんのご許可も要りますし千景さんの今のお気持ちもありますでしょうし……」
私の気持ちが無くてもこの人なら外堀から埋めていきそうだ…現に今そうされてるし……
「……それは俺が決める事じゃない、許可なら出すだろうが……千景、お前はどうなんだ?」
「私は……まだわかんない、けど……行かなきゃいけない気がする……」
私がそう言うと宝珠さんは眼を輝かせ喜んだ。
「そうよ、うちの子なんだから!帰らなきゃ行けないわよね!」
それを聞いた勇治さんはピクッと反応して宝珠さんを睨む、まずい!
「それから、お世話になった御礼にといってはなんですがこれをお受け取り下さい。」
宝珠さんは鞄の中から小切手を取り出してテーブルの上に置いた、勇治さんの眉が斜めに動いた!
「………こげなものは受け取れません、お引き取りくんなせや!あんたのとこには千景はやれね、二度と来ないでくんな!!」
勇治さんは立ち上がり居間から出ていった……
「勇治さん……」
勇治さんの寝室に入る、あれからずっと部屋に籠って出てこなかった。勇治さんは自分の布団に入り横になって本を読んでいた。
「ああ…あのしょ(人)はなーした(どうした)?」
「帰ったよ、謝っておいてくれって。悪いことしたって反省してくれてたよ。」
「そうか……」
私は布団に入り勇治さんの背中にくっつく、ここが一番落ち着く……
「ち、千景……?」
「ごめんね…我が儘言って……まだ記憶が戻らないのは私の中で凄くもどかしいの……
私がどういう人間だったか、どうして死にかける事になったのかが知りたい…
その為にあの家に……行きたい、でもいつか必ず帰ってくるよ。私の家はここなんだから……」
「そうか、わかった……」
勇治さんの身体の隙間から手を忍び込ませお腹に手を回し私の身体を密着させる……
「あったかい……」
「ああ…あったかいな……」
その日は勇治さんに抱きついたまま眠った。
名古屋に行くことを決めた私は男として学校に行かなければならないだろう……
でも全てを知る事が本当に良いことなのだろうか……?
それは今の私にはわからなかった……
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