遥か彼方にいる君は尊し

humi

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東都大の密かな事件

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その夏東都大理I三年生の間で衝撃の事件が起きた。これまでニ年半一位を取り続けた戸谷がその座から陥落した。変わって一位になったのはトーマスだった。
「・・・・」
結果を知った戸谷は呆然としている。今まで人生で勉強に関して負けた事が無く、初めての感情に襲われた。その噂は瞬く間に大学内を駆け巡った。登山サークルの面々も戸谷に気を遣って何も話しかける事が出来ないでいた。そんな中、美智恵と綾子、吉岡の三人は戸谷を励ます為に普段からよく使う大学近くの喫茶店に呼び出した。
「ねぇ、神住山登山辞める?」
綾子が戸谷に話しかけるのに喫茶店に着いてから一〇分が経過しており、重い空気の中綾子が恐る恐る口にした。
「・・・なんで?」
綾子の問いに咄嗟に反応が出来ず数秒開いてから戸谷が返事をした。
「だって勉強の時間増やしたいだろうし、今も上の空で遠くを見てたし」
なるべく傷つかないよう綾子は精一杯気を遣った。
「悪い、今ルート変更を考えるのに必死なんだ」
自分の受けたショックを隠しているのか神住山登山の話を始めた。戸谷はおもむろに鞄の中から何かが書かれた紙を取り出し、綾子たちの前に出した。そこに書かれていたのはいくつかの登山計画書だった。
中坂駅(集合)一八時~バス移動~清河温泉着十九時夕食~宿泊~翌朝七時清河温泉発
中坂駅(集合)十八時~タクシー上島温泉着
一八時三十分~夕食~宿泊~翌朝タクシー五時発中坂登山口七時着
二つのルートが書かれており、最初の清河温泉は登山口から近いので朝はゆっくりする事が出来る。普通に考えれば前者のルートがベストである。しかし戸谷は悩まされていた。理由は美智恵である。どうせ温泉に泊まるなら肌に良いと天然炭酸泉で有名な上島温泉を見つけて戸谷に上島温泉に宿泊する事を求めてきたからだった。
「絶対、上島温泉!上島温泉に決まり!」
物凄い勢いで手を振り上げ自分の要求が通る事に満面の笑みを見せていた。
「本当に上島温泉で大丈夫なの?」
強引な美智恵を制して綾子が戸谷を心配した。
「タクシーにもしっかり時間を確認したし、スキー板を載せられるかも確認した。朝は二台タクシーが稼働しているのも確認した。時間も少しゆとりを持って計画した」
そう言いながらもどこか不安そうな戸谷に理由を聞くと戸谷は計画書には自信を持っていた。しかしそんな戸谷にも一つの懸念があった。
「計画が完璧でも実行する人間が完璧にこなせなければ意味がない」
戸谷は深いため息をついた。
「おい!それは俺達の事を言ってるのか?」
今まで何も言わずに黙っていた吉岡が不機嫌そうに戸谷に突っかかった。戸谷は意図していない反応に慌てて理由を説明し始めた。
「俺の役目は全員に冬山登山を楽しんでもらう事と全員無事に下山させる事だ。だが、今回は八人もいる。俺一人で全員を纏められるか心配なんだ」
人は一人一人考え方が違う。戸谷は個性の強い七人を纏められるかが心配だった。
「せめてもう一人まとめ役がいてくれたら安心なんだが・・・」
「俺じゃダメなのか?」
戸谷に信用されていないと感じた吉岡は気落ちしてしまった。吉岡はまとめ役には充分過ぎるリーダー気質だったが、全員に楽しんでもらうという点で無理な物は無理と断る吉岡
では自分と意見が食い違いが起きると感じていた。
「そうじゃない。なるべくみんなの意見を取り入れてくれる人間が欲しい」
「だったらトーマスを誘おうよ」
美智恵は戸谷を喫茶店に呼んだ理由をすっかり忘れてしまっていた。
「ちょっ、ちょっと美智恵!」
戸谷を一番心配していた綾子が首を振りながら美智恵に合図を出すが、美智恵は何も気付かずに綾子に確認をした。
「トーマスと一緒に行動したくないの?」
「一緒がいい」
そう聞かれてしまうと綾子は素直な気持ちで即答をした。
「だったら決まり。トーマスなら頼めばきっと力になってくれる」
美智恵はデリカシーが無いのではなく思った事が口から出てしまう。まるで悪気がない。
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